あらぎ島の弁当ウォーズ
「耕平先輩、お弁当持ってきたよ♪」
朝のあらぎ島で農作業をする耕平の元に紫音がやって来た。耕平は面倒そうな声で
「だから、毎日、毎日弁当は要らんって!」
「そんな事言わんと、なあ耕平・・・」
ウーさんがどこからか、足を引きずりながらやってくる。そして耕平の背後に立った。
「だから、たて続けに弁当って・・・」
「毎晩遅くまでの仕込み作業やら、毎日の早起き・・・、出勤前に届けて、辛いよな、なぁ紫音・・・」
ウーさんの泣き落としが始まってしまった。耕平は両拳を握りながら俯いた。
「今日もハイ!残しちゃダメよ」
紫音が蔓延の笑みで、弁当を持った手をピン伸ばす。その手の先の耕平は
「ハイ・・・ありがとうございます・・・」
俯いたまま、涙目で受け取る。振り返った先、軽トラの荷台にはクーラーボックスが積まれていた。保冷剤のおかげで飲み物や食料を保存できるのだ。手渡された弁当はそこに入れた。そして野小屋の暑くならない日陰へと持っていく。気温が高い日の基本だった。
「じゃあね、先輩!食べ終わったお弁当箱は爺ちゃんに渡してね!」
遠くで手を振る紫音。これから彼女は出勤だ。面倒くさそうに手を振る耕平。
どこからか霞がひょいと顔を出す
「なあ耕平!何でそんなに、弁当渡されるのんがいらんねん?可愛いやんか!俺に告白するはずやった紫音ちゃんやのに!」
「俺、女の子苦手やねん、ていうか何でお前に告白になるねん?」
耕平の質問に、霞は腕を組んで
「中一の頃から、紫音ちゃんは俺ばっかり見とったねん!毎日、毎日熱い視線を感じてたわけよ」
自慢気な口調で、さらに
「この前も俺に会いに来たはずやのに、途中から“耕平先輩カッコいい“って、あの態度の激変ぶりって何?!」
耕平も首を傾げた。最初は、よそよそしい女の子やなぁって思ってたら、いきなり絡みつくわ、“カッコいい“”大好き“の連続攻撃だった。
「ほんで耕平、弁当拒否ってるのは、他にもワケあるんやろ?毎日隠れて食ってるし」
こんな事だけは、良く勘が働く霞。普段から全てこうだったら、周りからの信頼も得れるのだろうが・・・。耕平の返事を顔を近づけて催促する。
「実はな・・・」
さっきのクーラーボックスを開ける。
弁当箱が入った布巾着の紐をほどき、フタを開けもちあげた・・・、顔をそむけながら・・・
「これやねん・・・」
「こ、これは、これは・・・耕平さん・・・めっちゃ、モテモテですがな」
霞はニヤリとした口を、手でふさいで隠した。
「せやから、見せたいなかったんや」
耕平は俯き、もう一方の手のひらで両目を塞いだ。蓋を開けたその弁当には、白米の上に海苔で“大好き”の文字、そのバックには“桜でんぶ“でハートマークが描かれている。卵やかまぼこも散りばめたカラフルでメルヘンのような見栄えだった。
「耕平、これ毎日SNSに投稿したらバズるかもやぞ」
「冗談でも言わんといてくれっ!」
紫音は、この二週間カラフルな弁当を毎朝届けている。普通に考えれば猛アタックがここまで続くと、さすがの耕平も観念するのだろう。なぜか頑なに拒否している、どこかに理由があるはずだ。
「霞、今日はこの弁当と、お前の持ってきた弁当、交換でどうや?」
「ええんか?紫音ちゃんの手作り弁当やぞ!俺が食うてええんか?」
霞は嬉しそうに、自分の持ってきた弁当を耕平に差し出す。母親が作ってくれた弁当と、紫音が作った弁当。霞の答えは“紫音の弁当“一択しかなかった。一方、霞の弁当箱を受け取る耕平は、気のせいか口角が上がった。
やがて昼時になる。今日は気温も高く、日差しも強い。こんな日は耕平の軽トラのエンジンをかけ、エアコン効かせる。遅れて助手席に霞が乗り込んだ。ニコニコしながら、助手席で弁当箱を開けた。運転席の耕平に向かい
「ひゃほー、耕平ええのか?ええんやな!ほんまに食うぞ!いただきます!」
「ぶぁ〜!ゲホゲホ!」
霞は口に入れた物を吹き出し、大きく噎せた。フロントガラスの内側は、飛び散る食物だらけに。そんな光景をよそに、耕平は早食い競争のようにガツガツ食っている。さっき交換した霞の持ってきた弁当はみるみるうちに減ってゆく。霞はティッシュで口を拭い去り、弁当箱を指差す
「こっこれ・・・って」
無視するように、一心不乱に黙々と弁当食べ続ける耕平。
