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輝く光を胸に抱いて  作者: 吉永 久
第六章:二十四話 明日を懸けた戦い
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24-1

 突如として、水面が山なりに盛り上がったかと思うと、中から岩塊の巨人が現れる。滝のように全身から水を滴らせながら、歩いた。


 やがて陸地へと辿り着く。


 同時に岩塊の体は崩れ去り、入れ替わるようにして中から二人の影が姿を現した。


「ふぅ、やっとたどり着いた」古谷は言う。


「お疲れ様」エトはそれを労った。


 人魚の町から逃亡を図った二人。古谷が再変身できるようになったところで、急浮上してきたのだった。


 目的地は当初の予定通り、地下都市があると言われている孤島。


 巻き込まれる形で遠回りすることとなったが、ようやく辿り着いたのだった。


 目的は二つ。


 一つは、マルイズエの町に魔獣が蔓延るようになった原因を探ること。かつて地下都市はヴァンパイアの住処だった。しかし混血種となった際、遺棄された町でもあり、今ではそのほとんどはシオンが私物化している。


 つい先日まで魔獣を使って様々な実験を繰り返してきた彼女なら、町中に魔獣を蔓延らせることもできるだろう。その程度の憶測だが、調べてみるだけの価値はあると見てやってきたのだった。


 そして、目的の二つ目。


 マーフォーク族同士の抗争に巻き込まれることになった古谷一行は、相手陣営に囚われていたゴーレムの存在を知る。いつ命を落としてもおかしくないほど、非道な扱いを受けていた。


 度重なる戦いで体力を消耗していた変身者は、ついにその命を落としそうになっていた。が、その時にゴーレムの力が発現。たちまち巨人の姿へと変わった。


 それだけに留まらなかった。周囲にいたマーフォークを大量の掴むと、捕食するかのように結晶体へと吸収していったのだった。


 そうして、周囲一帯にマーフォークの姿がなくなると、ゴーレムはどこへともなく去る。


 古谷たちは、それを追ってここまで来たのだった。


「いない、みたいだね」エトは言う。


 彼女の言う通り、ざっと見渡してもその姿は見ることはできない。島で視界を遮るのは繁茂する木々と、せいぜい岩山くらいのものだ。


 木の高さはせいぜいゴーレムの肩の辺りだ。隠れようとしていればその限りではないが、普通に立っている分には見えて然るべきだろう。


 岩山は背が高いので裏手に隠れれば、身を隠すには十分だ。あるいは自らの体の素材を生かして、密着し、擬態するようにして姿を晦ますことも可能かもしれない。


 だが、そのためには理性的である必要があった。


 マーフォーク族に囚われていたゴーレムはかなりの量の薬が盛られ、自意識を奪われていた。未だ後遺症が残っているはずだ。そこまで冷静な判断は下せないだろう。


「来ているとは思うけどな」古谷は言う。


「うん、それは間違いないね」エトは同意した。


 それもそのはず、海岸にはまだ真新しい大きな足跡が残されていたからだ。つま先のない、角ばった形状。魔獣のものとは思えないので、ゴーレムのものと見てまず間違いないだろう。


