2-16
今日は21時頃にもう1話投稿します。
ジャルダー隊員から、モニカがフードを被った不審者らに攫われたと報告を受け、ニューライスの一件をエリーナに任せ、キリカと奏太、それに加えてなぜかレイナとカイルまで連れている。店を破損させた二人、特にレイナはお客を怪我させた容疑者なのだが、エリーナの静止の声を振り切きって後をついて来ていた。
急いでいたキリカも、戦闘力だけは異常に高い二人が、なにかの役に立つかもしれないと放置している。
ジャルダー隊員の話しでは、不審者たちは貴族街へ向かっており、それをギルダーは追跡していると言う。その情報を手掛かりに、キリカらは追っていた。貴族街へ行くには、厳重に警備された大門を通過しなければならない。それもあって、大門に向かえば、ギルダーと合流できるはずだ。
ただ、ギルダーは襲撃を受けたさいに大怪我を負っており、望ましくない状況に転がりそうだとキリカには考えられた。まさしく、その考えはどんぴしゃであった。貴族街と平民街を隔てる内壁に近づくと、ギルダーが首を刎ねられようとしている。
キリカはただちに駆け寄ろうとしたが、その前にギルダーの危ない光景を捉えた奏太は、おもむろに足元で転がっている小石を拾うと、川辺で水切りする要領で無造作に放り投げた。尋常じゃないスナップが利かし、高速回転させながら大気を悲鳴させる。
視界から消えさり、向かいで群がる彼らの隙間をぬうように突き進み、ギルダーを斬りかかろうとした大柄の男へと吸い込まれるように迫り、直撃した。
しかし、その寸前、全細胞が反応するように振り返り、放った小石を切っ先で退けた。
「おーなかなかの反射神経だな」
奏太は腹をポリポリと掻きながら、感嘆の吐息をついた。
「あれぐらいなら、私だって余裕でできるよ」
「こいつと同じ意見が気に入らないが、俺も同感だ」
「私も」
奏太の傍らに並ぶレイナとカイル、そしてキリカ自身も負けず嫌いを発揮して張り合った。絶対的な強者を目指す者なら、負けず嫌いは必要な要素だ。
「というか、なんでお前らまでついてきているんだよ」
問題の二人に視線を向け、奏太がしかめながら述べる。特に男の容姿端麗が嫌いな奏太はカイルを敵視するように睨み、この場にいるのが気に入らないようだ。
「こんな面白そうな展開、私が見逃すわけがないだろう」
カイルから脇腹を深く突き立てられた切り傷を、レイナは上着の制服を包帯代わりに腹へきつく巻きつけて止血しただけだった。カイルもレイナと変わらぬ重傷で、平然としている二人を見ていると、衣服に付着した血糊はまがいものの塗料に見えてくる。
「俺はこのいかれた女と違い、あんたの戦いを見られるチャンスを見逃すはずがない」
気難しそうなカイルは冷静に答え、奏太の強さを盗む気のようだ。奏太は憮然とし、お前には聞いてないと言いたげな顔を作ったところで、レイナがカイルに噛みついた。
「誰がいかれた奴だ」
「お前、意外に誰がいる」
二人の相性は真剣で交じり合うような、犬猿の仲なのはレイナもよく知っていた。昨年も、数々平民街で騒ぎを起こし、ウイング兵団が出動して騒ぎを治めている。はた迷惑なふたりだが、主な原因がカルフェール騎士団に在籍するレイナにあるため、罰や説教をあたえても懲りないレイナに、イベリアとともにウイング兵団は頭を悩ませていた。
「私は仕事柄」
「あ、そう」
奏太は面倒なふたりからつきまとわれ、げんなり顔でキリカに返事をする。
ウイング兵団で勤めるキリカは、平民街の治安を守るのが仕事だ。平民街で誘拐事件など見逃すわけがない。
「しかし、酷いありさまだな」
民家に突っ込んだ、魔導車の車体後部らしきものが見え、その周囲にはバラバラとなった民家の残骸が転がっている。大規模な魔法でも使ったのか、舗装された大通りが砂石で埋め尽くされていた。奏太は、その惨状を呈されて呆れている。
魔人に壊された平民街も修復しきっていないのに、この新たな被害を見てイディリオの頭を痛める姿が想像できた。
「あの男はかなり危険よ。注意したほうがいい」
この男にかぎっては余計な警告かもしれないがと、キリカは示唆する。が、奏太はキリカから忠告を特に重きに置くこともなく、「そっか」と一言返した。
