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・・・・・・本当に来た。
しかも! 見るからに高級馬車が! 高貴な人が乗っていると丸分かりの馬車!
さらに! 護衛もたっぷり付いていた。
お忍びなんじゃないの~!
幼児にこんな馬車必要ありませんから!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しっかり朝まで眠った私は朝食の席で、今日の予定を伝えられた。
本来なら庭園で外遊びもよし、邸内で遊ぶのもよし、のびのびと過ごさせるつもりだったが、今日だけはクロイツ殿下の招待に応じて、王宮に行かなければならないとか・・・・・・
「陛下にはね、アナが幼い頃から大変お世話になったのよ。アナを実の妹のように可愛がってくれたの。そのアナの娘のリリーシアにとても会いたいのですって! 仕方がないから一度ご挨拶していらっしゃい」
そうお婆様に言われると断れないじゃない?
クロイツ殿下にはちょっとムカつくところはあるけれど、お母様を実妹のように可愛がってくれていたという陛下には会ってみたい。と、いうことで朝食を済ませてからが大変だった。
重いドレスではなく、軽いワンピースを着ることになったのはいいのよ。女の子の装いが久しぶりなお婆様とメイドたちが張り切って、アレコレと何度も着替えさせられたのよね。4歳って体力もないのね。すごく疲れたわ。
ご機嫌なお婆様に連れられてエントランスに向かうと、そこにはユーリ兄様とアルト兄様が待っていた。
「気を付けて行ってくるんだよ。明日は一緒に遊ぼうね」
「リリーシア可愛い!僕とも遊ぼうね」
ユーリ兄様とアルト兄様。2人とも本当にいい子たちなんだよね。
「あい。いってきましゅ。あしょべるのたのちみでしゅ」
うん・・・・・・この舌っ足らず。恥ずかしいけれど今の私は4歳。仕方がない諦めよう。
こうしてお婆様と従兄たちに見送られて馬車に乗り込んだ。ちなみに馬車にはガッチリした騎士様が抱き上げて乗せてくれた。
前回では第二王子の婚約者だったこともあり、王子妃教育のためにオーギュスト王国の王宮には何度も通っていた。当時は見事なお城だと思っていた。
でも、この間王宮に呼ばれた時は懐かしいとすら思わなかった。
なのに初めて見たマシェリア王国の王宮を懐かしく思うなんて・・・・・・きっと亡くなったお母様から何度も聞かされていたからだと思う。
真っ白なお城にロイヤルブルーの屋根、鮮やかな緑と色とりどりの美しい花々・・・・・・馬車の中から見惚れていると、いつの間にか到着していたようだ。
扉が開いた先には・・・・・・クロイツ殿下。
ねえ暇なの?
「そんな嫌そうな顔をしないでくれよ」
困った顔をしているが、それすら演技だとしか思えない。
「・・・・・・」
「ほら!おいで」
仕方なく素直に手を出すとそのまま抱えられた。
「ずっとリリーシアを抱っこしてみたかったんだ~」
「わたち、あるけりゅ~」
「いいのいいの、僕に甘えてよ」
そう言ってクロイツ殿下はスタスタと歩きだした。
が!この人ひと私を怒らせる天才だった。
「なあ?えらくおしりが小さいけどリリーシアはオムツは取れているのか?」
なっ、なっ、なっ! 当たり前だ~!
クロイツ殿下の言葉にギョッとする従者たちが見えた。が、さらに驚かれたのは・・・・・・
「うっ、痛って!」
そう、私がクロイツ殿下の鼻に噛み付いたからだった・・・・・・
「ごめんって!そう怒るなよ~」
ふんっ!
