スピーカーおばさんって、女性だけじゃない!?
File4
〜スピーカーおばさんって、女性だけじゃない〜
「あんな恐竜スーツ、二度と着ないからね!」
穂波がふくれっ面で言う。
18:30、あらぎ島展望台地下の秘密基地内プレハブハウスに6人と柳生先生でミーティングの真っ最中だ。
「穂波ちゃんそれ分かる、俺も嫌や」
霞の同調する言葉に、なぜか反撃。
「霞さんが勝手にどっか行かへんだら、もっとスムーズに済んだかもですよね!?」
「その件、もし無かったとしても10分前に、ティラスーツ着ただけですよ」
ミドのツッコミも正論だ。
矛先を向けるなら柳生先生だな?
五人が同時に同じことを考えた
「どうしてあんなギャグみたいな姿の、ティラノサウルスなんですか?」
柳生先生は
「知らんて、デザインもソーリューが決めたんや!」
両耳を塞ぎながら言う。
6人の気持ちは、そりゃそうなるはずだ。
昨日は敵を目の前に決死の思いで装着した姿が、どう見ても宴会かイベント用の、ふっくらした恐竜の姿だった。
確かにソーリューの意思なのだ。Dマテリアルの生地では、ティラの現在の形状しか安定しなかった。このDマテリアルとは、先代たちがソーリューの声の情報を具現化したテクノロジーだ。
光の核から発する『竜力』を保持する生地が『闇の核』の力からガードするというものだ。
当時では、生成できた生地の量は限られていた。またそれ以降、生成は少量だった。現在、予備の分は6体の修理分と、丸一体分の生地ぐらいだ
つまりは、この6体のスーツを使うしかない。
その時あかりが
「・・・完全封印が優先です・・・」
その直後、ケロ助が胸を張るようにパイプ椅子の座面に立った。
「完全封印!早よせんとあかんがな!」
とお腹のスピーカを鳴らす。
!?初めて知った・・・
あかりの言葉と内容は同じだが
単語の選択、ニュアンスと口調は別モノなのだ
「まあ、あかりちゃんとケロ助の言うとるように『完全封印』は絶対条件や」
柳生先生の言葉に、全員“仕方ない”と思うしかない。
あかりに関してはスーツの件は最初から反対していない。
奏もミドも既に納得せざるえんだようだ。残るは耕平、やみくもにうるさい霞、そして反対派の先頭切ってるのが穂波だ。
「そのうち、流行りのヒーローみたいに、かっこようしたるさかい!」
「いつですか?来週ですか?来月ですか?」
柳生先生に、くってかかる。
「恐竜さん、あんな可愛いのにね?ねえ、ケロ助」
この論争、あかりにとってはどこ吹く風のようだ。
「その〜、腹減ったんですけど・・・明日も早いし」
耕平は小さく手のひらを上げ、この空気に割って入った。
…上手く読んだな!耕平グッジョブ!…
ミドは心の中で耕平にサムズアップした。
「んじゃ、今日の授業はここまで!解散!・・・では!」
授業ちゃうし!とツっこみたいがバタッとドアの音が響き、部屋にはもう居ない。階段を登る音だけが響く
「逃げられた!」
穂波が舌打ちをした。
…やっと今日は終わった・・・…
5人の本心は思わずシンクロした。
翌日、柳家の宿泊している部屋の窓を開け、ぼんやり空を見ている。穂波とあかりは同室にしてもらった。ご主人の好意で割安に宿泊させてもらっているとはいえ、学生の出せる金額ではやはり辛い。
「どうにかしたいな・・・」
s
あかりの場合は、巫女としての使命でもあり、桃井家が支払ってくれているようだ。この立場の違いは埋まるはずもない。
…一人で散歩でも行くか・・・…
あかりはケロ助とカブで出かけたようで、キーとヘルメットは部屋にない。
階段を降り、玄関先を掃除していた若い青年に
「ちょっと出かけてきます」
と声をかける。
「はい、行ってらっしゃい」
若い男性が、玄関を掃除しながら見送る。よく見るので、ここの息子さんだろうか?多分、年齢は同じぐらいだろう・・・。
表通りを歩く穂波。空は曇っているが雨の降る気配は無い、昼食まで時間があるし、どこを散歩しようかと悩む。
