思い込みだけで、恋は始まるの?!
赤井耕平 26歳独身。有田川町出身で地元中学、地元高校卒業。家業の農家を手伝い始め約8年になる。割と大柄で細マッチョ体型、マスクもなかなか良い。だが、異性よりも農業優先、農業オタクと表現しても過言では無い。既に。この歳で農業にはかなりの拘りを持っている。愛車は自分で赤く塗った軽トラ。とにかく赤が好きだ。
そんな耕平に突然訪れた出来事。薄暗くなり始めた頃、隣の田んぼの内田さん、通称“ウーさん”が声をかけてくる。
「耕平、いま彼女・・・お、おるんか?」
70歳半ばのじいちゃんが、モジモジしながら聞いてきた。
「おらんよ、オレ彼女は要らんから」
清々しくキッパリ答える耕平、ただ単に本音を包み隠さず言ったのだけだろう。この男、「駆け引き」「対面」「気遣い」などの単語は、脳内には全く存在しないのであった。有るのは自分の真っ直ぐすぎる意思のみである。だが、ウーさんは引き下がらない。
「孫娘の紫音、わかるやろ?お前より二個歳下かの?どうやら中学の時からずっと、お前の事がええらしいんや」
その言葉に、耕平は必死に自分の記憶の深堀りする。
“紫音”“ウーさんの孫”“2個下”
頭から煙が出そうなぐらい考えたが出てこない。そう、霞、ミド以外は友人や、知り合いという意識がなく、更に他人の顔を覚えるのは苦手。平たく言えば他人に全く興味が無かった。困った耕平は、野小屋の中で片づける霞に手招きする。ウーさんは霞の存在に驚く。
…しもた・・・霞がおったんか!?…
「霞、紫音ってウーさんの孫さんって覚えとるか?」
耕平の問いに、いきなり霞の目が意気揚々と輝く。腕を組んでふんぞり返り
「紫音ちゃんって、あの小柄な“紫音ちゃん”やろ?中学の時にな、たしか告白されたわ」
霞よ、どうして祖父の前でのうのうとこんな事いえるのか?ウーさんの心の中は、高速で首を左右に降っている。ナイナイナイナイ・・・。紫音が中学に入ったばかりの頃、聞いたことがあったのだ。
「耕平先輩に話しかけに行っとんのに、隣の男子がしつこく私に喋ってくるの!いつも耕平先輩とべったりなボサボサ頭の方の男子」
せまい町だ、“霞”だと言う事はすぐにわかった。そして今、よりにもよって一番聞かれたく無かったはずの“霞”にバレたのは一番の不遇であった。しかし耕平は
「小柄な紫音ちゃん?!思い出せへん!」
両手で頭を抱え、しゃがみこんでしまった。ウーさんはここで長引かすと、霞の茶々が入ると考えた。
「まあええ、まあええ、思い出しといてくれや耕平」
逃げるように小走りで、軽トラに乗って去るウーさん。ハンドル切りながら
“やってもーた、じーちゃん気ぃ回しすぎた、すまんの紫音・・」
翌日は日曜日、朝霧の立ち込める中、あらぎ島でウーさんはキョロキョロしながら耕平の元にやってきた。左右、背後に気を配りながら、落ち着きない様子で、
「今日わは、霞は?」
「カブで後から来るそうやけど、霞に何か用なん?」
…あかん、まさか昨日のこと忘れとるんか?いや!ありえへん、昨日の今日やぞ…
ウーさんが考えあぐねているのに、耕平は顎に手を当て
「ウーさん、今度の水曜って天気いいやんな?今から稲刈り段取りして、その日にしようかな?」
仕事のことばかり気にしている。
「あのな、耕平・・・昨日の“紫音”の話やが・・・」
「なんか言うてましたね・・・“紫音”って饅頭か何かでしたっけ?」
耕平は昨日の事は、すっかり忘却の彼方のようだ。何も無かったように、手を動かし始める耕平の姿を見て
…コヤツ、一筋縄ではいかんな…
ウーさんは困り果てたが、同時に
…可愛い孫娘のためだ、この話をまとめてやる!紫音、爺ちゃん頑張るからな…
と心の炎が灯った。拳をにぎり、空に向かって誓うウーさんだった。
そんな事とはつゆ知らず、耕平は淡々と草を刈る。ウーさんは霞がやって来る前に耕平との勝負を着けねば!とガラケーをポケットから出す。電話帳から“短縮ダイヤル”で電話をかける。呼び出し音3コールの後電話の向こうから
「もしもし、爺ちゃんどうしたん?」
