第二十二章:幸運か、それとも災厄か(3)
目の前の光景に、クリスの世界観は激しく揺さぶられた。子供たちの前に立つ神崎 蓮は、もはや見慣れた人物とはまったく違っていた。瞳は野性的でぞっとするほど血に飢えた赤に輝き、全身から憂鬱な紫とまばゆい黄金が混じり合ったオーラが噴き上がっている。身体の関節からは灰色で異様な虫の甲殻が次々と生え、肉へ深く突き刺さるようにして完全に融合していった。その姿に、後ろにいた子供たちは衝撃と恐怖を隠せなかった。
いつも落ち着いていて優しい青年が、これほど悪魔じみた恐ろしい姿になるのを見たのは初めてだった。クリスの表情はさらに険しくなった。神崎 蓮が先ほど口にした言葉の背後にある残酷さを、ようやく本当の意味で理解したのだ。
神崎 蓮は、システムによって一時的に封印を解かれ、修復された『万極神剣』を強く握りしめた。全身から狂暴な力が限界まで噴き出し、『無極剣技』の華麗で変幻自在な技を一切容赦なく繰り出していく。
「第二式――瞬剣!」
神崎 蓮の身体は紫色の閃光となり、風を切って駆け抜けた。神剣の刃が死の弧を描き、一呼吸の間に周囲のゾンビたちの首を次々と刈り取った。直後、彼はかかとを地面へ強く叩きつけ、爆発的な魔力を解き放った。
「第四式――剣域!」
鋭い剣気の輪が勢いよく周囲へ広がり、近くにいた数十体のモンスターを細切れの肉片へと変えた。大型ゾンビが状況を理解する暇も与えず、神崎 蓮は怪物の死体を踏み台に跳び上がり、その後頭部へ剣を振り下ろした。
「第六式――一撃必殺!」
燃え上がる剣光が空気を切り裂き、巨大な怪物の石のように硬い腐肉へ叩きつけられ、耳障りな摩擦音が響き渡った。
「もっとだ……もっとよこせ! ハハハ……!」
神崎 蓮の喉から狂気じみた笑い声が次々と漏れ、子供たちは極度の恐怖に駆られて後ずさった。彼らの目には、神崎 蓮は理性を失った凶暴な変異異人のように映っていた。
『万極神剣』の残酷なパッシブスキル『皮剥ぎ肉裂き』のおかげで、彼の斬撃は一つひとつ、塞がることのない壊死性の傷を残した。大型ゾンビの膨大なHPバーが、目で見て分かるほど急速に減り始めた。神崎 蓮は周囲のモンスターを狂ったように斬り倒しながら、巨体へ正面から突撃した。凶暴な爪で何度も引き裂かれたが、パッシブスキル『捕食』の効果により、敵の血が流れ落ちるたびに自分のHPが回復していった。
「マナ、セレス! すぐに下がれ! 今すぐ距離を取れ!」
モンスターの身体に息苦しいほど危険な圧力が蓄積しているのを感じ取り、クリスは仲間たちへ怒鳴って警告した。
全員が石壁の両側へ避けた直後、大型ゾンビは全体重を込めて凶暴な咆哮を上げ、両手を地面へ叩きつけて必殺技『地震』を発動した!
ドガァァン!
半径6メートル以上の地面が激しく爆ぜた。衝撃波が巻き起こり、レンガや石片を吹き飛ばし、周囲の構造物を完全に破壊した。神崎 蓮は敏捷な歩法で回避したものの、凄まじい余波が腰を直撃した。身体は吹き飛ばされ、危うく頭から石床へ叩きつけられるところだった。間一髪で宙返りして主な攻撃範囲から抜け出したが、唇に浮かんでいた狂気の笑みがぴたりと止まった。意識が一瞬だけ正気に戻り、極限の疲労が全身の筋肉へ急速に広がっていく。爆発強化状態で高級スキルを連続使用し続けたため、身体の耐久力は限界に近づいていた。
「早く終わらせないと……これ以上は長引かせられない……」
システム画面に表示された『初心者強化』の残り時間がわずかしかないのを見て、神崎 蓮は歯を食いしばり、決断した。残された魔力をすべて注ぎ込み、『万極神剣』の特殊能力『分剣』を正式に解放した!
キン、キン、キン!
手の中の神剣が激しく震え、何千もの小さな刃へと分裂した。鋼の葉のように鋭い無数の刃が、神崎 蓮の周囲に浮かび上がり、空間を取り囲む。彼が狂ったように剣を振るうたび、剣の嵐は鋭い竜巻となって大型ゾンビへ突進した。
シュッ、シュッ、シュッ!
何千もの小さな刃が腐肉を削り、引き裂き、巨人の頭蓋骨を貫いた。爆発的なダメージは相手の魔法回復力をはるかに上回り、HPバーは急落していった。わずか数分で、怪物のHPは死の寸前まで減った。その一瞬、奇妙な現象が起きた。周囲の時間が一拍だけ止まったかのようになり、怪物の胸元に灰色の針葉のような光る紋章が突然現れた。そこを攻撃しろと告げる合図のようだった。
神崎 蓮は一瞬もためらわず、残った力をすべて込め、剣先を紋章の中心へ突き刺した!
ザシュッ!
