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黒翼の英雄〜羽撃け名もなき空へ 〜  作者: ぺぺ


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18/30

転属命令  

皇歴記一〇四八二年十月一日

夕暮れの基地は静まり返っていた。

飛行を終えた機体が格納庫へ収まり、整備兵たちは黙々と次の出撃に備えている。

その中を、カイは司令部棟へと歩いていた。

先ほど基地司令から呼び出しを受けたばかりだった。

重い扉を開けると、執務室では基地司令が机越しに待っていた。

壁には帝国旗と軍旗が掲げられ、窓の外には夕焼けに染まる飛行場が広がっている。

カイは一礼した。

「失礼します」

「入れ。」

カイは司令の前へ進み、直立した。

基地司令は一枚の命令書へ視線を落とし、それを手に取る。

「中尉、君に転属命令が出された。」

室内に静かな声が響く。

「転属先は、東部方面軍ネリバダス基地所属、第491部隊。」

それは最前線の基地だった。

基地司令は命令書を机へ置いた。

「明日の早朝、貴官には当該基地へ向かってもらう。」

部屋は再び静寂に包まれる。

カイは一瞬だけ命令書へ視線を向けた後、真っ直ぐ司令を見据えた。

「了解しました。」

基地司令は静かに頷いた。

「現地では詳細な任務説明が行われる。」

「本日中に引き継ぎと出発準備を済ませておけ。」

「了解。」

命令は、それだけだった。

カイは敬礼すると踵を返し、執務室を後にする。

背後で重厚な扉が静かに閉まり、その音だけが静まり返った司令部に響いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

格納庫の照明が、静かに黒い機体を照らしていた。

F-15Λは、そこに鎮座していた。

機体からは、まるで誰も近づけさせまいとするような空気が漂っている。

黒曜石を思わせる漆黒の機体表面は、照明の光さえ鈍く吸い込み、その輪郭だけが闇の中へぼんやりと浮かび上がっていた。

本来なら機体側面へ記される識別番号は存在しない。

部隊エンブレムもない、撃墜マークも、パーソナルマークすら描かれていなかった。

あるただ漆黒、それだけだった。

F-15Λは、そこにあるだけで周囲の空気を支配していた。

冷たく、静かに、そして誰も容易には近づけさせない、孤高の存在として。

整備兵たちも自然と一定の距離を保ち、必要な時以外は機体へ近寄ろうとしない。

その姿は、兵器というより鳥籠で眠る大鴉だった。

カイはゆっくりと歩み寄る。

規則正しい足音だけが格納庫へ響く。

やがて機首の前で足を止め、静かに見上げた。

漆黒の翼、鋭く伸びる機首。

それを見つめても、カイの表情は変わらない。

ただ、ダークブルーの瞳だけが黒い翼を静かに映していた。

この人も機体も、どこか似ていた。

誰にも心を開かずにただ空だけを見続けている。

カイはゆっくりと右手を伸ばし冷え切った主翼へ指先が触れる。

漆黒の塗装越しに伝わる金属の冷たさ。

その感触を確かめるように、静かに翼を撫でた。

この機体へ搭載された補助AI。

それは操縦を支える存在であると同時に、カイにとっては自由を縛る鎖でもあった。

思考を読み取り、操縦へ介入し、限界を制御する存在。

自らの翼でありながら、自らだけの翼ではない。

その事実を、カイは決して好いてはいなかった。

しかし――この機体だけが、今の自分の飛行に応えられる唯一の存在であることもまた事実だった。

人の限界を超える機動、極限の速度、常識を置き去りにする運動性能。

それらすべてを受け止められるのは、この黒い翼しか存在しない。

静かな格納庫で、一人と一機は向かい合う。

言葉はない。

それでも互いに何かを理解しているような、不思議な静寂だけが流れていた。

やがてカイは手を下ろし、踵を返す。

黒い翼は何も語らない。

ただ再び蒼穹の空へ解き放たれる瞬間を、静かに待ち続けていた。

〜お願い〜

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