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「そう言えばリリーシアとギリアン殿下っていとこなんだよな」
「・・・・・・ええ、初めて会ったいとこね」
「まったく似ていませんでしたわね」
「そうねお互い母親似だからね」
会ったことがないと言いながら、母親似だと知っているかのように言った私の言葉が矛盾していることは突っ込まないでくれたようだ。
こんなことを話しながら歩いているとすぐに教室に着いた。
「ねえ、あのべティーって令嬢、これに懲りて関わってこなくなるといいわね」
相変わらずマリエルは優しいわ~
でも、甘いわ!
「何を言っていますの?お馬鹿令嬢とギリアン殿下との会話を聞いただけですが、何度も注意を受けても反省も行動も改めないお馬鹿令嬢が、恥をかかせたわたくしたちに何もしてこないワケがありませんわ」
リズベットお馬鹿令嬢って・・・・・・もう、名前すら呼ぶ気がないのね。
「だな、お前たちなら大丈夫だろうが気を付けろよ? あの女は男を味方につけるのが上手いみたいだからな」
「レイ? 誰に言っていますの? 返り討ちにして差し上げますわ! 最近体が鈍っていましたから是非ともお相手していただきたいですわ」
こんなに楽しそうにしているリズベットは久しぶりに見た。
可愛くて儚く見えても、実は体を動かすことが大好きなリズベットは、小柄な体型を活かした体術が得意だったりする。
・・・・・・間違いなく返り討ちにする。
ええ、リズベットなら売られた喧嘩は買う。ついでに容赦もしない。
そう、これは実際にあったことなのだ。
報せを聞いて駆け付けたその場には倒れた三人の男たちと、高笑いするリズベットが・・・・・・過去の記憶がよみがえる。
「そ、それでも気を付けましょうね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
特別クラスとはいえ、二度目ともなると退屈ね。
王子妃教育で進んだ授業で学院で習う内容は済ませていたから、前回も退屈だったのを思い出した。
ま、今回の私はこの退屈な時間を無駄にするつもりはない。考えることが沢山あるからね。
そうなのだ。
昨日のべティーの取り巻きに絡まれたのを見ていた令嬢たちが、聞きもしないのに彼女の情報を教えてくれたのだ。
その内容がおかしいのだ。
◇◇◇◇◇
名はべティー・ドドラー。ドドラー伯爵家の養女。
ドドラー伯爵には妻を迎える前から平民の恋人がいたそうだ。それも相手は既婚者だったとか。
政略結婚のために一度は別れさせられた2人だったが、偶然再会してからは焼け木杭に火が付いたのか、2人の愛が再び燃焼したらしい。
その、愛の証がべティーだとか・・・・・・
ただ、ドドラー伯爵は青い髪に黄色い瞳。前回義母だったビアンカは茶髪に薄い緑色の瞳だった。べティーは黒髪に赤い瞳・・・・・・
ドドラー伯爵は奥様が亡くなると、親族からは反対されたが、反対を押し切り正式に二人を迎え入れたらしい。
前回、それと同じようなことを聞いた。
ビアンカの相手がお父様からドドラー伯爵に代わっているだけで他はとても似ている。てか、同じ・・・・・・
ビアンカはなぜ今回はお父様を選ばなかったのか・・・・・・
それに結婚前から恋人だったとか、そんな噂はどこから出てきたものなのか・・・・・・
考えることが多すぎて授業なんて聞いている場合じゃな~い!
まただ・・・・・・ あの子には恥らいやプライドはないのだろうか。
「相変らずだな」
「あそこまでいくと見苦しいわね」
今日も今日とてべティーはギリアン殿下を追い掛けている。次いでに殿下の隣にいるジョシュアにも媚びるような視線を向けるのも抜かりはないようだ。ただこれも腰巾着を後ろに従えて、なんだよね。
「いつも不思議に思っていたんだけど、彼らはドドラー伯爵令嬢が自分ではない他の男の人を追い掛けているのに平気なのかしら? だって彼らはドドラー伯爵令嬢がお好きなのでしょう?」
マリエルが疑問に思うのは当然よね。
誰だって自分の好きな人が、自分以外の人を追い掛ける姿は見たくはないはずよ。普通なら嫉妬もするだろうし、独り占めしたいはずだもの。
でも、べティーが相手だと皆んなあんな風になるのよ。応援すると言うか、自分たちと同じ仲間を増やしていると言うか、おかしな現象が起こるのよね。
「最初はわたくしも身構えていましたけれど、お馬鹿令嬢はお馬鹿ですから忘れてしまったのかもしれませんわね。残念ですわ」
あれから二ヶ月が経ってもべティー関係で絡まれることも無く、平和に楽しく過ごしていた。
ま、私たちに実害がなければべティーが誰に何をしようが関係ないからね、今の私は遠くからこっそり観察するだけに留めている。
そうする内に、少しだけ前回との違いが見えてきた。
前回は上はギリアン殿下から下は下位貴族までがべティーに夢中になっていた。しかも女生徒までもがね。
でも今回はギリアン殿下は勿論のこと、公爵子息や侯爵子息までの誰もがべティーの行動を疎ましく思っているようなんだよね。
女生徒も下位貴族の令嬢はともかく、高位貴族の令嬢はべティーに好意的でないことは見ていたら分かる。
前回と今回のこの違いは何なの?
やっぱりべティーが『魅了使い』かも? だなんて私の考え過ぎだったのかな?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この日も普通に授業を受けて、昼食を摂りに食堂に4人で来た。そこまではいつも通り。
『ギリアン様ぁ~』・・・・・・うん、べティーがギリアン殿下を追い掛けているのもいつも通り。
そのべティーをジョシュアが阻止しているのもいつも通り。
なのに、今日のギリアン殿下の行動だけが違っていた。
「こっちに来るみたいだぞ」
「あら?」
「まあ!」
「・・・・・・」
「リリーシア嬢、少し話せないかな?」
何で?
私は話すことなんてないわよ!
大体、こんな場所で! しかもべティーの前で! 話しかけてこないでよ!
ほら! ジョシュアに捕まっているべティーが睨んでいるじゃない! 寝た子を起こすようなことはやめて!
「ご機嫌よう。ギリアン殿下」
話したくない。
関わりたくない。
出来れば顔も見たくない。
でも彼は王族。無視も出来ない。
「ここでは話せないことでしょうか?」
この、ギリアン殿下は何も悪くない。それは分かっている。
それでも、前回を覚えている私は彼を許せない気持ちがある。だから二人きりで話すのは嫌だ。




