ソーリューと三人の少年
過去にあったソーリューと耕平、ミド、霞の出会い、ソーリューの秘密が少しだけ明かされる話です。
耕平、霞、ミドの三人は現在小学5年生。今は夏休みの真っ只中。毎日のように、有田川や裏山で遊ぶのが日課だ。これは今より15年前の出来事。
今夜は三人でお泊まり会。あらぎ島の対岸の集落の中にある耕平の家だ。今夜は月もなく、星がよく見える。三人はベランダで、空を見上げていた。宇宙にいると錯覚するぐらい、吸い込まれそうな星空だった。
ふいに霞が昼に聞いた事を、身振り手振りで自慢気に話しだす。
「昔の有田川町には、“ソーリュー”って恐竜がおったんやと」
「恐竜って、映画とかで見るやつやな!人間襲うヤツ」
耕平の言葉に、ミドは意見する
「ハハハ!恐竜と人間ってな、おんなじ時代には生きてないんやぞ・・・」
耕平と霞は、首を縦に振りながらミドの話に聞き入る。ミドは、この二人にとっては身近な知識人。「文字ばかりの本を読める偉い人」と一目を置いている。
「俺のイトコの兄ちゃん、中2なんやけどな・・・理科の授業中に、先生が何回も言うんやって!この辺は海の底で、その“ソーリュー”って海の恐竜がいっぱいおったって」
「でも有田川町って川しか無いやん」
霞の言葉に、ミドは人差し指を立てた
「だから・・・あらぎ島も山もここら辺全部が、海の底やったらしいんよ」
「そんなんありえへんやろ!?どんなホラ吹きの先生やねん?ハハハ」
耕平が大声で笑った。ミドは構わず話を続けた。
「その先生が言うにはな、今と違って海の面積はもっと広かったんやと。そして此処は、ソーリューの住みやすい楽園やったって話や」
「楽園て、楽な場所ってことか?」
霞の質問に
「ハハハ!霞らしい捉え方やん・・・」
二人は笑った。
「ほんだらな、ソーリューって恐竜はどんなカタチや?」
今度は、耕平が疑問を投げかける。
「どんな恐竜やろうな?海で居るんやったら、魚みたいなカタチやろうか?」
「そやろな!さらに恐竜やさかい、サメなんかより強いんやろなぁ?」
目をキラキラさせ話す霞。勉強こそ好きではないが、興味のある事は別だ。
「恐竜やぞ!口から火ぃ吹いて、サメなんかイチコロや!」
両腕を組んで、仁王立ちで耕平は言った。
「水ん中でどうやって火ぃ吹くねん。そやし火ぃ吹くんは、テレビの怪獣だけやん・・・」
ミドのツッコミに、三人はゲラゲラ笑いあった。続けて耕平が
「なあ、ミド!そんな変わった事いうセンセって、どんな人や?」
「そうそう!真っ白な髪の毛で、メガネかけとって・・・、白衣着てあらぎ島の展望台のあたり、時々歩いてるやん」
「あー!わかったぁ、男のセンセやな、俺らも中学行ったら、そんなホラ吹きセンセの授業受けるんやな」
耕平の声が夜空に響いた。
「あっ・・・あらぎ島の上の空!今、光ったぞ」
急にミドの声が、真剣なトーンに変わった。
「ほんまや光った、青い光や」
耕平の声を聞き、霞が首を左右に振りながら
「え?!どこなん?」
指を差すミド、なんとなく青く光るあらぎ島の上空だ。目をこらすと弱い光が、ドーム状にあらぎ島の地面を覆っている。耕平が小声で
「ミド、霞、今からあそこに見んに行くで・・・」
人差し指を口の前に立て、二人に向かって囁いた。二人はうなずき、鉄の外階段をそぉ〜っと降りた。地面での足音にも気をつかい自転車に向かう。ゆっくり押して家から離れる。国道方面に向かうのだ。自転車の音が、もう親たちには聞こえないだろう・・・というところで、三人は自転車にまたがる。
「ひゃほー」
耕平は調子よくペダルを漕ぎ出す、続くミドと霞。国道480号に出ると、車が来ないのを見はからって右折、まだまだ新しい蘭橋を渡る。左折すると、あらぎ島につながる道だ。三人はその道の脇に自転車を置いて、坂道を小走りで降りた。防獣ネットを開けて中へ入る、と同時に空を見上げた。確かになんとなく青い、近くで見るとキラキラ光る粒子が、よりよく見える。
「めっちゃ綺麗やな・・・。イタっ!このキラキラ、触れたら痛いぞ!」
耕平が慌てて手をたたむ、少し血が滲んでいる。ミドは真剣に
「霞、耕平も油断するな、こんな事って普通やないで!」
確かにそうだ、普段ならありえない光景だ。このドーム状の空間の中心には、キラキラの粒子を噴水のように吹き上げる場所があった。ゆるい風が出るように地面からキラキラを吹き出し、半球を作るように広がっている。
