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第三章:この長い夜も、思ったほど恐ろしくない

銀白色の月が廃墟の頂を越え、高い空に君臨し始めると、闇はたちまち辺り一面を呑み込んだ。目を覚ましつつある魔物たちが、身の毛もよだつ音を立てる中、風を避けられる古びた鉱山坑道の入口から、小柄で孤独な人影がそっと姿を現した。

神崎 蓮だった。手には拾い集めたばかりの粗い火打ち石が数個あり、背中には黒く重い「初心者用鉄のツルハシ」がぶら下がっている。一歩ごとに足取りは重く、体力をひどく消耗していることが見て取れた。彼は小さく息をつき、独り言を漏らした。

「まさか、粗石をいくつか掘っただけで、十七歳のこの体がここまで疲れ果てるとはな。ひとまず安全を確保したら、すぐに自由ステータスポイントを振り分けないと」

前方に目を向けると、荒れ地のあちこちを、遺跡の魔物たちが移動する黒い影が埋め尽くしていた。神崎 蓮は少しも慌てず、すぐさま生活スキル「呼吸抑制」を発動した。このスキルは生体フィルターのように働き、体から発せられる生命の気配を極限まで抑える。体温だけでなく、吐き出す二酸化炭素まで隠し、魔物の目にはまるで「死物」のように映るのだ。彼は廃ビルの間を巧みにすり抜け、ゆっくりと静かに歩く技術を組み合わせながら、一歩ごとに足をそっと下ろし、周囲を刺激するような小さな物音さえ立てないようにした。

慎重に周囲を調べた末、神崎 蓮は大通りに面した、比較的原形を保っている二階建ての建物を選んだ。壁に体をぴたりと寄せ、扉をそっと押し開けると、素早く中へ滑り込み、慎重にかんぬきを掛ける。室内には多少かび臭さがあったものの、積もった埃はそれほど多くない。軽く掃除すれば、一晩を安全に過ごす避難場所として十分だった。

視界の隅で点滅するシステム画面の時計をちらりと見る。夜が完全に凍りつくまで、準備に使える時間はあと三十分余り。前世で一流のレベル上げ代行屋として培った知識を頼りに、神崎 蓮はクラフト画面を手早く操作し、集めた粗材料から「石壁」をいくつも作り出した。見た目は粗雑で角張っており、芸術性など皆無だが、石塊の硬さと安定性だけは疑いようがない。

一秒たりとも無駄にはできない。神崎 蓮はすぐに二階や建物の要所へ移動し、重い石壁を丁寧に積み上げて主要な出入口をすべて塞いだ。さらに薄い石板で周囲の窓を補強する。ゲームの根本的な仕組みを熟知している彼には分かっていた。よじ登る能力を持つ魔物が、彼の眠っている間に窓ガラスを破って侵入すれば、このか弱い命は二度と戻れない危機に陥る。

二十分近く、時間との死に物狂いの競争を続けた結果、彼は疲労困憊し、革鎧の背中まで汗でびっしょりになった。それでも、外へ通じる道はすべて塞ぎ終えた。熟練者らしく、彼は壁の隅や死角にごく小さな隙間を意図的に残した。室内の空気を循環させながら、人間の気配が外へ漏れないようにするためだ。

幸運なことに、適当に選んだこの廃屋には、前の住人が残した乾いた薪がかなりあった。さらに、旧時代の高性能な煙突には臭いを濾過する機能まで備わっている。これなら焚き火の煙や料理の匂いで外の魔物を引き寄せる心配もなく、温かい食事を作れる。

火打ち石を打って数分後、暖かな橙色の炎が暖炉の中で踊り始めた。神崎 蓮は凶暴星猪から採った肉を尖らせた木串に刺し、赤熱した炭火の上で丁寧に焼いた。脂が炭へ落ちるたび、じゅうじゅうと食欲をそそる音が響く。光景だけなら温かく見えるが、人気のない廃屋の中では、炎に照らされて壁に長く伸びた彼の影が、骨身に染みる孤独を帯びていた。

