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「俺を見ろリリーシア」
遠くに聞こえていた声は、今はしっかりと聞こえる。
いつもの揶揄いを含む声よりもずっと優しい声。
両手で私の頬を挟み、視線を上げた先には私と同じ瞳の色。
「大丈夫だ」
⋯⋯なにが?
「ここにお前の居場所がないと言うのなら、俺がお前の居場所になってやる」
「⋯⋯本当に?」
「ああ。俺がずっとお前の傍に居る」
目から熱いものが溢れた。
そっと抱き上げられた⋯⋯いつもの縦抱きではなく、初めてのお姫様抱っこだった。
「国王よ。後は頼んだ」
「ああ、コイツにはしっかり言い聞かせる」
「リズベット、お前たちも気を付けて戻ってこい。俺は先にリリーシアと戻る」
「はい、リリーシアをお願いいたします」
「リリーシア⋯⋯すまなかった。お前を《《二度も》》辛い目に遭わせてしまった⋯⋯許してくれとは言わない⋯⋯だが、お前の幸せを願っていたのは本当だ」
クロイツ殿下の胸に顔を埋めている私には陛下がどんな顔をしているのか分からない。だけど気持ちだけは伝わってきた。それにどう応えればいいのか分からず、顔はクロイツ殿下の胸から上げられないまま頷くことしか出来なかった。
一人置いてけぼりのお父様はまだ何か言っている。もう、彼の言っている言葉は私には届かない。
そして、クロイツ殿下の『行くぞ』の言葉を最後に、次に目を開けたら⋯⋯何度も通されたマシェリア王国にあるクロイツ殿下の執務室だった。
◇◇◇◇◇
~レアンドル・ミラドール公爵(父親)視点~
リリーシアたちが学院に行かなくなった。
学院でリリーシアたちの身に何かあったのだろうと予想がつくが、敢えて理由を聞くことはしなかった。
その代わり、俺に連絡をくれたワーグナー子爵令嬢⋯⋯養護教諭の先生からリリーシアの学院での生活態度を教えてもらった。
最初は信じられなかった。まさかリリーシアが?と思った。
ワーグナー嬢から聞かされるリリーシアの言動はとても褒められたものではなく、それどころか最低なものだった。
リリーシアは常に傲慢な態度で他者を見下し、数多の生徒たちに嫌がらせをし、迷惑をかける。俺の娘は学院では疎まれる存在だと言うのだ。
マシェリア王国のガルシア公爵家に預けなければよかったのか?
俺の元で育てたらよかったのか?今となっては遅すぎる後悔だった。
王宮で仕事中の俺の執務室に報告が入った。
卒業パーティーでリリーシアがやってしまった⋯⋯卒業生たちの為のパーティーで問題を起こしたと⋯⋯
リリーシアのせいでパーティーは中断され、何故かワーグナー嬢は拘束され、可愛い甥っ子のギリアンは廃嫡されると聞いた。
俺は理由を聞くため、ワーグナー嬢が投獄されているという牢に向かった。
そこは貴族が入れられる貴族牢と比べるまでもなく劣悪な環境だった。
彼女からパーティーでの一部始終を聞き、一晩中泣かれ、助けを求めて縋られた。
パーティーの翌日、兄上に呼ばれたリリーシアが王宮に来ていると報告が入った。
俺は走って応接室に向かった。
呑気そうな顔のリリーシアが目に入ると怒りが湧いた。
ワーグナー嬢から聞いた話を疑うこともなくリリーシアにぶつけた。
言い訳すら聞こうとしなかった。そして⋯⋯皆が止めるのも聞かず放った言葉⋯⋯
『お前が俺の娘なのが恥ずかしい!』
これだけは言ってはいけなかった。
いつもキラキラしていたリリーシアの瞳がどんどん濁っていくのを見ても、絶望した表情を見ても俺は止まれなかった⋯⋯
そんなリリーシアを大切そうに抱き上げたクロイツ殿下の胸に顔を埋めたまま二人は消えた。
⋯⋯。
その後、俺を睨みながら『お世話になりました』と頭を下げたリズベットが部屋から出て行くと、悔しそうな顔の兄上と二人部屋に取り残された。
そして真実を聞いた。
ワーグナー嬢が⋯⋯ギリアンが⋯⋯どんな卑怯な手でリリーシアを嵌めたのか⋯⋯ワーグナー嬢が従妹のリズベットを売り飛ばすことに協力していたこと、ギリアンがリリーシアを監禁しようとしていたことを⋯⋯目の前が真っ暗になった。
脳裏に浮かんだのはリリーシアの絶望した顔。
ワーグナー嬢の話だけを信じた俺は⋯⋯この日⋯⋯永遠に娘を失った。
どんなに反省しようが、どんなに後悔しようがもう二度と会えない。
天国にいるアナスタシアもきっと俺を許さないだろう⋯⋯




