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おじいちゃん(6/10)

2016/08/24 修正

後書きに修正箇所を追記


 おじいちゃんは僕のおじいちゃん、大神ツヨシ。僕と同じ異世界人で、僕の血縁者だ。

 僕は生前、1度しか会ったことが無い。

 年は60前後。楽しそうに笑う人で、僕は少し苦手だった。

 でも頭をなでてくれて嬉しかった。

 それきりだけど、その時僕の両親は、愛想笑いじゃない、本当の笑顔を見せてくれた。

 そのときからすでに両親は怖かった。でも、それが切っ掛けで、おじいちゃんが大好きになった。

 ただ次に会うことは無かった。理由は分からないが両親とおじいちゃんの仲が悪くなったらしい。おじいちゃんから電話がかかってくると両親は僕を見て舌打ちした。

 

 本当はうすうす感づいていた。おじいちゃんが僕のおじいちゃんで、僕と同じように異世界人だと。

 でも考えたくなかった。考えないようにしていた。

 だって、負け犬の僕を知る人と会ってどうする? 自殺したことを知る人と会って何を言う? 僕は自殺したけどあなたは悲しんでくれた? それとも自殺したんだから今度は優しく接してね?

 ダメだ。ジョークにもならない。

 ただの悪夢だ。

 だから必死に思い出さないようにしていた。僕が何者で、過去にどんなことがあり、ここに来たのか。でも弾痕で血まみれの制服を見て思い出してしまった。

 僕は憲兵にも、住民にも嫌われている。

 異世界人だから? でも僕は前の世界でも嫌われていた。

 ひょっとすると、僕はどの世界でも嫌われているんじゃないのかな? 例えばこの世界の住人が異世界人に偏見を持たなくても、僕のことは嫌うんじゃないかな? 数多の英雄が喝采を受ける中、僕はずっと、一人ぼっちじゃないのかな?

(ナツメ)「そろそろ朝だから起こさないと」

 でも僕にはおじいちゃんしか居ない。

 だって、僕はおじいちゃんと生活していて、初めて楽しいって思えたんだ。


(ナツメ)「おじいちゃん、起きて」

(おじいちゃん)「……朝か?」

(ナツメ)「そうだよ。体起こして、朝ごはん食べよう」

 おじいちゃんの手を引いて体を起こし、松葉杖を持たせる。

(おじいちゃん)「立ち上がるのもしんどいの」

(ナツメ)「立ち上がらないと体に悪いよ。ちょっとは動かないと」

(おじいちゃん)「立ち上がり、寝ることはできても、あぐらも正座はかけん。座れない。ふざけた話じゃ」

(ナツメ)「コペルニクスさんが取り寄せてくれた椅子があるでしょ。文句言わないの」

(おじいちゃん)「全く、お前は愚痴の1つも言わせてくれん」

(ナツメ)「はいはい。それより、朝ごはんだよ。今日はお茶漬けにしてみたんだ。最近食欲なさそうだから、さらっと食べられるものにしてみたよ」

(おじいちゃん)「茶漬けか! 久々に食うの」

(ナツメ)「具は川魚のお刺身だよ。昨日試しに食べてみたけど、結構美味しいよ」

(おじいちゃん)「これこれ! 寄生虫は大丈夫じゃったか! 腹は痛くないか!」

(ナツメ)「大丈夫だよ。この通りピンピンしてるから」

(おじいちゃん)「そういう問題じゃないわ! 寄生虫を舐めたらいかん! 前にワシはそれで死にそうな思いをしたんじゃ!」

(ナツメ)「大丈夫だって! お茶はすっごい熱いし、捌くときにも気を使ったから」

 僕がにっこり笑うとおじいちゃんはため息を吐く。

(おじいちゃん)「全く、次に食うときは、腸まで火を通して食うんじゃぞ」

 ずるずるとお茶漬けをすする。ホッとしたように顔を緩ませたので籠を背負う。

(ナツメ)「僕は畑見てくるから。ゆっくりしてて」

 粗方野菜は取り尽したけどまだまだ食べられる物や売れる物があるかもしれないので畑へ行く。もうここに居られるのも数週間、あの畑は荒地となり、この森の一部となる。その前に、僕とおじいちゃんが去る前に、何かを探しに行く。

(おじいちゃん)「ナツメ」

 おじいちゃんがお茶漬けを食べながら言ったので草鞋を履きながら振り返る。

(ナツメ)「どうしたの? お水? それともお茶? コーヒー? トイレ?」

(おじいちゃん)「あそこに今まで蓄えた金がある」

 僕は明るく言ったのに、おじいちゃんは黙々とお茶漬けを啜りながら木箱を箸で指差す。

 あの箱は、おじいちゃんが蓄えたお金が詰まっている。一応僕の分も含まれているらしいけど、それはありえない。

 身内の世話を焼いていたのに対価をもらうなんておかしいよね?

