↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輝く光を胸に抱いて  作者: 吉永 久
第六章:二十二話 もう一人の巨人
88/95

22-4

 状況は劣勢だった。


 後発隊にも戦闘員はいるが、やはり優良な人材は先発隊の方にいる。そうでなくとも大勢を守りながらになると、やはり困難が伴った。


 それに蜘蛛の魔獣は町の人々はこれまで見たことないらしく、対応に苦慮していた。


 蜘蛛の糸による遠隔攻撃。殺傷力はないまでも、粘性の高いそれに絡めとられると身動きが取れなくなる。戦闘員ならば戦線を離脱することになるし、非戦闘員となると救出のために手が必要になる。


 どちらにせよ、戦力が削られるに至った。


「フルヤ」


 エトに呼びかけられ、彼は頷き返す。


 力を温存しておく理由はなかった。掌に光を現出させる。それを握りこんで胸の前へと持っていくと、光は彼をたちまち岩塊の巨人の姿へと変えた。


(行くぞ!)


 構えを取ると、走り出した。


 まずは一番手近にいる黄土色の魔獣へと拳を振るう。体重を乗せて殴り掛かる。


 黄土色の魔獣もそれに真っ向から応戦する姿勢を見せた。同じく拳を振るう。


 お互いに殴り合う形となったが、腕力の差で古谷が勝った。黄土色の魔獣を弾き飛ばすことに成功する。


 次いで、大地の魔獣。危険を察知したのか再び地面に没しようとした魔獣に掴みかかった。


 そのまま引きずり出しにかかる。


 大地の魔獣はもがいて必死に地面に潜ろうとしていたが、徐々に地上へと引きずり出されようとしている。


 が、そんな彼のがら空きの背後から紫の魔獣が突っ込んできた。


 古谷は踏鞴を踏み、思わず手を放す。大地の魔獣はまんまと見失うこととなった。


 どこへ行ったのかは一旦おいておき、紫の魔獣と対面する。食らいつこうとする顎にアッパーを加えた。


 しばし宙へと投げ出された形の魔獣は、やがて地面へと落ちる。


 まずは一体数を減らそうと、腕を十字に組もうとした。


 しかし、横合いから邪魔が入る。意識外から飛んできた蜘蛛の糸が彼の片手を絡めとると、もう片方の腕を接着されてしまった。さながら両手を組み合わせた形。


 中々に強度の高いその糸は、ゴーレムの力をもってしても引きはがすのに時間がかかる。


 そうこうしている間にも、復帰した魔獣たちが襲い掛かってきた。


 黄土色の魔獣が殴り掛かり、それを避けると今度は紫色の魔獣が突進してくる。


(どうなってるんだ)


 まるで徒党を組んでいるかのような連携っぷりだった。長らく一緒の町に住んでいることで、同族だと認識しているのか。


 今は考えても仕方がない。


 とにかくこの場を切り抜けなくては。


 手を組み合わせた形で固定されたのは不幸中の幸いだった。変な格好で固定されるより動きやすい。


 それに。


(くらえ!)この形で殴れば威力が高いからだ。


 そんな感じで襲い掛かる二体の魔獣をいなすと、反撃を加える。紫の魔獣の脳天に叩き落とし、黄土色の魔獣には下から振り上げた。


 まとめてノックアウトする。


 そうしていよいよ蜘蛛の魔獣へと対峙した。


 が、いくら大型と言えどやはり蜘蛛。動きがすばしっこい。真っ向から殴り掛かっても飛んで躱されてしまう。掠りもしない。


 これでは埒が明かないと見た古谷は、糸の拘束を強引に引きちぎる。攻撃の起点として利用していたおかげで、幾分か脆くなっていたのが幸いした。


 腕を十字に組んで照準する。光線を放つ。


 しかし到達するよりも早く跳躍で躱された。


 古谷は魔獣が着地する隙をつき、再び光線を放った。


 だが、それすらも見切られていたのか、あっさりと飛んで躱された。


 今度は蜘蛛の魔獣からの反撃だった。


 と言っても、空中から蜘蛛の糸を飛ばすだけ。直線的なので躱しやすく、仮に当たったとしても攻撃力はゼロ。せいぜい動きが制限されるだけで殺傷力はなかった。


 お互いに決着をつけあぐねていた。古谷の攻撃は当たらないし、魔獣の攻撃では傷一つ付かない。


 このままではジリ貧になるのは確定だが、そうなった場合、時間制限のある古谷の方が圧倒的に不利になる。


 問題はそれだけではない。先発隊の様子も気になる。


 今尚、魔獣と悪戦苦闘している真っ最中だというのなら、助けにいかなくてはならない。


 古谷一人では限界が訪れていた。


 残る方法はただ一つ。


(ゴンドーさん!)力の限り叫んだ。(聞こえてますか! ゴンドーさん!)


