振り回されて移住
約束の駐車場に集合した翌日の日曜。
午前10時は少し過ぎただろうか・・・
耕平と霞は早朝からの農作業の合間の時間である。穂波とあかりは民宿に柳生先生が迎えに行った。というか隣だ。ミドと奏はそれぞれの車で現地にやってきた。
「さて、昨日はお疲れであると思うが、概ねの事情は飲み込んでもらったかな?『闇の核』の『半封印』が緩んできて危険なので、全員あらぎ島の周辺に居てもらいたいんだが!ただ期限が全く言えない・・・」
「僕ら地元民の三人は問題ないですが、後の三人は・・・」
ミドの言葉に
「私はこれがお役目なので」
小さな声であかりが言った、穂波も
「しばらくは研究って事で学校通じるかな?」
「僕はこれから一人旅に出ようかと思ってただけやから」
奏も居るという答えのようだ
「みんなありがとう、『半封印』を『封印』まで持っていこな! それでや、あかりちゃん!」
柳生先生は大きめのリュックを車から下ろした。地面に置き、上部のジッパーを開いた。中で何かが光った、更に動いた!?
「えっ!?えっ!?」
あかりが後退りする
「ケロっ」
リュックから、緑色の何かが手足を器用に使い出て来た。
「何?なんなの?」
「僕、ケロ助です」
二足歩行のカエルのペットロボ(?)が声を出す。お腹には丸いスピーカーが付いている。今の声はここから出たのか?
「先生、これは?」
穂波は不思議そうに柳生先生に聞く。自慢げに胸を張って柳生先生は
「これは現在の科学と親父の残したファイルの技術を、ちょこっと拝借して作ったAIロボや!声の小さい家系のあかりちゃんサポート用や」
ケロ助はヨチヨチとあかりに近づき
「僕、ケロ助、あかりちゃん?」
「そ、そうです」
引き気味にあかりは返事すると
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「かっ!かわいい!」
あかりはケロ助を抱き上げ、さっきまでとはうって変わって気に入ったようだ。柳生先生は心の中で
…子供の頃のままやな〜…
照れたように頬を人差し指で掻く。
「あかりちゃんのサポート用や、まあそれに関係なく可愛がったってや」
「ありがとうございます♪」
あかりはニッコリ笑って言った
「もう一つ、穂波ちゃん、あかりちゃん、霞、三人共!さしあたっての移動の足ないやろ?」
「俺、大きいバイク持ってる」
霞は手を挙げ元気よく答えるが
「ハイハイ・・・、すでに車検切れのな!ウチで車検代貯めるのにバイト中やろが?」
耕平の秒のツッコミに全員が笑う。
「ここらはな、電車はないし、バスの本数少ないし、車かバイクは必須やねん。でな原付カブやったら最速のアテあんねん」
「カブは乗った事ないけど・・・」
答える穂波の後ろで、ケロ助を抱えたあかりが無言で、私も同じと小さく手を挙げた。
「なんや、俺が教えたるやん」
霞は張り切って立ったが、全員にナチュラルスルーされた。
「ほなカブ組の三人とも行こか〜おい耕平、田にもどるんやろ?ミド!この辺の地理やらスーパーの場所と営業時間を奏くんに教えたってや」
それだけ言うと軽バンに四人で乗こんで走り去っていった
あらぎ島から車に乗って約10分、役場近くの散髪屋の前に到着した。そこにはラチェットを持ち、カブの前でしゃがむ人影があった。営業時間内に入口前でツナギを着ているが、もしや店主だろうか?柳生先生は、三人を乗せてきたクルマを止める。
窓をクルクルっと開け
「先輩!」
そのツナギの男に声をかけた。年齢は60才ちょい過ぎだろうか?
「柳生!お前なぁ~、また急に来よったな。先に連絡ぐらいせんか!」
「まあまあ、先輩!みんな、紹介するわ!おやっさんや」
その時、ヒョこっとケロ助があかりの影から顔を出す。
「こんにちは。初めましてやな、オイヤン」
その一言で、おやっさんは目が点になり固まった
「……おい柳生。」
首だけが、油が切れた歯車のように、カタカタと首だけ柳生先生の方を向く
「はい?!先輩。」
「この声……もしやウチの嫁の声やないんか?」
「いや、AIのサンプリングなんで別物です……」
堂々と言い返す柳生先生だが
「このエンジン音・・・オイヤン、キャブの調整が甘いぞ」
ケロ助が整備中のバイクを指差し、ダメ出しをした。
「その声で言うな~~!!毎日その声で怒られとんや!!」
頭を抱えてしゃがみ込む。
「…ケロ助、怒らせちゃダメよ…?」
と小声であかりはケロ助を嗜める。
「事実を述べただけなのですが」
おやっさんは両耳を塞ぎ、大きな声で
「嫁の声やから、怒ってるんや!!」
穂波が目を丸くし
「えっ……ケロ助の声って……?」
霞は無表情で
「確かにおやっさんの……奥さんやな……?」
柳生先生は腕を組みながら
「・・・仕方無く、そういうことやねん・・・」
おやっさんは立ち上がり
「柳生!お前なぁ~、なんで嫁の声を、このカエルに入れとんねん!!」
柳生先生は焦りながら、
「こんなん頼める女性の知り合い、僕にはおらへんので……」
