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今日も今日とてガルシア公爵家に王宮からの迎えの馬車がきた。そのままご立派な馬車に乗せられ王宮に着いたのだが、珍しく殿下の出迎えがなかった。
それはとてもとても久しぶりで、クロイツ殿下が待っているだろうと予測はつくが、隣に彼がいない開放感からテンションが高くなった。ゆっくりと手入れのいき届いた素晴らしい庭園を歩きながら、気に入った場所では足を止め、花々に感嘆の溜息をつき時間を忘れて見惚れていた。
そこへ複数の女性の声が聞こえてきた。
その中心にはクロイツ殿下。
それにしてもクロイツ殿下のあの笑顔。・・・・・・顔だけならピカ一。でも私からすれば完壁に作られた笑顔だ。
彼を取り囲む令嬢たちは彼の本性を知らないのね。
その証拠に全員が頬を染めて目も潤ませてクロイツ殿下を見つめている。確かに顔はいいものね。それでいて次期国王であり、国民からの人気も高く頭脳明晰で文武両道。文句なしの超優良物件だ。
でもね? この先何十年と一緒に過ごすことを考えると顔なんていつかは見飽きるだろうし、大切なのは中身だと私は思うのよ。あんな腹黒、私なら勘弁して欲しいわ。
なんて失礼なことを考えていたからか、バッチリとクロイツ殿下と目が合ってしまった。それも私の考えていたことが分かったかのように・・・・・・嫌な予感しかしない。この場から逃げようと背を向ける前に退路を絶たれた。
「やあ! リリーシア来てくれたんだね。待っていたよ」
その作った笑顔を私に向けるのをやめ~い!いっせいに令嬢たちの鋭い視線が私に向けられたじゃない!
「君たちとの時間も大切だが先約があってね、悪いがこれで失礼するよ」
その言い方だと私が邪魔をしたみたいじゃない!
引き止めようとする令嬢の手をさり気なく拒否して、優雅にこっちに向かってくるけれど、顔はもう作り笑顔ではなく胡散臭い笑顔になっている。おもわず後退るも彼の長い足のせいで私の目の前に来るのは早かった。
そして、意地悪く口角が上がったと思ったら抱き抱えられた。しかも幼児の頃と同じ縦抱きだ。
「あ、歩ける! 自分で歩けるから下ろして!」
思わずバンバンとクロイツ殿下の背中を叩く。人目があるというのに王太子に対して相応しくない言動が自然と出ていた。
そして令嬢たちからは私を非難する言葉が嫉妬の視線と同時に向けられた。
「ぷッ」
「わ、ワザとね! わ、私があの人たち(全員私よりも年上に見える)に嫌われたらどうするのよ!」
「そんなもの、お前は気にもしないだろ?」
「そんなわけないでしょ!・・・・・・でも、そうかも?」
「だろ?」
「ええ、私は何れはこの国を去る人間だものね」
「・・・・・・そうだな」
慣れというものは恐ろしいもので、そのままクロイツ殿下の執務室まで運ばれ、普段通りに茶菓子をいただき、他愛のない話をして帰ってきた。
ただ・・・・・・今日のクロイツ殿下は少しだけ元気がないように見えた。
気付いたら二ヶ月もあった夏季休暇が終わっていた。私は二ヶ月間もいったい何をしていたのだろう?
本当に! 本当に! あっという間だったんだよ! なんだったら寝て起きたら二ヶ月経っていたみたいな?
いや、確かに伯父様や伯母様とは着せ替え人形にされながら買い物にも行ったし、ついでに何度かカフェで楽しくお茶もした。
ユーリ兄様やアルト兄様ともお互いの近況報告をしたり、体術や剣術の相手をしてもらった。
領地に戻っていたマリエルとは残念ながら休暇中は会えなかったけれど、リズベットとレイとは騎士団の鍛錬場に行けば会えたし、それに週に一度はクロイツ殿下にお呼ばれして王宮に会いに行ったりしていたけれど、二ヶ月だよ? そんなに早く時間って経ってしまうものなの?
そして現在、オーギュスト王国にミカエルを含む五人で戻ってきたわけだけれど(ちなみにミカエルとも鍛錬場に行く度に会っていた)
ギリギリまでマシェリア王国に居た私たち。慌てて戻ってきたはいいけれど、明日から新学期だなんて・・・・・・ゆっくりすることもできない!
まあ、今回を教訓に『日程には余裕を持つ!』ことを心に決めた。
◇◇◇◇◇
「ねえ見た?」
「見た見た! すっごい美人だったわよね」
「あの色気たまんねぇ」
始業式の会場である講堂に向かう間にそんな声が聞こえてきた。
「わたしたちのような編入生でしょうか?」
「内容的にそうみたいですわね」
「美人なんて何処にでもいるだろ? 騒ぐほどかね?」
「え~僕は楽しみだな~」
「いい人だといいよね」
と、ちょっとワクワクしていた。
で、その美人さんの正体はというと、新任の医務室の先生だった。
「ご紹介に与りました。アリーシャ・ワーグナーと申します。皆さんが健康で健やかに過ごせるようお手伝いが出来ればと思っております。怪我や体調不良でなくても、悩みごとの相談も受け付けます。気軽に医務室まで足を運んでくださいね」
最後には砕けた口調でウインク!
そのウインクがまた似合っていて、彼女を魅力的に見せていた。
凄い美人な女性が、それを鼻にもかけない様子に講堂に集まっていた生徒たちからの好感度も上がっていた。男子生徒たちの野太い声と、キャッと照れるような女子生徒の声を聞きながら私も同じように心を掴まれたと思った。
それは隣にいるマリエルとレイの表情を見れば二人も同じ気持ちだと分かった。
ただ、リズベットだけは何か考えごとをしているような難しい顔になっているのが気になった。
でも・・・・・・アリーシャ・ワーグナー。前回の記憶ではワーグナー子爵家に令嬢がいた記憶は私にはない。




