第四章:やっぱりこのステータスパネルが好きだ、愛してるぜ
戦利品を回収し終えると、熟練のレベル上げ代行屋ならではの鋭い直感で、神崎 蓮は周囲が大きく変化していることに気づいた。廃工業区の崩れた建物や瓦礫は、以前よりも密度を増し、異様なほど頑丈になったように見える。まだ変化の正体までは言い当てられなかったが、昨夜、地形構造と生態系に関わる大規模な「移行」が、人知れず起きたことだけは確信していた。普通の人間なら、まず気づかない変化だろう。
疑問が胸に浮かんだそのとき、システムの通知音が思考を遮った。
「ピコン! 宿主の二日目のログインを確認しました。クローズドβ開始まで残り350日です。スキル『拡張クラフト』を獲得し、システム機能『レシピブック』が解放されました」
「ピコン! 連続サバイバルクエスト第一段階『最初の夜を生き延びろ』を達成しました。報酬:『スキルポイント』×10、『自由ステータスポイント』×25。スキルと実績を兼ねる『武器マスター』が解放されました。早期の実績達成を期待しています」
*説明:
「拡張クラフト」:クラフト系職業に属する特殊スキル。持ち主が生まれつき備える製作知識を大幅に拡張し、現在の段階を超えた高級アイテムや装備の製作を可能にする。
「レシピブック」:宿主が習得したすべての製作レシピを保存する専用画面。NPCやほかのプレイヤーに製作技術を伝授できる特権機能を備える。
「武器マスター」:複数武器を扱うシステムにおける最高位のスキル兼実績。さまざまな種類の武器の熟練度が一定値に達すると、肉体が対応する強力なパッシブスキルを自動的に生み出し、総合戦闘力を大きく引き上げる。
今回は本当に、とてつもない大当たりだった。サバイバルクエストの報酬は、数々の修羅場をくぐり抜けてきた一流代行屋の神崎 蓮でさえ目を輝かせるほど価値が高い。スキルポイントや自由ステータスポイントはもちろん、クラフト系のスキルと、実績を兼ねるあの項目だけでも、その重要性は十分に分かった。
「拡張クラフト」が荒廃した時代を生き抜く万能の浮き輪だとすれば、「武器マスター」は戦闘の頂点へ至る黄金の鍵だ。そのパッシブスキルを発動させる条件は極めて過酷で、複数の武器について、使い手と武器が一体化する「武器と心を通わせる境地」に達しなければならない。しかし、一度解放してしまえば、得られる力には上限がない。
2150年のプロゲーマー界隈では、「武器マスター」を最大レベルまで鍛え上げると、唯一無二の称号を獲得できるという都市伝説があった。実際にそれを成し遂げた異才も何人かいたが、その後は世間の注目を避けるように姿を消した。なにしろ「武器マスター」の称号は、持ち主を倒したいと願う好戦的な連中を引き寄せる、極上の餌のようなものなのだ。
「システム、詳細ステータスパネルを開け!」
「ステータスパネルを開く要求を確認しました。表示します」
-------- ステータスパネル --------
名前:神崎 蓮
年齢:17
レベル:1(0/100 EXP)
称号:未装備
勢力:なし
役割:NPC
通り名:なし(特定条件を満たすと自分で設定可能)
名声ポイント:0
信用ポイント:0
職業:無職流浪者(無職散人)
基本指標:
Attack Damage(物理ダメージ):15(+5[軍用ダガー])
Magic Damage(魔法ダメージ):0
HP(体力):20(+10[革鎧一式])
Mana:150
Crit Rate(クリティカル率):0%
Crit DMG:250%
Agility(身法/移動速度):315
Piercing(物理貫通):0|0%
Magic Piercing(魔法貫通):0|0%
Att Speed(攻撃速度):5(1%/200%)
Armor(物理防御):0(+6[革鎧一式])
Magic Armor(魔法耐性):0(+3[革鎧一式])
Effect Resistance(効果耐性):0%
Cooldown(クールダウン短縮):0%
Lifesteal(物理ライフスティール):0|0%
Magic Lifesteal(魔法ライフスティール):0|0%
Auto Regen HP(HP自動回復):0.5/秒
Auto Regen Mana(マナ自動回復):5/秒
基本能力:
Strength(筋力):15
