第一章:転生? 本当にゲームの中へ転生したのか
目の前にいる青年、神崎 蓮は25歳。正真正銘のプロゲーマーだ。2150年、喧騒と混乱に満ちた社会の中で、彼は世間から非難されがちな職業――ゲームのレベル上げ代行を選んだ。
金のためなら、どんな依頼でも引き受ける。プレイしているゲームの一つが、ネット中から「ビデオゲーム界のゴミ」と酷評されていても、彼は毎日のように代行依頼をこなし、それで生計を立てていた。
そう、ここで話題にしているゲームこそ『無限職業者』。数あるPCゲームの中でも、特に騒動の絶えない作品の一つである。
このゲームは2100年、三人の天才ゲーム開発者によって制作された。彼らはその頭脳を結集し、史上屈指の高難度MMORPGを生み出した。同時に、世界中から最も批判を浴びるゲームの一つにもなった。
理由は簡単。難易度があまりにも苛烈だったからだ!
リリース当初は、プレイヤーに厳しい試練を与えるシステムが多くの人を惹きつけた。しかし時間がたつにつれ、ゲームの仕組みはプレイヤーをますます苛立たせるものになっていった。
死亡時の装備ドロップ、PK、オークション品の奪い合い、資源をめぐる争い……次々と問題が噴き出した。最初は不満を募らせるだけだったプレイヤーたちも、やがてそれらの理不尽さをゲームの個性として受け入れるようになり、史上最も過酷なオンラインゲームの一つに数えられるようになった。
古参プレイヤーは遊べば遊ぶほど強くなる一方、新規プレイヤーは何もできない。これで批判されないはずがない。
それでも三人の天才は、見事な手腕でゲームを2150年まで存続させた。そして今日は、ゲーム最後の記念日。サーバーはまもなく閉鎖される。
閉鎖の理由はいくつもあるだろうが、おそらく三人とも、もはや自分たちの壮大な構想を支え続ける力を失ってしまったのだ。
それでも今日まで続いてきたのは、『無限職業者』を愛し続ける熱心なコミュニティがあったからこそだ。
50年という歳月は決して短くない。一つのゲームがこれほど長く続いたのは、本当に努力のたまものだった。
18時47分
ゲーム内チャット:
-神崎家は譲らない:「やあ、不死身じゃない王様。ダンジョン周回でもするか?」
-不死身じゃない王様:「よっ、神崎兄貴。さすがに頑張りすぎだろ。今日はサーバー閉鎖の日だぞ? まだダンジョン周回する気なのか?」
-不動の鬼神:「二人ともどこにいる? アメジスト洞窟のダンジョンに来いよ。最後にみんなで集まろう!」
-神崎家は譲らない:「いい考えだ。最後のエピッククエストを片づけてから、オンラインで集まろうぜ」
-不死身じゃない王様:「そうだな。どうせ今日で閉鎖だ。最後に兄弟たちと集まらないとな!!」
-ちびゴブ:「ええっ、ちょっと待って!!! 星宿星君を倒すところなんだから! *泣き.gif*」
………
パソコンの画面がまばゆい光を放って明滅していた。
十メートルを超える巨大なボスが咆哮し、紫色の結晶に覆われた尾を戦場へ乱暴に振り払う。
〈ダンジョン:アメジスト洞窟〉
ボス:水晶魔竜 Lv.8245
HP:3%
画面には助けを求める声が飛び交っていた。
-不動の鬼神:「タンクが倒れた!」
-ちびゴブ:「まずい、マナが切れた!」
-不動の鬼神:「ヘイトを取れ! タゲを引きつけろ!」
-不動の鬼神:「ボスをリセットさせるな!」
-不死身じゃない王様:「やばい、ちびゴブ!」
パーティーが崩壊しかけ、水晶魔竜の尾がちびゴブを叩き潰そうとしたその瞬間、一つの影が攻撃範囲へ飛び込んだ。
神崎 蓮だ!
彼は回避するどころか、自らボスの尾の一撃を受け止めにいった。
キィン!
Perfect Guard!
