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「逃げられると思うなよ。拘束されるのが嫌ならお前たち二人とも彼らについて行け」
「その女も捕らえろ」
今までどこにいたのか、ギリアン殿下とジョシュアが騎士たちに囲まれていた。
その騎士たちの鎧は見慣れたマシェリア王国のものだった。
そしてワーグナー先生の方は騎士姿の男たちに拘束されて動くことができなくなっていた。そのワーグナー先生の顔は酷く歪んでいた。
「リリーシアッ!貴女さえ!貴女さえいなければ!わたくしがクロイツ様の隣で⋯⋯王妃になるはずだった!わたくしの輝ける未来を奪ったのは貴女よ!」
「寝言はもういい。連れて行け」
「クロイツ様!クロイツ様!貴方に一番相応しいのはわたくしですわぁぁぁ!」
最後までワーグナー先生の思考はおかしかった。
この後、ワーグナー先生⋯⋯いえ、犯罪者となったアリーシャにどんな処罰が下されようが、軽いものではないだろう。
もう、この場は卒業パーティーどころではない。
アリーシャが連行され、逃走しようとしたギリアン殿下もまた連行されていく姿に、生徒たちは漸く自分たちの言動に気付いたようだった。彼らもまた処罰の対象になるはずだ。
「ねえ、マシェリア王国の騎士団まで連れてきて侵略を疑われない?」
「ああ、予めオーギュスト国王から許可は取っている」
マジか⋯⋯この人どこまで先を読んでいるんだろうか?
「今回の件は明日国王を交えて話し合いが行われる。⋯⋯まずはその汚れを落として、今日はゆっくり休め」
それから、リズベット、マリエル、レイと一緒に邸に帰ったのだが、先にベトベトして不快な汚れを湯浴みで流し、私たちはいつものサロンに集まった。
まず、リズベットが簡単に攫われたのは検問所で入国手続きを待っている間、睡眠薬が混入されたお茶を飲んだからだとか。気が付いた時には鉄格子のはめられた部屋にいたらしい。
ここで護衛を連れていなかったことを私たち三人から厳しく説教させてもらった。
『だって一人の方が動きやすいもの』なんて言い訳は聞かなかった。
リズベットいわく、そこでの生活は報告書の通り外に出られないことを除けば本当に快適だったらしい。
『でも、何で殺さなかったんだ?』
『わたくしをどこかの富豪に高値で売るつもりだったらしいわ』
だから、傷付けるようなことをされなかったとか⋯⋯さらに驚きなのはリズベットを売ろうとアリーシャに計画を持ち掛けてきたのが、浮気をして家を出ていったリズベットの実母だと言うのだから驚きは二倍だ。
男を取っ替え引っ替えしてしていたリズベットの母親は、年齢を追うごとに美貌は損なわれ傲慢な性格も相まって相手をする男が居なくなったそうだ。
贅沢に慣れた彼女は自分の娘を売ることで、大金を手に入れるつもりだったようだ。
『脱出するのはいつでもできたのよ?でも、その前にクロイツ殿下の部下が接触してきたから今日まで大人しくしていたの。それに母親も捕らえて欲しかったからね』
これで二度と会わないで済むと思えば清々するわ。なんて言っていた。
『そうそう、わたくしの監禁場所に何れはリリーシアを閉じ込めるつもりだったらしいわよ。ギリアン殿下』
なんだそれ?
リズベットが言うには、アリーシャの真相を知るリズベットを遠くに売り飛ばし、今度はそこでギリアン殿下は私と幸せな監禁生活を送る予定だったとか⋯⋯
⋯⋯どこに幸せが?
大体計画に無理があり過ぎる。公爵令嬢の私が行方不明になるってことだよね?大騒ぎになるどころではないのでは?
前回はギリアン殿下に殺され。
今回は監禁ですか⋯⋯人の人生なんて考えていないんだろうね。
もう、彼は異常者だよ。
続きは明日という事で、夜も更けた頃解散した。
ベッドに入ってから前回、私が処刑された時間が過ぎていることに気が付いた。
生きている⋯⋯今になって実感する。
本当は怖かった。
前回の処刑に至るまでの原因であったべティー母娘がいなかったとはいえ、冤罪をかけられたことは同じだったし、一人も味方がいなかったことも同じだった。
もうね⋯⋯この国に居たいとは思えないんだよ⋯⋯




