44
これが最後⋯⋯
これで終わりにする⋯⋯
そう決心して、一人で卒業パーティーに参加することにした。
前回のこの日⋯⋯ギリアン殿下とべティーの卒業式のあと、王宮にある小さめのホールで行われた卒業パーティーで私は処刑された。理由は義姉だったべティーを虐めたという馬鹿げた理由で学院生と教師たちに嘲笑われながら殺されたのだ。
でも、今回はべティーは義姉でもなければ、学院にももういない。
研究対象として、クロイツ殿下にマシェリア王国に母親と一緒に連行されたから⋯⋯彼女たちが今どんな扱いを受けていようが、二度と関わることの無い私には関係ない。
そんなことよりも、ずっと登校していなかった私が卒業パーティーに参加することになったのは、クロイツ殿下からの調査報告書に気になる点があったから。
リズベットの行方不明の原因に関係があるかもしれない人から話を聞きたいと思ったから⋯⋯
馬車から降りて、パーティーの行われているホールへの距離が近付くほど心臓が煩くなる。前回はこの通路を嘲笑われ、野次を飛ばす声を聞きながら引き摺られながら通った。それを今現実に起こっているからのような錯覚に足が震える。止まりそうな足をドレスの上から摘み、自分に言い聞かせる。『大切な友人の手掛かりがすぐ目の前にあるのよ』と⋯⋯
大きな扉の前でゆっくりと深呼吸をすると、扉係に合図をする。「リリーシア・ミラドール公爵令嬢のご入場」一斉にホールにいる者たちの視線が向けられた。
⋯⋯怖い。
このまま逃げ出したい⋯⋯
それでも⋯⋯それでも⋯⋯行かなきゃならない。落ち着け。足を動かせ。前を向け。怯えるな。
今の私は前回の弱い私ではない。
一歩目を踏み出せば、二歩目、三歩目と自然と足が前に出た。
視線は前に向けて、視界には生徒たちが入ってくる。話す声も耳が捉える。
知っている。彼らは何も変わらない。レイが脅し文句を伝えても公爵令嬢の私を下に見ている。
⋯⋯少し考えれば分かることだった。裏に誰がいたのか。公爵令嬢の私よりも身分が上の者⋯⋯そう、ギリアン殿下が居たことを。
真っ直ぐ歩く私の先にはギリアン殿下とワーグナー先生の談笑している姿があった。
少しずつ二人との距離が縮まる。最初に気付いたのはワーグナー先生だ。
挑発するような視線を向け、口もとは嫌味な形に片方だけが上がっている。
次にワーグナー先生が向けている視線を辿ったギリアン殿下が私に気付いた。
「ご卒業おめでとうございます。ギリアン殿下」
「ありがとうリリーシア嬢。君と会うのも久しぶりだね。突然学院に来なくなって心配していたんだよ」
心からそう思っているような表情をするギリアン殿下に寒気がした。
「ご心配お掛けして申し訳ございません」
「本当にね。⋯⋯帰国しているリズベットさんはともかく、リリーシアさんの問題にマリエルさんとレイドリックくんも巻き込むなんて勝手が過ぎるのではなくて?⋯⋯学生の本分を忘れているのではなくて?」
「あれ?そう言えばマリエル嬢とレイドリック殿の姿が見えないね。今日は一緒じゃないのかい?」
「⋯⋯二人は優先することがありまして、用事を済ませてから卒業パーティーに参加する予定です」
そう、言って今度は私がワーグナー先生に挑戦的に見えるような目を向けた。
それに何を勘違いしたのか、ワーグナー先生が次に発したのは、今までの会話とは全く関係のない言葉だった。