 もう一人の巨人の助力を得ること。


(俺もかつては同じでした! 自分の力が怖くなって、何もかもから逃げ出してしまった! それは今でも変わらない! 戦うことは未だに慣れないし、好きにもなれない! だけど、それよりももっと怖いものがあるって気づいたんです!)


 まだこの町にいるのかどうかはわからない。これは一縷の望みに過ぎない。


 それでもこれに賭けるしかなかった。


(ゴンドーさんだって、もうわかっているんでしょう!)


 その間にも蜘蛛の魔獣が飛び掛かってきていた。


 体を逸らして躱し、受け流す。


 しかし魔獣は着地するや否や、跳ね返るように再び飛び掛かってきた。


 またも躱すも結果は同じ。さながら立場が逆転したよう。


 果たして何が狙いか。ともあれ、向こうから至近距離までやってきてくれるなら好都合だった。


 古谷はすれ違いざまにチョップを食らわせようとした。


 だが。


(なっ!)


 腕が体に張り付いて動かない。見れば、蜘蛛の糸が腕を固定していたのだった。


 蜘蛛の魔獣の狙いはこれだったらしい。攻撃しようなどというつもりは微塵もなく、こちらの動きを完全に封じてしまおうという魂胆だったようだ。


 しかし、今更気づいたってもう遅い。既に体の大部分には蜘蛛の糸が巻き付いている。


 足だけは自由だが、それも時間の問題だろう。


 その状況を待ち侘びていたように、大地の魔獣が地表に躍り出た。地中からこの機が来るのを待っていたようだ。


 岩盤すらも切り崩す鋭利な爪が今まさに迫りくるその時、目も眩むほどの光が辺りを包み込む。


 やがて視界が開けたその先に、もう一人のゴーレムが立っていた。大地の魔獣を真っ向から受け止めている。


(ゴンドーさん……)


(うあああああ!)


 彼は悲鳴にも近い雄叫びを上げて、大地の魔獣を押し返す。そのまま、四つ足の魔獣を地面へとひっくり返した。


(自分にも)荒い息を吐きながら言う。(自分にも、できますか?)


(もうやっています。ずっとずっと、あなたは戦ってきた)


 不意に魔獣の咆哮が聞こえる。ノックアウトした二体の魔獣が意識を取り戻したようで、立ち並んでいた。


 ゴンドーは慌てて古谷に絡みつく糸を引きちぎる。


 体の自由を取り戻した古谷は、彼の隣へと立ち並んだ。


(行きましょう)構えを取る。


(はい)ゴンドーも同じようにしたが、へっぴり腰だった。


 かくして、総力戦が始まった。


 まずはゴンドーが今尚、仰向けでもがく大地の魔獣に飛び掛かる。マウントポジションを取って、がむしゃらに殴りつけた。


 しかし魔獣もやられっぱなしではない。大口を開けて、振り下ろされる拳へと食らいつく。


(ひぃい!)


(ゴンドーさん!)


 怯えた声を出す彼を、古谷が助けに入る。大地の魔獣の口を強引に開けさせ、そのままゴンドーの足元から引きずり出す。


 勢いのままに、迫りくる紫と黄土色の二体の魔獣の方へと投げつけた。


 紫の魔獣は身を屈めて避けたが、愚鈍な黄土色の魔獣はまんまと圧し掛かられてしまう。


 倒れ伏す二体の魔獣はさておき、古谷はまっすぐ駆けてくる紫の魔獣へと対峙した。頭の角を突き出すようにしてきたところを、その身で受け止める。


 そうして動きを止めたところで。


(うあああああ!)


 ゴンドーが横合いからタックルをかます。地面へと弾き飛ばした。


 すかさず古谷は腕を十字に交差させる。未だ立ち上がりかねている、大地と黄土色の二体の魔獣を光線で葬った。


 次いで腕の形をそのままに、体の向きだけを変えて大地の魔獣へと照準を合わせる。光線を放った。


 瞬く間に三体もの魔獣を葬った二人のゴーレムは、残る最後の蜘蛛の魔獣へと視線を向ける。


 仲間意識はどこへやら、他の魔獣がやられているところをただ見ていただけらしく、同じようにこちらを睨み返している。


(残るは、あいつだけ!)ゴンドーは勢いよく飛び出した。


(あ!)