「おお、紫音!忘れモンしてな、爺ちゃんのタンスの一番上の引出しにハンコ入ってんねん。持ってきてくれへんか?」
「何で田んぼでハンコ要るん?」
「ほんだら、風呂敷でええわ」
ウーさんは、もう何でもいいから、ここに紫音を呼び出したい一心だったのだ。苦しい作り話である。
「爺ちゃん、風呂敷なの?ハンコなの?もぉー両方とも持ってくわ」
「すまんのぉ〜」
なにはともあれ、ウーさんの策略は成功した。ここに孫娘“紫音”を呼び出し、耕平に会わせれば良い。あとは本人が何か言うだろう。とても安易な考えだった。待つ事15分、紫音の車がやってきた。
「爺ちゃん、風呂敷とハンコ持ってきたよ、田んぼで何に使うのん?」
「おお!紫音、おおきにやで」
こっちこっち!と手招きする。そして指を差す方向は、耕平が草刈りをしている場所。ウーさんはワクワクしながら想像した、耳まで真っ赤にし、影に隠れて恥かしがる紫音の姿。そしてウーさんは頼まれるのだ!紫音の告白の橋渡しを・・・。
…これで、ワシの株が上がるわい、クククッ!この耕平やったら、ちょっと鈍いとこもあるが真面目やし、まあ未来は安泰やろう…
ウーさんの妄想は、地の果てまでも突っ走る。しかしそんな事は知らない紫音は帰ろうとする。
「まてまて、せっかくきたのに!もう帰るんか?」
「いや、用事済んだし。つか爺ちゃん、あれ誰?」
ウーさんは目が点になった。まさか耕平を覚えて無いんか?
「耕平やがな、お前の2個上の・・・」
「あーそういや、昔から背のデッカい人や!ほんまや、今もデカっ!」
「・・・紫音、お前は昔から耕平の事がよかったんちゃうんか?」
「中学の部活の先輩ってだけよ、用があって伝言に行ったら、なんか会話の邪魔しに来る人おって、ボサボサ頭の・・・なんて表現すればいいかな・・・」
そこへ白いカブが走ってくる。小屋の前に止めて、ヘルメットを脱ぐ。
「あー!この人やん!?」
指をさし紫音は大声で叫ぶ。霞はヘルメットを両手で持ったまま嬉しそうに
「紫音ちゃん、やっぱり俺に会いにきてくれたんや・・・」
「誰が!?・・・ただ単に爺ちゃんに届けモンや!」
目を合わさず、立ち去ろうとする紫音。
その時
ブシュー!
突然の大きな音と共に、あらぎ島の地面から、黒い“モヤ”が吹き出すように現れた。慌てる紫音。ウーさんは紫音の手を引き軽トラの助手席に押し込む。ウーさんも運転席に乗り込んだ。
「爺ちゃん、何なん・・・これって?」
「窓はちゃんと閉まっとるか?黙ってじっとしとるんや」
みるみる黒い空間が、半球形に広がり大きくなろうとしている。何が起きているのかわからない紫音は、慌てるばかり。ウーさんは事情は大まかにだが知っている。ウーさんだけでは無い、あらぎ島に関係する人たちは、耕平たち六人と、柳生、おやっさんたちが、この『闇の核』の封印の番人のような役目を背負いっている事、時には戦っている事も知っている。
「霞、また封印が緩んだみたいや」
叫ぶ耕平に、霞も応答する。
「最近、『闇の核』がおとなしいと思とったら・・・」
「さっきの“頭に刺すような感覚”他のみんなも同じように感じてるはずや」
耕平の言葉に霞は、カブのサイドケースからベルトを出し、自分の腰に巻く。珍しく段取りが良い。多分、紫音がここに居るからだろう。全くわかりやすい奴だ。耕平は淡々と軽トラの荷台のボックスの鍵を開け、中からアタッシュケースを持ち上げた。荷台でケースのバックルを解除し、ベルトを取り出す。荷台越しに走ってくる奏が見えた、後ろに続くカブに乗る穂波とあかりが、轍の地道を走ってきた。その後ミドが走ってくる。
「揃ったな、みんな!」
霞が叫ぶ!こういうセリフ・・・いつも耕平が発するのが常なのだが、なぜか今日は霞が言った。
「う・・・うん!揃った」
若干、いつもと違ってリズムが狂う。同時にスイッチを入れ、それぞれのベルトの両サイドに着いたファンが唸る。
「ティラノアップ!」
霞が一番大きな声を張り上げた。ベルトがユーザーの音声を感知し、ベルトの上下の側面が開く。みるみるうちに、各ベルトから繰り出されるDマテリアル。それぞれの特性のカラーになっている。霞はホワイトだが、まだ何の特性か彼は知らない。
