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学年の違うべティーとはほとんど会うこともなく、会ってしまったとしても食堂だけだった。
食堂・・・・・・最近はギリアン殿下とミカエルの関係もあり彼も一緒に昼食を摂ることが多くなった。つまりジョシュアも同席することになる。
もちろんこの二人に前回の恨みがある私は同席を拒否したい!
でもリズベットとマリエルは紳士的な彼らに好意的なのよね。
確かに私の記憶にあるべティーと出会う前のギリアン殿下は優しく身分問わず平等でよく笑顔を見せる人だった。今の彼のように・・・・・・
まあ、ジョシュアは無愛想、無表情なのは変わらない。が、前回はべティーの前でだけは違ったのよね。
「君たちは夏季休暇には国に帰るのかい?」
「「「はい」」」
「僕はどうしようかな~」
「そうか、家族に顔を見せて安心させてあげなよ・・・・・・それからミカエルには聞いてないよ」
「え~でもリリーシア姉様も帰るんでしょう?だったら僕も帰る~」
「ええ、帰るわ」
そう、今の私には実家のミラドール公爵家に居るよりも、マシェリア王国のガルシア公爵家の方が居心地がいいのだ。いくらお父様が前回と変わっていたとしても・・・・・・愛情を向けられていたとしても、忘れられないのだ。4歳で家を出るまでは関心もなく見向きもされなかったことが・・・・・・
「リリーシア嬢は、ミラドール公爵家のたった一人の娘だよ?」
「ええ、そうですね」
何を今更分かりきったことを聞くのか・・・・・・
「将来は婿をとるのだろう?」
「まだ何も決まっておりません」
ギリアン殿下も今年で卒業なのに婚約者は決まっていない。婚約者が居なくても臣籍降下し、公爵なり侯爵の身分は与えられるはずだ。別に婿入り先を見つける必要はない。
前回は私と婚約者だったギリアン殿下が婚姻し、ミラドール公爵家に婿に入ることになっていただけだ。
でも、べティーと出会ってからのギリアン殿下は常に婚約者だった私を冷遇し、べティーを傍に置いていた。
まあ、当時のギリアン殿下にとっては、同じミラドール公爵家の娘なら嫌いな私と結婚するよりも、愛するべティーと婚姻を結んでミラドール公爵家に婿入りすることを望んだのは間違いない。
実際、私が処刑されてからのことは分からないけれども、周りから『真実の愛』だと応援されていた二人に、私という邪魔者が居なくなれば、障害の無くなった二人が結ばれるのは必然で・・・・・・乙女ゲームでいうハッピーエンドを迎えたのだろう。
でも、おかしいのよ。
確かに前世でやった乙女ゲームではヒロインはべティーだった。
そのゲームではヒロインのべティーは天真爛漫で素直で可愛くて性格もいい子だった。だからこそ婚約者のギリアン殿下と親密になっていく義姉に、彼を奪われるのを恐れた悪役令嬢のリリーシアが嫌がらせの数々を行うのだが・・・・・・そのヒロインとべティーの性格が違い過ぎたのよ。
あそこまでヒロインの性格が変わったのは、ミラドール公爵家に迎え入れられるまでに育った環境のせい?それとも、誰かの影響のせい? そこで頭に浮かぶのはビアンカ。
もう、お父様に聞くしかない。
そう、心で決意している私にギリアン殿下が爆弾発言を投下した。
「僕とリリーシア嬢の婚約話が上がっているのを知っているかな?」
◇◇◇◇◇
「僕とリリーシア嬢の婚約話が上がっているのを知っているかな?」
は?
「し、知りません! 聞いていません! 嫌です!」
突然ありえないことを言い出したギリアン殿下に、考えるよりも先に叫んでいた。
聞き耳を立てていたのか、周りが騒がしくなった。
考え込んでいた私はここが食堂だったことをすっかり忘れていた。これ以上騒ぎになって王族に対して不敬だなんだと言われる前に逃げ出すことにした。
「し、失礼します」
逃げるように席を立ち出口に向かった。
一瞬だけ目の端に映ったギリアン殿下の顔が、悲しげに見えたのは気の所為だ。たとえそうだとしても彼のことなんか知らない。前回と違っていても忘れられないのだ。前回の彼を・・・・・・今の彼がべティーと懇意にしていなくとも、彼を信頼することは無理なのだ。
彼こそが私を処刑する指示を出した本人なのだから・・・・・・
恨んでいないわけが無い。
大勢の生徒たちからいわれなき罪で罵声を浴びて、誰一人として私の味方も信じてくれる人も居ないそんな場所で、私は殺されたのだから。
諦めていたよ?
足掻いても無駄だってわかっていたから諦めていたよ?
でもね、本当は死にたくなんかなかった。
理不尽な理由なんかで死にたくなかった。
あの場がどれだけ怖かったか・・・・・・
そんな相手と婚約?
巫山戯るな! 誰がそんなことを言い出したんだ!
無我夢中で廊下を走って馬車に乗り込んだ。怒りで手も足も震える。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのまま邸に帰ってきてしまった私は、勢いに任せてお父様の執務室に向かった。
ギリアン殿下との婚約話も、前回との違いもグダグダ一人で考えるよりも一つ一つ疑問を解いていこうと思ったから。
勢いでここまで来てしまったけれど、いざ扉を叩くとなると躊躇してしまった。
今からお父様に聞こうとしていることは、誰にも聞かれたくない。そうなると二人きりでの話になる。実を言うと、実家に帰ってきてから二人きりになったことがないのだ。
それでも聞かなくてはならない。
震える手で扉をノックすると、側近の方が一瞬驚いた顔をして、何も聞かずに「公爵様に確認してまいります」と中に入っていった。
そう待たされることなく側近の方に案内された。お父様はチラリと私を見て「この書類を終わらせるからそこに座って少し待ってくれ」と言ってソファを指した。
側近の方はお茶を淹れるとそっと部屋から退室していった。
優しいお茶の香りに荒ぶっていた心が癒されていくようだ。
お父様を待つ間に心を落ち着けて聞きたいことをまとめることにした。