 止める暇もなかった。


 愚直にも突っ込んでいくゴンドー。蜘蛛の魔獣はそんな彼をギリギリまで惹きつけるようにすると、後方へと跳躍した。


 ゴンドーの攻撃は空振りするだけに留まらなかった。魔獣の跳躍に引っ張れるようにして地面から蜘蛛の巣状の糸が持ち上がる。


 おそらく三体の魔獣を相手にしている間に仕掛けていた罠だろう。ゴンドーをすっぽりと包み込んでしまった。


 網で陸上に引き上げられたクジラのように、身動きが取れなくなる。


(ゴンドーさん!)


 すぐさま助けに行こうしても、蜘蛛の魔獣が睨みを利かせている。一体を行動不能に陥らせたことで、再び一対一の状況に持ち込んだということだろう。


 古谷は蜘蛛の魔獣と対峙する。胸の結晶体が点滅を始めていた。残り時間はそう多くない。


 見れば、ゴンドーの胸の結晶体も点滅していた。


 古谷は一か八かの賭けに出ることにした。


 蜘蛛の魔獣めがけて一気に駆け込む。当然、直線的に向かっても避けられるに決まっている。


 案の定、蜘蛛の魔獣は跳躍して見せた。


 古谷は急ブレーキをかける。盛大に土煙を立てながら、腕を十字に交差させ、滞空状態の魔獣に向かって光線を放った。


 魔獣は糸を付近の家屋に向かって吐いた。糸の接着点を支点にアーチ状に軌道を変えることで、光線の軌道から避ける。


 古谷もすぐそばにある家屋へ向かって滑り込むようにすると、木材を毟り取り、投げつける。両手を使い、矢継ぎ早に投擲していく。


 蜘蛛の魔獣はやはりそれを、糸を巧みに使って躱していった。


 が、それまでだった。古谷の一見無駄に見えたダイナミックな行動は、大量の土煙を立てて、やがてその身を隠した。


 蜘蛛の魔獣からしてみれば、どこから攻撃が飛んでくるかすらわからない状況となっていたのだった。


 魔獣はしばらく警戒を続けた。神経を張り詰めて、一瞬の攻撃の兆しさえも見逃すまいとする。


 しかし、その意に反して追撃はやってこなかった。そうこうしている間にも魔獣は着地。それでも尚、ひと塊の茶色い雲のようになっている土煙からは目を逸らさなかった。


 と、そこで動きがあった。土煙を破るようにして一体のゴーレムが現れる。


 土煙をたなびいて、まっすぐ向かってきていたのだった。


 蜘蛛の魔獣は再び跳躍して躱そうとした刹那、ゴーレムが飛び上がった。予め動きを予測して空中で捕らえてしまおうという魂胆だったのかもしれない。


 が、早まったようだ。


 魔獣はあえてその場から動かなかった。地上から見上げるようにして、無防備を晒したゴーレムへ向かって糸を吐く。


 蜘蛛の魔獣は知らなかった。


 そのゴーレムが合図をしていたことを。


(今です! 古谷さん!)


 未だ土煙の中にいた古谷は、魔力を充填していた。それが最大限にまで高まったところで放出。高出力の光線が、煙を突き破って蜘蛛の魔獣へと飛んでいった。


 魔獣が熱を感じて視線を向けた時には既に遅く、たちまち光へと包まれて行く。


 ……それから間もなく。


「おーい!」


 先発隊の伝令役がやってきた。


「ちょっと手こずったが、こっちは片付いたぞー!」


          *


 結局、生存者コミュニティは町からの脱出計画を断念することにした。


 先みたいなことがまたあれば、今度こそ犠牲者が出かねない。毎度毎度うまくいくとは限らないからだった。


「何だか、私が急かしてしまったみたいで」エトは責任を感じ、謝罪する。


「いや、遠からず同じことをしていたさ」サービーは言った。「それどころか、助けてもらってばかりだった」


 そう言って、古谷へと視線を向ける。


「いえ」彼は控えめに言った。


「それに」サービーは続ける。「悪いことばかりでもなかった」


 と、今度は彼女の隣に並び立つゴンドーへと視線を向ける。


「今後は彼と協力して事に当たることにするよ。町からの脱出ではなく、町を奪還する方向で」


 もう決意は固いようだった。それにゴーレムと人間が力を合わせれば、それも不可能ではない。


「古谷さんにはお世話になりました」ゴンドーが言う。


「よければ、お手伝いしますが」そう提案するも。


「いいえ」彼は首を振った。「我々だけでやってみます。我々の町ですから」


 その表情にもう曇りはなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。