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輝く光を胸に抱いて  作者: 吉永 久
第四章:第十五話 消された時間
57/71

15-1

 月下の町で睨み合う三体の巨人。


 しかし、最初に動き出したのは純血種だった。気が逸れているその隙に攻撃してしまおうと飛び出したのだった。


 フォレットを飛び越して襲い掛かる大オオカミ。口をばっくりと開けて、並んだ犬歯を見せつけるようにしたかと思うと、古谷の肩へと噛みついた。


 が、どういう形であれ懐に入ってきたことに違いはない。古谷は掴みかかろうとしたのだが、それを察知したのか純血種は大きく飛びのいてそれを躱す。


 そうして、再度間合いが図られる。かと思いきや、大オオカミは瞬く間にその距離を詰めてきた。今度は両の前足による爪撃。Xの字に切りつけられる。


 ただでさえ俊敏なワーウルフ族。純血種ともなればその速度は目にも止まらぬほどで、ちょっとやそっとの距離などあってないようなものだ。並の反応速度では一方的にやられるだけに終わる。


 二対一でも厄介極まりないのに、そこに加えてゴーレムまでにしなくてはならない。


 いつの間にか光の剣を現出させたフォレットが切りかかってきた。


 レンが躍り出ながら回し蹴り。剣を側面から叩き、軌道を逸らす。


 が、フォレットもその力を利用して一回転。今度は横薙ぎにする。


 胸を一閃。まともに食らってしまう。表皮が抉られたように焼き切られ、しばしの間、熱を帯びていた。


 そうしている間にも純血種の三撃目が襲い来る。二体まとめて、すれ違いざまの爪撃。それを行っては戻っての一往復。


 古谷とレンは成す術もなく、膝をつく羽目となる。


(くそ、このままじゃあ)古谷が弱音を吐く。


(私が行く?)ジュンが問いかけた。


 彼女ならば、二体を相手取ったとしても勝ち目があるだろう。しかし今は町中。しかも人も多数と来ているので、短時間ならともかく長期戦を見込まれるこの戦いで投入するのは躊躇われた。


 だが、呑気に議論を戦わせる時間はない。純血種とフォレットは連携するように両側から責めてきたのだった。


(とりあえず、俺が行こう)アルドが告げる。


 そうして姿を変えた。上半身が極端に膨れ上がったゴリラ体型。


 フォレットの前に出ると、光の剣をその身に受ける。


(妙な技を!)


 驚いている束の間に、アルドは拳を叩きこんで吹き飛ばす。背後にあった家屋を巻き込んで彼は倒れた。


 その背後から大オオカミが迫りくる。振り向いた時には既に眼前で、爪を振るってくる。


 しかし、硬さが自慢の彼の体はそれをものともしなかった。お返しとばかりにフックを見舞う。


 が、軽々と避けられて空を切る。


 バックステップで距離を取った純血種。すかさず身を翻して尻尾を薙ぐも、これもやはり効果なし。


 一方で、アルドは一歩踏み込んで拳を放つがまたも空振り。


 埒が明かなかった。アルドには純血種の攻撃は軽すぎる。が、彼は彼で一つひとつの動作が重たいので攻撃を当てることができないでいた。


 それでもアルドは攻撃を繰り返した。巨大なオオカミに追従するように腕を振るう。


 が、直情的な攻撃なので軌道は完璧に読まれ、軽いステップだけで避けられ続ける。


 消耗戦を強いようという魂胆だろう。攻撃さえ当てることができれば勝機があると踏み、そのために体力を削ろうとしているのだった。


 しかし純血種側でもそれに気づかないわけがなく、いつまでもイタチごっこを繰り広げなかった。やがて仕掛けてくる。飛び乗るようにして絡みついた。振り払おうとするアルドの腕を、上体を起こしたり、下半身を跳ね上げたりして器用に躱す。


