第十章:対決(1)
長い夜が明け、ようやく朝日が差し始めた。新しい一日は、宿営地を静かに離れていく孤独な青年の姿とともに始まった。人影のない広い道を、彼は一定の歩調で進んでいく。上空から見下ろせば、その姿は廃墟と化した都市の中であまりにも小さく、胸が締めつけられるような寂しさを漂わせていた。
静寂に包まれた空間で、機械的で澄んだ音声が突然頭の中に響き、聞く者の心臓を驚かせた。
「宿主、四日目のログインおめでとうございます! 本日のログイン報酬はスキル『マインドマップ』です。新しいスキルの解放、おめでとうございます!」
*スキル説明:
「マインドマップ」:システムの基本機能「マップ」を全面的に強化したもの。ウェイポイントの設定機能を解放し、特殊な波動を放って周囲の空間を走査することで、地形データを地図とプレイヤーの脳内へ、直感的な三次元モデルとして取り込む。さらに補助機能「生物検索」により、一定範囲内にいるプレイヤー、NPC、モンスター、ボスの位置を特定できる。対象が隠密状態にあっても見つけ出せる。
『無限職業者』の世界へ転生して三日が経ち、神崎 蓮はシステムの報酬にいちいち戸惑ったり驚いたりしなくなっていた。新しいスキルの説明に目を通すと、気のない様子で口元を少し動かしただけだった。以前は名の知れたレベル上げ代行屋だった彼は、隠れて奇襲を仕掛けようとする卑怯な連中の手口を熟知している。それでも、情報は生死を分ける要素だ。自分も人間である以上、いつか必ず判断を誤る。目先の強さを過信して、これほど強力な索敵スキルを軽視するわけにはいかなかった。
考え事をしながら歩いていると、マップ画面の前方に危険を示す赤い点がいくつか点滅した。熟練者としての反射で、神崎 蓮はためらわず跳び上がり、道端の古木の枝へ飛び乗った。
下を覗き込むと、レベル14の「狂羊」の群れが鼻を地面に近づけ、周囲の匂いを嗅ぎ回っていた。今の神崎 蓮なら群れを倒すことも十分可能だが、ゲーム序盤は避けられる戦闘を避け、万全の状態を保つに越したことはない。
初心者向けの地域では、凶暴なモンスターのほかに、「狂羊」も特に厄介な変異生物の一種だった。雷属性の攻撃で相手を麻痺させるうえ、群れで組織的かつ戦術的に動くため、偶然遭遇した者にとっては悪夢そのものだ。後半になって熟練プレイヤーがうっかり巣へ入り込んだとしても、依然として大きな脅威になる。
木の枝の上でしばらく待ち、下の群れが自分に近づけないと確認すると、神崎 蓮は周囲を観察することにした。隣の建物の窓が半開きになっているのを見つけると、身を滑り込ませて窓を押し開き、巧みに中へ入った。
そこは古びた浴室だった。床には個人用品がいくつか散らばっていたが、すべてに厚い埃が積もっており、長い間、人が住んでいないことが分かる。神崎 蓮はそっとドアを押し開け、居間へ出た。すると、部屋の隅にある寝室から、不自然な物音がかすかに聞こえてきた。
油断せず、彼はすぐに「マインドマップ」を発動した。目に見えない波動が家全体を走査し、空間の構造と目標の位置が頭の中に鮮明に再現される。敵の位置を捉えた神崎 蓮は、一秒も迷わず腰の「軍用ダガー」を抜き、力いっぱい寝室へ投げ込んだ。
ズブッ!
乾いた音が響き、そのあと空間は静まり返った。神崎 蓮は慎重に一歩ずつ寝室へ入った。
レンガ壁には軍用ナイフが深々と突き刺さり、一本の「変異ネズミ」を胴体ごと木材へ縫い留めていた。HPは14を下回るほど激減していたが、まだ弱々しくもがいている。神崎 蓮が近づくと、ネズミはさらに激しく暴れた。苦しみを終わらせるため、彼は手短にとどめの一撃を加え、怪物をその場で息の根を止めた。
「ピコン! レベル14の『変異ネズミ』を討伐しました。EXP150を獲得しました!」
壁からナイフを抜き、血を拭き取ってから、神崎 蓮はようやく周囲を見回した。どうやらここは女子学生の部屋だったらしい。淡いピンク色の壁紙や、ベッドの上に散らばるぬいぐるみが、災厄の前には穏やかで幸せな暮らしがあったことを物語っていた。
神崎 蓮は資源を探して部屋を一周した。盗みを働いているような後ろめたさは少しあったが、終末世界でそんなことを気にする者がいるはずもない。引き出しを調べていると、小さな革表紙の日記帳が見つかった。彼はためらわずページをめくり、この世界についての情報を得ようと読み始めた。
「XXXX年5月3日:
私たちは一緒に出かける約束をした! 彼は楽しみで仕方ないみたいで、ずいぶん早くから準備していた。今回のお出かけが、二人にとってどんな素敵な思い出になるのか、今から本当に楽しみ!」
「XXXX年5月10日:
今日は二人で映画村の公園へ遊びに行った。すごく楽しい時間を過ごせた。彼ったら、恥ずかしそうに自分から私の手を握ってきたの! かわいすぎる!!!」
……
日記のページが指の間を静かにめくられていく。少女の人生は、家族の応援と互いに深く愛し合う恋人に恵まれた、甘い夢のようなものだった。八年間付き合った二人は、ついに結婚式を迎える準備まで進めていた。だが、誰も予想しなかった終末の災厄が突然降りかかり、すべての夢を打ち砕いてしまった。