右手には日本酒のメーカーの看板が付いた二階建ての商店があった。
何屋さんなのだろう?好奇心にかられるも、入店する勇気はない。後ろ髪を少し引かれながらも、通りすぎてゆっくり歩く。その道は左に湾曲している。
しばらくすると、壁面に横一文字につけられた回るサインポール。その下には散髪屋の文字。
なぜか『美味しいコーヒー』と小さな看板がウインドウに貼ってある
おやっさんの店だ。
サインポールが回っているから、中におやっさんは居るのだろう。
背伸びしたり、しゃがんだりして中の様子を伺う。
…他人目から見ると絶対に怪しいな…
我に帰る穂波の背後から
「怪しい娘がおる・・・」
ジョウロ持って、ツナギ姿では無いおやっさんがいた
「あーびっくりした!?」
「一人か?どないしたんや?散髪したろか?」
「いやいや、ちゃいますって?」
スポーツ刈りにでもされたら、たまったモンやないわ〜
心の中で穂波は焦る。
「冗談はさておいてやな、昨夜、柳生相手にエライ食らいついったったらしいな、ハハハ」
「いやいや・・・って、誰から聞いたんですか?」
「霞や、霞!今朝なぁ店開けとる時にカブで寄って、跨いだままそれだけ喋って走っていったわ」
穂波は額に手を当て
…アヤツは噂好きのスピーカーおばさんか?…
「あのティラのスーツの形の事やったんやろ?」
おやっさんは、店内の待合へと手で示し入るように促す
「アイスコーヒー飲むか?」
冷蔵庫から2リットルのペットボトルを出し、大きなガラスコップへとドバドバ注ぐ。
「あのスーツなぁ、初めて見たとき冗談か思たわワハハ」
「なんでその時に止めへんだんですか?」
「まあ、昔話も交えてやが、聞いたってくれるか・・・?」
おやっさんは食い下がろうとした穂波を静止し、声のトーンを切り替えて言葉を選ぶ様に話し出した。
「ワシの親父ってのが、電気の技術屋やったんや!都会の電気の学校卒業してな、大手企業の研究所でかなりええとこまでいっとたらしいわ。
ところが、その親父の親父、わしの祖父やな、倒れてしもたんや。急にここに帰ることになったと聞いとる」
開いた店の扉から、爽やかな風が入る。
「電気関係の専門的な研究の仕事したい親父やったんやけど、田舎だけに個人で電気屋するぐらいしかのうてな。
ほれ、カブの置いてあった建物、あれが電気屋やったんや」
穂波は思い出した。ケースの上には蓄音機とセットのミニチュアの犬・・・、
その後ろにはダイヤルチューニングのラジオもあった。
「そうだったんですね」
…どう話がつながるのだろう…
穂波は思考を巡らせる
おやっさんがまた言葉を紡ぐ。
「今の話のワシの親父も、自分ら(君ら)6人が言う『先代』の一人やったんや。当時。柳生の親父とごっつ仲良ぉしててな、毎晩、毎晩地下行っては、研究やら開発、建造しとった。
そんな日が何年も続いてや、柳生の親父さんのファイルに書いてあったやろ?あの『半封印の日』が来たんや」
その言葉に、あのファイルを内容が穂波の頭に蘇る。
「確か・・・そこに居た関係者は、生命力を吸い取られたように・・・」
「そうや、ワシの親父も例外や無かったんや」
おやっさんは遠い目で
「その日、柳生はまだ小学生やったけど、その真っ最中に現場の展望台に着いたとこやったんよ!母親に言われて、皆の分の夜食のおにぎり持ってな・・・。」
「初めて聞きました・・・」
「柳生のあの髪の色、その時のDジェネレーター影響らしいねん、万一もっと近くまで行っとったら・・・」
ファイルの中の光景を想像するだけでも恐ろしいのに、更にこんな事まであったとは。
「白い髪・・・そうやったんですか?」
「柳生はな、髪の色は『あの日の事を決して忘れへんための戒め』やと思ってる。鏡に映るたび、悲しい目する時があんねん」
なんか少し思ってたんと違う・・・、表向きに見えるあの性格の軽さは何?