神崎 蓮のHPゲージは、ほんのわずかに減っただけだった。
ボスは即座に振り向き、新たに現れた男へ敵意、すなわちヘイトを集中させた。
-神崎家は譲らない:「ヘイトを取ったぞ」
神崎 蓮は小さくつぶやいた。
指がキーボードの上を走り、残像が見えるほどの速さで操作を続ける。
三つのスキルを連続でアニメーションキャンセル。
ボスの噛みつきを、フレーム単位の精密さで身をひねってかわす。
続けざまに短距離転移し、ボスの背中を味方へ向けさせた。
すべての動きが一フレーム単位で正確だった。
ダンジョンにいた仲間たちは、ただ呆然と見つめるしかなかった。
-盾侍タンク:「またあのボス誘導かよ……」
-夜桜アーチャー:「あいつ、本当に化け物だな」
-影丸アサシン:「あいつ一人のほうが、40人レイドより安定してるぞ」
それから二分もたたないうちに、
巨大なボスが轟音とともに倒れた。
〈ダンジョンクリア〉
クリアタイム:06:31
評価:SSS
-「攻略成功おめでとうございます! 今回の挑戦は過去の最速記録を更新したため、総合報酬がさらに15%追加されます」
大量のアイテムが地面に散らばった。
神崎 蓮はすぐに、代行契約どおり戦利品を分配した。
自分の取り分として何一つ残さない。
それが彼のルールだった。
依頼主は金を払い、彼は仕事をする。
ボス、実績、クエスト……
すべて彼にとっては商品なのだ。
「……」
振り込まれた報酬を見て、神崎 蓮は小さく笑った。
「クソゲーでも、金は金だ」
………
こうして、彼らの最後の日は深夜まで続いた。
23時35分10秒。サーバー閉鎖まで、あと24分50秒。
-ちびゴブ:「みんな、さようなら! 別のゲームでまた会えますように。今まで面倒を見てくれてありがとう!」
*ちびゴブがログアウトしました*
-不動の鬼神:「神崎兄貴、またな。一緒に遊んでくれてありがとう。新しいゲームでも会えるといいな」
*不動の鬼神がログアウトしました*
-不死身じゃない王様:「神崎兄貴、長い付き合いになったな。知り合ってもう9年だっけ?」
-神崎家は譲らない:「これ以上長かったらどうするんだよ? 時間が過ぎるのは本当に早いな。もうゲームの閉鎖か」
-不死身じゃない王様:「あの代行の戦神様まで、このゲームに未練があるのか? まあ、あんたほどの代行職人を引き留められるゲームなんて、これくらいだったんだろうな」
-不死身じゃない王様:「そういえば、長い付き合いなのに、結局リアルでは会えなかったな。そっちはどうだ? 元気にしてるか?」
-神崎家は譲らない:「悪くないさ。ここ数日は新作ゲームに乗り込む準備で忙しい。飢え死にするほど困っちゃいないよ」
-不死身じゃない王様:「そっか、ならよかった。俺もそろそろ寝るよ、神崎兄貴。*あくび.gif*」
*不死身じゃない王様がログアウトしました*
いつもと同じように、すべてが静かになった。何か特別なことが起きたわけではない。
「どうして……どうしてなんだ? もう少しだけ、ここにいられないのか?」
神崎 蓮は両手を握りしめ、机を強く叩いた。顔に浮かぶ困惑と胸に押し込めた感情を、すべて吐き出そうとするかのようだった。
「どうして……最後の瞬間まで、みんな一緒にいられないんだ?」
……
……
青年の目に、どうしようもない無力感が浮かんだ。かつて一世を風靡したゲームは、まもなく幕を下ろす。熱心なファンたちは最後の栄光を見届けようとしていたが、誰もが夜更けまで起きて、この青年と一緒にサーバー閉鎖の瞬間を待てるわけではなかった。
時が過ぎ、23時43分になったころ、薄暗いモニターにメールの通知が表示された。神崎 蓮はためらうことなく開いた。
「プレイヤーID『神崎家は譲らない』様。『無限職業者』と最後の瞬間まで歩んでくださり、ありがとうございます。サービス終了を迎えることを、運営一同、心より残念に思っております。あなたは私たちと11年4か月12日を共に過ごしてくださいました。決して短くない時間です……」
いつものサービス終了、いわゆるEoSのお知らせだった。彼はこうしたメールには慣れきっていた。だが、その直後、運営からもう一通のメールが届いた。
――「あなたは本当に、この旅を続けたいですか?」
YES / NO
彼はほとんど考えもしなかった。
クリック。
…
画面が突然、真っ暗になった。
停電ではない。
何かが部屋の光をすべて飲み込んだかのようだった。
パソコンが勝手に再起動を始め、画面が明滅する。
周囲の光が一瞬にして消え、何もかもが闇に沈んだ。
突然、彼の借りていた部屋に、どこからともなく扉が現れた。驚く間もなく、神崎 蓮はその中へ引き込まれ、自由落下を始めた。
本当に、落ちている。
「あああああああっ……死ぬ、死ぬ! もうだめだ……!」
奇妙な空間を落下しながら、神崎 蓮は心の中で絶叫した。恋人もできたことのない25歳の青年が、こんな情けない形で早死にするというのか。慌てるなというほうが無理だ。神崎 蓮は空中でもがき続け、やがて体力が尽き、深い眠りへと沈んでいった。
-「宿主が初めて『無限職業者』にログインしました。おめでとうございます」
機械的な声が響いた。
……
……
……
……
どれほど気を失っていたのか分からない。神崎 蓮の意識は少しずつ戻ってきたが、体は動かず、目を開けることさえできなかった。
周囲には血と腐敗の強烈な臭いが漂っていた。ここでは、凄惨な戦いがあったらしい。
あたりには魔物の死骸がいくつも転がっていた。どれほど激しい戦闘だったかは、見るまでもなかった。
-「宿主の初期データを確認中……」
天地に響き渡るような声がした。だが、周囲の生き物には誰一人として聞こえていないようだった。無数の死骸の中で、一体の「死体」の指がわずかに動いた。
-「マップの特定に成功」
声が再び響く。しかし、その人影はまだ意識が朦朧としており、起き上がれない。
-「設定のダウンロードに成功」
やがて人影は目を覚まし、痛みに顔をしかめながら頭を押さえた。しばらくしても頭痛は消えなかった。落下したときに硬い地面へ頭をぶつけたのだろう。
周囲を見渡すと、そこには死体が散乱し、耐え難い腐臭が立ちこめていた。いくつもの死骸から、黒く粘ついた液体が滴り落ちている。ひどく不気味な光景だった。
-「宿主のシステム連携が完了し、『無限職業者』への初回ログインに成功しました。クローズドβ開始までのカウントダウンは351日です」
感情のない機械音が再び響いた。それでも神崎 蓮には、この声がひどく聞き覚えのあるものに感じられた。
「お、俺……本当に異世界転生したのか!?!?」