Stamina:25
Intelligence(知力):???(未解放)
Knowledge(知識):???(未解放)
Brave(勇気):???(未解放)
Ingenious(器用さ/創造性):???(未解放)
Luck(運):5
Resilience(不屈):???(未解放)
自由ステータスポイント:25
スキルポイント:10
所持スキル:「骨取り・肉さばき」「解体」「呼吸抑制」「拡張クラフト」「武器マスター」(未発動)
パネルをざっと見渡した神崎 蓮は、思わず息をのんだ。何より気になったのは、システムが『無限職業者』の極めてハードコアな基礎データ計算方式を、完全な形で維持していることだった。
知力、知識、勇気といった精神や意志に関わる能力は、まだ潜在能力としてロックされている。それでも、レベル1のNPCとしては基本攻撃速度と身法が異常なほど高いことに気づいた。これは間違いなく、彼が持つ「全能」システムの特権による隠しボーナスだ。
時間を無駄にせず、プロのレベル上げ代行屋として鍛えた頭脳をフル回転させ、25ポイントを最適に振り分ける方法を計算する。
「システム! ステータスを振り分けろ。Attack Damageに5ポイント、Strengthに5ポイント、Staminaに5ポイント、Agilityに10ポイントだ!」
「振り分け命令を受理しました。ステータスを更新します……」
神崎 蓮の足元から温かな金色の光が突然噴き上がり、経絡に沿って全身を駆け巡った。筋肉がわずかに収縮して引き締まり、昨日から蓄積していた疲労と脱力感が一瞬で消え去った。
そう、これでいい。理由は単純だ。これは実戦を重視した合理的な配分だった。ADとAgilityを上げれば、敵を仕留める力と、攻撃を避けながら戦うヒット・アンド・アウェイの性能が向上する。さらにStrengthとStaminaを加えることで、高強度の運動でも体が「力尽きる」事態を防げる。もちろん25ポイントすべてをスタミナに注ぎ込みたい気持ちもあったが、資源が乏しい序盤で極端な一点特化をするのは自殺行為だった。
指を曲げ伸ばししながら、神崎 蓮は満足げに笑った。大学時代から長年、昼夜逆転でゲームをやり込み、引きこもりがちに過ごしてきた彼が、骨の髄から生命力が湧き上がるような爽快感を味わうのは久しぶりだった。
「そろそろ時間だ。狩りに出るか」
神崎 蓮は生理状態の表示を見下ろした。胃のアイコンが橙黄色に点滅しており、満腹度はすでに50%まで落ちている。この世界は残酷なほど現実的で、空腹になれば戦闘ステータスが大幅に低下する。次の廃墟生態系の進化周期が来る前に、肉と大量の資源を蓄えておく必要があった。
昨日の戦場で得た経験を踏まえ、神崎 蓮は慎重に狩りの計画を立て始めた。最優先の目標は、やはり「凶暴星猪」だ。昨夜の異変で工業区周辺の魔物のレベルが上がっている可能性はあるが、今のところ、安定したタンパク源と原材料を得るには最適の相手だった。
彼は暖炉のそばに座り、手に入れたばかりの「拡張クラフト」の画面を開いた。仮想画面の青い光が、十七歳の青年の引き締まった横顔を照らす。昨日、猪の死骸から取り出した鋭い肋骨を数本、乾いた木片と、部屋の隅で拾った錆びた針金と組み合わせた。
*システム操作:素材を組み合わせます。「凶暴星猪の肋骨」+「粗木材」+「錆びた針金」
*進行状況:10%……50%……100%。
「ピコン! 製作成功。『粗製骨槍』×3を獲得(品質:C-コモン)。物理ダメージ+3。急所に正確に命中した場合、弱い『出血』効果を引き起こす可能性があります」
神崎 蓮はできたばかりの骨槍を三本手に取り、重さとバランスを確かめた。どれも手にしっくりとなじむ。槍を背中の革製ホルダーに整然と差し込み、片手には軍用ダガーをしっかり握り、もう片方の手で「粗製骨槍」を握りしめた。移動中に余計な音が出ないよう、革鎧の留め具もきつく締め直す。
半分取り外した石の入口へそっと近づくと、神崎 蓮は隙間に耳を寄せ、「呼吸抑制」を発動した。廃ビルの間を吹き抜ける風の音に耳を澄ませ、雑音を切り分けながら、標的特有のうなり声を探る。二つほど街区を隔てた場所から聞き覚えのある鼻息が響くと、元一流のレベル上げ代行屋の目に、冷たい光が走った。
獲物は配置についた。狩人……出撃!




