2-11
すいません。また、長くなったんで途中で終わってますが、続きは明日の夜の七時ぐらいに投稿させてもらいます。
奏太と別れたモニカとギルダー二人は、ロッセリー商会に戻る前に昼食をとることにした。二人が選んだ店は、今めかしい店構えの高級レストランだ。平民街では値が張る分、味も店の雰囲気も一級品だ。
モニカはルドルフ王国の牧場で食用に飼育している、ギュウビのステーキを切りわけ、小さな口へ豪快に押し込む。ギルダーは食が細くなったのもあるが、もともと魚料理が好きなのと身体を気遣う意味も含め、川魚のムニエルと薬草がたっぷりと入ったスープとなっていた。
アルコール度数が低い葡萄酒をグラスにそそがれ、それをぐびぐびと喉に流し込む。平民街では、一流の店とシェフから出された料理を、笑顔で食事を楽しんで舌鼓を打つモニカだった。その姿には、どこも違和感を覚えない食事風景に思えるが、しかしギルダーにはモニカの笑顔は作り物だとまるわかりである。
「ぷはぁぁぁ」
「そんなに、ソウタのことが気になるなら、今からでも追いかけたらどうだ」
「冗談はよしてよ。ちっとも、気にしてないわ」
ギルダーの提案を、モニカは素っ気なく否定する。表面上は平静さを装って葡萄酒を飲み続けるも、そもそもモニカはお酒が得意ではなく、普段はアルコールを摂取しないのだ。唯一お酒を飲むときは、機嫌が悪いときや思いつめたさいだけである。
「俺が生きている間に、先代に成り代わってモニカの花嫁姿を見たいと考えているのだが」
「そんな話し聞きたくない。前から言っているけど、私を子供扱いするのは止めてよね。第一、なにかその言いかたされると、なにか存命するのをあきらめているようで、聞きたくないわ」
拗ねたように顔をけわしめ、モニカから叱責をされる。否定することも肯定することもせず、ギルダーはなんともいえないとばかりに苦笑した。その姿を目にしたモニカが、さらになにか言おうとしたとき、店の入口のほうから突如湧き起こる悲鳴。それは恐怖と怯えからのもので、複数からも一際大きくあがり店内で響き渡る。
二人は仕切りに挟まれ、他の客と目線が合わない席で食事をとっており、しかも食堂から店の正面口までは、両側を壁に挟まれた通路を通らなければいかない。そのため、二人がいる席からは、見えないようになっていた。
「いったいなんの騒ぎ?」
「ただごとではないことは、確かだな」
ギルダーは警戒を強めながら、こっそりと仕切りの外を垣間見る。人相の悪い風貌の男数人が、順々に個室の中を確認して、こちらの席に近寄って来ていた。恰好はいかにも冒険者風で、新人を脱した冒険者が着衣しそうな革鎧をしている。
ギルダーの剣は店に入って来る前に、この店に雇われた護衛の者に預けており、今は武器となるものを携帯していなかった。モニカも同様だ。だが、彼女は魔法が使えるので、幾分かはまだ救われる。
「どうやら、冒険者の恰好をした賊が、誰かを探しているようだ」
モニカに背を向けたまま、自分が見たものをそのまま伝えた。
「その言いかただと冒険者じゃないの?」
「ああ、上手に変装しているが、足運びが全員暗殺者特有のものだ」
彼らも当然、仕事柄の足音を立たせない足運びには気を使っているだろう。熟練になればなれるほど、身体に身についた技術は隠すのが難しくなるものだ。しかし、一流と謳われる暗殺者は、そのわずかな綻びすらも気取らせず、ギルダーすらも見抜くのが難しくなってくる。そのことを踏まえ、最低でも彼らがCランクはありそうであった。
「どうするのよ。誰を探しているか知らないけど、やりすごせそう?」
「わからない。だが、安心していい。代表は必ず守りきる」
自分の信念を台詞に乗せ、ギルダーは身体に力を漲らせる。
「ギルダーは本調子にほど遠い上に、相手は多勢なのよ」
「問題ない」
変装した暗殺者が、モニカらの部屋に訪れて顔を出す。その瞬間、ギルダーは腰を素早く回転させた。長い脚をしならせ、暗殺者の顔面に足裏を打ちつけようと襲撃する。しかし、暗殺は腕利きを証明するよう、瞬時に対応させた。身体が動き、ギルダーの蹴りを左手で受け止める。
暗殺者は即座に袖から短剣を取り出すと、ギルダーの心臓めがけて突き出す。
迫る短剣を握る手首を掴むと、ギルダーはその手首をひねり上げ、暗殺者の顔を掴むと地面に叩きつけた。そのまま、暗殺者の握る短剣を、力ずくで首に押しあてて掻っ切った。血風が噴出して、ギルダーの付与魔法がかかった革服をバシャバシャと汚し、血流が飛び散って灰色の石床を真っ赤に染める。
動かなくなった暗殺者から、短剣と腰に差している長剣を奪う。部屋を出入り口に背中を向け、武器を奪っていると新たな暗殺者が姿を見せた。まるで、それをわかっていたかのように、振り向きざまに短剣を投げつけた。
