孤独なパイロット
艦橋の記録室。 指揮官たちが彼を迎える。報告を求められた彼は、ようやく椅子に沈み込み、血の気の失せた唇から言葉を絞り出す。
「私以外は全機撃墜されました...」
「何を言っているんだ、君たちが乗っていたのは我がヴェルテクス連邦の誇る最新のステルス攻撃機だぞ
他の作戦では一機も撃墜されていなかったんだぞ!!」
モニターにはパイロットの持ち帰ったデータ及びカメラ映像が映し出されていた
戦闘映像の中で、黒い機影が一閃し、最新鋭機を次々に撃墜されていく様子が映し出される。
それはまるで悪夢の再現だった。
「何だ、この異様な黒さの機体は...」
「レーダー反応ゼロ……赤外線もカットされて……」
「いや、光学でも確認できない……!」
艦内にいる誰もがこの機体を説明することができない。データ上では人間が行うことのできないような凄まじいGを掛けて飛ぶ、レーダーでは捉えることすらできない。
「...撤退だ」
「え?」
「我が艦隊は想定外の脅威目標と接触した、この機体の情報を急いで本国に届けなければ」
この異形な機体は、ここから世界へと知られていく。
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空はまだ夜の帳に包まれていた。 滑走路の誘導灯が点滅を繰り返す中、真っ黒な機影がゆっくりと母基地へ接近してくる。
管制塔の無線は静かだった。誰もがその機影に声をかけることを躊躇していた。
着陸灯が滑走路を照らし、F-15Λがまるで羽のように柔らかく降り立つ。 そのすべての動作には迷いがなかった。過不足も、感情もない。 あくまで静かに、冷たく、戦場から帰ってきた。
機内――。 カイ・ラグナー中尉は何も喋らない。無線も、報告も。 だが、その沈黙は何も考えていないからではない。むしろその逆――彼の思考は、極限まで研ぎ澄まされていた。
(機体反応、通常範囲内……第4主翼の稼働域、3%以内の誤差。エンジン圧力、標準偏差2.2。出力保持、誤差範囲内。問題なし)
彼の思考は機械的だった。 人間というより、冷静な処理装置。
(敵の飛び方はマニュアルに忠実。感情に引っ張られる軌道。全体的に反応は秒遅い。致命的だった)
(次も同じなら、同様に制圧可能……が、今後の対応機はバリエーションが増すはず。自律戦闘型AIとの接続が予測される。対応パターンの拡張を要す)
キャノピーが開かれた。 黒い飛行服に包まれた彼の姿が、滑走路の光の中に浮かび上がる。 彼の動きに無駄はなかった。ただ立ち上がり、はしごを伝って降りる。 格納庫前、整備班の者たちがただ見つめていた。誰も声をかけない。 声をかけるべきではないと、本能が告げていた。
そのまま、カイはゆっくりと基地通路へと向かう。 彼の背後では、誰もが固唾を飲みながらその姿を見送っていた。 まるで―― 今この瞬間から、「何か」が変わっていくような、得体の知れない予感と共に。
カイは一人、歩きながら空を仰いだ。 滑走路の明かりの向こう――まだ暗い夜の空が広がっている。そこに、何もない虚空。敵もいなければ、光もない。
だが彼の胸には、薄く冷たい虚無感だけが残っていた。
(俺は何のために空を飛んでいるんだ...)
F-15Λの帰還からわずか20分。 冷却を終えた機体は専門チームに引き渡され、カイは直ちにこの司令室へ通された。
司令室に入った瞬間、基地司令官がカイを出迎えた
「中尉、よくやってくれた」
「私は任務をこなしただけです。」
蛍光灯の光も届かない静寂の中―― 彼はただ椅子に座っていた。無言のまま、姿勢ひとつ崩さずに。 部屋の壁には一面のスクリーン。 F-15Λが記録したフライトログ、敵機との交戦ログ、索敵情報、通信傍受記録。
報告書には、非現実的とすら言える数値の羅列が並ぶ。 現代の航空戦ではまず見られない、一方的な戦闘結果。
「中尉」
ようやく一人の高官が口を開いた。 その声には、評価でも賞賛でもなく――ただ、困惑が混じっていた。 「……敵は帝国側で確認されていなかった新型だ。
貴官は、それら6機を全くの無傷で撃墜してきた。
何か、特筆すべき印象はあるか?」
カイは答えなかった。 ほんの数秒、視線を落とし、それから口を開いた。
「……特にありません」
「敵の動きに意外性は?」
「予測範囲内です」
「戦術に変化は?」
「ありません」
「危険と判断した瞬間は?」
「――ありません」
短い。 だがそのすべてに、完璧な裏付けと冷静さがあった。 誰もが口を噤んだ。
「――…なるほど」
報告をまとめる士官が、無理に平静を装って言う。
だがその背後では、すでに別の空気が生まれていた。 壁際の影に立っていた男たち。
その制服は帝国軍のどの軍服とも違うその服は情報局の物
彼らの視線は、F-15Λの搭乗記録だけではなく―― それを操ったパイロットそのものに向けられていた。
カイ・ラグナー中尉。 沈黙を貫くその瞳の奥に、「戦場を測る」何かを見たのだろう。
それは、単なる優秀なパイロットの目ではない。
孤独な目をしていた。