「なぁって!耕平・・・」
霞の問いかけにも答えず、耕平は速攻でたいらげた弁当箱の蓋をカポっと閉めた。そして手を合わせて目を瞑り言った。
「ごちそうさんっ!」
「おい!耕平ってばよ!これ何なんや?!」
興奮する霞に対し、冷静に答える
「やから、ウーさんの孫娘の作った弁当やがな」
霞は弁当箱の中を見せながら
「これがまともな弁当か?超激甘やん!」
「霞、今日はごちそうさん。お残しは彼女に失礼やぞ。ゆっくり味わって食え・・・」
耕平はドアを開け、背を向けたまま手を振ってどこかへ行った。
…やられた・・・耕平のヤツ…
食べなければだが、完食できるのか?重い箸を持ち目を瞑った。
…そうか!スィーツやと思えば!…
まぶたを閉じ、口に運んだ霞。
「ぶふぁー!やっぱ、ムリぃ〜!」
残された霞の“大声の独り言”が、軽トラのキャビンを震撼させた。
そんな霞を置いて、耕平は里道に座りこみ空を見上げていた。
…さあ・・・どうやって断ろう…
祖父であるウーさんに相談しても、弁当の味の事などは、知る由もないのだろう。せめて“甘い弁当 “だけは回避したい・・・。
…そうだ、原点に戻ろう、何故急に弁当攻撃(?)が始まったのだ?…
あぐらと腕を組んで考え出す
…懐き出したのは前の戦闘の直後から・・・。たしか霞が一人で襲ってきた鳥達をやっつけて、終らせたんやったよな。だったら霞の方に紫音の矛先が向いてても・・・、待てよ・・・オレがホワイトティラやって思い込んでいるとしたら・・・?…
一つの仮説を立ててみたのだが、裏付けがない。そこへ霞が舌を出しながら、複雑な表情でヨタヨタとやってきた。
「耕平、よくあんな甘い弁当を毎日食うてたなぁ〜・・・」
「おい霞!確認や!前回はお前がウーさんと弁当娘を助けたんやな?」
耕平の突然の質問に、露骨に視線をそらしながら
「そうやねん、やのに耕平!耕平!って・・・オレは・・・」
うつむき悲しげな表情の霞。いつになく真剣な表情で、考え込む耕平だった。
翌日の土曜日の朝。農家は土日や祝日は関係ない。早朝から作業する耕平と霞は一息ついていた。そこへ軽自動車で乗り付ける紫音。
「おはようございます!耕平先輩!今日は力作ぅ〜!」
嬉しそうにカバンから弁当箱を出した。
「ばーん!」
蓋を開けて耕平に見せに来た。
「ふふ!先輩のかっこいい姿です」
それは“しらす”(多分甘い味付けだろう)で弁当の上に描かれた“ホワイトティラ”と渦巻きだった。耕平はやっぱりかと頭を抱え、霞を呼んだ。弁当箱を覗き込んだ霞は、
「あー!オレの姿やん」
すかさず紫音が汚物を見るような目つきで
「アンタな訳ないだろうが?」
絶対零度の声を霞に放った。耕平は割って入り
「いや、弁当娘・・・聞いてくれ。オレの着るティラスーツは赤や・・・」
軽トラの荷台のボックスからアタッシュケースを出し開く。中には赤いバックルのベルトがある。霞も同様に、カブのサイドボックスから白いバックルのベルトを出して紫音に見せた。
「いったい何ですの?これ?」
「あんまり他人に見せるもんちゃうんやが、ここにティラスーツを収納してるんや」
耕平はベルトの側面を指差し、真剣な眼差しで紫音の目を見た。
「じゃ、軽トラの横で爺ちゃんと私を助けてくれたんは・・・?」
「此処におわすホワイトティラの霞様や」
霞が得意げに胸を張った。
「爺ちゃんが、“耕平先輩は白や!“って」
なるほどウーさんの思い込みが原因か?これで謎が解けた。紫音は、か細い声で
「ほんだら、ずっと私の勘違いで・・・」
「そやから、この弁当は霞のモンや!喜べ霞!」
耕平が霞の肩をバンバン叩きながら言った。
「いや・・・その・・・甘すぎる弁当はちょっと・・・」
その言葉を聞き逃さなかった紫音。
「何でアンタが、先輩に持ってきたハズの弁当の味を知っとるねん?」
片方の眉を釣り上げ、氷の視線が霞を射抜く。
「いや、その・・・ちょっと味見にもろたから・・・」
両手を降って言い逃れをする霞。同時にニヤリ顔の耕平が
「オレも甘いのんは、めっちゃ苦手やしなあ・・・」
空に目線を送る耕平が言った。
「え?爺ちゃんが先輩は大の甘いモン好きやって・・・」
「やっぱ、またウーさんか?!しかし極端すぎるわ、あの弁当は激甘やん!?」
