アレンの続き
次の日。
アレンは指定された場所へ来ていた。
帝都郊外の丘陵地帯を切り開くように広がる巨大な墓苑。
天気は晴天だった。
雲ひとつない蒼空。
風が吹き抜けるたび、並んだ帝国旗が低く波打つ。
無数の墓標の上で、それらは静かに揺れていた。
広い敷地の果まで白い石碑が並び続けている。
そこに眠るのは戦争で死んだ者たち、名も残った者、残らなかった者。
その全てを飲み込むような静けさがあった。
「よぉ、来たか」
聞き覚えのある声にアレンが振り向く。
男はベンチへ腰掛けていた。
男が羽織っているのは昨日と同じ黒いコート。
だが今日は帽子を被っていない。
男の金色の髪が風に揺れている。
男は隣の墓標を見つめたまま、動かなかった。
「ここは、俺の始まりの場所だ」
アレンはゆっくり近づき墓標を見た。
エリス・フェルシア。
その名前の下に、小さく帝国空軍の紋章が刻まれていた。
男は目を細める。
「俺の親友だよ
俺と同じように、同期の連中はみんなアイツを目標にして空を駆けた」
風が吹き遠くで鐘の音が鳴った。
「カイの隣に並び立つ」
男は昔を懐かしむみたいに少し笑う。
「それだけで十分だった」
アレンは黙って聞いていた。
墓標の前には、古びた銀翼章が供えられている。
空軍士官学校の徽章。
擦り切れるほど触られていた。
「あの日まで」
そして。
「エリスは、あの日死んだ」
静かな言葉だった。
だが、どこか刃みたいだった。
男はゆっくり続ける。
「いや……正確には違う」
ブラットレッドの瞳が墓石へ落ちる。
「ここにいる同期たちは、俺たちが殺した」
アレンは息を呑む姿を男は笑わなかったそして誤魔化しもしなかった。
ただ事実を言うみたいに口にする。
「見殺しにしたんだ」
風が強く吹いた。
「助けを求められても……戻れなかった」
男の拳が僅かに震えていた。
「“助けてくれ”って」
声が掠れる。
「あの時のアイツらの声が、今でも耳から離れない」
長い沈黙だった。
墓地の空気は静かだった。
静かすぎて、それが逆に苦しかった。
男は深く息を吐きようやくアレンを見る。
その目はとても疲れた目だった。
「今日はどうする」
少しだけ口元を緩める。
「俺の話でもいいが……」
アレンは墓標を見つめた。
エリス・フェルシア。
知らない名前だが、その名前の向こうに。
死んでいった若者たちの姿が見える気がした。
夢を見ていた者たち、空を飛びたかった者たち、そして、帰れなかった者たち。
アレンはゆっくり息を吸う。
昨日、途中で止めた話、あの日の続きを、自分が何を見て、何を憎み、何を追い続けてきたのか全部、話さなければならないと思った。
「……私が話します」
男は何も言わずただ静かに頷いた。
風が吹き墓標の花弁が揺れる。
晴れた空は、どこまでも青かった。
あの日とは違って。
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