(ナツメ)「そっか。じゃあ行って来る。すぐに戻るから」

 尿瓶もお水もあるしオムツもしている。そこまでは言えないけど、僕は安心できる。

(おじいちゃん)「ナツメ!」

 おじいちゃんが大声で怒鳴ったのでいつものように笑う。

(ナツメ)「お昼は大根飯にしよっか。ぐつぐつに、おかゆみたいにして醤油を垂らすと美味しいからね」

(おじいちゃん)「ナツメ!」

 僕はおじいちゃんの言葉を聞かずに畑へ行く。

 何を言われても耳を塞ぐ。

 僕はナツメでおじいちゃんはおじいちゃんだ。

 大神ツヨシだろうと異世界人だろうとおじいちゃんだろうと関係ない。

 僕とおじいちゃんはこれまでと同じように生きていく。

 僕はおじいちゃんの世話をする。おじいちゃんは僕と一緒に居る。それ以外のことなんて耳を塞いでやりすごしてやる!

 それで良いんだ!


(ナツメ)「結構荒らされてる。これはイノシシが掘った穴だけど、この血は熊か狼がイノシシか何かを襲った。野菜だけじゃなくて野菜を狙う動物を狙う。前はこんなこと無かった。やっぱり、ここにはもう来ないほうが良い」

 畑は野生動物に荒らされ放題でしかもその野生動物を狙う肉食獣が近づいている。

 とはいってもそもそも畑は手入れがされていなくて荒れ放題だ。

 この足元まで伸ばす雑草を引っこ抜くのはおじいちゃんの世話をしながらでは無理だ。

(ナツメ)「ちょっとは拾えたから、もう止めよ」

 にんにくに大根が数本。それで十分だ。3日後にコペルニクスさんが迎えに来てくれる。

(ナツメ)「それまで、おじいちゃんを元気にしなくちゃ」

 今日のご飯はガーリックスパゲティにしよう。

 今のおじいちゃんでもちょっとは食べられるはずだ。


 おじいちゃんは確かにエリクサーで傷を癒した。だが骨が歪んだまま治ってしまったおかげで自力では歩けなくなってしまった。

 あの惨劇のあと、おじいちゃんをエリクサーで治した後、必死に走ってコペルニクスさんのところへ行った。コペルニクスさんは文句も言わずに馬を走らせて、おじいちゃんの元へ行ってくれた。だが傷を見て残酷に言った。

(コペルニクス)「命に別状はありません。エリクサーによる治癒が効きました。ですがもう、おじいちゃんは歩けません」

(ナツメ)「どうしてです!」

(コペルニクス)「あなたも見れば分かるでしょう? 左足がまるで猫か犬のように曲がっている。私が松葉杖と専用の椅子を持ってきますから、それまでしっかり世話をしてあげなさい」

(ナツメ)「な、何でです? エリクサーは何でも治すんでしょ!」

(コペルニクス)「骨折は治りました。傷も治りました。ただ、骨折が治るとは、元通り歩けるとイコールにはならないのです。そうとうな力で折られたのでしょう。もはや断ち切られたと言って良い。筋肉も血管も断裂していたはずだ。それなのに生きているのは、間違いなくエリクサーの存在でしょう。これ以上を望むならジャンヌダルクの力が必要だ。最も、今の彼女には無理ですが」

(ナツメ)「どういうことですか!」

(コペルニクス)「本題ではないので簡潔に言いますが、現状ジャンヌも沖田もアウグストゥスもハンニバルも黒き者どものせいで手一杯です。ここ最近になって、奴らはさらに力を増した」

 黒き者どもなんてどうでも良かった。それよりもおじいちゃんのことだ。

(ナツメ)「そんな! じゃあおじいちゃんはずっと寝たきりなの! 僕一人じゃおじいちゃんに食べさせてあげられない!」

(コペルニクス)「私と一緒に来なさい。食べてはいける給料も出します。おじいちゃんも」

(ナツメ)「え?」

(コペルニクス)「私は異世界人ながらあなたと同じように、おじいちゃんの世話になりました。ですから少しは力に慣れるでしょう」

(ナツメ)「えっ? えっ? それって何ですか? おじいちゃんと僕が住んでいた家を捨てろってことですか!」

(コペルニクス)「あなたはもうおじいちゃんの世話で精一杯のはずだ。違いますか? このままでは共倒れになりますよ?」

(ナツメ)「そ、そんなの、やってみないと分からないじゃないですか」

(コペルニクス)「分かりますよ。おじいちゃんを世話するだけならあなただけでできるでしょうが、食料の調達まではできない。畑の世話もできないはずだ」

(ナツメ)「は、畑の世話くらいなら、たぶんできますよ」

(コペルニクス)「できません。おじいちゃんの足は松葉杖があっても1人で起き上がれないほど悪いのです。分別があるとはいえ、赤子を育てる親と同じくらいあなたの負担は大きい」

