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~ギリアン殿下視点~
べティー・ドドラー伯爵令嬢。
ドドラー伯爵が前妻との婚姻前に付き合っていた女性の娘。
しかも、ドドラー伯爵の実娘だという。
礼儀作法もマナーも未熟な令嬢だ。
僕が学院に入学してから毎日のように追いかけ回されうんざりしている。ハッキリ言って迷惑だ。
入学したての頃は彼女だけでなく、大勢の令嬢に取り囲まれて困っていた。その理由は僕が王子で婚約者がいないからだ。余程、王族という身分は魅力的なのだろう。
それも入学から1年も経てば落ち着いてきた。僕に近付くにはジョシュアの鉄壁の守りをくぐり抜けなくてはならないからだ。
ほとんどの令嬢が諦めるなか、ドドラー伯爵令嬢だけは執拗くまとわりついてくる。クラスは違うが昼休憩と登下校時間は同じだからか待ち伏せされているようだ。
・・・・・・馬鹿らしい。
許可も出していないのに敬称も付けずに名を呼ぶ。
隙あらば勝手に僕に触れようとする。
何かと王族の僕をドドラー伯爵家のお茶会に誘おうとする。王族が参加するなら侯爵家以上だという常識も知らない。
成績も下から数えた方が早い。
礼儀もマナーも知性もない。
そんな令嬢に惹かれるわけがない。そんな令嬢を妻に迎えるわけがない。
王族の伴侶には求められるものが何一つとして身に付いていないのだから。
ドドラー伯爵令嬢にはうんざりしていたが、学院生活自体は有意義に過ごしていた。
そして1年が過ぎ、新入生が入ってくる時期に父上から聞かされた。
『レアンドル、お前の叔父の娘が帰ってくるぞ』
『マシェリア王国にいるリリーシアが?』
叔父上の娘・・・・・・従妹なのに会ったことがないな。
『ああ、編入してくる』
『僕にそのリリーシアの世話を?』
『その必要はない。友人と一緒だからな。頭の隅にでも置いておけばいい』
ふ~ん。
『本当はお前の婚約者にしたかったのだが、王命で強引に結ぶわけにはいかなくなった』
従妹には会ってみたいが興味はない。だが王命を出せない理由が気になる。
『レアンドルがマシェリア王国の公爵令嬢を妻に迎えたのは知っているな? 彼女はマシェリア現国王の従妹だったんだが既に亡くなっている。でだ、情けないことにレアンドルは残された幼いリリーシアに見向きもせず、使用人任せだった。それを見かねたガルシア公爵・・・・・・リリーシアの伯父が引き取りに来たんだ。マシェリア王国の王太子を連れてな。その時にリリーシアの婚約者を後見人になったガルシア公爵の許可なく決めるなと念を押されたんだ』
親が育児放棄したなら仕方がないな。でもレアンドル叔父上はそんな人には見えないが・・・・・・
『当時のレアンドルはそう言われても仕方がなかったんだ。・・・・・・あいつは魅了に掛けられていた』
はあ? 魅了魔法? 何だそれ?
それから魅了魔法の効果を聞いて恐ろしくなった。
魅了だと?
マシェリア王国の王太子がリリーシアを迎えにガルシア公爵に付いて来なかったら、今も魅了に掛かっていたかもしれないって?
叔父上の状態を見てクロイツ王太子殿下が魔術師を派遣してくれたらしい。
魅了が解けてもその間の自分の言動は覚えていた叔父上は自責の念に駆られ見張っていなければ自ら命を絶っていただろう。と・・・・・・
愛していた妻と、愛する娘を蔑ろにしていた記憶が叔父上を壊しかけていたそうだ。
ガルシア公爵がリリーシア嬢の成長と様子を数ヶ月おきに手紙で報告してくれていたと。
その定期的に届く手紙が叔父上をこの世に繋ぎ止めていたらしい。
いつまでも弟の情けない姿にとうとう堪忍袋の緒が切れた父上が叱責したそうだ。
『後悔するだけなら寝ていてもできる。お前も父親だろ! 父親の義務と責任を放棄するな!もう一度リリーシアに会いたいのならお前が大人になれ! 娘が誇りに思えるような立派な人間になれ! ・・・・・・それが出来たのなら俺がリリーシアを呼び戻してやる!』
それからの叔父上は変わっていったそうだ。
数年後には父上も認めてリリーシア嬢を呼び戻そうとしたが、叔父上自身がまだ自身を認められなかったそうだ。
魅了を使用した人物の証拠は取れていないそうだ。
結局、リリーシア嬢が帰ってきたのはマシェリア王国に発ってから13年が経っていた。
魅了か・・・・・・恐ろしいものだな。
叔父上がやっと自信を取り戻し娘を傍に引き戻すのに13年も掛かったのか。
編入して来るという従妹に少しだけ興味が湧いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの日もドドラー伯爵令嬢に追い掛けられてうんざりしていた時、何処からか令嬢の声が聞こえてきた。
『ねえ、あの子のアレって演技よね。あんなのに引っかかる男って、周りからの評価を落としていることに気付かないのかしら? お馬鹿さんってことよね。まさかこの学院にはそんな男たちが沢山いるの?』と、ドドラー伯爵令嬢とその下僕たちを馬鹿にする言葉だった。
その場にいた僕を含む生徒たちの視線が声の方向に向くと、その中の1人の令嬢から目が離せなくなった。
手入れの行き届いた金髪に紫がかったロイヤルブルーの大きな瞳の美しい令嬢を見た瞬間、僕の心臓は痛いくらい激しく鼓動した。
名前を聞く前に彼女は慌てて連れの令嬢たちの手を引いてその場を去ってしまったが、同じ学院に通っているならすぐにまた会えると、次は必ず名前を聞こうと決めた。
次の日学院に登校すると、ドドラー伯爵令嬢の下僕たちから彼女たちが責められていた。
そのお陰とも言えなくもないが、あっさりと気になる令嬢の名前を知ることができた。
彼女が僕のいとこだったのか・・・・・・
自惚れではないが僕もかなり整った見た目をしていると自負していたが、リリーシアは僕にまったく興味を示さなかった。それどころか、拒絶されたように感じた。
『あの子が僕の婚約者になるはずだった子なのか・・・・・・』
彼女が欲しい・・・・・・
今からでも彼女を僕のものに・・・・・・
今まで一度も女性に惹かれることのなかった僕の中に初めて執着のようなものが生まれた。
警戒心の強そうな彼女に、少しずつ・・・・・・少しずつ・・・・・・慎重に距離を詰めていけばいい。
必ず君を手に入れるよ。
君は僕のものだ。




