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黒翼の英雄〜羽撃け名もなき空へ 〜  作者: ぺぺ


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目覚め

帝国情報局。

帝都地下深部。

地上の喧騒から完全に隔絶されたその施設には、国家最高機密に分類される情報だけが集められていた。

分厚い隔壁、無数の暗号化端末、何重にも張り巡らされた警備システム。

その中心に、一人の男が立っていた。

帝国情報局局長。

エルンスト・カナリス。

彼は巨大なモニターへ映し出された映像を、微動だにせず見つめていた。

そこに映っているのは、一機の黒い戦闘機。

F-15Λ。

そして、その機体が記録した戦闘データ。

通常ならば、誰も理解できないような数値の羅列。

加速度、旋回率、G負荷、反応速度、人間の限界を遥かに超えた機動記録。

それを見た瞬間、カナリスの口元は、わずかに歪んでいた。

歓喜。

それは研究者が未知の領域へ踏み込んだ時の表情だった。

「……素晴らしい」

誰に向けた言葉でもない。

ただ、漏れ出た本音。

「長官」

後ろに控えていた情報局員が報告書を手に口を開く。

「一部データが損傷、または消失しています」

「戦闘時の高熱負荷による記録媒体の破損」

「電子妨害による通信ログの欠損」

「さらに機体損傷によって、一部センサー及び記録回路が焼き切れていると前線整備班から報告が上がっています」

カナリスは画面から視線を外さない。

「問題ないだろう」

「しかし……」

「これほどのデータだ」

静かな声。

だが、その奥には抑えきれない興奮があった。

「失われた部分など些細な問題だ」

「これだけで十分だ」

情報局員は一瞬黙る。

だが、まだ言うべきことが残っていた。

「ですが……一番重要な部分が」

「……」

「中尉の身体反応データ」

「戦闘中、一部が完全に異常値を示しています」

「通常のパイロットでは説明できません」

カナリスはゆっくり振り返った。

冷たい目。

しかし、その瞳には狂気にも似た期待が宿っていた。

「問題ない」

「はっ……」

「むしろ、それこそが必要だった」

カナリスは再び画面を見る。

そこには黒翼が二機の強敵を相手に、空を支配する姿が映っていた。

「ラグナー……」

小さく呟く。

「その力を受け継ぐ者」

「彼を実験対象に選んだのは……」

「どうやら正解だったようだな」

沈黙。

誰も言葉を返せない。

帝国情報局。

その名を知る者は多い。

だが、その本当の目的を知る者は少ない。

表向きは情報収集機関。

裏では帝国が抱えるあらゆる秘密を管理する組織。

そして彼らが長年追い続けていたもの。

それは――。

英雄いや、英雄という存在を超えた、人類の限界点。

カナリスは机の上に置かれた古い資料へ視線を落とす。

そこには一枚の写真。

若き日の伝説のパイロット。

そして、その隣に残された記録。

「ラグナーの血を引く者」

「黒い翼を持つ者」

「空に選ばれた存在」

カナリスは静かに笑った。

「ようやくだ……」

「長かった」

窓のない地下施設。

それでも彼には見えていた。

遥か遠く世界の空で眠っていた何かが目を覚ます光景が。

「始まるぞ」

カナリスは誰に言うでもなく呟く。

「ようやく……」

「本当の化け物たちが目を覚ます」

その瞬間、世界各地で、まだ知らぬ者たちが空を見上げていた。

全員が同じ空へ引き寄せられていく。

一羽の黒い翼によって。

そして情報局局長だけが知っていた。

これは始まりに過ぎない。

黒翼という存在は、ただの英雄ではない。

世界中の怪物たちを呼び起こす巨大な嵐の中心なのだ。


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