 そうして十分に翻弄した後、背中を足場に蹴りつけるようにして飛び出した。着地同時に鋭く反転。突進をかましてくる。


 矢継ぎ早に繰り返された背後からの負荷に、ついにアルドはうつ伏せに倒された。


 さらにそこに追撃を加えようと飛び掛かる純血種。


(させるか!)そこに古谷が割って入った。


 ぶつかるようにして飛びつく。それでも勢いを止めること叶わず、疾走することに切り替えた純血種に付き合うこととなった。


 やがてそれは限界速度まで達すると、地面を削るようにして急ブレーキをかけ始める。


 しがみつくので精一杯だった古谷は、慣性の法則に従って投げ出された。


(平気か、エト)頭を振りながら問いかける彼。


(何とか)と、返答。それから慌てた様子で。(フルヤ、あれ!)


 彼女の示す方へと視線を向けると、そこには今まさに光の矢を放たんとするフォレットの姿があった。


 三日月の刃が迫りくる。


 避ける暇もなく食らう覚悟までした古谷だったが、もう一人の岩塊の巨人が割って入るようにして身を挺して庇った。


(アルド!)


 まともに食らい全身から火花が散る。次いで、煙が上がる。


 アルドはよろめくようにして膝をついた。


(無事か)彼はそれでも心配してくる。


(あ、ああ)


(よかった……)


 ほどなくして、力尽きるように体が崩壊した。生身の体が大小さまざまな岩に紛れて、倒れていた。


 まずい状況になった。これで二対一。しかも、拍車をかけるように胸の結晶体が点滅を始める。


(君の負けだ)フォレットが言ってくる。(諦めて降参するんだ)


 純血種は勝ちを確信している様子だった。厄介なのはアルドの方と察していたようで、それを再起不能にしたことで喜びの遠吠えを上げていた。


(どうしよう……)エトが悲壮的に言う。


 選択肢はそう多くはない。逃げるか、砕け散るまで戦うか。フォレットの言う通り、諦めるのも手かもしれない。


(君のことを許したわけじゃない)フォレットは言った。(だけど、もう二度と僕らの前に姿を見せないなら見逃してあげよう)


 古谷の返答。(それはできない相談だ)


(なら、悪いけどここで倒させてもらう)


 そう告げると、彼は再度弓を射る態勢に入った。片腕を突き出し、限界まで引き絞る。


(エト、無茶させることになるが……)と、古谷。


(何言ってるのさ)エトは返した。(いつものことでしょ?)


(……いつも悪いな)


 三日月の刃が放たれる。古谷はそれを迎え撃つように腕を十字に組む。


 光線を照射した。


 ぶつかり合う二つのエネルギー。やがて相殺するように爆発へと取って代わった。


 衝撃波が辺りを襲う。周囲の家屋を巻き込み、倒壊させる。たちまち土煙が立ち込めた。


 そうして辺りは見通しのきかなくなる。しばらくすると、その煙の中から古谷が飛び出した。


 純血種に向かって。


(せめて、こいつだけでも!)


 驚いた一瞬の隙をついて、絡みつく。大オオカミはすぐに振り払うように体を揺らしたが、古谷は必死にしがみついた。


 それから純血種がまたも振り切ろうと走り出したところで、古谷はその手を離した。彼は空中に置き去りにされ、どんどん引き離されて行く。


 が、光速にまでは達しているわけでもなければ、音速を超えているわけでもない。生物が生み出せる常識的な速度だ。


 古谷は素早く腕を組んだ。光線を放つ。


 背後より不意を突く形で一条の光が伸びてくる。純血種は気づいた時には完全に避けることは叶わず、片耳を焼き切られた。


 バランスを崩し、滑るようにして転ぶ大オオカミ。すぐに起き上がろうとするも、痛みかショックか、足を滑らしてうまく起き上がれない。


 そこに割って入るようにフォレットが立ちはだかった。太い方の腕を折りたたみ、盾のようにしている。


(フォレット!)古谷は腕を十字に組んだまま言う。(そこをどけ!)


(この子は倒させない!)


(放っておいたら犠牲者が増えるんだぞ! それでもいいのか!)


