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ガルシア公爵家に到着するまでに、リズベットたちの邸に寄って彼女たちとは一旦お別れした。
最後までガルシア公爵家まで付いてくるとグズグズ駄々を捏ねていたミカエルはクロイツ殿下のひと睨みで大人しくなって諦めてくれた。
門扉を潜ると懐かしいガルシア公爵家の邸が目の前に、ユーリ兄様と、アルト兄様、そして使用人の皆んなが笑顔で迎えてくれた。
数ヶ月間離れていただけなのに帰ってきたと感じた。なんだかお父様には申し訳ないわね。
馬車が止まり笑顔で手を差し出してくれたユーリ兄様の手をクロイツ殿下が叩き落とした・・・・・・そして突然私を抱き上げた。
それも子供を抱くような縦抱き・・・・・・うん、これも変わらない。
ここ数年は回避できていたのに、旅の疲れか到着した安心感からか気が抜けていたわ。こうなったら暴れようが騒ごうが絶対に下ろしてくれないことは経験済みだ。おとなしく運ばれるしかないのだ。
そのままガルシア公爵家の応接間に運ばれ、私をソファに下ろすと、クロイツ殿下も隣に座った。・・・・・・本当に彼は変わらない。
苦笑いしながら対面のソファにユーリ兄様とアルト兄様が座り学院での生活の話をして聞かせた。
マシェリア王国の学園に通っていた時みたいに、友達と呼べる人はまだ居ないことを伝えると「ぷッ」って隣から聞こえた・・・・・・イラッ!
何時もここで私がムキになるから面白がられるんだ。うん、彼は空気だ。ここには居ない。『ぷッ』は空耳だ。落ち着け私。
「リリーシア」
聞こえないよ。
「おい、リリーシア」
うん、これは空耳、空耳!
「こっちを見ろリリーシア」
ふふん、知~らない。
「・・・・・・そうか、わかった」
んん? 何がわかったって?
ユーリ兄様とアルト兄様にチラリと視線を向ければ、二人とも小さく首を左右に振っている・・・・・・い、嫌な予感がする。
恐る恐る隣を見れば!!!わ、笑っていらっしゃる!!そ、それも、片口角が上がってる~!
懐かしい~じゃない!これは私に意地悪をする時の顔だ!
に、逃げなきゃ、今すぐここから!クロイツ殿下から逃げなきゃ!
腰を浮かせた瞬間捕まった。
「オーギュスト王国に行っている間にずいぶん耳が悪くなったんだな。王宮医に診せよう。コイツは連れて行く」
ウソ~!言い終わる前に担がれた。いつもの縦抱きじゃなく、肩!肩に担がれてる~
「ご、ごめんなさい!ちゃ、ちゃんと聞こえてる、聞こえています!」
「・・・・・・何か言ったか? 俺も耳が悪くなったようだ」
・・・・・・ダメだ。助けて! ユーリ兄様! アルト兄様!
あっ、アレって見たことがある。
助けを求めた従兄弟たちは十字を切っていた。所謂アーメンってやつだ。ご愁傷さまってこと?
いや~~~
クロイツ殿下は私を肩に担いだまま歩き出しちゃったよ〜 もう、聞こえない振りはしないから~ ごめんなさいってば! 下ろして~
叫ぶ私の耳に『躾が必要だな』と、聞こえたのは空耳であってほしい。
「ごめんなさい」
あのままクロイツ殿下に攫われて来たのは、いつもの王宮にある彼の執務室。
突然現れた私にいつもの侍従の方と侍女の方は優しく微笑んでくれた。彼らとも随分長い付き合いだ。ソファに座ると香りのいいお茶とお菓子が音もなく目の前に置かれた。
「分かればいい・・・・・・ほら食べろ」
お菓子の一つを手に掴み私の口元に持ってきた。パクりと食べるのはいつものこと。
でも、強引に連れてこられたことは許していない。私は食べるついでにクロイツ殿下の指に噛みついてやった。満足して顔を見上げると・・・・・・
あっ、やべぇ・・・・・・怒っていらっしゃる!その証拠に真っ赤になって怒りで震えていらっしゃる!
「ご、ごめんなさい」
先に謝ってしまえ!
「・・・・・・も、もういい。で? 魅了についてだったか?」
ああ前にクロイツ殿下に魅了について手紙を送ったのだった。
昔は魔法大国と呼ばれていたマシェリア王国。王太子であるクロイツ殿下なら何か知っているかと思ったのよね。
実際、まだこの国には魔法が使える者がいるって聞いていたしね。
で、クロイツ殿下が話してくれたのは、確かに魅了を使える者はいるそうだが、昔はともかく今はその数も減って使える者は僅かで、その僅かな人たちも管理されているそうだ。
しかも、現在国を脅かすような強い魅了魔法を使える者は居ないとか。
じゃあビアンカは? てなると彼女にはマシェリア王国人の血が流れている可能性があり、密かに調査しているそうだ。
「血?」
「そうだ。この国の者は魔法を使える使えないに関係なく、魔力の差はあれど皆んな魔力は持っている。その魔力が魅了使いよりも多い場合は効かないが、使用されると吐き気がしたり頭痛がしたりする」
頭痛! 私もリズベットたちもビアンカに手を握られた時に頭が痛んだ・・・・・・あの時に私たちに掛けようとしたんだ。べティーの都合のいい駒にでもするつもりだったのか?
「まあ、べティーって娘まで魅了が使えるかどうかも併せて調査している」
それなら任せてもいいかな?
どうせ私には魔法に関する知識なんてないんだからね。
ああ! あるにはある。でもそれは前世のテレビや漫画だったり小説での知識だけどね!
「じゃあ結果が出たら私にも教えてね」
話は終わったわね。
ってことで、これ以上ここに居る必要はないと席を立った。
「じゃあ帰るわ~」
ああ疲れた。ゆっくり休む間もなく連れてこられたからね。
よし! 明日、明後日は行儀は悪いけれど食っちゃ寝して過ごそう!
「ああ、また明日な」
「・・・・・・は?」
「必ず来いよ」
な、な、な、なんて意地悪な人なんだ! こっちは疲れているんだよ! 配慮ぐらいしろよ!
「わかったな? 返事は?」
うぐぐぐぐ・・・・・・
「イ、イヤ」
無駄な抵抗だと分かっていても本音が口から出た。
「ああ? 今なんて言った? 耳が悪くてな、もう一度言ってくれ」
この有無を言わせない笑顔。これはもう笑顔の前に凶悪なって付けた方がピッタリだよ。
「はぃ~来ます」
ハッキリ嫌だと言えない私って・・・・・・情けない。