「ミド、これってなんやろ?」
霞と耕平が問題の吹き出す地面を指差す。
「近づかん方がええぞ」
ミドの言葉に、あとずさりする二人。好奇心でやってきた三人だが、何が起こっているのか理解できない。ただただ立ちつくす三人の前に、ふわりふわりと拳大の三つの光が近づく。緑の光はミドへと向かい、赤い光は耕平へ、白い光は霞へ。三つの光は子供達と重なり消えた。
「何やったんや、あの大っきな蛍みたいなモン?」
焦るミド。
…三人の子らよ、この声は聞こえるか?…
三人の頭に直接聞こえる低いトーンの声。
「誰か喋ったん?耕平か?ミドか?」
霞の裏返った声に、二人は首を横に振る。
「オレとちゃう」
「僕もや・・・」
…お前たちのことは、たった今知りえた。白石霞、赤井耕平、緑山ミドだな…
「何でオレらの名前を知ってる?」
耕平はどこから聞こえるか解らない声に向かい、上に向かって言葉を放つ。
…さっきの三つの光は、お前たち三人の魂と同化した、お前たちが生まれてから体験してきた事全てが、私にはわかった…
ミドは言葉を選びながら、たどたどしく質問する
「では、さっき光ってボクたちを知るためのモノですか?それと、このドームのような空間は?貴方は一体誰ですか?」
少し間をおいて、声の主は答えた
…「ソーリュー」と人間たちには呼ばれておる。これからお前たちには、私の頼みを聞いてほしいのだ。この空間は、過去にこの地に封印された“悪い魂“が漏れ出したのだ。さっきお前たちと混じった光の力を使えば、もう一度封印できるのだ…
「なぜ、貴方が直接来ないのですか?」
ミドは言葉を返した。
…私は地上に、ここ“あらぎ島”に出向く事ができない体なのだ。封印が外れ、多くの命が危険に晒されないようにして欲しいのだ…
ソーリュー?あらぎ島?言葉のパズルがミドの頭で組み上がった。
「耕平、霞!ソーリューってさっきの話の恐竜のソーリューや」
「それより何で恐竜が、今の時代におるんや」
耕平の言葉に反応したソーリューは
…確かに今、私はソーリューの姿をしている。大昔この星を作り、ここに住む命達を紡ぎ進化させた、君たちの言葉で言うならば “創造主”である…
急に三人はふわりと地面から浮いたような感覚になった。そして三人の頭の中には、映像見たかのように宇宙空間が映し出される。そこに青い星がゆっくり現れた。その星に向かって三人は降りてゆく。やがて海が映し出された。それは空から光があたり水面を照らすイメージだ。今度は水中に入った。早送りのように単細胞生物が、多細胞生物になり、三葉虫、アノマロカリス、ピカイアが見えた。やがて顎のない魚の姿、そして魚類なのか、爬虫類なのか大きな体の生き物が何頭も映る。その中の一頭は背中には背びれがピンと立ち、体の濃い青と白の模様が目を引く。上空からの太陽の光の中を浴び、円を描くように海底を泳ぐ。中には小さな魚たちをついばむ姿も見えた。
今度は地上に映像が切り替わった。巨大な恐竜は寒さと飢えで倒れ生き絶え、その間をネズミのような生き物が走る。今度は猿のような生き物が見え、理科の教科書の絵のように、進化して人間の姿になっていく様が見えた。やがて衣類を身につけ始めた人類は隣人と揉め、今度は村同士で争う。やがて遠くの国と争い始め、他の人間を傷つけ、町や山を燃やしている。ソーリューはポツリと言葉を放った。
…食物連鎖以外で同種同士が争う姿だ…
次に見えたのは、宇宙に浮かぶ青い星、さっき見たであろう地球が見えた。ところどころで、小さな影ができては消える。今度は右に、左に黒い影ができた。そして消えずに残ってゆく。その数は多くなり、やがて地球全てを真っ黒に包み込む。
イメージはここで終わった。重力を感じ地面に立つ三人。小学生には理解しえない内容だったが、ソーリューは続きを話し出す。
…この地球は長年にわたり、人間に傷つけられてきた。あの見えていた影と、目の前にある空間は同じもの“地球自身のストレス”なのだ。だが、罪もない人までも巻き込み襲うのは決して良いことではない…
ミドが質問した。
「地球もストレスを感じるって?意思をもった生物のようにですか?」
ソーリューは答える。
…その解釈で概ね合っている。地球は言葉を話せない、その意思を誰かに伝えることはできないのだ…
「嫌なことがあると、小さな子供が泣くのと同じか・・・」
