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あっ!
ひと目でわかった。
あの方がお婆様だって。
記憶にあるお母様を少し老けさせただけの、若々しい見た目は私ともよく似ていた。
そのお婆様の口が『アナ』と、アナスタシアお母様の名を口ずさんだのにも気づいた。
その両隣には男の子が2人。1人は8歳くらいかな? 綺麗な顔立ちだ。もう1人は私と年は変わらなさそうな可愛い顔立ちの子。
それにしても今さらだけど、この世界は美形が多い。
この2人も将来が楽しみだ。なんて・・・・・・上から目線になっていたけれど今の私は4歳だった。
「リ、リリーシア? 貴女がリリーシアね?」
「あい・・・・・・おばあしゃま」
くぅ~この舌っ足らずが憎い!
「まあ!まあ!まあ!とっても可愛いらしいわ!わたくしがリリーシアのおばあちゃまよ」
そう言って相変わらず伯父様に抱っこされていた私に手を伸ばしてきてくれた。反射的に手を伸ばしてしまったけれど、お婆様は嬉しそうに私を伯父様から受け取ると笑顔で玄関に向かって歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お婆様に抱かれたまま通された部屋は、美しい庭園が一望できる大きな窓のある。その窓から優しい日射しが入る落ち着いた部屋だった。
お婆様は私を降ろすことなく膝に乗せて、その前のソファには従兄たちと伯父様が座った。
何故か、私の隣にはクロイツ殿下が当然のように座っていた。・・・・・・まだ帰っていなかったのか。
「リリーシア、会いたかったよ。僕はガルシア公爵家長男ユーリで8歳だよ。ユーリ兄様と呼んでくれると嬉しいな」
「ぼ、僕は次男のアルト。6歳なんだ。だから僕のことも兄様と呼んでね」
ユーリはともかく、アルトが私よりも2歳も年上だったのにはびっくりした。どう見ても・・・・・・うん、童顔なんだね。
この日からユーリ兄様、アルト兄様と呼ぶようになったのだけれど、まあ、今の私は舌っ足らずだ。
「チューリにいたま。アートにいたま・・・・・・」
「ぶっ」
うるさいよ! クロイツ! 笑いを取っている訳じゃないんだよ! 早くお城に帰りなさいよ!
・・・・・・お、おかしい。前回は自分の感情を押し殺し、嘲笑われても、虐げられても、侮辱されても笑顔を絶やさなかった。忍耐力には自信があったのに、今回はすぐに顔に出てしまうようだ。
ぷぅーと膨らんだ頬をクロイツ殿下の指でつつかれた。
「まあ!リリーシアは怒った顔も可愛いのね!」
目の前の伯父様もユーリもアルトもうんうんと頷いている。
そうだよ。実際4歳なんて子供なんだよ。我儘だって言うし、嫌なことが顔に出るのなんて当たり前だし、悲しい時だって、痛い時だって泣くんだよ。
そうだ。今回は自分らしく生きると決めたじゃない。
自分でも気付かないうちに肩に力が入っていたみたい。
ここでは素直に感情を出してもいいんだ。
無理していい子でいなくてもいいんだ。
それを許してくれるんだ。
そう思ったら、何故だか涙がポロリと頬を伝った。
突然泣き出した私に従兄たちは慌てていたけれど、お婆様の手が優しくぽんぽんと背中を撫でてくれるからか睡魔が襲ってきた。それに抗うことは4歳の私には出来なかった。
目を覚ました私を微笑ましそうに見つめるお婆様と伯父様。
・・・・・・ユーリとアルトの2人の兄様は何故か笑いを耐えているようなおかしな顔をしていた。
その理由がわかったのは、クロイツ殿下の一言。
「ぷっ!寝ているくせにくぅ~くぅ~腹の音がうるさかったぞ」
・・・・・・まだ居たのか!
早く帰ればいいのに!
4歳の幼児相手に揶揄ってばっかり!
早く成長してこの舌っ足らずを卒業したら3倍にして言い返してやるからな!
前回大人しくいい子を演じていた反動か、今回は前世の日本人だった時の性格が強く出ている気がする。
結局、クロイツ殿下は夕食まで平らげて帰って行った。
明日、迎えを寄越すから王宮に顔を出すようにと言い残して・・・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私に用意されていた部屋はとてもファンシーな女の子らしい部屋だった。
私の手紙が届いてから、お婆様が張り切って準備してくれたらしい。
クローゼットには着心地の良さそうなワンピースやドレスがズラリと並び、下着から靴下、靴やハンカチといった身につけられる物が揃えられていた。もちろんサイズもピッタリ!これは乳母のマリーから報告がされていたらしい。
ガルシア公爵家の皆んなが、優しく受け入れてくれたことが嬉しい。
伯父様の奥様であり、ユーリ兄様とアルト兄様のお母様は3年前に流行病で亡くなったそうだ。
・・・・・・ごめんね。前回17歳まで生きていたのに自分のことでいっぱいいっぱいで、身内のことなのに知ろうともしなかった。
前回も助けを求めていたら、伯父様もお婆様もきっとあの家から助け出してくれていたと思う。
ゲームの知識があるからって何故、1人で何とかしようとしたのか・・・・・・プライドまで捨てて、媚びまで売って・・・・・・本当に馬鹿だった。
このまま、この国で生きて行けたらいいな。人にも、物にも、公爵令嬢という地位もあの国に未練なんてないもの。
ちなみに隣の部屋はお母様が嫁ぐまで使用していた部屋で当時のまま残されていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふふふっ寝顔までアナとよく似ているわ」
「ええ、可愛いですね」
「性格までは似ていないといいのだけれど・・・・・・」
「例え似ていたとしてもアナがそうだったように、ある程度の年齢になれば落ち着きますよ」
「アナには手を焼いたわ」
「はははっ、確かにアレには陛下を含め皆んなが振り回されましたからね~」
「可愛い孫のリリーシアの成長がこんなに近くで見られるなんて・・・・・・この子には自由に生きてほしいわ」
私の寝顔を見ながら、お婆様と伯父様がそんな会話をしていたことは知らない。
そして、お母様が皆んなを振り回すほどのお転婆だったことを知ったのは随分あとのことだった。