読み終えた神崎 蓮は小さくため息をついたが、過去に感傷を引きずることはなかった。ベッドにあったクッションや柔らかな毛布を手早く回収し、キャンプ用品としてインベントリにしまう。それから窓の外を覗くと、狂羊の群れはいつの間にか立ち去っていた。神崎 蓮は壁の縁を慎重に伝い、安全に地面へ降りた。
「ピコン! 連続クエスト『記憶の回復』に属する特殊アイテム『記憶の欠片』×1を解放しました。全内容を解放するには、残り9998個の欠片が必要です。引き続き努力してください!」
「一万個近くもあるのか!? 冗談だろ!」神崎 蓮は呆れを隠そうともしなかった。世界中に散らばった記憶の欠片を一万個も、手がかりなしで集めろというのか。レンガみたいな古いノキア携帯を手に、マリオの隠しエンディングを探せと言われるようなものだ。
地面に降り立つと、神崎 蓮はすぐにマップ画面を呼び出し、解放された位置指定機能を設定した。これまで通った重要な座標を登録し直す。すると、はるか高い空から淡い青色の光柱が降りてきた。見えるのは彼一人だけらしい。近づいてみると、光柱は薄れていき、マーカーからの距離が3メートル未満になると完全に消えた。
新機能を試しながら少し進んだところで、神崎 蓮は放浪していた「銀狼」と不意に遭遇した。人影を見つけるや、銀狼は唸り声を上げ、牙をむき出して飛びかかり、噛み砕こうとしてきた。心臓が跳ね上がるほど驚いた神崎 蓮は、反射的に目をぎゅっと閉じ、前方へ拳を繰り出した。
バンッ!
恐る恐る目を開けると、銀狼はすでに地面に倒れ、白目をむいて口から泡を吹いていた。神崎 蓮は荒い息をつきながら拳をさすった。この種族について、彼はよく知っている。銀狼はゲーム内でも特に忠誠心の高いペットの一種だ。一度でもテイムに成功すれば、プレイヤーを唯一の主人と認め、主人が故意に信頼を裏切るような行為をしない限り、決して裏切らない。
後半における銀狼の戦闘力は神獣や高位魔獣には及ばないものの、大小さまざまなギルドが好んで飼育する存在だった。育てやすく、能力値を柔軟に再構築でき、成長の幅も安定しているからだ。ペット機能が初めて実装されて以来、この種族は何百万ものプレイヤーと肩を並べて戦ってきた。
転生前の神崎 蓮も、銀狼を千匹以上育てた経験がある。適切に訓練すればどれほどの潜在能力を発揮するか、彼は深く理解していた。だからこそ、先ほどは力を抑えて素手で殴ることを選んだのだ。そうでなければ、今ごろは冷たくなった狼の死体が一つ転がっていただろう。
***
夜が訪れ、赤々と燃える焚き火が廃墟の冷気と闇を追い払っていた。
銀狼は衝撃からゆっくりと目を覚ました。身体の傷には丁寧に薬が塗られ、包帯が巻かれている。荒々しい瞳に大きな疑問が浮かんだ。周囲を戸惑いながら見回していると、向かい側から低い声が聞こえた。
「目が覚めたか?」
その声には殺気がなく、むしろ哀れむようなため息が混じっていた。銀狼は耳をぴくりと動かし、目の前の人間が話す言葉を一つひとつ理解できることに驚いた。
状況を整理する間もなく、焼き色のついた大きな肉串が神崎 蓮から軽く投げ渡され、目の前の清潔な木板に置かれた。神崎 蓮の穏やかで善意に満ちた眼差しを見て、銀狼は最初こそ警戒した。しかし、空腹と肉の香りに抗うことはできず、勢いよく串焼きにかぶりついた。
貪るように食べる怪物を見て、神崎 蓮は内心で感慨を覚えた。ここまで来るため、彼はシステムショップで魔石2000個を支払い、パッシブスキル「言語習熟」を習得したのだ。このスキルのおかげで、他種族や異なる地域の人間、特に知性を持つ変異生物との言語の壁を越えて会話できるようになった。魔石2000個という出費は痛く、残高はわずか1650個まで減ってしまった。それでも、この先の生存生活で何倍もの利益をもたらすという強い予感があった。
塩でしっかり味付けされた香ばしい肉を平らげると、銀狼は最初の警戒を解き、神崎 蓮と話し始めた。空から落ちてきたような痛烈な拳を持つ人間には、まだ少し反感があった。それでも、彼に悪意がないことは認めざるを得ない。むしろ傷の手当てまでしてくれたのだ。あの傷を過酷な荒野で放置されていたら、生死の境をさまようことになっただろう。軽く済んでも戦闘力が永久に落ち、重ければ狩りができず、衰弱と飢えで命を落としていたはずだ。
生物同士の言葉でしばらく話すうち、神崎 蓮は銀狼の本性が残忍でも邪悪でもないことに気づいた。昼間、彼の身体から生肉の匂いがしたうえ、何日も続いた空腹が重なり、一時的に理性を失って、生存本能のまま人間へ襲いかかったのだ。
神崎 蓮の筋の通った説明と誠実な誘いを聞き、銀狼の瞳が何度も揺れた。闇を払う焚き火の前で、この変異した獣は人生を大きく変える決断をしようとしていた。今この瞬間から、その運命は永遠に変わるのかもしれない……。