…ミドくんは理解が早いな、そのとおりだ。今から30年以上前に、私に協力してくれた六人が居た。その中の一人がミドくんのおじいさんだ。物事の捉え方や出で立ち、そして“魂の色”がそっくりだ…
ミドにとっては実際会ったこともないお爺さんだ。でも優しそうに笑う仏間の写真を思い出す。
「僕のお爺ちゃんが?」
…当時、その六人は私の声を聞き、高度な知識を理解し、実際に様々な装置を作ってくれたのだ。封印するための機器や、次の世代の君たちを守るためのアイテムを開発してくれた…
「お爺ちゃんが技術者だったのは聞いていました。まさかお爺ちゃんが、この事に関わってたなんて・・・」
ソーリューは優しい声で
…真面目で、仲間へ気遣うことを怠らない立派な人物だったよ…
「ソーリュー!封印するのは、どないしたらええんですか?」
ミドが一歩前に出て声を張った。後ろで親指を立て、笑ってうなずく二人。ソーリューの想いは三人に伝わったようだ。
…ミドくん、君の力は木や緑の特性、葉などから植物の生命エネルギーを分けてもらえる。耕平くんは、大地の特性、大地からの力を使える。霞くんは、霧や霞の特性。風や大気の力を使えるのだ。三人で封印場所を囲んで、さっきの光・・・“光の核”で中和するという手順だ。三人で協力すればできるはずだ…
「よし、みんなで囲むぞ!」
ミドの掛け声で、三人は闇とキラキラを吹き出す場所を囲った。
「この後は?」
ミドがソーリューに聞く
…三人とも横に手をひろげ、集中するのだ…
三人は目を瞑り、集中した。霞と耕平は薄目を開け、周囲の様子をそっと見た。まるでオーラが出ているかのようにミドはグリーン、耕平は赤、霞は白の光に包まれている。
…ミドくん、もっともっと周囲の稲や木々から力を分けて貰うのだ…
ザワザワと草や木が揺れた。そしてミドの周りに、植物から放たれていく蛍のような緑の光が集まってきた。耕平の赤い光、霞の白い光もミドに引かれるように混じっていく。ミドが目を見開き
「この後は!?」
…両方の手のひらを目標に向けるのだ…
「はい!」
差し出したミドの手からは緑の光が発せられる。そこに混じる赤と白の光がすべての異変を中和させていく。しばらくすると、いつもと変わりない夜へと戻った。
三人は向き合いハイタッチをする。
「よっしゃ!アニメのなんちゃら玉みたいやったな!」
耕平が大きな声を出す。その声は周囲の山に当たり、木霊となって反響する。耕平はアワアワと戸惑う。その姿を見て霞とミドが
「アッハハ!」
と笑った。
「ソーリュー、これでよかったんですね?」
…そうだ、またいつか助けてくれるか?ミドくん、耕平くん、霞くん?…
「いつでも言ってください」
ミドの返事に続き、耕平は
「授業中でも飛んでくるで」
霞がモジモジしながら
「給食の時間だけは、食べ終わってからにして」
「アハハ」
三人の笑い声は響く、三人は空を見上げると天の川が見えた。
「ソーリューまたな」
耕平はソーリューに友達のように声をかけ、三人はあらぎ島を後にする。そっと家に入り、電気を消した。窓からまだ天の川が見えている。みんな疲れたのか、すぐに寝息をたてた。
その夜、三人は同じ夢を見た。青いソーリューにまたがって星空を飛んでいるのだ。さっきまで知らなかったソーリューの姿。それはイメージで見た背びれがピンと立つ、青くて綺麗な白い模様の一匹になっている。
天の川をかけ登り、離れた宇宙から地球を見る。
「ソーリューと同じ青やな」
霞が笑って言った。
…人と人が争わない時代を作り、この地球を君たち若者が護るのだ!また未来で会おうぞ・・・ミドくん、耕平くん、霞くん…
翌朝、窓の外の鳩の声で目覚めた三人。昨夜のことは何一つ覚えていない。ソーリューが記憶を消したのかは解らないが、三人は話し込んで、いつの間にか眠ってしまった・・・という事になっていた。
「なあミド、この手のスリ傷っていつできたんやろ?」
手をさすりながら耕平はミドに聞く
「耕平は目ぇ離したらどこでも行くよって、全くわからんわ・・・」
やはりミドも全く覚えてないらしい。
だが15年後、三人は再びソーリューの声を聞くことになる。多分、その時も昨夜のソーリューとの事は、思い出せずにいるだろう。そんな事になるとはつゆ知らず、霞は腹を出してまだ夢の中。その顔に照りつける日差しは特に強く、今日の日中はかなり暑くなりそうだ。




