第十三章:対決(4)
『狂乱』状態の残り時間はまだ4時間以上あり、神崎 蓮はいつでも自分の意思で解除できた。しかし、彼の直感は、目の前にある賑やかなショッピングモールの内部に、さらに恐ろしい危険が潜んでいると告げていた。ひなの安全を確保するため、彼はすぐにシステムショップを開き、強化型の『ペット用リード』を購入すると、近くの物陰に彼女をつないだ。
ひなは必死に引っ張って抵抗したが、まったく歯が立たなかった。そのリードは特殊な魔法合金で作られているかのようで、見た目はただの縄なのに、牙をむいて噛みちぎろうとしても傷一つ付かなかった。狼娘は主人を振り返り、一緒に戦いたいという強い思いを目に浮かべていた。だが、神崎 蓮の冷たいほど揺るぎない眼差しに触れると、二人の力の差を前に深い無力感を覚えた。今の実力で無理についていけば、彼の足手まといになるだけだと分かっていた。
「……必ず戻ってきてよ!」ひなは誇らしげな態度を引っ込め、小さく唸ると、おとなしく地面に伏せて待つことにした。
神崎 蓮が背を向けて歩き出した直後、霧の中から小山のように巨大な影が現れ、ショッピングモールの入口をふさいだ。それこそ、この区域のボスだった。神崎 蓮が素早くスキル『鑑定』を発動すると、青い文字列が次々と浮かび上がった。彼は目を細め、前世で初心者を幾度となく葬ってきた悪名高い敵の一体だと見抜いた。『大型ゾンビ(レベル19)』だ。
移動速度こそ遅いものの、筋力、HP、防御力は常識外れの高さを誇る。さらに凶悪なのは、アクティブスキル『大地震動』と『激怒』の二つだ。前世では、油断したプレイヤーが何人もこいつにつかまれ、瞬く間に肉片へと叩き潰されていた。
「はあ、また厄介な岩が道をふさいでいるな!」神崎 蓮は感心したようにつぶやき、地形と移動角度を計算するために頭をフル回転させた。
しかし、戦術を組み立て終える前に、怪物が風を切る勢いで腕を振り下ろし、彼の立っていた場所を叩き潰した。
ドォン!
煉瓦や石片が四方へ飛び散った。神崎 蓮は圧倒的な速度を生かして後方へ跳び、直撃をかろうじて避けたものの、叩きつけた衝撃だけで吐血し、HPが一気に半分まで減った。彼は一瞬もためらわず、吹き飛ばされた勢いを利用して近くのモンスターの死体に軽く触れ、『捕食』のパッシブ効果を発動させた。
彼の姿がぼやけて消え、HPがすぐに安全圏まで回復した。再び姿を現したときには、向かいの建物の二階のひさしにしっかりと立っていた。ダガーをしまい、代わりに『Hardened Brassnium Longbow』を取り出す。弦を引き絞り、矢を次々と大型ゾンビの盛り上がった肉体へ撃ち込むと、黒い血が飛び散り、敵のHPバーが少しずつ減り始めた。
グオオオッ!