「じゃ明日からは激辛で・・・」
「そういう問題ちゃうしっ!フツーの味付けがええんや」
「フツーのやったら、毎日ウエルカムって事ですね♪」
耕平は初めて感じた。
…なんかオモロイ子やん…
そんな漫才のような掛け合いをよそに、霞は指で封印された場所を差して
「耕平・・・。また封印が・・・」
「ちょうどええ!ベルトも出したしな」
耕平と霞は各々のベルトを巻いた。
直後、耕平のスマホが鳴った、表示は“柳生センセ”だ。続けて通話ボタンをタップする。
「耕平、封印が緩んだんか?ちょうどタブレットで、防犯カメラの映像見ててな」
先日、柳生はあらぎ島に立つ野小屋に、ソーラー電源式の防犯カメラを取り付けた。SIMカードに対応するタイプだ。リアルタイムの映像を各自のタブレットに送られるのであった。
「ホンマの今やわ、センセ!他のみんなは?」
「オレと奏くんは現在そこに向かってる最中や、他の三人も異常を感じたはずやから・・・」
「センセ、とりあえず待ってるわ」
耕平は電話を切り、封印場所を見た。まだまだ小さな緩み加減だ。
“半封印が緩む“とは“先代のソーリュージャー”達が、各々六人の生命エネルギーと引き換えに「闇の核」と呼ばれる邪神エネルギーを、あらぎ島の地下に縫い付け“半封印”しているのだ。だがここ最近になってその“半封印”の力が弱まってきている。柳生先生率いる現代のソーリュージャー六人は、“半封印”を管理し、時には憑依される動物と戦って、この地を護っているのだった。“完全な封印”ができるまでは、いつ参事が起きるかもしれないのだ。
紫音は不安そうな表情で
「先輩これって、あの時みたいにまた?」
「ああ、でも今日はまだ小さそうやが」
耕平が答えるや否や、カタカタと地面から伝わる振動。いつもとは全く違う感触だ。
「弁当娘、オレの軽トラの中へ入っとれ」
紫音をキャビンに押し込むと、荷台にあったクワを片手に、耕平が封印の場所へと走る。同時に黒い煙のような闇が吹き出してしまった。これに触れると、刺さるような痛みが身体中を襲うのだ。持ってきたクワを足元に置き
「ティラノアップ!」
耕平は単独で赤いティラスーツを装着した。このスーツは、闇や外圧から装着者を守れるのだ。一方、霞は耕平の軽トラに乗った紫音を守るように立つ。
「ティラノアップ」
声と共に、白いティラスーツが霞を包む。それを目の当たりにした紫音は
「私の白い王子様の正体は・・・あのボサボサ男・・・」
息が止まる紫音、だが状況は待ってくれない。どんどん闇が広がり風が唸る。どんなに晴天でも、闇の空間にのみ込まれると、嵐の夜のようになる。
「他の四人は、まだか・・・」
耕平は焦る。六人全員揃わないと力が出ないのだ。せめて何か武器は?!と、地面においたクワが目に入る。同時に通信ランプが光った。
「耕平、聞こえるか?」
「ベルトの通信できるってことは、センセ近くに来てくれたんすか?」
「ああ、奏くんと今やっと展望台や」
双眼鏡を持つ柳生先生は落ち着いて言った。
「お前の後ろにはもう三人が来とる。既に距離が近いよって、力が使えるはずや、ところでお前、送ったマニュアル・・・読んでないんやろ?」
「へへへ、スンマセン。で・・・音声認識の掛け声は?」
…中学生から全く変わらんやん…
と柳生は脳内で独り言。
「 “耕す情熱”やったやろ?!」
「霞の時みたいな、英語がカッコよかったなぁ」
「レッドは大和魂的なのが似合うって、“耕す情熱”はお前が考えたんやろが!」
“耕平の記憶力”・・・それは決して人並みだと期待してはいけないものだったのだ。
「そやったっけ?よ〜し!やったるで!」
「ちょうど今、その手に持ってるクワ。上に振り上げて、精神を集中するんや。集中が出来たら“耕す情熱”と声を出して地面に向かって振り下ろす!や」
言われたとおり、持っているクワを持ち上げ天に向かって構えた。集中すると先日に霞から聞いたとおり、ティラスーツの中は暖かく赤い光で満たされた。
そのまま一歩一歩、封印場所に近づき叫んだ。
「耕す情熱!」
と同時に地面にクワを振り下ろした。ズドンッ!と大きく響く音と同時に、クワの先から真っ赤な閃光が広がった。やがて闇は中和されるように消えていく。
「やっぱり、カッコいい・・・」
