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私と一緒にいたレイとマリエルもドドラー伯爵の言葉に眉をひそめた。ミカエル・・・・・・の姿は見えないわね。どこをほっつき歩いているんだか。
広いとはいえ、入ってきた時からこの王宮の大広間にはむせ返るような香水の匂いが充満していた。それと比べてもべティーとビアンカから漂ってくる匂いは強烈だ。香水の瓶を頭から浴びたんじゃないかと疑うほどの臭さだ。そばに寄ればそれだけでこっちまで匂いが移りそうで、訳の分からない言いがかりをつけるドドラー伯爵との話をさっさと終わらせることにした。
「どなたかしら? まずは名を名乗るべきでは?」
私がただの小娘だとはいえ、家格の差は大きい。たとえ伯爵家当主でも、公爵令嬢相手に挨拶もなく失礼な発言は許されない。
「・・・・・・これは失礼しました。私はドドラー伯爵家当主、べティーの父です」
「で、ドドラー伯爵は『権力を笠に着て』でしたか? それと『虐め』? を私が行ったと仰るのでしょうか? ・・・・・・申し訳ございませんか私には一切記憶にございませんが?」
「白々しい。ウチのべティーは毎日学院から泣きながら帰ってくるのですよ! 理由を聞いても辛そうにするだけで何も話してはくれませんでした!」
ドドラー伯爵の声が大きいからだろうね、私たちに視線が集まっている。
まあ、気持ちはわかる。
公の場に姿を見せなかった公爵令嬢が現れたと思えば、権力を笠に着て格下の伯爵令嬢を虐めているなんて、人の醜聞が大好きな夫人や令嬢が聞き逃すはずがないものね。
「それで学院に通っている子息や令嬢の家に問い合わさせてもらった。・・・・・・君は大勢の前でウチのべティーに近付くな! 関わってくるな! と言ったそうじゃないか!」
『まあ』
『それは酷いわ』
そこだけを聞けばそう思うよね。
「ええ、言いましたよ」
「べティーは傷ついたんです。謝罪してください!」
べティー、いつまでも泣き真似している場合じゃないわよ。
「謝りませんわよ。・・・・・・私たちが学院に編入した翌日にべティー嬢に虐められたと冤罪をかけられたのを知っていますか?」
「ウチのべティーがそんなことをする訳がない!」
「いいえ、沢山の生徒が目撃していますわよ」
『そう言えばそんな噂もあったわね』
『ええ、わたくしも聞いたことがあるわ』
「そ、そんな、べティー本当なのか?」
「あ、あれは、クスンッ、あれは勘違いしちゃっただけなのにリリーシアさんが許してくれなくて・・・・・・」
『まあ! 公爵令嬢を敬称も付けないなんて!』
普通はそう思うよね。雰囲気が少しこちら寄りに向いてきた気がする。
「勘違い? でも謝ってもらっていないわ。自分の過ちを認められない、そんな人とは付き合うのも関わるのも嫌だと申し上げただけだわ。それでも私が悪いとドドラー伯爵は仰るのかしら?」
「・・・・・・」
「もうその辺にしなさいリリーシアさん」
また出たよ。
「ワーグナー先生」
このタイミングで出てくるなんて狙っていたのかしら?
「リリーシアさんにも言い分はあると思うわ。でもね、先日も言ったように貴女の言動によってべティーさんが孤立したり虐めに繋がったら責任を取れるの?」
それは自業自得では?
でもこの場では言わない方がいいわね。ここぞとばかりに現れたワーグナー先生は、出来の悪い子を諭していい先生のつもりかもしれない。が、それすらワザとらしく感じる。
「・・・・・・」
『あんな言い方をしたらミラドール公爵令嬢の方が悪く聞こえないか?』
『先生としてどうなのかしら?』
『でも、先生の言っていることも分かるわ』
『ええ、権力には勝てないもの』
あちらこちらからそんな声が聞こえてくる。賛否が別れているわね。よかった。前回のようにすべての人が敵じゃなくて。
「おい先生、リリーシアが責任を取る必要がどこにあるんだ?」
「わ、わたしもそう思います」
今まで黙って聞いていたレイとマリエルも我慢ができなくなったようだ。
「おお流石です! 先生もミラドール公爵令嬢が、ここでべティーに謝罪をするのが当然だと! そう思われますか!」
「おいドドラー伯爵だったか? いい加減にしろよ」
ああ~レイ! 言葉使いだけは気を遣って!
「ドドラー伯爵令嬢の学院での態度を知っていてリリーシアに謝罪を求めるのか? 男と見れば声をかけ、すぐに体に触れようとし、以前は何人もの男を侍らしていたんだぞ。俺にも色目を使ってきた。思い出しても気持ち悪い」
『まあ!』
『まるで娼婦のようではなくて?』
「それに、ドドラー伯爵令嬢から絡まれない限りリリーシアから声を掛けたことは一度もありませんよ」
レイだけじゃなくマリエルまで・・・・・・ありがとう!
「言いがかりだわ! 貴方、べティーはそんなふしだらな娘ではありませんわ! この子たちはべティーを貶めようとしているのだわ!」
ビアンカがドドラー伯爵の腕に撓垂れ掛かれば、反対の腕にべティーも撓垂れ掛かる。
この親にしてこの子ありね。
ああ、面倒臭い。
そろそろ王族の入場の時間だし、話をまとめようか。そう思って一歩を踏み出そうとした時、私の腰に手が回された。
誰!っと思うより先に覚えのある、揶揄うような声が耳元で囁かれた。振り向かなくても分かる。クロイツ殿下だ。
「お前はここでも問題児なのか?」
面白がっている。そういう人だよアンタは!
クロイツ殿下の登場に、令嬢方の黄色い悲鳴が上がった。・・・・・・ご夫人の中にも頬を染める人が大勢いる。
まあ、見た目は最高だからね。
『あの方は誰?』
この国でクロイツ殿下の顔を知っている人は少ないだろうね。
『ミラドール公爵令嬢とどんな関係が?』
何もありませんが?
『あの距離はもしかして』
違うから! 変な勘ぐりしないで!
クロイツ殿下の登場で会場の視線を一気に掻っ攫った。ある意味これでよかったのか?
私の腰に腕を回したクロイツ殿下の前にべティーが立った。頬を染めながら胸の前で祈るようなポーズ。目には涙を浮かべて上目遣い。
ああ、これ前回にも何度も見たわね。
「あ、あの・・・・・・あ、あたしべティーと言います。いつも学院で・・・・・・リ、リリーシアさんに・・・・・・クスンッ」
思わせぶりに最後まで言わないのは、相手に悟って欲しい時のべティースタイル。
そんなべティーを見てクロイツ殿下が微笑んだ。片方の口角が上がっている。
ご愁傷さま。べティー。




