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~レイドリック(レイ)視点~
俺は強くなるために騎士団の練習に参加することにした。そこであの小さな少女リリーシアを見つけた時は運命だと思った。
『りりーちあでしゅ。よろちくおねがいちましゅ』
か、可愛い! めちゃくちゃ可愛い!舌っ足らずなところも、それを恥ずかしそうにしているところも。
自己紹介が終わると騎士たちが注意事項を述べている間も俺の目は彼女にくぎ付けだった。。
『まずは鬼ごっこだ』
と言った騎士の言葉に周りの子供たちは喜びの悲鳴をあげて嬉しそうに走り出した。その後ろをリリーシアもついて行くのだが・・・・・・遅い。あれは走っているのか? 歩いているのではなく?
子供たちの走る後ろ姿を見たリリーシアの慌てた顔を見て本人は一生懸命に真剣に走っているのだと気付いた。すぐにでも鬼に捕まってしまいそうなリリーシアに俺は思わず手を差し出していた。
『こっちだよリリーシア』
突然手を掴んだ俺に驚いた顔をしたリリーシアも可愛かった。
『僕と一緒に逃げよう!』
俺よりも小さな手はぷにぷにしていてそこも可愛かった。
結果は言わずもがな、一番に捕まった。
『・・・・・・ごめんなしゃい』
小さなリリーシアが申し訳なさそうに謝ってきた。
『僕のほうこそごめんね』
『でも、ありあとう』
照れくさそうだけれど、そう言って笑顔を向けられた。
嬉しくなった俺はここぞとばかりに自然を装って自分の愛称をリリーシアに呼んでもらうことにした。(昔の俺ってなんてマセていたんだろう)
『僕はレイドリック。レイドリック・マシュー。レイと呼んで』
『れい?』
舌っ足らずなリリーシアだったが、俺の名はきちんと言えたことに嬉しさが増した。
『そう。僕もリリーシアと呼んでもいいかな?』
調子に乗った俺は不自然にならないように彼女の名を呼べるよう誘導した。
『いいよ~』
素直なリリーシアは笑顔で名を呼ぶことを許してくれた。
この日から俺はリリーシアの友達になった。
まだ幼かった俺はそれだけで満足だった。
そのうち、いつも元気で裏表のないリリーシアはみんなの人気者になっていった。
ただ、訓練が終わる時間になると毎回クロイツ殿下がリリーシアを迎えにきて、土でドロドロだろうが、汗まみれだろうが自身が汚れることも厭わず抱き上げて去って行く。
俺は口にこそ出さなかったが、その姿を見る度に面白くない・・・・・・不満が積み重なって行くのを感じた。
騎士たちに聞けばリリーシアはクロイツ殿下のお気に入りらしい。お気に入り?
毎回リリーシアを揶揄いながら抱き上げ、残った俺たちには綺麗な笑顔を向けて去って行くクロイツ殿下。
当時は分からなかったが、あれは、お気に入りなんて可愛いものじゃない。
あれは・・・・・・
リリーシアとの付き合いも10年が過ぎた。
そして俺たちは学園に入学した。
その学園にも慣れた頃、俺は人生最大の失敗を犯した。
気づいていたさ。リリーシアが俺に特別な感情がないことぐらい。
少しでも恋愛的な気持ちを俺に向けてくれないか・・・・・・との希望はリリーシアと出会って数年も経てば捨てるしかなかった。
その頃にはリリーシアがオーギュスト王国の王弟の娘で、ミラドール公爵家の一人娘だと知ってしまったからだ。たかだか伯爵家の三男の俺はリリーシアには相応しくないと・・・・・・分かってしまったから。
だからこそ友人というポジションで満足するしかなかったんだ。
あの日、巫山戯てリリーシアを『愛人』に、なんて言ってしまったが本気じゃなかった。少しだけ、想像してしまっただけだ。
俺がリリーシアの隣にいる光景を・・・・・・
俺だけをリリーシアのロイヤルブルーの瞳に映される未来を・・・・・・
結局リリーシアは『愛人』って言葉は冗談で聞き流し、今までと変わらない『友人』のポジションに俺を置いてくれている。
何だかんだと面倒くさいこともあったが、突然リリーシアが帰国することになった。
俺の知る限りリリーシアの口から母親の話は出ても、父親のことは一度も聞いたことがなかった。それに関してはリズベットもマリエルも思うところがあったのだろう。素直にリリーシアが心配だからと言えばいいものを、留学を理由にしてリリーシアについて行くことにしたらしい。
これでリリーシアとはお別れか・・・・・・次に会えるのは何年後だろうか・・・・・・それとも二度と会うことすら叶わなくなるのだろか・・・・・・心がどんどん暗い気持ちで重くなっていた。
あと三日でリリーシアの帰国が近づいた時、クロイツ王太子殿下に呼び出された。
『手続きもご両親の許可も取ってある。お前もリリーシアについて行け』
本人の確認もなく、俺の編入手続きまで済ませてあると言う。
まだリリーシアの傍に居られる! そう思うと重かった心が一瞬にして軽くなるのを感じた。
そして一言。
『リリーシアのことはお前に任せる。・・・・・・何があっても必ずリリーシアを信じ守りきれ』
当たり前だ! 何年一緒にいると思っているんだ。リリーシアの言動には散々振り回されてきたが、疑ったり失望したことは一度もない。
でも任せるって・・・・・・では貴方は?
貴方こそ彼女を一番近くで守りたいんじゃないのか?
クロイツ殿下の真剣な顔を見れば、その問を声に出すことは出来なかった。
◇◇◇
俺たちの心配をよそにリリーシアとミラドール公爵は案外上手くいっている。
だが、学院にはウザい令嬢とその取り巻き。
リリーシアを熱を孕んだ瞳で見つめるギリアン第二王子殿下。
リリーシアの整った美貌はどうしても視線を集めてしまう。その視線に良くも悪くも鈍いリリーシアだけが気付いていない。
ただ、クロイツ殿下の言葉の意味を理解するのは思っていたよりも早かった。




