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すりすり・・・・・・すりすり・・・・・・しっとりしてて柔らかくてすべすべで気持ちいい~
あまりの気持ち良さに嫌がらせのことはすっかり頭から抜けていた。けれど、時間が経てば冷静にもなる。ヨダレを擦り付けられているのにクロイツ殿下は文句どころかピクリとも動かないことに違和感が・・・・・・恐る恐る頬を離しクロイツ殿下を見ると・・・・・・
!! か、顔が怒りで真っ赤になっているではないか!それほどまで怒らせてしまったのか!
「あ、あのリリーシア様、そ、そのへんで・・・・・・」
そ、そうね。私も調子に乗りすぎたわ。
「ご、ごめんなしゃい」
うっ、反応がない。一応もう一度謝っておくか。
「ごめんなしゃい」
「・・・・・・あ、謝らなくていい。怒ってなどいない」
そ、そう?なら気にするのはやめるね。
「だが、罰として毎週ここに通うなら不敬罪には問わないこととしよう」
「え?いや」
つい口から本音がポロリと溢れた。
そして、クロイツ殿下のこめかみに青筋が立った・・・・・・
「わかったな?」
「・・・・・・」
控えていた従者の方と王宮侍女に助けを求めても、首を振って拒否されてしまった・・・・・・
「わかったな?」
「あぃ~」
半泣きだよ!必殺幼児の無垢な瞳でうるうると見つめてもクロイツ殿下には通じなかった。
ふっ、と片口角が上がった彼が悪魔に見えた。
こうして問答無用で私の王宮通いが始まったのだ。
それがまさか、オーギュスト王国に帰る日まで続くとは、この時の私は知らない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「リリーシアは王宮でクロイツ殿下と何をしているの?」
「おかちたべてりゅ」
「それだけ?」
「おちゃものんでりゅ」
「・・・・・・それだけ?」
「あい」
本当にそれだけなんだよ。
毎回、王宮の馬車が迎えに来てくれて、到着するとクロイツ殿下が待っていて、抱っこされるんだよ。お茶の席には、日によっては陛下や王妃様が居たり王女様が居たりするし、とても可愛がってくれているけれど、クロイツ殿下の膝の上が定位置なだけに動けないんだよね。
この間は一般に解放されている庭園を抱っこしたまま案内してくれたのよね。
ガルシア公爵家の庭園も手入れが行き届いていて素晴らしいけれど、やっぱり王宮はひと味もふた味も違ったわね。
あれ? もしかして・・・・・・私、王宮内を自力で歩いたことがない?
あ~もしかしなくてもそうだ。
次回からは自分で歩くって言おう。私だっていつまでも幼児な訳じゃないもんね。
それに、クロイツ殿下に抱っこされた私へのお姉様方の視線が痛かった。そりゃあそうだよね。
クロイツ殿下=次期国王。その伴侶に選ばれれば王妃の地位が約束されたも同然だもの、令嬢たちが狙わないわけがない。今は婚約者がいないクロイツ殿下だけど、そろそろ相手を決めなきゃならないものね。
でも、お姉様方冷静になって?私、幼児だよ?ライバルにもならないよ?それに他国の令嬢だよ?邪魔なんてしないから皆さん頑張って!
だいたいクロイツ殿下なんて腹黒、眼中に無いもの!
だから皆さん応援するよ!
そう思っていたのに・・・・・・
◇◇◇◇◇
早いものでマシェリア王国に来てから半年が経とうとしている。
ガルシア公爵家は皆が優しくとても安心できて居心地がいい。ユーリ兄様とアルト兄様とも仲良くやれている。
仲良くやれていると言うよりかは、本当の妹のように可愛がってもらっている。・・・・・・少し過保護過ぎるくらい構われている。それはお婆様と伯父様にも言えることだけどね。だから、すっかり私もこの環境にも慣れて伸び伸びと過ごすことができている。
自分らしく生きると決めてから、少しずつ甘えることも出来るようになった。
そんなある日、子供たちを集めて王宮でお茶会が開かれることになった。
たぶん、クロイツ殿下の婚約者選びなのではないかと密かに思っていたりする。まあ、招待された年齢は上は15歳から下は5歳らしいけれど、何故か4歳の私も招待された。
一応、12歳未満の令息令嬢は保護者の同伴が必須らしいけれど、ガルシア公爵家からはお婆様がユーリ兄様とアルト兄様、そして私の保護者として参加することになった。
ちなみに伯父様は仕事で不参加だ。
まだ友達の居ない私は少しだけ期待していたりする。
前回は人の顔色ばかり伺って本音で話せる友達は1人も居なかったからね。
◇◇◇◇◇
そしてお茶会当日、私たちは馬車で王宮に向かっていた。
「「リリーシアは僕たちから離れないこと!」」
「あい!」
「「もし、はぐれたら大きな声で僕たちを呼ぶんだよ!」」
「あい!」
「「それから・・・・・・」」
本当に過保護な兄様たちだよ。
ま、誰も気にかけてもらえなかった前回と比べるとこれが単純に嬉しかったりするんだよね。
「2人ともすっかりお兄様ね」と、私たちのやり取りにお婆様は嬉しそうだ。
お? いつもなら馬車が到着するなりクロイツ殿下に抱き上げられるのに今日は姿が見えない。
と、いうことは! 自分の足で歩けるってことだ! 祝! 初体験! いぇーい!
ユーリ兄様とアルト兄様に左右の手を繋がれ会場までは王宮侍女に案内された。
会場には既に大勢の子息や令嬢が集まっていた。私たちの登場に視線が集まる。
どうしてだか足が止まる・・・・・・いいえ、動かなくなった。視線なら前回で嫌という程向けられてきた。
それも敵意や蔑みなどそんな嫌な視線を・・・・・・
大丈夫・・・・・・大丈夫よ。落ち着け私。
ここにはべティーもギリアン殿下もいない。
敵だらけだった当時の学園の生徒もいない。
ここには私の敵はいないはずだ。
それに、お婆様、ユーリ兄様とアルト兄様が、守ってくれる人が傍にいる。
大丈夫。そう自分に言い聞かせて一歩を踏み出した。気遣わしげに私を見ていた兄様たちに何でもないよ! と笑顔で伝えた。
案内されたのは王族席からもっとも近いテーブルだった。
暫くすると騒がしくなり王妃様とクロイツ殿下が登場してきた。
・・・・・・だ、誰?
優しそうな笑みを浮かべ、ザ・王子様がそこにはいた。
私には片方の口角を上げて意地悪な顔しか見せないクロイツ殿下が、令嬢たちの甲高い黄色い悲鳴にも笑顔で応えている。
本当に誰だよ。・・・・・・気持ち悪いな。
だって、目の奥が笑ってないよ。




