第二十一章:幸運か、それとも災厄か(2)
「ああ、最高に気持ちいい! こうして湯に浸かるのは、いったいいつ以来だろう。やっぱり湯船に浸かって筋肉をほぐすのが一番だな!」神崎 蓮は湯気の立つ石造りの浴槽で全身の力を抜き、しみじみと声を上げた。冷たい野営用シャワーを浴びるだけの日々ではなく、こんなふうにゆったり湯船に浸かる感覚を、彼はずっと味わいたいと思っていた。温もりが関節の一つひとつへ染み渡ると、公共浴場や温泉がなぜあれほど人を惹きつけるのか、心から理解できた。このくつろいだ空気の中では、誰だって人生で一度くらいは横になって楽しみたくなるだろう。
子供たちは最初こそ遠慮して恥ずかしがっていたが、アーロンとクリスが先に浴槽へ入るのを見ると、残る三人の少女たちもすぐに反対側の石壁で仕切られた区画へ移動し、装備を外してそっと湯に身を沈めた。そもそも本浴槽に入る前に、全員が『水域陣法』の爽やかな魔法の水で身体を洗い流していたため、埃や野外活動でかいた汗はすでにきれいに落ちていた。
温かな湯に身を沈めると、一同は滑らかな石壁にもたれかかり、めったにない安らぎを味わった。しばらくすると、神崎 蓮が渡した香り高いジャスミン石鹸を、皆で順番に使い始めた。石鹸の泡が水に触れると完全に溶けて流れていき、湯を何度も入れ替える必要がないのを見て、神崎 蓮は少し疑問を覚えた。前世では、共用浴槽に入る前に身体を洗い流す厳格な習慣が身に染みついていたため、少し気になったのだ。しかし、魔法とシステム技術が組み合わさった不思議な仕組みを実際に確かめると、疑念はすぐに消えた。
花の香りに満ちた温かな空気の中で、子供たちは次第に打ち解け、楽しそうにおしゃべりを始めた。神崎 蓮は口を挟まず、静かに頭を預けて聞きながら、細かな話まで心に留めていった。話題の多くは、アスガルドで過ごした、ぜいたくではあったが波乱も多い生活についてだった。熟練ゲーマーの職業病が働き、彼は自動的に思考へ沈み込み、アスガルド王国に関する貴重な情報を次々と分析し、つなぎ合わせていった。王宮の秘密や貴族の逸話には、メインストーリーに触れなければ普通のプレイヤーが決して知り得ないものもある。神崎 蓮は石造りの天井を見上げながら、頭の中で勢力図を描いていった。
今夜の会話には、衝撃的な事件も政治的陰謀も、大きな経済変動の話もほとんどなかった。子供たちが語ったのは、主にありふれた家族の思い出だった。少し退屈ではあったが、過酷な終末世界を生き抜く神崎 蓮にとっては、長編ドラマを眺めるような、ささやかな気晴らしになった。
入浴が終わると、皆すっかりさっぱりし、それぞれの部屋へ戻って寝る準備を始めた。神崎 蓮は長話をせず、その日のうちに集めた金庫を開け始めた。予想どおり、ガチャ運はいつも味方してくれるわけではない。低級の金庫数個から出てきたのは、消耗品や価値の低い素材ばかりだった。少しずつ開ける感覚は、まとめて大量に「箱を開ける」ときの爆発的な高揚感には到底及ばない。彼はいつか金庫を何百個も貯め、一気に開封する機会を作ろうと心に決めたが、今はまだその時ではなかった。
「もう遅いな。休むとするか」神崎 蓮はつぶやき、柔らかなマットレスへ身を沈めた。システム画面はバックグラウンドで静かに動き続けていた。次々とクエストや報酬を出してくるわけではないが、安定して存在していること自体が、彼に確かな安心感を与えていた。
神崎 蓮はゆっくりと眠りに落ちた。まどろみの中で、また奇妙な夢を見た。夢とは思えないほど生々しく、ぞっとするほど現実的だった。果てのない空間で、彼は見覚えのある人物に出会った。アスガルド亜人祖都の長老会を率い、メインストーリーの運命を握る重要人物の一人、クロード・ド・アルテリアだった。しかし、神崎 蓮を動揺させたのは、クロードが彼を「勇者」と呼んで恭しく接していたことだ。その一方で、正面に立つ厳めしい顔つきの人物は、濃密な闇の気配をまとい、「世界の破壊者」と呼ばれていた。