「とりあえず、これ追ってみるか」古谷は提案した。


「そうだね」


 二人は歩き出した。


          *


 足跡はまっすぐ向かっているようだった。海岸が途切れて森へと差し掛かっても、茂る木々をへし折るようにして強引に進んでおり巨大な獣道のようになっている。


「何かに導かれてるみたい」エトが言う。


「何かって、何に?」古谷が尋ねた。


「いや、それはわからないけど。でも、何か目的のあるような足取りだったから」


「ただ通り道として、最短ルートを通っただけかも」


「それはそうかもしれないけど。……古谷は何か感じないの?」


「だから何を」


「いや、ゴーレムとして何か感じるものがないのかなって。だったら、それに導かれてるのかもって」


「うーん?」古谷はしばらく神経を研ぎ澄ましてみた。と言っても目を瞑り、眉間に皺を寄せてみただけのことだが。「いや、別に何も」


「じゃあ、考え過ぎかな」


「何にせよ、これを辿ればわかってくるよ。島の反対側に出るのか、それとも別の場所に辿り着くのか」


「そうだね」


 二人はそれから黙々と歩いていった。


 やがて辿り着いたのは洞窟の入り口だった。


「ここって……」エトは言う。


 奥行からして、ここから地上をずっといっているとは思えない。


 つまり。


「地下都市の入り口」


「みたいだな」


「行ってみようか」


「ああ」


 入っていく。


 入り口は瞬く間に遠ざかり、明かりはすぐに差し込まなくなった。


 古谷は掌に光を宿し、それを光源とする。


「もう地下なのか?」古谷が尋ねた。


「どうだろうね」エトは答える。「そんな感じはしなかったけど」


 視界が確保できたと言っても、せいぜい周囲数メートル程度だ。前後は真っ暗闇。進めば進んだ分だけ、通り過ぎた場所は闇に沈む。


 当然、行き先も見通せないので、その先に何が待ち構えているのか。近づくまで知ることはない。


 そんな状況なもんだから、自分たちが今どこにいるのか判然とはしなかった。進んでいる光景もそう変わり映えしない。自分が前に進んでいるという確証は、足を断続的に動かしているというそのことのみに依存していた。


 そんな調子で歩み続けていると、やがて広大な空間に出た。


 そこには光源がある。空間の真上にぽっかりと穴が開いており、今は太陽の光が差し込んでいる。天井には乳白色の結晶体がいくつもぶら下がっており、僅かな陽光を乱反射させて、空間内を照らしていた。


