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「どうした? この時間はまだ授業中だろ? 何があった?」
仕事がいち段落したお父様は向かいのソファに腰を下ろしながらそう聞いてきた。
お父様を待っている間に荒ぶっていた心は落ち着いていた。まずは・・・・・・
「ギリアン殿下から私と婚約話が上がっているとお聞きしました」
「ああ、それなら断った」
「えっ?」
「ん? リリーシアはギリアンと婚約したかったのか?」
「まさか!」
「ふっ、だろう? 優先するのはリリーシアの気持ちだ」
「で、でも、ミラドール公爵家は・・・・・・」
「リリーシアが婿を迎えてもいいし、リリーシアが何処かに嫁ぐならギリアンを養子に迎えてもいい。だから家のことは気にするな」
「い、いいの?」
「ああ、お前はお前の幸せを考えればいい。お前が幸せになること・・・・・・それが俺とお母様の願いだ」
お父様の目が・・・・・・この国に帰ってきてからはずっとこんな風に私を優しく見つめてくれている。
私を愛していると、大切な娘だと、目が物語っている。
前回はどれだけこれを望んだか・・・・・・悔しいのか、悲しいのか、嬉しいのか勝手に目頭が熱くなる。
「あ、ありがとう」
「ははっ、リリーシアはまだまだ子供だな」
立ち上がって隣に座ったお父様がふわりっと壊れ物を扱うかのように抱きしめてきた。
前回も入れてお父様に抱きしめられるなんて初めてかもしれない。温かい・・・・・・お父様の腕の中がこんなに安心出来るものだなんて、ずっと知らなかった。教えてくれなかった。そう思ったら涙が止まらなくなった。
今の優しさをなぜ前回与えてくれなかったの? 悔しさもある、何度も絶望した。
でも嬉しさの方が大きくて心が満たされていく・・・・・・
全然違う。前回と、このお父様は全然違う。その理由を知りたい。
私が落ち着くまでずっと背中を撫でてくれていた。
「・・・・・・すまなかった」
涙を拭き、鼻水をかんでいていると、お父様が申し訳なさそうに謝ってきた。私は黙って続きを待つことにした。少しの沈黙のあとお父様がポツリポツリと話してくれた。
「・・・・・・俺はおかしくなっていた時期がある」
私に言わせれば、ずっとおかしかった。
「あんなにアナを愛していたのに・・・・・・アナのお腹にいる時からリリーシアを愛していたのに・・・・・・生まれてくるリリーシアに会えるのを毎日楽しみにしていたのに・・・・・・」
ツーーーッと、お父様の瞳から涙がこぼれた。
「・・・・・・心からお前たちを愛しているのに、違う行動しか出来なくなったんだ」
今お父様が話してくれていることは私が聞きたかったことだ。
「まるで自分が自分でないかのようだった。・・・・・・アナが亡くなった時も心は張り裂けそうに苦しいのに・・・・・・残されたリリーシアを大切に愛して幸せにしてやりたいのに・・・・・・俺の意思とは反対の行動しか出来なくなったんだ」
後悔と悔しさからか握りしめたお父様の手には血が滲んでいた。
「・・・・・・あの日、リリーシアが俺から去ったあと、クロイツ殿下が魔術師を派遣してくれた」
魔術師・・・・・・はるか昔マシェリア王国は魔法大国と言われていたとか。
初めて聞かされた時は、魔法があるなら見てみたい! とクロイツ殿下に駄々を捏ねたわね・・・・・・今はもう、限られた人しか魔法は使えないと言って会わせてもらえなくて、ムカついてクロイツ殿下の肩に噛み付いたわね・・・・・・今思えば八つ当たりとも言うわね。
「・・・・・・俺は魅了されていたようだ」
え?
「お父様、『ビアンカ』もしくは『べティー』という女性に心当たりはございませんか?」
!!
お父様は驚きに目を見開き顔色が一気に悪くなった。その様子にお父様がおかしくなっていた原因はビアンカの可能性が高くなった。
「あ、ああ」
やっぱり!
「昔、王都の街に生まれてくる子供にと玩具を買いに行ったんだ。その時に突然その名の女性から『俺との間に娘がいる』と聞かされたんだ。それも俺とは過去に恋人同士で、身分違いの差から無理やり引き離されたと言われた」
前回私が聞いた噂話と、今回ドドラー伯爵との噂話と同じだ。
「ああ! リリーシア勘違いしないでくれ! 誓って言う! 俺は過去も現在もアナを愛している。あの女と恋人だったことは一度もない」
それから暫く、お父様はお母様との出会いから如何にお母様を愛していたかを照れながら嬉しそうに話して聞かされた。それはもう事細かく・・・・・・両親の初キスとか聞かされるこっちが恥ずかしいわ!
まあ、話をまとめると、女性から言い寄られることの多かった王子時代、女嫌いで一切女性に興味を示さないことを心配され、前国王夫妻(私の祖父母)に留学を勧められたそうだ。そこで出会ったのがお母様だった。
ひと目で恋に落ちたお父様は、今まで言い寄られることはあれど、自分から動く経験がなかったお父様はずっと陰から見つめていたと・・・・・・ストーカーか?
それでも留学期間が残り一年となると、焦りがでてきたと・・・・・・(二年間見ていただけとか情けないだろ!)
そこでやっと行動を起こしたが、何が原因かお母様を怒らせたらしい。その時にお腹にパンチをお見舞いされたとか・・・・・・(何をしたら腹パンを食らうのよ!)
それが衝撃的でお母様に気持ちを伝えるだけで満足するつもりだったお父様をさらに夢中にさせたとか・・・・・・(変態?)
それからは『必ずアナスタシアを妻に!』をモットーに恥も外聞も捨て去り、口説くようになったらしい。
その度にパンチをお見舞いされたらしい。
『だから腹筋を鍛えたんだ』と照れながら言われても娘の私からするとバカ? としか思えないわ。
てか、私の記憶にあるお母様は儚げな見た目で優しくてとても自分よりも遥かに体格のいい男性に暴力を振るうような人には見えなかったよ?
まあ、その甲斐あってかお父様の努力は実り? お母様の心を射止めたらしい・・・・・・(お母様も変態だったの?)
話をまとめると、お父様はお母様の前に恋人など居るはずもなく、今も昔も愛しているのはただ一人お母様だけで、ビアンカが言っていることは人違いだとしか思えなかったそうだ。
お母様との出会いや、結婚してからの幸せな日々を嬉々として話していたお父様の顔から、また涙が溢れだした。
「・・・・・・ビアンカと会って以来どんどん俺の言動がおかしくなっていったんだ」




