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~クロイツ殿下視点~
お茶会の場は母上に任せて、俺たちは会場の近くの客間でユーリとアルトから事情を聞くことにした。その途中でお茶会での出来事を聞いた父上がリリーシアを心配して仕事そっちのけで現れたが・・・・・・俺の腕の中で泣き疲れて眠っているリリーシアを見て失礼なことを言った。
「こ、これはまた・・・・・・ブサイク・・・・・・だな」
「え、ええ」
「「う、うん。汚い」」
それに同意するガルシア前公爵夫人と、ユーリにアルトもどうかと思うぞ。
確かに眠っていても目が腫れているのが分かるし、眠っているくせにヒックヒックがまだ止まらない。今にもまた泣き出しそうだ。
でも、俺にはそのブサイクな顔も可愛く見えるのだが・・・・・・
「「「ブサイクだけど可愛い!!」」」
そ、そうだよな・・・・・・やっぱリリーシアだからな。
「クロイツ、鼻ぐらい拭いてやれよ。乾いてバリバリじゃないか」
「俺が背中を撫でるのを止めると泣くんだよ」
「ふふふっ、わたくしが拭きますわね」
用意された温かいタオルで泥と乾いた鼻水でバリバリになった顔が綺麗になった。
服がドロドロな原因はユーリとアルトから聞いている。何度も滑り台を滑り降り、楽しそうにはしゃいでいたからだそうだ。リリーシアらしい。ドロドロの服も早く着替えさせてやりたいが今は無理だな。
それにしても10歳近く離れたこんな小さな子をアイツらは・・・・・・許さん。リリーシアの肩のところに泥汚れとは違う種類の足跡を見つけた時は怒りでどうにかなりそうだった。
アイツらはこんな小さな・・・・・・ちょっと突き飛ばしただけでも転んでしまう幼女を蹴った。と、足跡が語っている。
「今回の件に関わった令嬢たちにも聞き取りを行っているが、彼女たちがクロイツの婚約者になることは絶対にないから安心しろ」
当然だ。小さな子相手にこんな仕打ちをするような鬼畜女を選ぶわけがない。
自分より大きな人間に囲まれて見下ろされるなんて怖かっただろうに。
リリーシアの小さな手が俺の上着を掴んで離さない。
少し意地悪をしたせいか、リリーシアが常に俺を警戒しているのには気付いていた。
いつも俺が抱き上げると呆れたような顔をする生意気なリリーシア。
そのリリーシアが俺に助けてくれと手を伸ばしてきた。
今まで一度も自分から俺に手を伸ばしてこなかったリリーシアが初めて俺の名を呼んでだ。
どれだけ怖い思いをしたのか・・・・・・俺が着いた時には顔色は真っ青で怯え震えていた。
『うぅ~・・・・・・く、くろいちゅ~』
俺と同じロイヤルブルーの大きな瞳に涙を溜めて、俺に向けて助けを求めてきた小さな手。
もっと早く助けを求めてくれていたら・・・・・・
安心しろ。もう、二度と怖い思いなんかさせないからな。
お前に俺が必要でなくなるまでは・・・・・・お前を守れる男が現れるまでは・・・・・・俺が守ってやるからな。
まだ俺の上着をしっかり掴んで眠るリリーシア。
ふっ、本当にブサイクで可愛いな。
目を覚ましたリリーシアが令嬢らしくないぶっ飛んだ決意表明を発した。
ガルシア前公爵夫人は悲鳴をあげ、ユーリとアルトは喜び、父上は魂の抜けたような表情で遠くを見ていたのはきっとリリーシアの母親が関係していたのだろう。
◇◇◇◇◇
「あたち、つおくなる!きちだんにあいりゅ!」
そう、私は考えたのだ。
いくら前世の記憶と、前回の記憶があったとしても結局は弱いままだと同じ状況になった時に抵抗することも出来ないと。
ならどうするか。
そんなのは簡単だ自分が強くなるしかないではないか!
私の宣言にお婆様は悲鳴を上げ、兄様たちは応援すると喜んでくれた。何故か陛下だけが変な顔をしていたけれど、クロイツ殿下もいつもの片口角をあげて「音を上げるなよ」と激励? してくれた。
そうそう、思い出すのも恥ずかしいが、あの日大泣きしたことはすっかり忘れたフリをして、シレ~と何事もなかったことにしている。
あの令嬢たちがどうなったかは・・・・・・多少怒られた程度で済めばいいけれど、最悪・・・・・・怖くて考えたくないのだ。
幼い年齢であれば怒られて謝れば許されたかもしれない。でもあの令嬢たちの年齢を考えるとね。
それも王宮で! 王子の婚約者を選ぶ場かもしれない場所で! 王家とも縁のある幼女! を虐めちゃうとね・・・・・・ゴメンでは済まされないよね。
・・・・・・やっぱこれ以上考えるのは止めよう。
それでだ!
今日は王宮にある騎士団の練習場にお邪魔している。
この国は性別に関係なく幼児部、少年部、青年部と別れて練習に参加できるシステムがあるらしい。練習に性別は関係ないって凄くない?
昨日はワクワクし過ぎて眠れないのかと思えばそんなことはなかった。しっかり眠れた。だって幼児だもん!
そうそう、出かける間際まで反対していたお婆様も諦めたのか、条件付きで参加を許してくれた。その条件というのが、髪を1つに纏めるというものだった。いわゆるお団子だ。
確かに三つ編みとかに纏めても長い髪は邪魔になるもの。
服装はアルト兄様は6歳といえ小柄なので、去年着ていた服を譲ってもらった。これこれ! これよ!ズボンよ!動きやすい!
前世の日本ではスカートなんて何年履いてないんだってくらいパンツ派だった。
さあ!準備もできたし出発だ~!
今日はお婆様同伴で少年部にユーリ兄様とアルト兄様。私は幼児部に参加だ。
兄様たちは私が参加する前から定期的に通っていたそうで、馬車に乗っている間に練習の内容を教えてくれた。
2人に案内してもらった先には大きいお兄様方から小さい幼児までが勢揃いしていた。どうも練習場は各部ごとに分けられているらしい。ここで兄様たちとは一旦別れてそれぞれの練習場に向かった。
幼児部に近付くにつれ、何故かお婆様のお顔がどんどん厳しいものに変わっていった。
・・・・・・なぜ?
幼児部の練習場に着くと騎士様たちの視線が集まった。・・・・・・ん?なんで皆んな驚いた顔をしているの?すっごい凝視されているんですけど・・・・・・それに顔色の悪い人もいる。
その理由を知るのはもう少し先のことだけど、原因はやっぱりお母様だった。
あの、儚く守ってあげたくなるような、それでいて美しかったお母様は実はとんでもない人だった・・・・・・




