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・・・・・・なんか違う。
違うっていうのも、私の勝手な思い込みなんだけれど。なんて言うか、もっとこう両者の言い分を聞いて、公平な人だと思っていたんだよね。
ワーグナー先生が間に入った途端、べティーが泣きだした。
もちろん両者からの言い分も聞いてくれたけれど、泣き出したべティーから話を聞くのには時間がかかり、結局注意を受けたのは私だった。
はぁ? なんで? べティーが泣いたから私が悪くなるの? じゃあ泣いたもの勝ちじゃない!
「リリーシアさん、確かにべティーさんの言動は褒められたものではないわ。でもね、彼女のような令嬢はどの時代にもいるのよ。同年代の異性と交流できる場なんて学生時代ぐらいしかないの。誰だって将来有望で少しでも家格の高い相手を見つけたいの。その気持ちは貴女にもわかるでしょう?」
分かりませんが? 相手を陥れてまで自分だけが幸せになろうなんて思わないわよ!
「それにね、こんな大勢の人が集まる場所で公爵令嬢であるリリーシアさんが 『付き合いたくない、関わりたくない』 なんて個人を責めるようなことを言えばどうなると思う? べティーさんが孤立することになることが、賢い貴女なら分かるでしょう? それこそがイジメに繋がると思わない?」
まるで聞き分けのない子を諭すようにワーグナー先生は優しく言う。ただ、べティーの本性を知っている私は素直に受け入れられない。
それこそ先生であるワーグナー先生が皆の前で言うことじゃないわよね。
ほら、さっきまで私に同意していた生徒たちから『確かに言い過ぎだよな』『ミラドール様って冷たい人だったのね』なんて声が聞こえる。
「それはドドラー伯爵令嬢に濡れ衣を着せられようが、悪者のように言われようが私に我慢しろと仰っているのですか?」
「そうではないわ。リリーシアさんは成績も優秀だし、友人にも恵まれているでしょう? 多少のことは余裕を持って広い心で受け止めてあげて欲しいの。ね?」
「・・・・・・」
私の勘が言っている。
この人は信用したらダメな人間だ。
良い人ぶりたいだけだ。
本当は少しだけ・・・・・・憧れていたんだけどな。
でも、もういいや。
一瞬だけ向けられたワーグナー先生のあの目を見てしまったから。
「ワーグナー先生の言いたいことは分かりました」
「そう! 分かってくれたのね!」
私の説得に成功したとでも思った?
「ええ、私も先生を交えてまでこんな揉め事は二度とごめんです。ですから、やはりドドラー伯爵令嬢とは距離を置くことに決めました。信用できない人とは付き合わない主義ですので。では失礼します」
「話にならないわね。わたくしもリリーシアに同感ですわ」
「わたしもです。・・・・・・残念です」
「俺もだ。・・・・・・見る目がなかったな」
「僕もかな~ ワーグナー先生ってば、期待はずれだったようだね」
リズベット、マリエル、レイ、ミカエルの順に席を立った。
かすかに聞こえた『え?』って声はワーグナー先生だったのか、それとも他の生徒だったのか、もうどうでもいい。
私たちは振り向くことなく食堂をあとにした。
少し前までワーグナー先生に憧れ、心酔していたレイとマリエルも食堂での先生の発言からか、医務室を訪ねることはなくなった。
そのせいか、最近ではワーグナー先生の方から声を掛けられることが多くなったようだ。
『レイドリックくん、この間痛めた腕の調子はどう?』
『マリエルさん、悩みごとは解決したのかな?』
こんな感じで大した内容ではないし、保健室の先生? 養護教諭って言う方が正しいかな? 取り敢えず、ワーグナー先生の態度は今までと変わらないんだけどね。
もちろん私とリズベットにも明るく優しい声で接してくる。
当然私たちも笑顔で返すわ。
でもね、私を見る目だけは・・・・・・なんと言うかその目がね、前回では数え切れないくらい・・・・・・いいえ、ずっと、ずっと周りから向けられていた目と同じなんだよね。
だから気付いたの。
ワーグナー先生は理由は分からないけれど私のことが嫌いなんだってことが。
でも、彼女に嫌われるようなことをした記憶はないんだよね。どこかで粗相をしたにしても勘違いだと思う。だって私は編入してくるまで、マシェリア王国に居たんだし、まだこの国の社交の場にも出たこともない。
うん、記憶を探っても思い当たる節はないね。
ま、ワーグナー先生の勘違いだとしてもあんな目を向けられたら、もう信用はできないわ。
◇◇◇◇◇
べティーは、と言えばあの日以来私たちが彼女に絡まれることはなくなった。
それまではべティーのことをよく思っていなかった生徒たちの中には、見方を変えた人たちもいたようで、何かしらべティーを気にかけて声をかける生徒をよく見かけるようになった。
前回の恨みはあれど、私に関わって来ないのであれば、別に仕返しをしようとは思っていない。
当然、許してあげられるほど私はできた人間でもないし、優しい人間でもないことは自覚している。もっと言えば、視界にべティーの姿を映すのも嫌だ。さらに言えば、私と同じ痛みや絶望、それに孤独を味わわせてやりたい気持ちもある。
でもそれは、ここに通う生徒たちも先生たちも全員にも言えることだから・・・・・・
私は恨みを忘れていない。けれど誰かの命を奪いたいとも思っていない。
だって、いまは私を信じて大切に思ってくれる人たちがいるから。
この世界に転生してから今が一番幸せだと言えるから。
だからいいんだ。
ヒソヒソとされても。
悪意ある噂が流れていても。
教科書がなくなっても。
体操服が破られていても。
以前とは違う視線を向けられても。
日が経つほどに前回を思い出すことが増えたとしても・・・・・・
結局、彼等は変わらないんだね。
そんなのここに編入する前から分かっていたよ。だから爪の先ほども期待なんかしていなかったもの。
気にしない。気にしない。心の中でそう何度も繰り返していても、他者からの悪意を向けられ続ければ心は深く暗いところに沈んでいく。
そんな状況が続くなか冬季休暇に入った。