神崎 蓮には理解できなかった。なぜあの人物が世界の破壊者なのか。なぜ前世の記憶には、このストーリーラインがまったく存在しないのか。『無限職業者』が運営されてきた50年間で、数え切れないほどの隠しストーリーが解放されてきた。それでも、何か謎めいた理由によって、プレイヤーコミュニティ全体の世界探索率は15%で停滞していた。メインストーリーは何百章も進み、壮大なCGムービーも何千本と解析された。それなのに、探索率を20%の壁の向こうへ押し上げた者は、いまだ一人もいなかった。
二人のぼんやりとした姿が虚空へ消えていくと、夢の中の神崎 蓮の身体が勝手に動き始めた。彼の意識は魔法書と一つになったかのように感じられ、両手は無意識のうちに秘伝書『無極剣技』を取り出し、そこに記された剣筋や歩法を次々と繰り返した。最初はぎこちなく、多少苦戦していたものの、生まれつきの戦闘本能によって、神崎 蓮はこの高等剣技の基礎となる入門動作を完全に身につけていった。
頭の中で技の連携を組み合わせることに夢中になっていたところで、神崎 蓮ははっと目を覚ました。ゆっくりと目を開けると、早朝の薄明かりが差し込んでいた。今回の夢は以前のような暴力的で恐ろしいものではなかったが、この世界に対する深い困惑と不安を残した。単に異世界へ転生したことへの戸惑いではない。自分が少しずつ制御を失い、暮らしている現実を理解できなくなっているという、不気味な不安だった。
「ピン! ログイン七日目の報酬として『初心者爆発チケット』×3を獲得しました!」
「ピン! スキルセット『無極剣技――初級』を解放しました。引き続き鍛錬に励んでください!」
アイテム説明:短時間、すべての能力値と与えるダメージを大幅に上昇させる。ただし効果が切れると、宿主は極度の疲労を伴う『衰弱』状態に陥り、6時間持続する。
毎日の報酬を受け取ったあと、神崎 蓮は階下へ降りて朝食を用意した。今回も栄養豊富で味わいの強い食事となり、亜人の子供たちは満ち足りた幸福感とともに楽しんだ。食後、彼は自分のスキル一覧を確認した。予想どおり、システムは『無極剣技』系統の新しい戦闘スキルを9つ自動的に追加していた。しかし、現在の能力値が条件に届いていないため、神崎 蓮が当面起動して使えるのは、そのうち4つだけだった。
昨日の計画どおり、神崎 蓮は再び子供たちを連れて、廃墟街の外れへモンスター狩りに出かけた。ただし今回は、外から助言するだけではなく、自ら武器を手に取り、隊列へ加わった。長期的に生き延びる戦闘チームを作ると決めた以上、リーダー自身も仲間と直接連携する一員でなければならない。そうでなければ、「チーム」と呼んでも、ただ個々人が集まっているだけにすぎない。
「アーロン、右側の陣地をしっかり支えろ! 鎧で攻撃を受け止め、敵を隙間から通すな! クリス、今回は俺が後ろを援護する。一撃で仕留められなければ、すぐに短剣を切り替えて別の敵を狙え!」
神崎 蓮は鋭い声で戦場を指揮しながら、幽霊のように素早く動き、モンスターの背後へ次々と回り込んで致命的な一撃を放った。命令を受けたクリスは一切ためらわず、狼族の少年ならではの速度を最大限に発揮した。灰色の影となって敵の群れを駆け抜け、両手の毒の短剣で死をもたらす弧を描いた。
「マナは後衛から火力支援を続けろ。アリスに近づこうとする敵を優先して魔法で倒すんだ! セレスは第二線を維持しろ。アーロンと交代で挑発スキルを使い、敵のヘイトを保て。標的をリセットさせるな!」
戦場では金属がぶつかる音と魔法の爆発音が絶え間なく響いた。マナはしなやかにレイピアを突き出しながら、燃え盛る火球術を連続して放ち、前線を封鎖するモンスターのHPを削っていった。敵が反撃のために振り向くより早く、アーロンとセレスが息を合わせて前へ出て追撃し、ヘイトを取り戻した。そのおかげで前衛は安定を保ち、負荷が一か所に集中することもなかった。最後尾のアリスは精神を集中し、支援魔法を絶え間なく使い、チーム全員のHPを安全圏である85%以上に維持した。神崎 蓮自身は攻撃を受けることがほとんどなかったが、アリスの全体強化魔法のおかげで、動きの一つひとつをより効率的にできた。
ドォン!