歯型のついた鼻の頭を赤くして謝るクロイツ殿下!ざまぁみろだ。
幼児のしたことだからかな? クロイツ殿下・・・・・・怒らなかったな。
それに、まだ抱っこされたままだ。
巫山戯た口調で揶揄ってくるけれど、優しい人なのかもしれない。
なんて思った私が馬鹿だった。訂正だ!やっぱりクロイツ殿下は意地悪だった!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おお!君がリリーシアかい?アナスタシアの小さい頃にそっくりじゃないか!」
クロイツ殿下に抱っこされたまま連れて行かれたのは王宮の奥にある一室だった。・・・・・・たぶん王族が住むところだよね。
部屋に入るなり、ニコニコと両手を広げて歓迎してくれたのは、クロイツ殿下の父親でありお母様の従兄の国王陛下だった。
「さあ、私にも抱っこさせてくれ」と、手を伸ばしてきたけれど、クロイツ殿下がそれを拒んだ。
「ダメです」
なぜ?
・・・・・・。
「・・・・・・クロイツいいから渡せ。さあ、おいでリリーシア」
素直に手を伸ばすと、陛下は嬉しそうな顔をしてクロイツ殿下から私を受け取ろうとした。が、距離をとってまた拒んだ。
「・・・・・・何をしている?早く渡せ」
「嫌だ。父上に渡すとリリーシアを返してくれない気がしますので」
結局、クロイツ殿下は私を抱いたままソファに座り、その隣に陛下が座って私をガン見してきた・・・・・・
うわっ、近くで見ると陛下ってすごくカッコイイ!それに若い!40歳には届いていなかったと思うけれど、20代にしか見えない。
マジカッコよ~眼福眼福。
クロイツ殿下も綺麗な顔立ちだけど、それとは系統が違う。瞳の色は同じでもきっとクロイツ殿下は母親似なんだろうな。
「君の瞳は私たちと同じロイヤルブルーだったんだね」
???
突然そう言った陛下が少し悲しそうに見えたのはお母様を思い出していたからだろうか?
何て応えればいいのかクロイツ殿下の膝の上で考えていたら勢いよくドアが開いた。
「抜け駆けなんて許せませんわ!」
「そうよそうよ」
突然現れたのはそれはそれは美しい迫力美女と美少女だった。
「アナちゃんのミニチュアだわ!」
「本当にアナ様にそっくりよ!」
・・・・・・たぶん王妃様とクロイツ殿下のお姉様で王女様だ。
「クロイツ!さあリリーシアちゃんを渡しなさい」
「・・・・・・嫌だ」
「おいでリリーシアちゃん」
部屋に入ってきた時からいい匂いしていたんだよね。匂いに誘われるように気付けば手を伸ばしていた。
が!クロイツ殿下が私を離さない!仕方がない・・・・・・クロイツ殿下に抱っこされたまま挨拶をすることにした。
「はじめまちて、りりーちあでしゅ」
「「やっだ~可愛い~」」
それからは可愛いを連呼され、王宮の美味なお菓子を食べさせられ、いつの間にか眠ってしまったようだった。
まあ、4歳なら体力もないしお昼寝の時間も必要だよね。
起きた時には部屋には陛下も王妃様も王女様も居なかったけれど、クロイツ殿下に抱っこされたままだった。他は従者と王宮侍女は部屋の端に控えているのが見えた。
「お前のヨダレで俺の服がびちょびちょになったじゃないか~」
は? よだれ? ヨダレ? 涎?
クロイツ殿下は別に怒っていないし、汚いものを見るような目じゃないけれど、確実に私を揶揄っている口調だ。
はあ? だったら私を離せよ! それよりも先に拭けよ!・・・・・・恥ずかしいが、まだ4歳。大抵の粗相は許されるはずだ。
「ぷッリリーシアはまだまだお子ちゃまだね」
イラッときて思わずクロイツ殿下の頬っぺをつねって仕返しをしようとしたが驚愕した。
「しゅべしゅべ~」
そして私は別の仕返しを思いついた。
そのすべすべの頬にすりすりとヨダレを擦り付けたのだ。