(ナツメ)「そんなこと分かりません! でもおじいちゃんと僕はここで暮らしていたんですよ? そんなすぐに引っ越すなんてできない」

(コペルニクス)「話し合っても埒が明きませんね。とにかく1ヶ月後に迎えに来ます。ただその間に辛くて逃げ出しそうになったらこれで私に電話をかけなさい」

 携帯電話を手渡された。

(ナツメ)「携帯電話?」

(コペルニクス)「電波はでません。見てくれだけの張りぼてです。ですがこの番号を入力して電話をかけると任意の人物にテレパシーを送ることができます」

 コペルニクスさんは家を出ると馬にまたがる。

(コペルニクス)「明日までに松葉杖と椅子を持ってきます。ですからナツメ……おじいちゃんの傍に居てあげなさい。どんなことがあっても、傍にいてあげなさい」

 そう言ってコペルニクスさんは去った。

 その言葉の意味が分かったのは夜だった。

 おじいちゃんが突然泣き叫んだ。

 痛いのだろうか、治癒したはずの足をただひたすら歯を食いしばって押さえていた。

 僕は背中を摩ったり水を出したりしたけど全然効果がなかった。

 そしてそれはあれから2週間経つ今日まで続いている。

 毎日辛そうに叫んでいる。泣いている。

 理由は分からない。

 でも少し考えると分かる。

 突然歩けなくなった。

 叫びたくなるに決まっている。

 そしてそれに比例して、おじいちゃんの元気が無くなっていく。

 声がぼそぼそと小さくなっていく。

 めそめそと泣く。

 それに僕は何もできなかった。

 だからせめて美味しい物を食べてもらおうと作るけど食欲もめっきり落ちてしまった。

 それが何よりも辛かった。


 畑から帰るとおじいちゃんは椅子の上で転寝していた。

(ナツメ)「おじいちゃん。風邪引くから布団にいこ」

(おじいちゃん)「ん? おお、寝ちまってたか」

(ナツメ)「お昼までゆっくりしよ。その後お散歩いこ」

 おじいちゃんの手を握って立たせようと引き起こす。だけどおじいちゃんはそれに答えず座ったままだ。

(ナツメ)「おじいちゃん? どうしたの?」

(おじいちゃん)「ナツメ……ワシは、ワシは異世界人じゃ。お前と同じじゃ」

(ナツメ)「そうだね。ほら、早くいこ。それとも何か飲む?」

(おじいちゃん)「ワシはお前のおじいちゃんじゃ!」

(ナツメ)「分かってるよ。だから寝よ。それともお散歩行く?」

 おじいちゃんは俯く。何か言いたそうだ。でも僕は聞きたくない。

 僕とおじいちゃんの関係が、壊れてしまう。

 それだけは嫌だった。

 だから僕はむせび泣くおじいちゃんの背中を摩って落ち着かせる。

(ナツメ)「おじいちゃん。僕はただおじいちゃんの傍に居たいだけだよ。もう、前のことは忘れて、一緒に居よ」

(おじいちゃん)「ナツメ……」

 おじいちゃんは僕を抱きしめる。

(おじいちゃん)「済まんの……本当に済まん。ワシを許してくれ」

 僕は何も言わずにおじいちゃんを抱きしめ返す。

(ナツメ)「僕とおじいちゃんは家族だ。それだけで十分だよ」

 それ以上に大切なことなんて無い。

 だから、生前のことは聞きたくない。思い出したくない。

 聞かされたとき、僕はどんなことを口走ってしまうのか?

 それがとても怖かった。

 僕は、おじいちゃんが大好きだ。

 大好きな人を、傷つけてしまうかもしれない。

 それは絶対に、嫌だった。

ナツメの発言とコペルニクスが発言する日数に矛盾があったため修正。


102行目

修正前 そしてそれはあれから2週間経つ今日まで続いている。×

修正後 そしてそれはあれから1ヶ月近く経つ今日まで続いている。○

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