遠距離攻撃に激怒した大型ゾンビは、身体を沈めて跳び上がり、ひさしの上へ飛び乗った。神崎 蓮は冷静に『消失』を発動し、姿を消したままさらに高い場所へ駆け上がり、移動しながら雨のように矢を放ち続けた。矢一本ごとのダメージは、敵の膨大なHPに比べれば大きくなかったが、絶え間ない痛みがボスの怒りに火をつけた。
HPが40%まで減ると、怪物の皮膚はどす黒い赤へと変わった。『激怒』状態に入ったのだ。弓矢による遠距離攻撃は完全に無効化された。怪物は空間を揺るがす咆哮を上げ、必殺技『大地雷頂』を発動して、神崎 蓮へ猛烈な勢いで突進した。
神崎 蓮も愚かではない。長弓と軍用ダガーを即座にしまった。アイテム欄を滑らかに操作すると、鮮やかな緑色の魔法の光が閃き、左手には鋭い刃を持つ『毒牙狼刀』が現れた。退くことなく、狂暴化したボスへ真正面から突っ込んでいった。
ボスの狂暴状態での速度は、すでに神崎 蓮に追いつくほどだった。それでも一流の戦闘経験を持つ彼は、接近する一瞬一瞬を最大限に利用して刃を振るい、直後に『消失』を使って反撃をかわした。斬撃一つひとつのダメージはわずかだったが、『毒牙狼刀』の毒効果が凶悪に働き始めた。毒々しい緑色がボスの全身へ広がり、移動速度を徐々に低下させる一方、HPバーは時間とともに急落していった。
15分以上にわたる息詰まる追いかけ合いと消耗戦の末、巨大な怪物は轟音とともに地面へ倒れ込んだ。同時に、システムの通知音が神崎 蓮の頭の中で立て続けに鳴り響いた。
「ピコン! 宿主とペットのひなは、レベル8の『ゾンビゴブリン』425体とレベル19の『大型ゾンビ』1体を討伐しました!」
「ピコン! 宿主は28,250 EXPを獲得し、レベル12に上がりました!」
「レベルアップ報酬:自由ステータスポイント40、魔法ダメージ+4、物理ダメージ+2、クリティカル率+5%、クリティカルダメージ+3%、自動HP回復+6」
「ピコン! 大型ゾンビを初めて討伐したため、レア装備『地震のハンマー』を獲得しました!」
レベルアップの通知を見た神崎 蓮は、すぐに自ら『狂暴』状態を解除した。足が地面に着いた途端、副作用による凄まじい疲労と身体の重さが全身を襲った。前世ではコンピューター画面越しにキャラクターを操作していただけで、こんな感覚を味わったことはなかった。今、自分の身体で経験して初めて、一流プレイヤーたちが爆発的なスキルの使用に慎重だった理由が分かった。能力値を強化した身体でなければ、その場で吐血していたかもしれない。
極度の疲労に抗いきれず、神崎 蓮の視界は暗くなり、そのまま意識を失った。
夢の中で、神崎 蓮は奇妙な光景を見た。見知らぬ女性の後ろ姿がぼんやりと浮かんでいた。だが、この身体の奥底から、胸が締めつけられるほど懐かしい感覚が湧き上がり、彼をその姿へ駆り立てた。耳元では曖昧なささやき声が響き、聞こえたり聞こえなかったりして、言葉をはっきり聞き取ることはできない。それでも、その声は心に不思議な温もりをもたらした。ところが次の瞬間、景色は突然砕け散り、神崎 蓮は底の見えない深淵へ落ちていく感覚に襲われた。彼はびくりと身体を跳ねさせ、夢から目を覚ました。
「妙だな……あの女性は誰だ? どうしてあんなにも安心できる感じがしたんだ? あの会話はいったい……?」
数え切れない疑問が神崎 蓮の頭の中を駆け巡った。夢の中で深淵へ落ちていく感覚は、魂がこの世界へ転生してきた瞬間にそっくりだった。自分がこの身体に入り込んだのは、偶然ではないのかもしれない。彼はぼんやりとそう感じ始めていた。
神崎 蓮が目を覚まして呆然と座っているのを見て、近くにいたひなは心配そうな眼差しを向けた。彼は軽く手を振って、問題ないと伝えた。答えの出ない疑問はいったん脇へ置き、ひなのもとへ歩み寄って鎖を外し、解放した。
