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前世と代わり映えのしない入学式を終えて、教室に向かった。
そうそう、アルト兄様は生徒会長だった。アルト兄様が壇上に立った瞬間、会場中に大音響で黄色い悲鳴が轟いた。うんうん分かるよ。アルト兄様ってスタイル抜群だし優しそうで可愛いもんね!
この学園は1年生の間だけは男女でクラスが別れている。もっと詳しく言えば校舎も違う。
入学式ではお淑やかそうに見えていた令嬢たちだが、今にも取っ組み合いが始まりそうな勢いで言い争っているグループもあれば、我関せずと机の上に化粧品を並べ鏡を見ながら念入りに化粧直しをしている令嬢もいる。
男子の目がない所ではこんなものなのかもね。
よく見ればほとんどの令嬢が制服を改造している。
チラリと同じクラスになったリズベットとマリエルを見れば私と同じ手を入れていない制服だった。何故かホッとしたのは私が小心者だからだろうか。
当然だが自己紹介があった。
「リリーシア・ミラドールです。よろしくお願いいたします」
ええ、皆さんの気持ちは分かるわよ。
そうよね。ミラドールなんて家はマシェリア王国には無いものね。聞いたことがなくても当然だわ。
でもね、知っている人は知っているのよ。隣国の王弟が臣籍降下し興した公爵家ですからね。
ほら、知っている人は何人かいるみたい。高位貴族の令嬢なら、他国に嫁ぐ可能性もある。知っていても不思議ではない。その可能性がないとしても、隣の国の公爵家や侯爵家の情報が頭に入っていて当然とも言える。
学園に入学して2ヶ月も経てば、クラスメートの名前だって覚えるし性格も分かってくる。中には私にキツく当たる子もいる。
シシー子爵家のセリア嬢だ。別に大したことではないけれど、視線を感じればその先には必ずと言っていいほど彼女がいて私を睨んでいるのだ。確かな理由は分からないけれど、思い当たる節はあるにはある。
どうもシシー嬢はレイのことが好きみたいなんだよね。
私とレイは厳しい特訓にも一緒に耐えた仲間であり友人だ。それはレイ以外にもエドだったり、リズベットやマリエルにも言える。彼に対して仲間意識はあれど、恋愛的な感情は一切ない。って、教えてあげる・・・・・・そんな必要はないわね。
レイは伯爵家の三男だし、シシー嬢は子爵家の一人娘。婿入り先としては十分よね。もちろん邪魔をするつもりはない。
レイはいい男だもんね。
太陽のような笑顔は人を安心させるし、男らしくて凛々しい。そりゃあモテるだろうし、彼に惹かれる令嬢はシシー嬢だけではないだろう。
モテるのも知っていたし、いい男だとも思っていたよ?
でも、あれはないわ~
聞いちゃったんだよね。レイとそのお友達との会話を・・・・・・
友達だと思っていたのにな~ そんな目で見ていたんだ。残念だよ。
「リリーシア!聞いてくれ!あ、あれは違うんだ!」
「ん? 私は気にしていないし怒ってもいないよ?」
「ごめん!」
「いいよいいよ謝らないで。私が気にしていないんだから、レイも気にしないでそれに私たちは友達でしょう?」
「・・・・・・あ、ああ」
「邪魔なんて無粋なことはしないから、安心して恋人を作って私にも紹介してね」
「だ、だからアレは違うんだ!」
いつも令嬢や友達に囲まれて堂々としているレイが、何故私に言い訳めいたことを言っているのかは疑問だが、本当にあの発言は残念だとは思ったけれど気にはしていない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リズベットとマリエルと昼食を摂って、そのまま庭園のベンチに並んで座った。ここは植木に囲まれているせいか、ひと目にはつかないが知る人ぞ知る穴場なのだ。
ここを私が知っているのはこの学園の卒業生であるユーリ兄様に教えてもらったから。きっと令嬢たちに追いかけられてここに逃げ込んでいたんだろうな。
何を話すでもなくポカポカと気持ちの良い日差しは、お腹がいっぱいな私たちに睡眠を促してくる。微睡みのなか男子生徒たちの声が聞こえてきた。
『レイってミラドール嬢と仲良いよな。今度紹介してくれよ』
『あのレベルはなかなか居ないぜ』
『可愛くて、儚くて、守ってあげたくなるよな』
『・・・・・・お前らリリーシアの中身を知らないから。ああ見えて気は強いし、負けず嫌いだし・・・・・・いろんな意味で強い女だぞ』
『じゃあ、正妻にすると一生尻に敷かれるんじゃないか』
『この国は一夫一婦制だからな~』
『愛人にするのはどうだ?』
『それ!その手があったか!』
『どうだ? レイ』
『ああ、それならいいかな? ・・・・・・あのリリーシアが俺の愛人か~ それもいいかもな』
さて調子に乗って好き放題言っている彼らにお灸を据えなければね。
『盛り上がっているところ申し訳ないのだけど』
『『『『『え?』』』』』
『悪いけど、私は立場的に誰かの愛人にはなれないわよ?』
この場に一緒に訓練してきたメンバーがレイ以外は居なかったことが救いかな?
それにしても『愛人』ね~。 今の私はきっと冷めた目をしているんだろうな。それとも軽蔑した目かな?
私に聞かれたと知った彼らは顔色が悪くなっている。
でも、15歳や16歳の男子が集まればこんな話題も出るだろうし、調子に乗ってしまうことは理解できる。レイも本気で私を『愛人』にしようなどとは思っていないことも分かっている。だから振りだけで本気で怒ってはないんだよね。
でも、彼らの会話を一緒に聞いていたリズベットは般若のように、マリエルは気持ち悪いものを見るかのような顔を向けていた。
もう、2人ともそんなに怒らなくても・・・・・・彼らはまだ子供だよ。
それに・・・・・・この国は大好きだけれど、遅かれ早かれいつかは私はこの国を去るんだよ。
父親が何も言ってこないのをいいことに、帰国を延ばし延ばしにしてきたけれど、何れは帰らなければならない・・・・・・はずだ。
もう、オーギュスト王国にも、前回の元婚約者にも・・・・・・お父様にも未練はないのにね。
それに今ごろは義母とべティーを迎え入れ、家族三人で仲良く暮らしている頃だろうからね。そこに私の居場所がないことは前回で充分理解しているもの。