穂波が次を考える間も無くおやっさんが続ける。
「子供の柳生はな、『半封印』の直後に地下の階段降りたらしい。
そしたらな、大きく壁は破れて、虫の息の柳生の親父が操作パネルの前で倒れとったらしい。ワシらの親父らは、意識不明で重なり合うように床に突っ伏しとったんやと。全員一気に痩せ細って、髪の毛は真っ白になってな・・・
やけど、今ままで動かへんだDジェネレーターだけが正常に作動して光っとったんやと・・・。
そんな光景、小学生が一人で見てみ
どえらいショックやろ?」
「・・・・・・」
「こっからが本題やが、あのスーツ
テスト機入れて何代目や思う・・・?」
「え?想像つかないです」
穂波が答えるやいなや
「確か6代目や、随分色々と手伝どうたから・・・ワシの役目は計器見るんと記録が役目やったが、答えのない問題を解いとるもんみたいやったわ」
開発ってそんなことするんだと初めて知る。
「柳生は、着る者の安全性と耐久性ばかり考えてな!ある時からな、柳生がスーツ着て、電流やら、衝撃やら浴びせる機械のスイッチを、ワシに何回も押させるんや。
もう一回、もう一回、てな!真剣な目でうったえるんや!スイッチを押すたびに柳生の体に傷が増えていくんや・・・、こっちも敵わんぞ」
想像を超える過去の話だった、数秒の沈黙があり、おやっさんはまた口を開く
「親父のあの日みたいな出来事が、二度と起きんようにと思たんやろ
しかしなあ『光の核』持ってない人間が実際スーツ着てテストするんは、生き地獄やで、傷だらけになりながら暑いわ、呼吸すらもまともにできへん中で続けるんや」
穂波は左右の手のひらで顔を覆い俯く。
「親父らのみたいな『危ない目』は俺だけでええ言うて、柳生一人だけで背負いよった。そやのにな、ワシは親父らの一件で「安全な仕事しなさい!」とお袋に言われてしもて、散髪屋になった。いや、逃げてしもたんや・・・柳生一人に押し付けてな・・・」
穂波はすっかり口を閉ざした。
答える言葉が何一つ見つからないまま、ふと自分の生い立ちを考える。
穂波は兵庫の中でも、裕福な家が集まる地域で生まれ育った。小さい頃からどんな成果を上げても、親のおかげ、血統のおかげと言われ続けてきた。
早く親元離れ、自分だけの力でやっていこうとした。勉強も人一倍頑張り、沢山の友人も作った。
だが、進学した学校が和歌山市内の母の地元だった事で、マンションの近所にも母親の身内が沢山いた。このままでは、親の影から離れることができないと思っていた。
だが振り返れば、穂波はただの『承認欲求』のだったのだと思えた。
柳生先生は父親を失った時から、誰の賞賛も得ることのない事を、人知れず続けてきてくれたのだ。
いや、今もずっと・・・。
「おやっさん、私・・・」
「まあええやないか、チョットづつでもええから、アイツ理解したってな」
穂波のしょげる顔見て、おやっさんは内心困った・・・
…しもた、やってもうたか!? そや!『昨日考えた提案』に話題を変えよう!…
「穂波ちゃん、柳家ではあんばいしてもうとるか?」
「はい、ものすごく」
「せやけど、毎日お金かかるわな」
「そうなんです、親にだけは泣きつきたくないので、高校の時のアルバイトで貯めたお金で、今は賄ってるんですけど」
おやっさんはポンと手を打ち
「電気屋の二階使うか?、自分で炊事、洗濯と掃除するんやったらやけどな
風呂もトイレもエアコンもあるし、家賃は光熱費込みのニ万五千円でどないや」
おやっさんの暗算は、使うであろう電気代とガス代と水道代等の、支払いコストのみの足し算だった
「ホンマですか?是非♪」
「わーった、今晩うちの嫁にも聞いとくさかい!世話好きなヤツやから、アカンとは言わんやろけどな」
「そや、あかりちゃんにも、ちゃんと承諾もろときや」
既に穂波の耳に届かない、キラキラした目でもう違うところを見ている。
…食材はあらぎショッピングセンターで買い物できるし!温泉も行ってみたいし…
穂波にとっては、ここは“私だけを認めてくれる人達が居る場所”と感じていたのだ。
「おいって、聞いとんのか?」
「はい、今すぐ承諾貰ってきます」
椅子から立ち上がり、外に飛び出す穂波。
…多分、上の空やな・・・しかし・・・あの切り替わり方は、まるで柳生や…
おやっさんは大きく息を吐き、天井をゆっくりと見上げた。
…柳生よ、お前の後方支援・・・俺なりにやっていくさかいな・・・…
深々とかけた椅子の上、心の声でつぶやいた。曇っているが、舞い込む風が心地よい日だった・・・。