「みんな、装着完了か?」
霞が叫ぶと
「まあオッケーや」
「いけたで、終わったわ」
皆テンションが低い。やはり無駄に熱い耕平って、統率力あるんやな。四人は感じたが、霞は気づかない。耕平は淡々と戦闘体制に入る。バサバサと数羽のトンビが急降下してきた。
「ちょっと!今日は空からかよ、このティラスーツで対抗できるん?」
「耕平くん、トンビのくちばしでやられたらマズイ、すぐボロボロになってしまう」
奏の言葉に耕平は、
「戦うだけや!それしか無い」
さすがに真っ直ぐすぎて、その判断に全員が困った。どんどんトンビの数が増えてゆく、白鷺も混じり沢山の鳥が飛び交い、人を襲う。昭和の洋画を思い出すような光景だった。立ち込める朝霧と徐々に広がる黒い空間、視界は悪すぎて六人の体内に宿る「光の核」の力“心眼”に頼るしかない。どうにか封印された場所に近づこうと試みる六人だが、空からの攻撃は怯まず続く。
「爺ちゃん、あの恐竜みたいなんって何なん?答えて!」
ウーさんの軽トラの助手席でパニックになる紫音。そんな孫娘にウーさんは話し出す。
「耕平らは、あの姿であらぎ島守ってるねん。ここの中心の地下に邪悪な「闇の核」っていうのを封印されてあってな、時折こうやって目覚めるんや」
「ほっといて、逃げたらええやん!」
紫音の答えに
「有田川の野生の動物が全部こうなってみ、とりかえしつかんやろ?クマがこうなったら、さすがのあの六人でも・・・」
やっと合点がいった紫音だった。被害がここだけに、さらにここでも最小限に留めているのが耕平たち六人なのか?
「じゃ、あのデッカい耕平先輩は?」
「耕平は確か・・・ “白いヤツ”や」
ウーさんは、うろ覚えの答えを言った。
「じいちゃん、耕平先輩って“白いの”着て、黙ってみんなを守ってるん?」
紫音のか細い声に
「そうや、耕平も後の四人・・・五人もやで」
ウーさんは、誰か一人は除外しようかと、詰まった答えだった。
「さっき私より年の下の女の子までおったやん・・・」
だんだん怯え声が小さくなる紫音、トンビの攻撃はウーさんの軽トラにまで及んだ。
「きゃー!耕平先輩っ!」
トンビとシロサギにバサバサと囲まれ、軽トラの四方向のガラスをくちばしで突かれる。ウーさんはエンジンをかけて、振り切ろうと軽トラを走らせた。だが鳥たちで視界が悪く、六人の戦う近くで脱輪してしまう。後輪が跳ね上がり、前にも後ろにも動かない。それがかすかに見えた霞は、真っ直ぐウーさんと紫音の乗る軽トラに駈寄る。
「紫音ちゃん、大丈夫か?」
窓を叩き声をかけるが、紫音に届かない、それどころではないほどパニクっている。ウーさんは、ウーさんで紫音を落ち着かせようと焦っている。霞のベルト上部で青色の通信ランプが光った。
「霞、聞こえるか?今あらぎ島は霧があって上空は白いな!?」
柳生先生からの通信だ。すぐ近くに着いたのだろう。
「センセ、なんでなん?霧って関係あるん?」
「大ありや、お前の特性は“霧と霞”の力や、先週送ったメールを読んで無いのか?」
「いやあ、長い文やったからまだ読んで無いっす」
呆れた答えに、柳生は目が点になった。
「内容は今から言う、霧の多い場所、指しづめお前の真上やな。左右の手のひら合わせて、真上に向かって腕を伸ばせ!形が出来たら声を出すんや!“ミストハリケーン”てな!」
ウーさんの軽トラの横で、両手をあわせた霞。白いスーツの中には、白くて暖かい光が充満した。体に宿す“光の核”から発する光がティラスーツの内側に充満したのだ。腕を空に向けた“ホワイトティラ”の霞は叫ぶ。
「ミストハリケーン!」
スーツの中の光は、両手から放出され、ホワイトティラを中心に大きな竜巻が発生した。その風はあらぎ島中の鳥たちを巻き込んだ。更に高速で回転し、鳥たちを遠くへ吹き飛ばす。
それを見た紫音とウーさんが、軽トラの中で歓喜する。
「カッコイイ、耕平先輩!」
