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「ずっと学院を休んでいたリリーシアさんはご存知かしら?」
「⋯⋯何を、でしょうか?」
ここでリズベットの名前が出たら暴れる自信がある。
「ふふふっ⋯⋯わたくしとクロイツ殿下との婚約の話があがっていますのよ?」
はぁ?だからどうした?クロイツ殿下からは何も聞いてないわよ!
私たちの会話に聞き耳を立ていた令嬢たちがキャー!キャー!って黄色い悲鳴がうるさい。
『まあ!我が国からマシェリア王国の王妃が誕生しますのね!』
断言出来る。それは現実にはならないからね。
『流石はワーグナー先生だ』
ん?何が流石なのかな?
「クロイツ殿下からワーグナー先生へ正式に申し込みがあったのでしょうか?」
「んふふっ、それはヒ・ミ・ツよ」
いや、そんな自慢げにされても有り得ないから!この間の夜会でのクロイツ殿下の意味深な言葉をそのまま信じちゃってるの?馬鹿なの?
「リリーシアさんは自分がクロイツ殿下の特別だと思っていたでしょう?」
特別とは?遊ばれていたことでしょうか?
「わたくしが奪ってしまって、ごめんなさいね」
あの言葉だけで、ここまでの思い込み。
ワーグナー先生の願望か?頭大丈夫?これが所謂お花畑脳ってやつ?
っま、夢を見るのは自由だ。
この後、同じことを言えるのか楽しみにしているよ。
頭の目出度い会話を聞いているうちに、いつの間にか私の中で怯える気持ちは消えていた。
ワーグナー先生の寝言はスルーすることにした。が、そのワーグナー先生がスッと視線を向けた先から私を責める声があがった。それを筆頭にホールのあちらこちらから身に覚えのない私が行ったという行為が生徒たちの口から発せられた。
それは、私が学院に行かなくなった原因⋯⋯私がされた事が、この場では私がした事になっていた。
ある令嬢は靴箱にゴミを入れられと、またある令嬢は教科書を破られ、ノートには『死ね』と書かれていたと、終いには私に階段から突き落とされたとまで言う令嬢まで⋯⋯口裏を合わせたように⋯⋯
「皆さん、そこまで仰るなら証拠はありますよね?」
私のその問いにホールにいた生徒たちが一斉に私に向かって暴言を吐き出した。
公爵令嬢である私にだ。
⋯⋯ああ、わかった。前世の日本で言う『赤信号みんなで渡れば怖くない』ってやつか。
ただ、これだけの人数に責められると嫌でも前回がフラッシュバックする。
『退学させろ』『国外に追放しろ』『娼館に売り飛ばせ』今回も前回と似たような責め方に、怯える私もいるけれど、笑ってしまいそうな私もいる。
こうなると、何を言っても信じてくれないのは前回で経験済みだ。ここにべティーは居ないのにね。⋯⋯結局、何をしても、何もしていなくても⋯⋯やっぱりこの国は嫌いだ。
何も反応しない私に腹を立てたのか、どこかからか液体の入ったグラスが投げられた。それを皮切りに四方八方からグラスが投げられてきた。
パリーン、パリーン、ガチャ、ガチャーンとグラスの割れる音が何度も、何度も耳に届く。
淡い水色だったドレスは元の色が分からなくなった。水分を含んだそれは重く、グラスの破片で切ったのか、腕にも数箇所血が滲んでいるのが見える。頬にも痛みがあるから、顔にも傷ができているのかもしれない。
そんな私をくすくす嘲笑う令嬢たちも、卑下た視線を向けてくる子息たちも、この状況を楽しんでいるのが見て取れる。みんな異常だよ。
「リリーシアさん皆に謝りなさい」
「できません⋯⋯謝る理由がありません」
こんな姿になるまで止めるでもなく、黙って見ていたワーグナー先生に言われたくない。それは他の教師にも言えるけれどね。
「ギリアン殿下。リリーシアは罪を認めませんわ。どう致しましょう?」
「そうだね。彼女は僕が責任をもって管理するよ。いいね、リリーシア?⋯⋯さあ彼女を拘束してくれ」
ギリアン殿下の命令に数人の男子生徒が私を囲んだ。
まだ、リズベットの手掛かりも掴めていないのに、こんな所で拘束されるわけにはいかない。
こうなったら抵抗はさせてもらう。身構えたところで腰に腕が回された。
「遅くなって悪かった。無事⋯⋯ではなさそうだな」
クロイツ殿下だ。




