第二十七章:キメラ
ルーン刻印師は、その名のとおり、『無限職業者』でも屈指の知名度と費用を誇る職業の一つだ。製作職に劣らないほど莫大な資金を必要とするうえ、アイテムにルーンを刻み込むだけでも非常に複雑で、ルーン文字を理解し、正確に彫り込む技術を習得するのはさらに難しい。
それほど難しい技術でありながら、従来の魔法と比べると、ルーンには圧倒的な利点があった。マナの消費が極めて少なく、周囲にある自然の魔素を利用して、わずかな消耗で効果を維持できる。それでいて、大魔法に匹敵するエネルギーを発揮できるのだ。そのため、ルーン刻印師は大勢力から熱心に勧誘され、引く手あまただった。
魔法使い系統から派生した職業と見なされてはいるものの、ルーン刻印師はどんなパーティーも欲しがる貴重な人材だった。参入条件が厳しく、失敗率も極めて高くなければ、報酬と地位の高さに惹かれて誰もがこの道を選んでいただろう。
ただし、それは八周年記念アップデート以降の話だ。それ以前、ルーン刻印の技術は衰退し、失われつつある遺産だった。百年以上前の古代建築や、長い歴史を持つ大貴族の所有物でもなければ、ルーンの欠片を見つけることすら難しかった。この地下通路と、その上に広がる廃墟の街は、今なおこれほど高密度にルーンが残る数少ない場所の一つだった。
神崎 蓮なら、ルーンを簡単に削り取って持ち帰ることもできた。しかし、子供たちの目の前でそんなことをすれば、余計な疑いを招きかねない。わざわざそんな危険を冒すつもりはなかった。
一行がさらに十分ほど奥へ進むと、前方の空間が突然、完全な闇に沈んだ。その暗闇の中で、血走った赤い目が二対、彼らをじっと見つめていた。神崎 蓮はすぐに明るい松明を前方へ投げ、様子を探った。光が闇を照らした瞬間、彼は思わず息をのんだ。そこにいたのはキメラ――獰猛なライオンと凶悪な毒蛇が混ざり合った、異形の怪物だった。松明を投げつけられたことを挑発と受け取ったのか、怪物は恐ろしい咆哮を上げ、大きく口を開くと、粘ついた緑色の唾液を一行へ吐きかけた。
「避けろ! あいつの唾液には酸が含まれている。触れるな!」神崎 蓮は子供たちとひなたちに素早く警告した。危険な液体が降り注ぐ前に、全員が機敏に跳び退いて攻撃範囲から逃れた。硬い鉄のレールは唾液に触れた途端に腐食して形を失い、泡を立てて溶け始めた。石の床にじゅうじゅうと染み込み、鼻を刺す有毒な煙が立ち上る。
酸の唾液をかわすと、神崎 蓮はすぐに戦闘の指示を出した。クリスは姿を見せたり隠したりしながら怪物の背後へ回り、鋭い投げナイフを二本放って、蛇のような尾を地面に縫い止めた。セレスとマナも息を合わせ、それぞれ剣を抜いてキメラの恐ろしい両目を突き刺した。怪物は苦痛に狂ったような叫び声を上げ、周囲の者たちを遠くへ弾き飛ばした。
かなり強く吹き飛ばされたものの、ナイフは怪物の肉に深く食い込んだままで、キメラは激しく身をよじって暴れ続けた。レベル21の個体にすぎないとはいえ、膨大なHPを持つため、神崎 蓮一人で短時間のうちに仕留めるのは難しかった。ひなは彼の意図を察したかのように、すぐさま前へ飛び出し、圧倒的な身体能力で怪物と組み合って動きを妨害した。
『無限職業者』のキメラは、鋼のように硬い皮膚と膨大なHPで悪名高い。完全に倒すのは非常に難しく、たとえ首を切り落としても、残った肉体は再生してしまう。倒すには体内にある核を見つけて破壊するしかない。そうしなければ、HPが尽きるまで何度でも再生し続けるのだ。
こうして一行は交代しながら、連携して戦い続けた。弱点へ攻撃を集中させる者、厄介な尾を押さえ込む者、そして近接戦で怪物を引きつけ続けるひな。それを援護しながら、神崎 蓮は冷静に機会を見極め、軍用ナイフを投げたり、弓を引いて急所を射抜いたりした。放たれた攻撃はどれも正確で、関節の弱点へ深々と突き刺さった。
キメラは狂暴化こそしなかったが、その異常な耐久力のせいで、一行は三時間以上も知恵と力を振り絞って戦わなければならなかった。ついにHPがゼロになり、巨大な身体が轟音とともに崩れ落ちると、聞き慣れたシステムの通知が神崎 蓮の頭の中に響いた。
「おめでとうございます、キメラの討伐に成功しました。特殊な性質を持つモンスターのため、経験値の代わりにスキル報酬を獲得します――『神閃』。一度訪れたことのある場所へ瞬時に移動し、自分に即座に命中する攻撃やダメージを回避できます。継続ダメージ、呪い、必中スキルには適用されません。命を守るためのスキルで、クールタイムはありませんが、発動には大量の体力とマナを消費します。使用するタイミングには十分注意してください。このスキルを現在の仲間全員と共有できます。共有しますか?」