それを見た紫音はホワイトティラを押しのけ、レッドティラのところへ駆けて行った。その後をスーツを着ないままのミドとあかり、穂波が追う。
「今度は耕平が一人でやったんか?」
ミドと二人は驚く。残るは「半封印」の補修だ。穂波が周囲を見回し
「あれ?奏さんは?」
「今、展望台を走ってます」
あかりが展望台に指をさす。視線を展望台に向けた全員は呆気に取られた。慌てて走り出す、奏と柳生先生の二人がいたのだ。
「どうせ柳生先生が“展望台でええやん、力は届くし”とか言って、奏くん連れて手近な展望台に行ったな」
ミドの見解は多分当たっている。展望台には急発進した奏のワーゲンバスの排気が、もくもくとあがっていた。
「耕平先輩!」
耕平の目前に駆け寄る紫音。
「ティラノオフ」
の言葉と同時に、耕平の赤いティラスーツはベルトに収納された。いつもの赤いツナギ姿にもどり、封印場所を見る。奏が到着すると同時に始められるように“半封印“の準備をするのだ。行動しようとする耕平の右腕が引っ張られる。振り返ると、その先には紫音が巻きついていた。
「離せ、弁当娘!まだ仕事があるんや!“半封印”の修復を奏くん来たら・・・」
「半封印、開始されます」
ケロ助の声と同時に、それぞれに宿す“光の核”から放たれる力が、各々の色の光となって体を包む。赤い光の耕平、緑の光のミド、白い光の霞、ピンクの光のあかり、黄色い光の穂波。そして紫の光の紫音だった。
その光達が束になり封印場所に吸い込まれていった。
「“半封印“修復完了です」
ケロ助の音声が終わるや否や、霞はあわあわと
「みんな今見た??し、紫音ちゃんも・・・ムラサキの・・・ひ、“光の核“持ってるん・・・」
バタバタと駆けつけて来た奏と柳生。二人は息を切らし
「はぁはぁ、半封印は?」
「既に半封印完了です」
機械的に話すケロ助の声
「え?何で?」
慌てる奏の後ろで、柳生は手を組みながら考え込んでいる。訝しげな視線の先は紫音だった。やがて一変して表情を明るくし
「そうか!前回といい、特性の技がポンポン放てると思たら・・・六人が七人なったら“光の核”の力も、パワーアップするわな」
柳生の言葉に
「私、何かやってしもたんですか?」
耕平の肘を引っ張る紫音。
「どうやら、俺ら六人と同じ力あるらしい・・・」
耕平の言葉に紫音は愕然とするのかと思いきや、飛び跳ねて喜んだ。
「じゃ、先輩の側にずっと一緒に居ててもええんですね?」
「それと、これとは・・・」
焦った耕平は空いた手を振る。同時に柳生は冷静な声で
「よし!そこの新入生。自己紹介!いっとこか!」
「内田紫音、24歳。爺ちゃんはここで稲作やってます。特技は料理!中でもお弁当作りが得意です」
紫音は耕平の肘を離し、みんなの顔を次々眺めながら、敬礼ポーズで挨拶した。
「弁当作りが“得意”だとぉ・・・?!」
頭を抱えた耕平を横目に
「各自、質問は?」
まるで転校生の紹介のように仕切る柳生先生だ。
「はい!はい!耕平さんとは、どこまでいきましたか・・・?」
好奇心いっぱいの笑顔で、手を挙げ質問する穂波。紫音は頰染めて
「蔵王橋まで一緒に行きました、キャ!」
慌てた耕平が真っ赤な顔で
「それは弁当娘が、蔵王橋の駐車場に落とし物したって言うさかい」
「答えが、質問の趣旨と噛み合ってないんですけどぉ〜」
穂波の不服そうな声があがった。
「まあええ、まあええ、これから頼むで、紫音ちゃん、耕平は新人の面倒みたってな!とりあえずスーツは6体しかないよって、みんなのサポート兼マネージャーってことで」
柳生は口角を上げ、ニヤリと耕平を見る。
「え〜と、あ・・・この弁当娘は、霞とオレを勘違いしとった訳で、えーっと・・・」
慌てた耕平は何を言ってるのか、自分でも分からない。腰に両手を当てた紫音は、前かがみになって耕平を睨みつけた。前に出した人差し指を左右に振り
「先輩、私の名前は“弁当娘”やのうて・・・し・お・ん!」
しりもちをつき、たじろぐ耕平。その姿を見て笑うメンバー達。
「あの大柄の耕平が・・・あんな小柄な紫音ちゃんに・・・ヤリ込められとる」
耕平と幼なじみのミドが、腹をかかえて笑った。新たに紫音が加わり、更に賑やかになったソーリュージャー達だった。




