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「あ、ああ、突然悪いね。父上が成長したリリーシア嬢に会いたいと毎日うるさいんだ。一度顔を見せに来てほしいんだ」
少し眉毛を下げて申し訳なさそうな言い方をするギリアン殿下に、前回のまだ少年だった頃の面影が重なる。
「不安なら叔父上と一緒でも構わないよ」
そうだった。
ギリアン殿下はちゃんと人の意見も聞いてくれる優しい人だった。べティーと出会うまでは・・・・・・
婚約者だった私に特別な思いが持てなくとも、無闇に人の命を奪うような人ではなかった。
前回の辛かった日々がフラッシュバックする。私の味方なんて何処にも居なかった。屋敷の中にも、学院の中にも・・・・・・
あの時も男子生徒も、女子生徒も、皆んなが私に罵声を浴びせていた。私の死を願っていた。
まるで集団が催眠か洗脳にかかっていたような・・・・・・集団で催眠? 洗脳?
は? 集団催眠? 前世で聞いたことがある。本当にそんなことが有り得るの? 学院生徒全員が? どうやって?
やはりべティーが?
どんなやり方で?
それよりも・・・・・・今は目の前で待っているギリアン殿下への返事が先ね。
「分かりましたわ。陛下のご都合の良い日にお伺いいたします」
ホッとしたように優しく微笑んでいるギリアン殿下は知り合った頃のままだ。前回では二人で楽しく過ごした日々も確かにあったのだ。それが何だか悲しい。
でも、感傷に浸ってる場合じゃない。
だって、ギリアン殿下が私に話しかけてきてからずっと、べティーの泣き声とそれを慰める腰巾着たちの視線は敵意をガンガンに送ってきていますからね!
面倒なことに巻き込まれるのだけは避けたかったのに、これが切っ掛けに絡まれるようになったら恨むよ? ギリアン殿下!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
本日、陛下に呼ばれ王宮にお父様と向かうことになったのはいいけれど、何故かレイまで付いて来ることになった。なんでも私の護衛なんだとか・・・・・・
お留守番になったリズベットとマリエルは今日は王都に買い物に行くと言っていたから、どうせなら二人の護衛をして欲しいと言ったんだけど、付いて来ると聞かなかった。
まあ、あの二人に護衛が必要ないことは付き合いが長い分知っている。
で、無事? 陛下とご対面~ となったのだけれど、久しぶりに会った陛下は私が応接間に入ると、両手を広げて抱きしめてきた。
その腕が僅かに震えているのは不思議だったけれど、すぐに腕を解いて私の目線に合うようにしゃがんだ陛下の顔が、笑っているのに辛そうに見えて言葉が出てこなかった。
ちなみにレイは王宮に着くなり、さっさと騎士団の鍛錬場に向かった。どうもオーギュスト王国の騎士団の鍛錬に興味があったらしく、事前にお父様から既に許可を貰っていたらしい。護衛だなんだって言いながら本命はこっちだったようだ。
それからマリェリア王国でのことや、いま通っている学院の他愛ない話をして解散になると思いきや、何故かギリアン殿下とのお茶会のセッティングまでされていて、断ることが出来ず今に至るのだが・・・・・・
???
え~と??
貴方、ギリアン殿下じゃないわよね?
美しい庭園を眺めながら、セッティングされているというお茶会の場所まで案内されると、長い足を組み、優雅にお茶を飲んでいる人物。
前回も数える程しかお会いしたことがなかった。
交わした言葉は挨拶程度。オーギュスト王国次期国王。ローレン・オーギュスト王太子殿下。
銀髪に意志の強そうな黒い瞳。タイプは違えどクロイツ殿下とタメを張る美形だ。弟のギリアン殿下も同じ銀髪だけど、瞳の色はピンク。その為かギリアン殿下の方が優しそうな印象だ。
てか、何でここに居るの?
「やっと来たか。リリーシア嬢」
"やっと"って、まるで約束の時間に私が遅れたように言わないでよ! それでも挨拶しないわけにはいかないか。
「ああ挨拶は必要ない。そこに座りな」
挨拶する前にそれを遮られ、ローレン王太子殿下は自分の前の席を顎で指す。こんな偉そうな感じの人だったかな?
まあ、ここは素直に従った方が正解ね。私が座るとローレン殿下の侍従の方がお茶を淹れてすこし離れた場所まで下がった。
嫌な予感がする・・・・・・聞かれたくないヤバい話をするつもりじゃあないでしょうね? まずはお茶を飲んで落ち着こう。
「単刀直入に言う。ギリアンと婚約するつもりはないか?」
「ないわ!」
!!
しまった! 反射で応えてしまった。突然何を言い出すんだ? 相手は王太子、不敬とか言い出さないよね?
「・・・・・・わかった」
ふぅ~咎める気はなさそう。緊張したからか喉が渇く。もう一度喉を潤そうとお茶を口に含んだ。
「なら、俺の婚約者になるか?」
ぶぅーー!
「ふざけないで下さい!」
もう真面目に相手をするのも馬鹿らしい。濡れた口元を袖で拭いながら席を立った。
「ふざけてなんかいない。嫌なら仕方がない諦めよう。君なら王妃に相応しいと思っただけだ。まさか即行で断られるとはな。俺も顔には多少自信があったが・・・・・・座れ」
「し、失礼しました」
「本来リリーシアの立場なら俺かギリアンの婚約者になってもおかしくない。だが、父上と叔父上は候補にすることすら反対した。何故だかわかるか?」
「いえ」
「これも一時期、怠惰な生活を送り娘にすら見向きもしなかった叔父上のせいだ。見かねたマシェリア王国のガルシア公爵・・・・・・君の伯父が引き取りに来たからだ。それもクロイツ王太子殿下を引き連れてな」
それから教えられたことは、私が育つ環境にお父様は相応しくないと、伯父様の養女にするつもりだったこと。それは陛下とお父様に反対されたそうだ。(この内容は私も知っている)
結局、ローレン殿下の話はあの場での話ばかりだった。
「まあ、リリーシアに選ぶ権利があるってことさ。だから王族だからといって強引に君を婚約者には出来ないってことになる」
「そ、そうですか」
「本当に残念だよ。リリーシアは俺の伴侶に申し分なかったのに・・・・・・その血筋も見た目も知性も気品も、気の強さも気に入ったが仕方がない今は諦めよう」
いや、どうでもいいから早く帰らせてくれ。
でも、おかしいな。
彼には婚約者がいたはずなんだけど・・・・・・これも前回と変わっていることの一つ。