長いシステム通知を聞き終えた神崎 蓮は、珍しく喜びを隠せなかった。経験値なら後からいくらでも稼げるが、特殊スキルは持っているほど生存能力を高めてくれる。今回手に入れたスキルは究極の防御手段であるうえ、仲間にも共有できる。全員にもう一層の安全を与えられるのだから、これ以上のことはない。神崎 蓮は迷わず共有を承認した。
共有が完了すると、温かな金色の光がまばゆく広がり、その場にいる全員を包み込んだ。光が消えていくと、子供たちとひなは、自分たちと神崎 蓮の間に不思議な精神的つながりが生まれ、ステータス画面に新しいスキルが追加されたことに気づいて驚いた。
「これは……」クリスは目を見開き、極度の驚きを浮かべて神崎 蓮を見つめた。なぜ、と問いかけたそうな眼差しには、困惑と崇拝、信じられないほどの喜びが入り混じり、その表情は何とも言えないものになっていた。
「お前たちに共有した防御スキルだ。本当に危険なときに使え。むやみに使うなよ。マナも体力も大量に消費するから、使いすぎず、必要なときだけ使えばいい」神崎 蓮は落ち着いて説明した。その言葉に、一同は衝撃を受けた。これほど貴重な高位の生存スキルを、何の見返りも求めず簡単に共有してくれたのだ。それは、神崎 蓮が自分たちをどれほど信頼しているかを示していた。子供たちの胸には、言葉にできないほどの感情が波のように押し寄せた。
その頃、とある荒野では――三時間前。
起伏の続く平原を、黒い影の一団が見覚えのある街へ向かって急いでいた。そのうちの一人が、先頭を行く男に尋ねた。
「隊長、今回の標的は何人ですか?」
「六人だ。うち五人はガキで、残りの一人は少し年上だが、腕は並外れている。十分に備えておけ。黒鷹隊でさえ奴に敗れたんだ。俺たちも簡単にやられるわけにはいかない」隊長と呼ばれた男は、これから直面する脅威について厳しい口調で警告した。黒鷹隊が今日壊滅した以上、上層部の指揮官である自分は、あの方々に納得のいく説明を持ち帰らなければならない。
「おいおい、冗談だろ? つまり俺たちがそいつと戦って、黒鷹隊への手向けに首を持ち帰れってことか?」別の男がうんざりした様子で言った。彼らは凄惨な殺しの任務を何度も経験しており、とうに感覚が麻痺していた。
「そのとおりだ。黒鷹隊が奴らを尾行し、襲撃しようとした瞬間、逆に標的に全員殺された。黒鷹隊の行動が見抜かれていた可能性が高い。だから標的は罠を張り、黒鷹隊が引っかかるのを待って一網打尽にしたのだろう」隊長は冷静に分析した。送られてきた映像には黒鷹隊が倒される瞬間しか記録されておらず、ほかに手がかりを得ることはできなかった。
「隊長、本当にそうなら信じないわけじゃないが……くそっ、そんな相手なら、近づく前に額を矢で射抜かれて終わりじゃないのか?」別の男が不機嫌そうに唸った。無理もない。彼らは名高い『黒網』組織に正式所属する暗殺者部隊の一つで、『大魔法師』本人から直接指令を受けていた。将来を期待された候補部隊の黒鷹隊でさえ一瞬で命を奪われたのだから、警戒するのも当然だった。
三時間以上、全速力で移動した末、暗殺者たちは映像に記録されていた最後の座標へ到着した。現場に残っていたのは、矢が何本も突き刺さった四つの冷たい死体だけだった。外側の衣服を除き、価値のある装備はすべて剥ぎ取られていた。犯人は間違いなく手慣れた者だ。価値のある品を残さず回収し、身元を示す護符だけを残すやり方を知っているのは、同業者くらいしかいない。
四体のうち三体は、すでに完全に息絶えてからかなり時間が経っていた。周囲の崩れた建物のあたりには怪物の死骸も散乱しており、四人の暗殺者の遺体は、戦場の混乱の中に埋もれた小さな点にすぎなかった。そこから得られる有益な手がかりは何もなかった。
「どうやら相手は簡単な敵ではないな。本部に報告しろ。懸賞金をさらに十万魔石上乗せする。組織の機密を知っている可能性がある。生かしておくわけにはいかない」隊長が命じると、部下の一人はすぐに穿雲の玉佩を起動し、本部へ緊急信号を送った。
懸賞金が突然十万魔石も上乗せされ、赤く光るドクロの印が表示されると、この事件は正式に最重要案件へと引き上げられた。組織が出したのは暗殺命令――生け捕りではなく、死体さえ持ち帰ればよいというものだった。報酬に目がくらんだ多くのフリーランス暗殺者が色めき立った。しかし、指名手配の危険度がB級から一気にA級へ跳ね上がったのを見て、命知らずの者たちも大半は自分の手に負えない任務だと悟り、ほかの標的を探すために画面を閉じた。
ただ、暗殺者たちは一つの事実をまったく知らなかった。街で最も高い建物の最上階から、異様に赤く光る目を持つ謎の影が、彼らの行動をすべて見通していたのだ。その影はやがて音もなく空中へ溶け込み、周囲にはぞっとするほど暗く静かな空気だけが残された。