恐ろしい轟音と衝撃波が近くのレンガ壁を激しく揺らし、神崎 蓮の顔色が変わった。砕けた石やレンガが飛び散り、舞い上がる煙の中から巨大な影が現れた。レベル25の『大型ゾンビ』だ! 前回は知恵を絞り、あらゆる手段を使ってようやく一体を倒したというのに、今日この区域でもう一体の変異種に遭遇するとは。猛烈な一撃で吹き飛ばされ、石壁に激突して倒れたのはアーロンだった。攻撃の威力は凄まじく、虎族の少年は血を吐いて、そのまま意識を失った。
その光景に神崎 蓮は本気で動揺した。彼は怒鳴るように指示を出した。
「セレス、マナ! すぐに援護してアーロンを後衛へ下げろ! クリス、俺と来い。あの化け物を誘導して、隊列から引き離す!」
後衛ではアリスが慌てて駆け寄り、残った魔力をすべて注ぎ込んで『治療』と『高速回復』の連携スキルを発動した。穏やかな緑色の光がアーロンの身体を包み、少年は徐々に意識を取り戻して目を開けた。それでも、アーロンは完全に戦闘不能だった。幸い、残っていた獣化状態が致命傷を肩代わりしてくれた。しかし、体力切れによって獣化が突然解除された反動で、全身がひどく痛み、身動きも取れなかった。残る三人の少女はすぐにアーロンの周囲へ防御陣形を作り、緊張しながら押し寄せる雑魚を防ぎつつ、できる限り敵を倒そうとした。
アーロンの安全を確認すると、神崎 蓮とクリスは全速力で戦闘へ戻った。二人はそれぞれ独立したコンボを使い、別々の敵集団を処理した。神崎 蓮は大型ゾンビと周囲の凶暴な変異ゾンビを抑え込み、クリスは生まれつきの敏捷性を生かして敵を引きつけながら、変異した爆裂体を次々と仕留めた。クリスは疑いも恐れも抱かなかった。灰色の影となって現れては消え、驚異的な速度で低レベルの敵を斬り倒し、高レベルの変異爆裂体の身体にも致命的な毒の傷を刻んでいった。突然の魔法爆発には多少苦戦したものの、彼の戦いはまだ制御下にあった。
「クリス! 少ししたら俺が合図を出す。そのときは何としても短時間、敵を引きつけて足止めしてくれ。変異爆裂体を抑えておくんだ!」
「分かりました! でも、本当にあの巨大な化け物を倒せるんですか?」
「少しの間、うまく誘導して時間を稼いでくれ。そうすれば答えが分かる!」
先ほどの短いやり取りが、クリスの頭の中によみがえった。爪の攻撃をかわしながら、彼は神崎 蓮がどんな切り札を隠しているのか不思議に思った。後衛へ視線を走らせると、アリスは魔力が危険域まで低下していたため、残りわずかな力を振り絞り、『完全防御シールド』を展開せざるを得なくなっていた。クリスが気を取られた次の瞬間、すぐ横で凄まじい爆発が起きた! 幸い、アリスの魔法障壁が変異爆裂体の有害な爆発を受け止め、狼族の少年は間一髪で大惨事を免れた。
戦況は次第に危機的になっていった。マナとセレスは勇敢に戦い続けていたが、絶えず押し寄せるモンスターの圧力により、二人の体力も限界へ近づいていた。長く持ちこたえるのは難しい。クリスは変異爆裂体を引きつけながら、後衛へ抜けようとする敵を短剣で仕留め、仲間を援護しなければならなかった。
一方、神崎 蓮は次々とスキルを放っていた。変異ゾンビへ接近し、習得したばかりの『無極剣技』の技を連続して繰り出す。本来は長剣向けの高等剣技だが、彼の手にあるのは短い軍用ダガーだった。そのちぐはぐな組み合わせは、奇妙で少し滑稽な構えを生み出していたが、威力は凄まじかった! 変幻自在の斬撃が風を切る魔力を放ち、モンスターたちは血肉の散らばる中へ次々と倒れていった。
しかし、神崎 蓮が一息ついて戦場を片づけようとした瞬間、巨大な黒い影が毒煙を引き裂いて飛び出した。大型ゾンビの凶暴な平手打ちが、唸る風をまとって神崎 蓮の胸へ直撃した!
ドンッ!
神崎 蓮は再び石とレンガの壁へ吹き飛ばされた。不屈の能力値と防御力はレベルアップによって大幅に上がっていたが、それでもこの凄まじい一撃でHPは急降下し、危うくその場で倒れるところだった。死の瀬戸際で、神崎 蓮は迷わずクリスへ合図を送った!
周囲の敵をようやく片づけたばかりだったにもかかわらず、クリスはすぐに合図を受け取った。歯を食いしばり、速度を爆発的に高めて咆哮を上げ、大型ゾンビへ一直線に突進した。短剣を振るって挑発し、巨体の怪物とその手下たちの注意を神崎 蓮から遠ざけた。
一瞬の遅れも許されない状況で、神崎 蓮はシステムの意識空間へ潜り込んだ。まばゆい通知画面に緊急の提案が表示された。初心者優遇の仕組みにより、神器『万極神剣』を一時的に解放して使用できるという。ただし、今朝受け取った『初心者爆発チケット』を1枚消費する必要があった。
「やるしかない! もう迷っている時間はない!」
神崎 蓮は意識の中で叫び、『狂乱』状態と『初心者爆発チケット』を同時に起動した!
ドォォォン!
傷だらけの神崎 蓮の身体から、まばゆい金色の光が爆発するようにあふれ出し、濃密な紫色の輝きと混ざり合い、廃墟街を覆う重苦しい空気を切り裂いた! 荒れ狂う魔力は凄まじく、クリスも周囲のモンスターも、驚いて目を細めずにはいられなかった。
光がゆっくりと収まると、瓦礫の中から現れた神崎 蓮の姿を見て、クリスはその場で呆然と立ち尽くした。狼族の少年は、空間全体を圧し潰すような神聖な威圧感を前に、息をすることさえ忘れていた……。




