番外編 柳生大輔13年前のGW
13年前の出来事を、俺「柳生 大輔」目線で思い出語りの番外編
俺が中学の教諭になってどれぐらい経つのだろう。
「四十も超えてフラフラと」
母親に顔合わせれば二回に一回ぐらいの頻度で言われる。
まあ、機械にうつつを抜かしてるのも事実。
俺の実家の家業の民宿は、先日大阪から帰ってきた弟夫婦が手伝っている。
どうやら、大阪では長時間勤務の多すぎる会社だったらしい
見兼ねた母親が
「大輔はフラフラしっぱなしやし、私も歳やしな、民宿助けてくれへんか」
と助け船を出した(少々俺をディスっているが目を瞑ろう)
弟は奥さんと娘を連れて、移住してきた。
奥さんも近隣で生まれ育っているので、馴染むというか生活を戻すのは難がない
娘に至っては、さすが子供。あっという間に友達もでき
田舎の不便さなどものともせず、山へ川へ遊びまわっているそうだ。
こういうコミュニケーション能力、分けてもらいたい
そんな日常が続く中、世間様はGWという長期休みらしい
同僚にも言われるが、時間軸が世間一般とズレているらしく
休みとか、休憩時間などという感覚が全くない
思い立ったら夜中でも回路を作って気がつけば出勤時間などザラである。
私の戯言はさておき、4月半ばの夜 私のスマホに着信が入る
母親か?とディスプレイ見ると桃井会長と
数コール後にゆっくりタップした。
「もしもし、大輔です、ご無沙汰しております」
先代の五人、最後に父親が亡くなってから全ての連絡は俺にくる。
「5月の例の日、またきていただけますか?」
「ええ、もちろん。今年はっと5月4日ですかね?」
「そうです、じゃあいつものように現地集合で」
電話を切った
毎年、恒例の神事のお知らせだった
先日会長から電話もらった時は
百井の社員にならないか?、
あらぎ島の開発や作業は、全て社のプロジェクトということで
そうすれば給与も出せるし、今の教師の仕事に穴を開けるうことも無い
と言われたが、教師やってることが楽しかったし、現在の責任もあるのでとお断りした
そのせいで、今の電話に出るのに少しためらったのだ
今は中1の担任をしているのだが、悪ガキ三人組を見捨てるわけにいかない事が最優先だったのだ
この三人とは
一人目は農家の息子の耕平、強いて言うなら脳筋、判断力に欠ける
二人目は役場勤めの家系の霞、 実際 霞のような存在で掴み所がない
三人目地元の工務店の息子ミド、彼は二人の監視役だが、そのため自分の人生犠牲型
と問題児三人が目下の悩みのタネである
まさかこの後まるまる三年間も担任として悩まされるとは
この時点で全く予想できなかった
何はともあれ当日になってしまった
珍しく白衣ではなくスーツ姿だ
真っ白な髪をといて整髪剤で整える
桃井の家の人は白い髪の事情を知っているのでいいのだが、初めて会う人の目線は痛い
親父たちが『半封印』したあの日、親父が心配になり小学生の俺は自転車で展望台へ向かったのだ
そして着くと同時に、親父たちの生命エネルギーがDジェネレーターに吸い込まれていく光景をまともに見てしまった
そして、少なからずその場にいた俺も影響があったんだ
それが、この髪の色。
長い間、気を失っていたらしい 病院では母親に泣かれ、怒られた
あの日の記憶が衝撃すぎて、髪は俺にとっては、さほど気にならない
ただ散髪の時、俺の髪を見て店主自身の父を思い出すのであろう
だんだん泣きだし、いつまでたっても散髪が終わらないのは大変だった
さあ何はともあれスタートだ
バンのエンジンがかからない
え?バッテリー? と言っても今すぐは無い
いつも早い出勤の、先輩の奥さんが愛車のプレオで前を通りかかる
事情を話した、中から助手席が空いた。
約一時間乗せてもらった、
車の中では一方通行のマシンガントークを浴び
紀勢本線の藤並駅で「遅刻、遅刻」と強制排出された
すでに1日分のカロリー消費したような疲労感だ
構内に入り切符を買う
icocaってこの線まだ使えないよな、それ以前にカード作ってないか・・・
時刻表を見あげ、普通列車で約束の時間には間に合うと確認。
次に来た下り電車に乗り込む
GWのせいか、家族連れが多い
特急はどのみち乗れなかったよな・・・と世間の状況を思い知る。
自分より年の若い夫婦が子供をつれて笑いあっている