投げた短剣は暗殺者の顔面に押し迫るが、異変を察知していた暗殺者は警戒していた。同じく手に持った短剣で弾いて退けられる。だが、ギルダーは短剣を投げたのと同時に、駆けていた。敵の懐に入り、奪った剣で仕切りの壁事、横殴りに斬りつける。
肋骨の隙間に刃がすべり込み、肺を食い破って鮮血が噴く。バイオレンスに店の壁を汚した。
これで、暗殺者をふたり片付けたが、店内にはざっと見て十人はいる。
暗殺者を葬るのを見ていた客らから、悲鳴と絶叫を重ねる。状況がわからず混乱する者たちは右往左往で凄まじい混乱が生じてしまう。
「代表、ここにいてくれ。あいつらを大人しくさせてくる」
「ちょっと、待ってよっ。私も協力するわ」
「必要ない。魔法はほとんど使えなくなったが、奴らを片付けるのは難しくない」
「なに言っているのっ、絶対だめよ!」
モニカの許可は下りなかったが、それを待ってくれるほど彼らは甘くない。
水属性と風属性の魔弾が、ギルダーらがいる個室に飛んで来る。モニカを脇に抱えて個室から飛び出し、地面に転がった。
着弾したテーブルや椅子といったものが、木端微塵に散ってしまう。
「後ろに下がっていてくれ」
片膝をつき、モニカにそう言うと、臆することなくギルダーは反撃に移った。
暗殺者らの距離を一気に詰め、大きく振り上げた剣を叩きつける。必ず守ると強固の想いを剣撃に乗せ、それを受けた暗殺者の剣が悲鳴を鳴らす。魔力で剣撃の鋭さが増したものとは違い、気持ちの乗った剣撃は一段と重い。
腕から足の爪先まで軽い痺れを生んだ。停滞を見逃さないギルダーは、暗殺者の胴を薙ぐ。胴を裂かれた暗殺者は致命傷なはずが、目はまだ死んでいなかった。ギルダーの胴に両腕を回して抱き着き、動きを封じようとする。
ギルダーの背後に回り込んでいた別の暗殺者が、背中を斬りつけられた。しかし、それで止まるギルダーではない。抱き着かれた者を、下から膝蹴りを食らわして顎をぐしゃりと砕く。抱き着いていた腕から解放され、身体を半回転させて背後に立つ者へ反撃の刃を放つ。
暗殺者はギルダーの一撃を読む。落ち着いた姿で重心を落とし、迎え撃つ準備をしていた。その上に、ギルダーは傷を負っているとは思えない強烈な一撃を斬りつける。
剣を振るい、守勢が崩す。暗殺者は仰け反った。両足の革靴が地面に擦りつけながら後退するも、ギリギリ吹き飛ばされるのを耐え忍んだ。
追撃にかかろうとしたとき、後ろから三人が飛びかかって来た。
ギルダーは傍らのテーブルを爪先ですくい上げるように蹴り上げ、中央の者にぶつける――が、テーブルは縦に切り裂く。蹴り上げた直後、ギルダーは走り出して跳躍していた。空中で、テーブルを裂いた相手と身体が重なる。胸部を射貫き、背から切っ先が突き出していた。
跳んだまま、強引に胸部を横に引き裂き、血や肉片をばら撒きながら身体をひねる。宙に舞う暗殺者らの背中を目にしながら、切っ先を半円に描いた。ふたりの背中をざっくり斬られ、受け身に失敗して地に沈む。
(――後、七人)
斬り損ねた暗殺者の両手から、火球が数発放たれた。ギルダーは姿勢を低くして横飛びして躱すと、後ろにいた仲間の暗殺者に飛び火する。運悪く巻き込まれる者は呻き声を上げて、床に転げまわって衣服に引火した火を消そうとする。内ひとりは、顔に直撃して顔を焼き、髪が燃え上がった。悲鳴を発しながらカウンターに頭から突っ込み、椅子を薙ぎ倒してのたうった。肉を焼け焦げた、不愉快な臭いが部屋に充満する。
火球の炎はテーブルや壁に燃え移り、まだ残っていた客や店の従業員に緊張感をいっそう高めた。
急いで消火にあたらなければ、木材を多く使われた食堂では、燃え移るのはあっという間だ。ギルダーは、アルバーニア大陸では比較的に多くみられる、茶色のかかった瞳が鋭さを増す。
時間をかけてられないとばかりに、燃え広がる炎を背にし、斬り損ねた暗殺者のもとに疾走した。
ギルダーは剣を振るう。銀閃は足のつけ根から、首もとまで切り裂こうと走る。暗殺者は重い衝撃に苦悶するも、どうにか弾き返す。
次の剣撃を放とうとしたとき、他の暗殺者がギルダーの背に食らいつこうとしていた。後頭部に迫る刃から回避するため、飛び退く選択が脳に浮かぶ。だが、視線の先を見てその選択を消え、そのまま前方に強烈な剣撃を放った。
ギルダーの斬撃はピーク時に押し迫ろうとする剣速で、暗殺者の動体視力では捉えきれない。なにもできずに、肩から胴の半ばまで斬り込まれ、返り血が天井に向けて噴き出す。
そして、その同時にギルダーの頭部真横を左右に通過し、後ろの暗殺者数人に火球が被爆する。どれも、ギルダーが今切り裂いた暗殺者には遠く及ばない火力であり、重症に及ぶものではない。しかし、確実に戦闘には支障がでる怪我を負わしていた。