(いいじゃないか! オセを迫害した連中だ! 殺されて文句言える筋合いか!)


(お前の言う綺麗ごとってその程度かよ! 汚ねぇ連中全員淘汰して、それで理想郷のつもりか!)


(黙れ黙れ黙れ!)


「ハオワ、ダアルエ、シィオウ」肉声が割り込んでくる。


 見ると、フォレットの背後で純血種が立ち上がっていた。が、まだ本調子じゃないと見えて足が微かに震えている。


「イ、ワイララ、グエテ、エヴィエン」


 まるで捨て台詞のように告げると、身を翻して走り去っていく。傷を負っているとはいえ素早い身のこなしは健在らしく。


(待て!)古谷がそう言った時には既に姿が見えなくなっていた。


 後僅かで変身は強制解除だ。深追いはできない。


 とりあえず退けることに成功、とポジティブに捉えることにした。


 残るは去り行く背中を呆然と眺めているもう一人のゴーレム。


(フォレット、少し話そう)が、戦う理由はないので平和的解決を望んだ。


 しかし。


(断るよ)彼は頑なだった。


 それから背を向けて歩き出す。


(どこに行く)問いかけると。


(決まってるさ、あの子を追いかける。一人にはしておけないからね)


 フォレットもまた相当ダメージを追ったものと見えて、足を引きずりながら大儀そうに歩き去っていく。


 古谷はそれをただ見送ることしかできなかった。


          *


「そうか、どっちも逃がしちまったか」


 戦闘終了後。古谷たちはアルドの体を回収しようとしたら、既に起き上がって瓦礫の陰でもたれるようにして休んでいた。曰く、「あの爆発で起きないわけない」とのこと。衝撃で吹き飛ばされて意識を取り戻したようで、慌てて身を隠したらしい。


 尤も、人格はレンだったが。


「あの、アルドさんは?」エトが問いかける。


「平気だよ」と、レンは答える。「話すか?」


「直接、お礼を言いたくて」


「律義だねぇ」からかいの調子で言い、それから眠るように目を閉じた。


 次に目を開けた時には、アルドの人格だった。「無事で何よりだ」


「いえ、こちらこそ。助けていただいて」


「気にするな」


「アルド」古谷も続いた。「俺からも礼を言うよ。本当に助かった」


「大したことじゃない」珍しく、口元を綻ばせた。


「体は平気か?」


「問題ない」


 ゴーレムの体は痛みこそフィードバックするものの外傷までは与えない。だが逆に言えば、しばらくは神経がおかしくなったりはするわけで彼は未だ立ち上がれないでいるのだった。


「それで」またもレンの人格となり、話を戻しにかかる。「これから二人はどうする?」


「とりあえず純血種を追いかけないと」古谷は言い淀んだ。


 既に大分遠くに離れたものと見えて、超感覚でも追えなくなっていた。全く反応がない。


「レンさんはどうするつもりですか?」エトが尋ねる。


 その口ぶりから、方針を決めているのだろうことを察したのだった。


「俺も追うよ」と、レン。「尤も、俺はフォレットの方だけどな」


「どうして、そんなに気にかけるんだ?」古谷は思わずと言った調子で尋ねた。


 不幸なすれ違いのせいとはいえ、今やほとんど敵対関係にある。もう話し合って和解できるような間柄ではない。


「似てるんだ」レンは胸を服の上から握りしめるようにした。「昔の……知り合いに」


 どこか苦しそうに告げるその声音から、過去に何かあったのだろうことが想起させられた。


 しかし、そんなことを問いかけるよりも前に彼は明るい調子を取り戻して言う。


「ま、なんつーの? 意地って奴?」


「レン……」


「何だよ、その顔」眉を下げて、笑う。「調子に戻ったら一緒に行こうぜ。空から探せばすぐに見つかんだろ」


 古谷たちでも飛行はできるが、彼らには変身の制限時間がある。いざ見つけた時に戦えなくなっている可能性も大いにありうるのだった。


「頼む」


「任せな」

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