そんな光景を見ながら、列車は線路のリズムを刻みながら目的地へと進む
つり革を持ち立って海を眺めながら、窓越の強い日差しを浴びる
初夏のような暑い日だった
どれぐらい経っただろうか、目的の駅の名前が入ったアナウンスが聞こえた
降りる気構えをし、ドアの方を向く。
この駅では降りる人は少ない、車内の立ってる人の間をすり抜けなんとかホームへ降りた
さて、車では何度も来たが駅で降りるのは初めてだ
改札を出て
・・・海側に歩けば間違いないだろう・・・
キョロキョロと海への道路を探す。
スマホ使うか
マップで自分の位置確かめ、目的地を入れる。
「三キロ強か 一時間ほどかな・・・」
時間的には間に合いそうだが。問題はスマホのバッテリーだ
車では無いので充電できず、節約してきたが割と減っている
ずっと案内画面出してては、着く前にバッテリー切れだ。
「今日はバッテリーの厄日か」
と言うとスーツの内ポケットを弄る
出したのは手帳とボールペンだ
スマホのマップ画面を表示させ、手帳に粗暴な地図を描く
目印の郵便局も描く
「まあこれでバッテリー節約やな、アナログ万歳」
手帳を左手に持ち歩き始める
履きなれない革靴で歩くのは、違和感があったが持ち前の
「すぐ慣れるやろ」
で坂道を下る
20分は歩いただろうか、女の子が立っている。
キョロキョロ周りを見回し不安げだ。
「どないしたんや?」
腰を屈め目線を合わす。小学一年生ぐらいだろうか
泣いた跡が見える。
「お父さんか、お母さんは?」
「一緒に車できたんやけど、降りた時に猫見つけて
追っかけてたらわかんなくなったの」
声が小さすぎて半分しか内容が聴けてない。
「そうか、そうか で、どこにいくんやったんや?」
「わからない、お魚さんってことだけ」
「お魚さん?・・・?」
かろうじて”お魚”の単語がわかった。
脳内フル回転 水族館?漁港?魚市場?
どれもこの周辺では当てはまらない
小さな漁港は確かあったが、過疎化してたような
全くわから無い。
だが女の子を置いていくわけにもいかず
自分の目的地に向かい一緒に歩き出した。
「この子の身内が誰か見つけて声かけてくれるっしょ」
ポジティブな考えかたなのか、気にしないタイプなのか
二人で並んで坂道を下る。
「お嬢ちゃんのお名前は?」
ステレオタイプの質問やなと心の中で苦笑する
「・・・・・・」
返事したん?それとも無言?
声が小さいと向かい合わんと聞こえんな
「まあええか・・・」
「お兄ちゃんは海にいくけど、ええかな?」
あっ 女の子は急に走りだす
その先には小さな白い猫。
「そうかこの猫、追っかけて迷子かいな」
「おいおい走ったら危ないがな」
大輔が何度も声かけるが止まらない
そのうちドテンと、つまづきこける女の子
「周りが見えんタイプやな」
女の子に追いつき立たせる大輔
かすかに膝に血が滲んでいる
「あーあー 痛かったやろ」
「ちょっとここ座っとり」
路肩の石の上に座らせ 見つけた公衆トイレへ走った
水道で何度ももみ洗いし、ボトボトに濡らしたハンカチで傷口を拭う
実はスーツにハンカチが入れっぱなしてあったのだ
普段なら絶対持たない大輔だ
スーツで良かったと内心思うのだが、この先が思いやられる
約束の時間まで30分を切っている
そうや桃井課長に電話しよう
スマホを出す、残り1パーセントの赤印。
とりあえず発信、3コール目
「もしもし・・・ツーツー
あかんバッテリー切れやん」
ほんま今日はバッテリーの厄日や
「しゃない、しばらくおっお兄ちゃんに付きおうてや」
女の子を背負い、小走りに駆け出す
海への坂道を下る
背中で女の子が
「付きおうてって何?」
この距離やったら聞こえるんや
大輔は距離感に気づき返答する
「お兄ちゃんな、大事な用事あんねん、お嬢ちゃんのお父さんとお母さんなぁ
この用事終わったら暗なっても探したるさかい、ちょっとだけおっちゃんに付きお うて」
うなずく女の子の様子は伝わった
しかし四十も半ばの運動不足の男が長い時間走れるものではない
すぐにスピードダウンする、しかし約束の時間がある。
乳酸で重くなった足を一歩づつ前に出す
見慣れた風景にやってきた
いつも車を止めていた桃井家の空き地は草刈りしてくれてあるが
いつもの車が止まっていない
来てへんのか? それとも俺が、時間か日を間違ごたんか?