 その他にも、地上にはいくつもの建物が軒を連ねている。しかし、放置されて久しいのだろう。そのほとんどが朽ちかけている。


 間違いなかった。ヴァンパイアの町だ。


「ここに来たんだろうか」古谷は掌の光を消しながら言う。


 思えば、洞窟内は狭い。とてもではないがゴーレムが通れるような場所ではない。


 だが、足跡は入り口の手前で明確に途切れていた。


「とりあえず、奥に行ってみよう」エトは言う。「何かあるかも」


「そうだな」


 ここがシオンの実験場となっている可能性は高い。彼女が何をしているか、それを探るのも目的の一つだ。


 今にも崩れてしまいそうな建物群を尻目に、進んでいく。


 やがて、町の最奥部までやってきた。だが、さらに奥があるようだ。やたら背の高い穴が開いている。ちょうど、ゴーレム一人が通れそうなサイズだ。


 二人は視線を合わせて頷きあい、入っていった。


 入った先はちょっとした通路で、またも暗闇が続くのかと思われたが、すぐに出口があり、そこには何やら光源があるようだ。一種類ではない。極彩色な光。


「何、あれ」エトは思わず警戒した。


「引き返すか?」古谷は気を遣ってそう提案した。


「いや、行こうか」しかし、彼女は意を決して進む。


 やがて二人はまたも空間に出る。


 そこで目にしたのは、何とも形容しがたい光景だった。


 まず、青、紫、黄土、緑と様々な色彩に包まれた空間。それらは、それぞれの結晶体から齎されている光で、空間全体を万華鏡のように彩っていた


 結晶体の正体は魔獣の種と呼ばれている代物だ。魔獣たちは、ここから生み出される。


 しかし一つだけ、青い結晶体だけは別だ。魔獣のものなどではなく、ゴーレムの胸についているものだったからだ。


 どうして、それが一目でわかったかと言うと、そこには物言わぬ石像と化しているゴーレムの半身があったからだ。


 壁の一部と同化しているかのように上半身だけが突き出ている。その胸には青白い光を放つ結晶体がある。だが、それだけに留まらなかった。


 ゴーレムの体のあちこちから、いくつもの結晶体が突き出ていたからだ。紫、黄土、深緑。どれも魔獣の種だ。


 二人はその光景にしばらく絶句した。


 ややあってエトが先に意識を取り戻すと、古谷に言う。


「ねぇ、反応ある?」


「……反応?」


「何か言ってこないの?」


「ああ、そういうことか。いや、今のところは何も」


 ゴーレム側からは人間の肉声は受け付けるので、何らかの事情で聞こえていないのか、意図的に無視を決め込んでいるか。あるいは、別の理由からか。


「あの、聞こえていますか?」エトが呼びかける。


 ついで古谷に視線を向けるも、彼は首を振った。無反応と言うことだ。


「何があったんだろうね」彼女は続けて言う。


 昨日今日でできたものではないだろう。その証拠にゴーレムの体のあちこちがひび割れており、土埃も積もっている。


「少なくとも、俺たちの追っていたゴーレムではなさそうだな」古谷は言った。


 と、その時だった。


 魔獣の種の一つがより強い輝きを放ったかと思うと、球体が出現した。それは重力に従って地面にまで落ちると、まるで卵のようにべしゃりと潰れる。中から魔獣が姿を現した。


 輝きを放っていたのは黄土色の結晶体だった。なのでてっきり、その色に対応した魔獣が生み出されるのかと思いきや、出てきたのはかつて地下都市で一度だけ目撃した虫顔の魔獣だ。


 くすんだ茶色のぼてっとした胴体。対象的に鮮やかな赤色が目立つ、芋虫に似た顔つきの魔獣だった。


 蜘蛛の魔獣同様、あれ以来一度も見かけたことはなかった種類だ。


 それがどうしてここにいるのか。


 それに加えて、全く異なる種類の魔獣の種から生まれたこともそうだ。


 謎が多すぎる。


「とりあえず一旦、ここから離れよう」エトは提案する。


「いや、だがせっかくここまで来たんだ。何か手掛かりくらい」


「こんなところじゃ派手に戦えないでしょ? それに、変身にだって制限があるのに」


「……それもそうだな」


 致し方ない。地下で戦うのは常に落盤のリスクがある。天井に穴が開いているヴァンパイアの町なら、まだ脱出経路がはっきりしているが、ここにはそれすらない。間に合わなければ生き埋めになってしまう。


 ここが地下何メートルかはわからないが、深くに埋められたらさすがに力技で地上に出ることも叶わなくなってしまう。それでもゴーレムの状態ならばまだいいが、変身が解けた暁にはもはや打つ手が亡くなってしまう。


 逃走という選択肢が、もっとも合理的だった。


 だが。


「それには及ばないぜ!」どこからともなく声が聞こえる。


 声の方へ視線を向けようとするも、正体を見極めるよりも早く、目も眩むほどの光が発生した。


 そうして、次の瞬間にはゴーレムの姿が現れる。


 への字に曲がった突起を、翼のように携えた岩塊の巨人。


「レン!」


 古谷は、彼の名を呼んだ。


(速攻で、ケリつけてやる)


 レンはお決まりの台詞を告げると、その通りにした。


 まさに電光石火の如く。まだ生まれて間もない虫顔の魔獣に掴みかかると、空中へと放り投げる。


 レンはそれを追うように飛翔し、あっという間に追い越す。自由を失っている魔獣のさらに上へとやってくると、身をのけぞらすようにして反転し、自由落下へと移った。


 足を下に突き出し、全体重を乗せたキックを見舞う。そのまま地面へと急降下していった。


 衝撃。振動を伴いながら、大量の土埃を巻き上げる。


 やがて晴れたその先には、膝立ちしている翼の巨人の姿があった。


(よお、久しぶりだな。古谷、エトちゃん)


 エトにはその声は聞こえていないだろうが、片手をあげていたのでその意味を察したのだろう。彼女は控えめに振り返す。


 が、そんなことよりもだ。


(馬鹿!)ジュンの声が聞こえた。(こんなところで何してんの! 最悪、二人を生き埋めにしちゃうところじゃない!)


(えー? 大丈夫っしょ。俺らがついてるんだし)


(いくら何でも限度ってもんがあるでしょうに。……ったく、アルドからも何か言ってやってよ)


(俺は、レンを信じている)


(あー、はいはい)ジュンは投げやりに言った。(私が間違ってましたよ)

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