四人は、モニカを攫った連中のもとに進んで行く。その足運びに緊張感はなく、レイナなど狩りを行う野獣のように瞳を炯々(けいけい)とさせて、白い歯を見せている。
彼らを阻もうとするフード被った彼らに対し、闘争本能を剥きだしのレイナに続き、カイルとキリカも鞘から剣を引き抜いて奏太の前に進み出た。
「本当は私があのでかぶつとやりたいが、奏太に譲ってやるよ」
「まぬけ。あいつはお前より格上だ」
戦いに長くたずさわる武芸に秀でた者であれば、その人間から発せられる不可視な闘気を感じ取り、合わせて一挙手一投足で力量を大まかに把握できるようになる。カイルやレイナのような才能豊かな者ならなおのことだ。
「だからどうした。相手の技量が勝っていても、戦いはやってみるまで結果はわからないものだろ」
忌々(いまいま)しいしげに言うレイナに対して、カイルは面倒に感じたのか適当に聞き流す。その態度に腹を立てたレイナは、目を少し細めて唇の両端をわずかに迫り上げる。
「おい、勝負だ。勝負方法は、こいつらを殺した人数だ」
「かまわないが、後で吠え面かいて悔いるなよ、狂犬」
二人とフード連中の間で、殺気が充満して破裂する――その瞬間、二人は疾走して斬り込む。フードを被った二人が、瞬く間に斬り伏せられた。次々と容赦なく敵を薙ぎ払い、血風を巻き起こして敵に戦慄を引き起こす。
レイナとカイルは若いながら、すでにBランクに達している。多人数との混戦だろうと、そう易々敗れる者たちではない。
それを尻目に、奏太は殺伐としたただなかを悠然とした足取りで歩んで行く。
迎える連中は、刃を突き出して奏太の前に構えた。その刃はカタカタと小刻みに震えていた。改めて奏太を見据え、彼がまとう空気は肌が粟立つほど異様で、それを察知したのだろう。
彼らが腰抜けで、臆病風に吹かれたのではない。敵も素人ではなく、かなりの腕前だ。だからこそ奏太の力の一端を悟り、偽りなしに一歩二歩と後退する。
「なんだ、かかってこないなら、道を開けてくれ」
言うと、彼らは左右にわかれて道ができる。奏太は緊張感のないは変わらず、近所でも散歩するかのような足取りで歩んで行き、モニカらのもとへと姿を消した。
「くはは、さすが私が認めた男だ! 敵が怯んでいやがる」
奏太らのやり取りを目にし、レイナは一段と快活に剣撃を埋めて、唖然として立ちつくす敵の脳天を叩き切った。頭蓋骨は割られ、切っ先は前頭葉まで到達して、脳の断片を体外へ飛び散らす。人間だったものは、後ろへと倒れ込んだ。
我に返った敵方と、この場に残った三人と斬り結んで刃鳴りが連鎖する。
カイルも敵方を圧倒させるあの光景に思うところがあるのか、その動きは加速し、力強く剣を振るう。彼らも死に物狂いで剣を振るい、散発的に魔法をほとばせる。悲鳴と流血が相次いで、大通りを赤く彩り、濃くなっていく血の臭い。
彼女らを放置しても大丈夫と判然したキリカは、自分のことに集中させる。彼らが何者かわからないが、人を攫うような輩に遠慮するつもりはない。危険な輩を一人ずつ対処するつもりでいた。
謎の不審者としながら、注視して周囲を見渡す。すると、一人の男が引っかかる。
(いた)
長身痩躯の男だ。他と敵方と同じくフードを被り、目もと以外を漆黒の仮面で覆っていた。その存在はあまりに希薄で、両目でそれを捉えていても、気がつけば見失いそうであった。
レイナとカイルの戦いを凝視している。まるで蛇のようにじっと物陰にひそみ、獲物を襲いかかるタイミングを見計っているようだ。影と浸透させ、気配を探らせないよう見事に遮断させていた。キリカが気づけたのも、勘の恩恵のためだ。
キリカが彼を見つけてから、ずっと警報を打ち鳴らしている。強大なプレッシャーで、全身を圧迫されていた。この男は浅黒い大柄の者と同等、あるいはそれ以上に危険だと勘が教えてくれる。
キリカが全力で戦っても、勝率は決して高くはない強敵だった。下手をすれば、イベリアやサンドリーよりも上かもしれない。
対面の剣撃をすり抜け、ときを同じく首の頸動脈を断ち、息絶える。休む暇もなく、キリカは対処する目標を見定めると腰を落とし、砂地となった大通りを駆けた。