前世では大学に入ってから一人暮らしを始め、現実世界での人付き合いを避け、コンピューターだけを相手にする隠遁生活を選んでいた。だからこそ、現実そのものとなった荒廃世界へ転生した今も、燃え盛る火の前に立ちながら、その目はどこか虚ろで、迷いを帯びていた。人の温もりなど、ほんのわずかも感じられない。

少し焦げた肉の匂いが漂い、神崎 蓮は果てしない思考からはっと引き戻された。慌てて串を火から外し、乾いた初心者用パンに肉を挟むと、むさぼるように頬張った。魔物の解体から坑道での採掘まで、一日中激しい肉体労働を続けたせいで、体はほとんどエネルギーを使い果たしている。塩も調味料もない肉サンドだったが、木灰や煙が少し付着したおかげか、かすかな塩気と苦みが生まれ、空腹でたまらない胃を刺激した。

小屋の外では夜風が狂ったように唸り、ゾンビの悪意に満ちた低い唸り声や、動き回る骸骨の骨がカタカタとぶつかる不気味な音が混じっていた。魔物たちは暗闇の中を目的もなくさまよい、ときおり背筋が凍るような叫び声を上げて、夜の静寂を切り裂く。

神崎 蓮は石壁の小さな隙間に目を寄せ、穴越しに大通りをうかがった。外には潮のように押し寄せる魔物の群れが密集している。その光景を目の当たりにして初めて、彼はゲームの原住民NPCたちが安全区に暮らしていても早々に眠り、夜は絶対に外へ出ない理由を理解した。悪魔に支配されたこの土地で、圧倒的な実力がなければ、誰があの狂乱した魔物の群れに立ち向かえるというのか。装備がどれほど優れていても、レベル2の魔物数百体に包囲され、すぐに突破口を開けなければ、レベル5のパーティーでさえ命を落としかねない。

強烈な眠気と肉体の疲れが津波のように押し寄せた。神崎 蓮は重い足取りで二階へ上がった。幸い、寝室にはまだ弾力のある快適なスプリングマットレスが残っていた。暗く湿った鉱山で一日中働いたあと、暖かく柔らかな寝床に横になれるのは、まさに願ってもない幸運だ。彼は目を閉じると、すぐに深い眠りへ落ちた。

魔物の咆哮だけが点々と響く奇妙な静寂の中、夜は静かに過ぎていった。そのころ、彼の小屋から遠く離れた北向きの廃ビルの屋上に、月明かりの下でぼんやりとした幻のような人影が突如現れた。その存在は屋上の端に静かに立ち、暗闇に支配された魔物の王国を冷たい目で見下ろしたが、一言も発さず、まるで初めから存在しなかったかのように虚空へ消えた。

「…………」

謎の人影が去り際に残したのは、ひどく難解な囁きだけだった。声はかすれ、くぐもり、古代の呪いを思わせた。それなのに、そこには殺意も敵意も微塵も感じられない。まるで魔の世界の最深部、遠く離れた場所から届いた神聖な言葉のようだった。

その声を聞いた瞬間、下をさまよっていた魔物たちは一斉に身を震わせた。体内の制御中枢を、至高の意志に乗っ取られたかのようだった。しかし、狂暴化して暴れ出すことはなく、突然その場で硬直し、石像のように動かなくなった。何千もの魔物が廃墟の街路に立ち尽くし、一切の音を発しなくなったため、周囲数キロにわたる空間は恐ろしいほどの静寂に包まれた。

しばらくして、ようやく魔物たちは再び動き始めた。だが、今度は目標を失ったかのように、四方の路地へばらばらにさまよい出した。唯一にして最も奇妙な共通点は、どの魔物も何かを意図的に避けているように見えることだった。神崎 蓮が避難場所に選んだ小屋へ近づこうとする魔物は、一体もいなかった。

