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最初からここに私の居場所はなかった  作者: kana


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ああ⋯⋯帰ってきた。

クロイツ殿下の執務机も、壁紙の色も、ソファも初めてこの部屋に入ってからずっと変わらない。落ち着く⋯⋯


「「お帰りなさいませ。クロイツ殿下、リリーシア様」」


部屋に控える侍従も、侍女も少しシワが増えただけで変わらない。


「た、ただいま」


「驚いたか?」


あ、また意地悪そうな顔になっている。

驚いて当然よ!

だって、クロイツ殿下が魔法を使えることも知らなかったし、目を開けたらイキナリ見慣れた光景が広がっていて驚かないわけがない。


「うん」


「⋯⋯もう泣いていないな」


いつも堂々としているクロイツ殿下の顔が、困っているような、気を遣っているような⋯⋯初めて見る表情だったから⋯⋯ついさっきの場面が思い出された。

また、潤みそうになる瞳から涙が溢れ落ちる前に、クロイツ殿下の硬い胸に顔を押し付けた。

また、彼の服を汚してしまう。それでも彼は怒ったりしないだろう。


私を抱いたままソファに座る気配がした。ポンポンと落ち着かせるように背を軽く叩くのが優しくて安心する。


「ずっとここに居ればいい」


うん⋯⋯そうだね。


「俺が傍にいる」


うん、ありがとう。


「お前の居場所はここだ」


うん、あそこに私の居場所なんてなかったもんね。


「俺がお前の居場所になる」


う、うん?声の雰囲気が変わった?私を抱きしめる腕も少し強くなった気がする。


「俺はお前が⋯⋯好きだ」


聞き間違い?


「俺はお前を愛している」


ええ~!こ、告白~?さ、されたの?予想外の言葉に涙も引っ込んだ。

驚いて顔を上げると、キュッと口を結び、若干頬がほんのりと赤いクロイツ殿下。

ただ、私を見つめる眼差しに嘘はない⋯⋯そう思った。


何れはこの国の国王になる人で、8歳も年上で、いつも私を子供扱いする人。

本当に助けて欲しい時は声に出さなくても、どんな時も助けてくれた。

こんな人、好きにならないはずがない。



⋯⋯ずっと諦めていた。だから悪態をついて自分の気持ちを誤魔化してきた。

好きで、好きで、本当に好きで⋯⋯いつかクロイツ殿下が妃を迎えることを想像するだけで辛くて⋯⋯だから帰国の話が出た時に離れることを選んだ。なのに⋯⋯好きだと言ってくれた。愛してると言ってくれた。⋯⋯もう、私の気持ちを隠さなくていいの?


「本当に?」


「ああ、俺はお前にだけは嘘をつかない」


いつから想ってくれていたの?聞きたいことは沢山あるけれど、止まっていた涙がまた溢れ出す。これは嬉し涙だ。


「わ、私も⋯⋯好き」


私と同じロイヤルブルーの瞳が近づいて、唇に温もりを感じた。

すぐに離れていったけれど、前世も前回も含めて初めてのキスの感想は『柔らか~い。人の唇って柔らかいのね』だった。

それが声に出ていた。


「ぷはっ」


クロイツ殿下が笑ったと思えば侍従と侍女にあとは任せたと指示を出した。何を任せるのか聞く前に部屋の景色が変わった。


そして⋯⋯



◇◇◇◇◇




~クロイツ殿下視点~




強引過ぎたかもしれない。


無理をさせてしまったことも分かっている。


ただ、止まれなかった。止まらなかった。


リリーシアも恥ずかしがってはいたが、抵抗はされなかった。


婚姻前のリリーシアの純潔を奪ってしまったことに後悔はない。


俺の腕の中ですやすやと眠るリリーシアの髪を撫でる。

愛おしい⋯⋯もう、手放せない。こんな気持ちは初めてだ。


リリーシアが笑っていられるなら、幸せなら相手が俺でなくてもいいと思っていた。

それを見届けるつもりだった。


俺の胸で泣くリリーシアに黙っていられなかった。拒絶される不安もあった。

だが、俺以外の誰かにこんなリリーシアを任せたくないと思った。


そう思ったら『お前が⋯⋯好きだ』『俺はお前を愛している』と自然に言葉が出ていた。

突然の俺の告白に驚いて涙が止まったリリーシアの大きな瞳にまた涙が浮かんで溢れた。

そして『わ、私も⋯⋯好き』と⋯⋯聞こえた瞬間、リリーシアの唇に触れていた。


『柔らか~い。人の唇って柔らかいのね』呑気なリリーシアの感想が、可愛くて、愛しくて、早く自分のものにしたい衝動に存在を忘れていた侍従と侍女を見ると二人揃って小さく礼をしていた。


あとは任せてリリーシアを抱いて飛んだ。


自分でも分かるくらい潔癖症な俺が、何年も前に閨教育で睦み合う男女に嫌悪感しかなかった俺が、リリーシアを悦ばせるために同じことを⋯⋯それ以上のことをしていた。

そんな事ができるのもリリーシアが相手だからだ。


侍従は父上に報告しただろう。今ごろ頭を抱えているはずだ。可愛がっているリリーシアを俺が無理やり手篭めにしたと思っているかもしれない。


反対に母上は喜んでいる姿が脳裏に浮かぶ。







実はべティー母娘は研究対象なんかの理由で連行したのではない。

前回の罪を償わせるためだ。

前回のリリーシアの最期の姿を覚えている父上は容赦しなかった。

与えられる痛みに泣こうが叫ぼうが赦さなかった。命尽きるまで⋯⋯そんな父上の姿は母上には見せられない。


アリーシャは規律の厳しい修道院行きだ。二度とそこから出ることは叶わない。

まあ、そこは修道院とは名ばかりの犯罪者が収容される施設だ。そこでは貴族令嬢がする虐めや嫌がらせなど子供のお遊びに思えるほどの酷いことが日々行われているらしい。

アイツに最も相応しい場所だ。


そしてギリアン。奴は幽閉される。が、年月をかけて毒を与えられる。

前回はリリーシアを殺した。今回は監禁しようとした。

⋯⋯簡単には命は奪わない。孤独と痛みにのたうち回り続けて最後を迎えろ。






リリーシアはまだ眠っている。起きる気配もない。


もう、お前を脅かす者はいない。安心して俺の腕の中で眠れ。


愛している。ずっと俺が隣にいる。お前を必ず幸せにする。


俺の隣で笑顔でいてくれ⋯⋯リリー。

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