疑問に思いながら洞窟の入り口に近づいていく
しもた、部外者はみせたらあかんねん
子供とておんなじ条件や、余計びっくりするがな
そんな葛藤の中、背中で女の子が
「中へ二人とも入っておいでって言ってる」
大輔はキョトンとし
「え?誰が?なんか誰か言うたん?」
女の子が答える
「おっきな青いお魚さんが言うた」
・・・おっきな、青い、お魚・・・
海棲爬虫類も見た目にお魚さんか、そうか、そうか
え?なんで!? まだ外やん、入ってないやん
心の声は表情に出ていたようで、
「どないしたん?入れへんの?神殿」
「神殿てなんで知ってんの?」
半分震えた声できく
「来る時、おじいちゃんに教えてもうた」
上の道沿いの空き地に大きなセダンが止まった
「男女二人が駆け出しこっちに走ってくる」
「あかりぃー 車のドア開けたと同時に駆け出してどこいっとたんや
えっ 柳生さんなんでこの子と」
百井工業の桃井社長と奥さんやった
「って言うことは、この子は社長さんの・・・」
社長が答える
「そうですねん、わたしらの娘のあかりですわ」
大輔は
「なんやそーやったんですか、駅までの間で迷子になっとって、
約束の時間まで間ないし、スマホはバッテリー上がって使えんしで・・・」
奥さんが申し訳なさそうに
「ご迷惑おかけしまして・・・、あら転んだん」
まだおぶさっているあかりの膝をのぞく
「柳生さんも重いから、降りようね」
その言葉にあかりが反発する。
「いやっ付きおうて言われたもん」
大輔は慌てて
「誤解を生むようなこと言わんといてな・・・
奥さんソーリューのとこへ一緒に行くって意味や思います。
ソーリューが二人とも入りって言うたと・・・」
「そうなんですよ、ここ最近になって声が聞こえるらしくて
聞いた内容は父親、僕、あかりで照らし合わせてもおんなじなんです」
社長が答える 後ろで頷く奥さん。
「お兄ちゃん早よ入ろ、わたしお魚さん初めましてやねん」
「ほな、このままいこか」
背負ったまま神殿の中へ歩き出す。
今日は年に一回のソーリューと出会う日、桃井家の神事や
桃井家の中で何代かの間にソーリューが神さま扱いになったらしい
俺は自分の親父を毎年の神事に連れてくるのが決まり事やった
最後は車椅子で連れてきた。半年後、親父が亡くってから
俺は一人で来ることになった
『来たるべき日』の為、俺一人でも来て欲しいと会長に頼まれたのだ
だが俺は声が聞こえんから、社長さんか会長さんが
内容を教えてくれる。こっちの質問もソーリューに伝えてくれ
返事も聞かせてくれる。
というのが毎年の流れやった
今年も無事に終わり、車で最寄りの駅まで送ってもらうことに
神殿で面会の間にスマホ充電させてもろうて、クルマでも充電器繋いでもうたから
随分バッテリーは復活した
事の流れだが、小さい時から可愛いものに目がないあかりちゃんは
声も届かないぐらい、集中して世界に入ってしまうそうだ
だからか・・・。猫って可愛いもんな。
何気に後部座席に置かれた緑のカエルのぬいぐるみ。
子供の頃、薬局の外に置いてあったような姿だ。
今のお気に入りなのか?と考える
そんな俺に先ほどから、あかりちゃんに随分懐かれてしまった
運転する社長の目線がルームミラー越しに痛かったのは間違いない
駅前に下ろしてもらったら、運が良いのか上り列車が来た
バイバイと手を振るあかりちゃんに、俺も手を振り返し
改札に慌てて入る
電車に乗り込み、半端な時間帯だったせいか座席に座れた
〜そういえば最後まであかりちゃんの声だけは小さかったな〜
などと思い出す
窓から海を眺め、トンネルに入るたびガラスに映る髪の毛を触る
あの時の親父たちの大仕事、後から一人二人と亡くなっていく親父の仲間たち
散髪屋やってる先輩の親父さんもそのうちのひとりだ。
でも引き継いだん俺だけやった
あらぎ島の設備一式のメンテと研究と開発管理
そして『来たるべき日』への準備
完全な『光の核』持った六人が現れた時の、バックアップが最大の使命や
しかし一人でやっとったら大変すぎて、彼女とか結婚どころちゃうし
変人扱いされるわ、時間に追われるわ、泣き言も他人に言うこともできへんわ
俺って何重苦なんよ
まあ切り替えていこか
せやあの三人、休み前に出した課題
またやってないんちゃうんやろか?
そんな心配だけができる日常やったらええのにな
思いを馳せる大輔を乗せた列車は、海沿いの線路をゆっくりと北に走っていった。