大型ゾンビの巨体は真っ二つに斬り裂かれ、黒い煙を残して地面へ崩れ落ちた。同時に『狂暴』と『初心者強化』の効果が強制的に解除された。神崎 蓮は大量の血を吐き、勢いを失って地面へ倒れ込んだ。極度の衰弱の副作用により、肌には深い穴が次々と開いていた。
子供たちは慌てて駆け寄った。アリスは急いでひざまずき、残った魔力をすべて使って『治療』を発動した。涼やかな緑色の光が広がり、神崎 蓮の皮膚に残った穴は急速に塞がっていった。しかし、彼はすでに深い昏睡状態に陥っていた。子供たちには他に方法がなく、重い身体を交代で支えながら拠点へ連れ帰るしかなかった。
黙々と歩きながら、クリスの心は荒波のように揺れていた。昏睡する男を見つめる眼差しには、深い感嘆と畏怖が混ざっていた。さまざまな推測が頭に浮かんだものの、どれも納得できる答えにはならなかった。特に、あの奇妙な神剣だ。これまで神崎 蓮が持っているところを一度も見たことがなかった。昨日、雲を貫いた黄金の光と、先ほど剣から放たれた背筋の凍るような威圧感を思い出し、クリスは思わず身震いした。
***
同じ頃、果てのない空間にそびえる古代の超高層塔では、巨大な『時間の砂時計』が静かに砂を落としていた。突然、空間が波打ち、謎めいたローブをまとった黒い影が数人、慌ただしく現れて塔の根元へ向かった。
「たった今の出来事について、何か分かっているのか!?」その一人が、動揺と疑念の入り混じった声で叫んだ。
「分からない! だが、流れの中にあった巨大な変数が消えたのは確かだ……おかしなことに、私の追跡魔法まで跳ね返された!」別の影が急いで答えた。
全員が巨大な砂時計のそばまで進むと、その場で凍りついた。常に正確に動いていた砂時計のガラス面に、激しく変動する数字の下へ、灰色のマイナス記号が浮かび上がっていたのだ。
「何だと……時間が消去されたというのか!?」
「あり得ない! 魔法構造をもう一度、きちんと調べたのか!?」
「自分の目で確かめろ!」
魔法の情報パネルが一同の目の前に現れた。時間が飛ばされた記録の数値が新しい値へ跳ね上がり、ローブの者たちは一斉に血の気を失った。
「時間の砂時計は、これまで一度も狂ったことがない! 誰かが介入し、世界の時間の一部を消し去ったに違いない! この件は絶対に外へ漏らすな。すぐに白袍大人へ報告しろ。あの者を追跡して排除する計画を直ちに立てる!」
「しかし、そんな禁忌のスキルを持てるのは、いったい誰なんです? 見つけたとしても、時間を操れる相手が簡単に始末できると思いますか!?」
「黙れ! 落ち着け! 慎重な計画が必要だ。お前たちは私と秘密の部屋へ来い。残りはここに残って厳重に警備しろ!」
黒い影たちは塔の暗闇の奥へ急ぎ、重い石扉の向こうへ姿を消した。
***
神崎 蓮のもとへ戻ると、子供たちは三時間以上も苦労して移動し、ようやく彼を無事に拠点へ連れ帰っていた。大人一人を長い道のりにわたって運んだことで、子供たちの残りの体力も完全に尽きかけていた。
「ピン! 初めてのチーム戦を見事な成績で達成しました! 仲間全員が4レベル上昇し、宿主はレベル15に上がりました!」
「レベルアップ報酬:自由ステータスポイント+40、AD+2、AP+5、HP+2、クリティカル率+4%、敏捷性+6、物理防御+1」
「チーム戦達成報酬を起動しました。『潜在ポイント』×15を獲得しました!」
システムから温かな金色の光が広がり、神崎 蓮の意識が戻った。しかし、衰弱状態の余波が残っており、すぐには起き上がれなかった。地下の生活空間は夕暮れ色に染まっていた。幸い、朝のうちに神崎 蓮が多めに食料を用意していたため、子供たちは空腹にならずに済んだ。
デバフが終わるまであと二時間。神崎 蓮は柔らかなマットレスの上で約10分も苦労して、ようやく腕で身体を支え、上半身を起こすことができた。
「あっ! 目が覚めたんですね!」アリスが驚いて声を上げた。神崎 蓮を拠点へ運んでからずっとそばで看病していたが、いつの間にか眠り込んでしまっていたのだ。
「いろいろありがとう、アリス」神崎 蓮は優しく微笑み、少女の頭をなでた。アリスは恥ずかしそうにしながらも、その優しさを嬉しく感じていた。
物音を聞きつけた子供たちが外から一斉に駆け込んできた。神崎 蓮が無事に目を覚ましたのを見て、皆の顔に喜びが広がった。特にアーロンは嬉しそうだった。神崎 蓮が何度も致命的な攻撃を受けながら戦い続けた姿は、熊族の少年の心に深い印象を残していた。ただ一人、クリスだけは同じようには喜ばなかった。彼は戸口にもたれ、静かに神崎 蓮へ合図し、一緒に外へ出るよう促した。
神崎 蓮は深く考えず、うなずいてゆっくりとベッドから降りた。子供たちも何かただならぬ雰囲気を察し、自分たちの部屋へ戻っていった。
地下室の入口に差す薄暗い夕焼けの下、クリスは背を向けたまま、冷たい声で尋ねた。
「それで……あなたは一体、何者なんですか? いや、正確に言えば……あなたは一体、何なんです?」