目がハートになったと表現すればいいのか、紫音の踊る心は、横に居るホワイトを着ているであろう“偽耕平”に持っていかれた。
「爺ちゃん、耕平先輩がこんな男らしくて、めっちゃ強い人って早よ言うてくれたら・・・」
浮かれまくる紫音はウーさんそっちのけではしゃぐ。
…ワシの見る目は、確かやのぉ…
その頃、五人のティラが離れたところで驚いていた。
「ウソ!何と一人でやっつけた?」
意外だと言わんばかりに、穂波とミドは口に出して言っている、通信で霞にも筒抜けだ。
「ヒーローは突然覚醒するもんや!」
霞はいつものように調子にのるが
「ええから、早よこっち来い!半封印や」
ミドに言われ慌てて軽トラの横から走り去るホワイト。通信でやりとりしているので、ティラスーツの装着者以外にはほとんど聞こえていない。
「黙って去って行くなんて、やっぱりホワイトの正体はクールでストイックな耕平先輩。めっちゃカッコイイ・・・」
紫音は軽トラの中で、体をくねくねさせながら声を弾ませた。
“半封印”を終えたところに、柳生先生が駆けつけた。そして霞に向かい
「霞、ようやった!」
「でへへ」
「よっしゃ、みんなティラノオフや」
耕平の掛け声でみんなスーツをベルトに収納させ、ベルトを外した。みんな普段の姿に戻った。
「ティラスーツの実践データー、俺の親父の残したデーターと照らし合わせて、それぞれのスーツと“光の核“の特性がハッキリわかった。先週メールで伝えたが、改めて言葉で伝える」
柳生の言葉に、六人は直立で聞き入る。
「霞は、見てのとおり“霧と霞の力“、耕平のレッドは”大地の力“
穂波ちゃんのイエローは”稲穂の力“稲に息づく生命力かな?
ミドのグリーンは”緑と木の力”やはり生命力や、奏くんのブルーは“空の力”。そしてあかりちゃんのピンクは既にわかってるように“巫女の力”や」
それぞれの特性がわかり、これからの戦いに震え立つ六人だった。
そこへウーさんと、紫音が軽トラからなんとか降りる事が出来たのか、柳生と六人の元へヨタヨタとやってきた。ウーさんは足を引きずっている。どこかに膝が当たったのか、右膝を手で抑えている。紫音は耕平を見つけるなり、走り寄って耕平の腕に巻きつく。
「キャー耕平先輩やったんや!私の運命の人♪私らを守ってくれてたんや」
「え?誰?ウーさんの関係者?ってえ〜い!懐くなっての!」
耕平は腕を振り払おうとする。
「そやから、孫娘の“紫音”やって!昨日から言うてるやろ」
…“紫音“て饅頭やのうて女の子やったんか?…
耕平の11年前の記憶は、ミドと霞と遊んだ事、柳生先生に叱られた事以外、全くなかったのだ。
「だから懐くなって!」
「男らしい、やっぱりカッコええわ」
紫音は、拒否られるのまで“良し”としている。恋は盲目と言うが、たった数十分で落ちるものなのか?
穂波とミドはニヤリ顔で
「モテモテだね、こ・う・へ・い・くん!」
奏はまんざらでもなく
「お似合いだよ、耕平くん」
ケロ助がヒョコとあかりの陰から顔を出し
「おめでとうございます、式はいつ頃ですか?」
とスピーカーで言った。あかりの代弁だろう・・・。
「えーなんで!?紫音ちゃん俺に会いに来たんとちゃうん?今さっき助けたのも俺やし・・・」
霞は涙目で悔しそうに言っているが、誰も答えてくれない。実際、他の五人には軽トラを助けた場面は、棚田の陰で死角。誰一人、見えていなかったのだ。空中に白い大きな竜巻だけが見え、それが霞が向かった方向だった。その方向から霞が歩いてきた、だからホワイトティラの力だろう、という認識だったのだ。
耕平は紫音を振りほどきしゃがんだ。ウーさんの足を見て、
「ウーさん、俺の背中に乗って!おぶるわ!俺の軽トラで送ったらええか?」
ウーさんを大きな背中に背負い、赤い軽トラに向かって歩きだす。
…やっぱりええ男や、ワシの足まで心配してくれて、さっきの渦巻きでワシらを助けてくれた事といい、紫音の婿さん決定や…
耕平の背中でニヤニヤ満足そうなウーさん、耕平とウーさんの姿を追いかける紫音。この二人・・・思い込みも含めて、なかなかのツワモノのようだ。