おやっさんは火の付いたように
「せやかて、よりにもよってウチの嫁って・・・」
おやっさんは続けて
「そらお前は顔はイケとるが、機械オタクが行き過ぎて女の子に敬遠されとるのは知っとる!」
「オイヤン、落ち着けさ」
秒でケロ助に静止される
「オイヤンって、口調まで一緒かい!!」
と声を張り上げ、頭から湯気が出そうに成るおやっさんだった。穂波は焦りながら
「……すごいキャラ……」
あかりも
「ケロ助の声が……」
霞は呆れて
「まあ、いつものことやけど・・・」
柳生は話題を切り替えようと
「ところで先輩!カブ3台ですが、最速で用意でけます?」
「カブ3台か・・・この子らのやろ?」
おやっさんは困ったような表情で
「倉庫にちょうど3台ある、半年ぐらい前から、嫁に内緒で買うとったんやが・・・」
「そんなぎょうさん、内緒で買うとったんか?なぁ・・・オイヤン・・・!」
ケロ助が言う
「・・・その声で言うな、心臓に悪い・・・」
おやっさんが自分の胸を撫でながら
「ピンクのカウルのが一台、イエローのが一台、あとは昔ながらの濃いグリーン」
「まるで待ってたように?ピンクとイエローですね」
「なんかバイク屋で見たら、買うとかなあかんと思って!?ピンクとイエロー?待ってたようにってどういう意味や?」
「次世代のソーリュージャーが現れたんですよ!ピンクやイエローどころか、六人とも全員集合ですよ」
柳生先生の言葉に、おやっさんは歓喜した
「親父らの想いがやっと叶うんか!ということは、この子ら二人が・・・」
「ピンクの桃井あかりちゃんと、イエローの黄山穂波ちゃんです!」
「ウエルカム!あらぎ島や、めでたいめでたい!ん・・・今の話では、まだ他におるんとちゃうんか?」
「おりますやん、ここに・・・」
両手で霞の背中を押し一歩前に出す
「ただの付き添いと違うたんか?」
「実はホワイトなんです」
「なにぃ!・・・まあソーリューが選んだんや、なんかの才能あるんやろ・・・」
霞に背を向け、二人の大人は釈然としていない。
「さてカブは、古い方の店にある!ついてきて」
おやっさんが先頭を歩き出す。皆は後に続く。店の前の通りを歩き、路地に入って裏通りに出た。立ち止まった目前には、二階建ての店舗ようにシャッターが付いている建物があった。
二階は住まいになっているのだろうか、エアコンの室外機と、物干しがついている。
シャッターの鍵を回し、ガラガラと開けた。元々電気屋だったのか?蓄音機の前で首を傾けた犬の置物がある
「入って・・・」
おやっさんは先に歩き、四人は後ろに続いた。今も使っているのだろうか、埃が被っているわけでもなく小綺麗に整頓されている。奥には何台かバイクらしきモノがカバーされている。その上にかかった薄手のバイクカバーをゴソゴソと取り始めた。現れたのはイエローのカブ、その横にはピンクのカブ、その奥にはモスグリーンのカブだ。
「これがカブ?学校の駐輪場では見た事あるけど」
穂波が珍しそうに眺めながら言った
「俺は渋グリーンのカブか?」
霞が不服そうに言う。
「じきに白の塗装したる」
そこへ柳生先生が
「先輩、このピンクのカブ、今夜一晩だけ預かってええですか?」
「何か企んどるな!?」
「ケロ助と繋げろか思って・・・!
ところで、あかりちゃんはスクーターやバイクって乗った事ある?」
「全くないです、自転車も怖くって」
「うん、ちょうどええかもや!
穂波ちゃんはバイク乗った事は?」
「時々、お父さんの古いDT50を借りて・・・」
穂波の答えに、すかさずおやっさんが
「ほー立派や、お父さんも好きもんやな!ガハハ」
「そうかもです・・・ハハハ」
穂波はつられて苦笑いする、そこへ霞が
「俺はこれぐらいチョチョイのチョイで乗れるで」
「お前には聞いとらんわい、そういやお前、最近バイク乗ってないな」
おやっさんの返答に
「ハハハ、ちょっと」
頭をかきながら返答する霞
「そしたら先輩、あかりちゃん、ピンクのカブは今夜借りるで」
あかりは不安そうに柳生先生を見て
「ケロ助も?」
「そう今日わは、うちに連れて帰るけど、明日からは あかりちゃんと一緒やで!ケロ助行くぞ」
前カゴにケロ助を乗せて。ヘルメットを被りピンクカブで走り去る柳生先生。後ろ姿が嬉しそうに見えたのは。絶対気のせいではないだろう。そのまま取り残される四人、白いバンも駐車場に置きっ放しだ。
「あいつ、機械からむと周り見えんからな・・・」
ため息つくおやっさん
「モテない訳・・・わかった気がする・・・」
穂波は呆れた顔で呟いた。
「霞、ウチのプレオ貸したるさかい、どこへか知らんがお嬢さんら二人送ったれ」
「ヘーイ、そのかわり俺のカブ、めっちゃかっこようしといてな」
「まあ適当に任しとき、穂波ちゃんのイエローカブもちゃんとしとくさかいな」
「お願いします」
あかりと穂波は、おやっさんに頭を下げ車に乗り込む。二人とも行儀のええ子らや・・・。
車を見送るおやっさんは、どこかほっこりしていた。




