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お父様は不機嫌そうな顔をのまま、ここまで一言も発していない。
元はこの国の王子だと言うのに・・・・・・みっともない。
ああ!もしかして伯父様とクロイツ殿下とはすでに会っていて、お父様の気分を害するような出来事があったのかもしれない。
「初めましてだねリリーシア嬢。僕はマシェリア王国の王太子クロイツだよ。よろしくね。突然だけど我が国に来ないかい?」
「へ?」
彼がクロイツ殿下だと予想は当たっていたけれど本当に突然だわ。
「本当は私の養女として迎えたいのだけれど、それはオーギュスト国王と、そこに居るなんちゃって父親に反対されてね、しばらくの間ならってことになったんだよ」
なんちゃって父親・・・・・・上手いこと言うな。
確かに名ばかりの父親だものね。
「我が国に来るよね? はとこ殿」
そっか、クロイツ殿下は私のはとこになるんだ。
会ったことはないけれど、お婆様はマシェリア王国の前国王の妹だ。
だから、私もお母様も伯父様もロイヤルブルーの瞳を持っている。
「い、いきちゃいでしゅ!」
「ぷっ」
も、もうイヤだ! なんだよ! でしゅって!
そしてクロイツ殿下にまた笑われた!
「本人もこう言っているし構わないですよね」
まるでお父様の存在も意見も必要ないとばかりに、伯父様が確認したのは国王陛下の方だった。
「・・・・・・リリーシアが望むなら仕方がない。確かにこいつよりも貴方たちの方がこの子を大切にし、気にかけてくれるだろうからな」
こいつと呼ばれたのが誰のことなのか、この部屋の中に分からない者は本人も含めていない。
「もちろんですとも。リリーシアは可愛い妹の忘れ形見ですからね。それはそれは大切にしますよ。母も息子たちもリリーシアに会えるのを楽しみにしていますからね」
そっか・・・・・・伯父様の子供なら私にとって従兄弟になるんだ。なんだかマシェリア王国に行くのが楽しみになってきた。
「では、話がまとまったのなら行こうか」
「え?いまからでしゅか?」
うっ・・・・・・も、もういいや、開き直ろう。
確かに楽しみになってきていたけれど今すぐ?
「そうだよ」
いやいや準備もあるでしょう! 王太子だからって簡単に言わないでよ!
「取り敢えずミラドール公爵家に寄って、必要なものだけ取ってくればいいさ。衣類もこちらで用意するから必要最低限持ち出せばいいよ」
だったら! お母様の遺品を全部とはいかないけれど貴重品は持って行こう。
前回は義母とべティーに全て奪われしまったもの。
それに、私はミラドール公爵家の令嬢であることに未練もないし、このままこの国に帰ってこなくてもいいように本当に大切なものだけを持って行けばいい。そうと決まれば善は急げってことで席を立った。
「ああそれと、リリーシアの後見人の私を通さず、勝手にこの子に婚約者を宛てがうようなことはやめて下さいね」
お、伯父様!ありがとう!
それが一番心配でした。
「・・・・・・ああ、わかっている」
一国の王が隣国の公爵とはいえ、あっさりと頷いてくれたのは、弟の仕出かしに後ろめたさがあったのかもしれない。
何よりこれで死から確実に一歩遠のいたのだ。
陛下に退席の挨拶だけをして部屋を出た。
お父様は最後まで一言も言葉を発しなかっただけでなく、一度も私の顔を見ることもなかった・・・・・・
公爵家に着いて先に馬車から降りた伯父様が手を差し伸べてそのまま私を抱き抱えた。
・・・・・・どうも伯父様は抱っこするのが好きみたいで、王宮での話し合いが終わり応接間から出た瞬間も抱き上げられたのだ。
ついでにクロイツ殿下も私を抱っこしたいと伯父様に訴えていた。
そんな伯父様とクロイツ殿下のやり取りが可笑しくて、つい笑ってしまった。こんな穏やかな気持ちは前回を入れて何時ぶりだろうか。
「お帰りなさいませリリーシアお嬢様。ご無沙汰しておりますルベール様」
笑顔で迎えてくれたマリーの言葉に伯父様とマリーが顔見知りだったことに気づいた。
「マリー。リリーシアの準備は出来ているかい?」
「はい、滞りなく」
い、いつの間に連絡を取り合っていたの?
それよりも!
「ま、まっちぇ! おかあたまの! いっちょに! もっていきゃないと!」
『ぷっ』
ま、また笑われた・・・・・・クロイツ殿下め!
それにしてもこの舌っ足らず・・・・・・おかしくない? 4歳ならもう少し話せるよね? それともこんなものなの? まあ今はいいや。それよりも、折角だからお母様の形見は1つ残らず持って行くつもりで纏めよう。
不思議そうな顔をする伯父様とマリーだけど、クロイツ殿下は違った。
「それがいいね。全部持ってきなよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こうしてミラドール公爵家を出て、今はマシェリア王国に向かっている。
ちなみに馬車は三台。
私と伯父様、クロイツ殿下とお母様の遺品の高価な宝石類を乗せた一台。これは義母とべティーに奪われないためだったけれど、前回は元平民だからか、物の価値が分からなかったからなのか、ジャラジャラと宝石を重ねて着けて、石が傷だらけになっていたのが悲しかったのよね。持ち出せて本当によかった。
そしてマリーと私に良くしてくれていたメイドの二人で一台。
もう一台はほぼ私の荷物だったりする。
周りには馬に乗って並走する騎士、騎士、騎士・・・・・・王太子の護衛ともなるとこれだけ居ても不思議ではないけれど些か物々しい。
それでも優しい伯父様と、ちょっとよく分からないクロイツ殿下との旅は楽しくて、あっという間にマシェリア王国に到着した。
王都に入ってから王宮か、それとも公爵家のどちらを先に寄るかで伯父様とクロイツ殿下の間で一悶着あった。
結局、まだ4歳の私の体力を考慮して王宮には明日登城することに決まった。
マシェリア王国の王族は前国王・・・・・・お婆様のお兄様はご健在で、現国王のクロイツ殿下のお父様も首を長くして私と会うのを楽しみに待っていると言われると、ちょっと・・・・・・いえかなり嬉しかったりする。
まずは、これからお世話になるお母様の実家であるガルシア公爵家に向かった。