同じころ、この荒廃した都市の深い闇に覆われた各所でも、異変が静かに進行していた。

何らかの根本的なシステムロジック、あるいは謎の力が作用したのか、周囲の廃ビルの内部構造は、いつの間にか「金庫」と「魔物コア」に置き換えられ、それらで満たされていった。

名前のとおり、「金庫」はこのゲームにおける特殊なランダム宝箱だ。廃墟で見つけて開ければ、最高級装備や希少素材から生存必需品まで、あらゆるレベルとレアリティの報酬をランダムに獲得できる。ゲームの設定上、これは日々のモンスター狩りに次ぐ重要な物資源であり、ソロプレイヤーも大手ギルドもこぞって狙うものだった。

「魔物コア」そのものの性質に変化はなかった。しかし、元のゲームでは危険なダンジョンや地下深くの特定区域にしか固定配置されなかったのに対し、今では廃墟都市の高層ビルや各階、あらゆる隅に不規則に分布し始めていた。

この現象は公共建築の基礎や内部構造に直接干渉し、強引に作り変えているはずなのに、謎の存在が建物に組み込まれても、激しい揺れも崩落も起こらなかった。新たな変異を遂げた魔物コアは、夜の間、外へ向けて次々と魔物の群れを生み出す。だが一定時間が過ぎると、その群れは自動的に消滅してしまう。この新種の魔物コアは、誰にも知られていない神秘的な法則に従って動いているらしい。

周辺の建物の外壁には、風雨にさらされて生じた大きな亀裂がいくつも走っていた。それでも今は、風化や重力の影響など受けていないかのように、どれも揺るぎなく立っている。さらに、魔物コアや金庫が内部に現れるにつれて、コンクリート壁の深い亀裂までもが、生き物の傷口のように不思議な力で塞がり始めた。こうして高層ビルだけでなく、廃墟都市全体の構造と生態が、根本から変異していった。

外の街路にいる魔物の数は減るどころか、ぞっとするほど爆発的に増え続けた。だが、地平線が白み始め、夜明けが迫ったその瞬間、変異した魔物コアから生み出された魔物たちは、青い煙のように虚空へと一斉に消え始めた。ゲーム史上、前例のない異常現象だった。通常、闇属性の夜行性魔物は朝日を浴びて焼き尽くされ、灰となってから消滅する。太陽光がまだ十分に差し込む前に、これほどきれいさっぱり蒸発することなどなかった。

朝の柔らかな金色の光が瓦礫の隙間を通り抜け、冷たく寂しい寝室のベッドに横たわる唯一の若者を照らしたとき、神崎 蓮もちょうど目を覚ました。光に慣れず、彼は少し目を細めて手をかざした。

見慣れない、ひび割れて冷たい廃墟の天井を見つめているうちに、張り詰めていた神崎 蓮の神経はすっかり緩んだ。今では現実を受け入れ、折り合いをつけていた。おそらく一生、2150年の現実世界へ戻る機会はないのだろう。

「もう引き返せないのなら、いっそ自分の手で神話を書き、この『無限職業者』の世界で最も高みに立つ伝説のNPCになってやればいいじゃないか!」

ベッドに横たわったまま自分を奮い立たせる言葉をつぶやくと、彼は勢いよく起き上がり、一階へ降りた。昨夜、正面入口を塞いでいた粗末な石壁を手際よく一つずつ取り外し、外へ出る。

ところが、目の前の光景を見た途端、神崎 蓮は驚きのあまりその場に立ち尽くした。

避難小屋の外、廃墟の街路から路地の隅々に至るまで、昨夜の都市異変で魔物たちが消えた際に落としたらしい物資箱や戦利品の袋が、きらきらと地面を埋め尽くしていた。さまざまな装備の光が、魅惑的にきらめいている。神崎 蓮は呆然と立ち尽くした。部屋でぐっすり眠っただけなのに、朝、扉を開ければこれほど莫大な幸運が転がり込んでいるとは夢にも思わなかった。

どうやら、この致命的な夜も、彼にとっては思ったほど恐ろしくなかったようだ!


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