自由になったひなは、まったく違う眼差しで神崎 蓮を見つめた。この主人は決して弱くも、策略だけに頼る人間でもないと分かったのだ。先ほどの狂暴状態で本気を出して自分と戦っていたら、能力値に差があったとしても、ひなは間違いなく苦い敗北を味わっていただろう。
気持ちを立て直すと、二人はショッピングモールの中へ入った。内部は非常に広いものの、薄暗い闇に沈んでいた。神崎 蓮は各売り場を回り、衣服や生活必需品を片っ端から回収し始めた。この世界の時間の流れを考えれば、どれもまだ長い保存期間が残っている。彼はためらわず、すべてをアイテム欄へ収納した。ただし、生鮮食品売り場だけは素通りした。終末世界で生鮮食品が普通に残っている方が、むしろ不自然だからだ。
神崎 蓮は防犯システムや監視カメラを気にすることなく、悠々と資源を回収していった。ひなは静かに後ろをついて歩いた。その堂々たる姿は、主人を護衛する巨大な魔獣フェンリルそのものだった。
二人が管理区域の奥へ進んだとき、神崎 蓮は壁に隠された小さな出っ張りに偶然触れた。ガコン、ガコン……。大きな壁の一部がゆっくりと横へ滑り、隠し通路が姿を現した。純粋な機械仕掛けだと分かり、神崎 蓮は少し驚いた。近代的な建物の中に、なぜこんな古典的な仕組みの秘密通路があるのだろうか。ひなに外で見張るよう合図し、彼は自ら松明を持って中へ入った。
暗い空間へ進み、『マインドマップ』を起動した。頭の中に三次元構造が浮かび、前方に長い廊下が伸びていることが分かった。静寂の中に足音を響かせながら進むと、やがて道が広大な空間へと開けた。神崎 蓮が松明を高く掲げて見回すと、そこは巨大な地下倉庫だった。
各部屋の周囲には光のルーン陣が刻まれていたが、今はエネルギーが完全に枯渇していた。そのとき、黄色と白が混じった魔法のガイド表示が現れ、操作を促した。神崎 蓮は試しに、ルーンへ少量のManaを流し込んだ。すると魔法システム全体が一斉に輝き、地下空間を明るく照らし出した。
目の前に広がった光景に、神崎 蓮は驚きを隠せなかった。地下深くに、豪華絢爛な巨大地下施設が隠されていたのだ。上流階級の人間たちが、贅沢で退廃的な娯楽に興じるための裏舞台に違いない。
この区域はいくつもの区画に分かれていた。秘密オークション会場、ダンスホール、宝物庫などが並んでいる。神崎 蓮は各部屋を回り、価値のある品をすべて確認して、素早くアイテム欄へ回収した。彼のアイテム欄はシステムの支援によって容量無制限であり、一般プレイヤーのような制限はなかった。
「システム通知:『自動回収』機能を解放しました!」
「説明:広範囲に資源が集中する区域で起動すると、システムがすべてのアイテムを中間報酬バッグへ自動的に回収します。宿主はその内容を確認し、すぐに受け取ることができます」
この新機能のおかげで、神崎 蓮は膨大な時間を節約できるようになった。部屋の隅々を探し回る必要はもうない。意識するだけで、地下施設内の資源がすべてアイテム欄へ回収された。
回収を終えた神崎 蓮の鋭い視線は、倉庫の奥にある頑丈な鉄扉で止まった。扉を押し開けて中へ入ると、強烈なカビ臭さが鼻を突いた。床には乾ききった人骨がいくつか転がり、何台もの大きな鉄檻には、弱々しく唸る『銀白妖狼』が閉じ込められていた。周囲には『モンスターコア』も大量に散乱していた。
神崎 蓮が骨の近くへ進むと、壁のくぼみのそばに置かれた暗赤色の布袋が目に留まった。彼はかがんで拾い上げ、中身を確かめた。
獲得アイテム:
- 『奴隷の鍵』×10
- 『奴隷の首輪』×2
- 『奴隷証明書』×8
- 『奴隷制御石』×1
- 機械式の鍵束×1
表示されたアイテム一覧を見た瞬間、神崎 蓮の胸に奇妙で重苦しい感情が湧き上がった。前世でゲームをしていた頃、この世界にはNPCの通常機能として奴隷制度が存在すると知っていたが、特に気に留めたことはなかった。ところが今、実際にこれらの品を手にしてみると、強い不安が心を覆い、落ち着かなくなった。
神崎 蓮は気持ちを集中させ、それぞれのアイテムの詳細情報を読み始めた……。




