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『ちょっと確認したいことがありますの。一度マシェリア王国に帰ってきますわね。新学期には間に合うように戻ってきますわ!・・・・・・でも、もしかしたら少し遅れるかもしれないけれどなるべく早く帰ってくるわね』
そう言い残してリズベットだけが一時帰国した。
残された私、マリエル、レイドリック、ついでにミカエルは何をするでもなく平和に過ごしていた。
本当は私もリズベットと一緒にマシェリア王国に帰りたかった。
でも、残念ながら冬季休暇は二週間しかないのだ。すぐに帰国することになるのなら、進級前の二ヶ月間ある休暇を利用してマシェリア王国に帰った方がいいと皆んなで相談して決めたのだ。
・・・・・・そう、私にとってこの国は居心地が悪い。
なんだかんだと多少の不満はあるけれど、ミラドール公爵家で平和に過ごしていたある日、お父様が爆弾発言をかましてくれた。
いつものマリエルとレイとの夕食後のお茶も終わり、湯浴みも終えあとは寝るだけの状態で、お父様が話があると執事が私を呼びに来た。こんな遅い時間に呼び出されるなんて余程大切な話なんだろうとガウンに袖を通して急いで執務室に向かった。
お父様の執務室に入り、対面にあるソファに座った。
深刻な表情をしたお父様に不安になる。
「リリーシア、ギリアンから婚約の申し込みがあった」
はぁ? 何の話かと思えば馬鹿らしい。
「もちろん断ってくれましたよね?」
絶対にいや! 彼だけは有り得ない!
前回は婚約者がいながらべティーと不貞を犯そうと、穏便な婚約解消を望んでいた。その為に言われなき陰口も聞き流し、邸内で行われるべティー母娘の暴言暴力にも耐えた。もちろん婚約解消を拒否するつもりもなかった。
なのに、べティーの言い分だけを信じて彼は簡単に私を処刑台に送ったのだ。もちろん無実の罪でだ。
彼にとって私の命はとても・・・・・・とても軽いものだった。
そんな彼が婚約の申し込み?
確かにいまの彼から悪意を感じたことはない。
でもね、無理なんだよ。忘れられないんだよ。あの屈辱を、恨みを、恐怖を・・・・・・たったの一人も私を憐れんでくれる人も、庇ってくれる人も居なかった。
皆んな笑っていた。
そう、今から首を落とされる私を見て笑ってたんだよ。恨まずにいられるはずがない。
「ああ一度は断った」
「一度?」
「俺にとってギリアンは可愛い甥っ子だ。その甥がリリーシアに恋焦がれていると、生涯大切にするからと、浮気や余所見は絶対にしないと言うんだ。・・・・・・考えてはくれないか?」
「・・・・・・これは決定なのですか?」
「いや、そうではない。だが、アイツならお前を任せられると思っている」
あんたの目は節穴か! 実際、前回は裏切られたんだよ!
最近はお父様のことも信用していたのに・・・・・・残念だ。
私の婚約はマシェリア王国にいる伯父様やクロイツ殿下の許可なく決めることができない約束のはずだ。仮令親でも私の意見なしに婚約を結ぶことはできない。
なら、私の答えは一つしかない。
「お断りします」
当然だ。
いまの学院での私の状況はギリアン殿下も知っているはずだ。なのに、一度だって助けに入ることも、庇う言葉もなかった。
それなのに婚約を申し込んでくるなんて・・・・・・やっぱり最低な男ね。
「・・・・・・そうか」
それで話は終わりとばかりに私は振り向くこともなく執務室を出た。
あれからお父様とは上辺だけは今まで通りを装い、心の距離は離れている。
もちろん今回のことはマシェリア王国にいる伯父様には即行で手紙を送り報告済みだ。
少し落ち込み気味の私を見かねて、新年の夜会に付き合ってくれたマリエルとレイには感謝だ。ただ単に面白そう!と着いてきたミカエルは好きにすればいいと思っている。
前回、ギリアン殿下の婚約者だった時は、夜会に出ても私の居場所はどこにもなかった。彼は常に隣にべティーを置いていたから。
でも、今回はこの国の社交の場に出るのはこの日が初めてだった。
◇◇◇◇◇
もう、二度とココには来たくなかったのに。
でも仕方がないか。オーギュスト王国の貴族を名乗っているのだから、新年の夜会には参加せざるを得ない。
でも結果から言うと、参加して正解だった。
あの場面を思い出すと申し訳ないが『ざまぁ』としか思えない。
それに長年の憂い? 悩み? 疑問? がスッキリした。性格が悪いと言われようが、いまは最高に気分がいい。
もう二度と彼女たちに会うことがないのだから。
思い出すだけで笑えてくる。
もちろん私だって公爵令嬢だという立場があるのであの場では顔には出さなかった。・・・・・・はず。
まあ、何があったかというと・・・・・・
◇◇◇◇◇
私はレイに、マリエルはミカエルにエスコートされて会場である、王宮の大広間に入場した。
もちろん『リリーシア・ミラドール公爵令嬢~ レイドリック・マシュー伯爵令息~・・・・・・』と、入場前に名を紹介されたから、注目を集めた。
そりゃあ、筆頭公爵家の令嬢がこの歳になるまで公の場には出たことがないのだからそれは仕方がない。
それにしても視線の種類が前回とは全く違う。
前回ではあれほど嘲笑っていた声も、蔑んだ視線も、今は好奇心や羨望、そして少しの嫉妬が混じったものだ。
・・・・・・本来ならコレが普通なんだ。
前回ビアンカ、べティー母娘がミラドール公爵家に迎え入れられた。でも、貴族の常識からすれば所詮は元平民。なのに、一度も蔑まれることもなく受け入れられていた。
当時は『愛されヒロインだから』なんて僻むこともなく当然だと私も思っていた。
・・・・・・ああ、馬鹿らしい。自分が死にたくないがために、媚を売り、暴力暴言にも耐えていたなんて・・・・・・
その結果が処刑。
冷静になった今ならわかる。人の婚約者を奪い、嘘で人を陥れるような者がヒロインなんておかしいと・・・・・・本当に私は馬鹿だった。
だから二度目が始まった時、自分らしく生きることに決めたんだった。
意識が過去にふけっていた私の前に小太りの男性が立ち塞がった。
その後ろには俯いたべティーの肩を抱いたビアンカ。
「君が権力を笠に着て、私の娘を虐めたのか?」
誰このオッサン? って、簡単に想像がつくわね。
ドドラー伯爵。
ビアンカの現夫で、べティーの義父だ。




