第4話 重なり合う影
捜査員たちが雪崩れ込んできた時、収監施設は不気味なほどの静寂に包まれていた。対応した看守の坂井達也は、青ざめた顔で捜査員たちを迎えた。三十代半ばの坂井は、囚人たちの監視と保護を己の責務とし、規律を第一に重んじる真面目な男だ。彼は陣内一樹という男を、静かで物腰の柔らかい、およそ残虐な殺人犯には見えない人物だと捉えていた。
坂井は自分に過失や落ち度がないことを証明するため、即座に監視カメラの録画映像を捜査員たちに見せた。
「見てください。彼は一歩も外に出ていません。ずっと部屋の中にいたんです」
監視カメラの映像には、外で大量殺戮が起きていたまさにその時刻、部屋の机に向かい続けている陣内の姿がはっきりと映し出されていた。抜け出した形跡など微塵もない。彼はただひたすらに、与えられた用紙に文字を書き続けていた。しかし、映像を注視していた柴田の目が、ある異常な事実に留まった。
「待て……これはなんだ」
柴田が監視カメラの映像を指差した。同時に、現場から送られてきた防犯カメラの映像も並べて再生される。
留置所の中で陣内が鉛筆を走らせる手を止め、ふと右の首筋を強く掻いた。その直後、遠く離れた惨劇の現場を捉えた防犯カメラ映像の中でも、返り血を浴びた容疑者が、全く同じタイミング、全く同じ動作で右の首筋を掻いていたのだ。角度も、指の動きの癖も、一切のズレがない。
気味が悪いほどの同調。ただ偶然が重なったというレベルを超え出ている。物理的な脱走が不可能な以上、そこにいる男と外にいる男は、ただの「同一人物」という言葉では片付けられない何か、怪異とも言える未知の領域で繋がっていた。
「バカな……二人は連動しているとでも言うのか……?」
看守の坂井は寒気を覚えて抱え込み、柴田は歯を食いしばった。怯えと混乱が限界に達した刑事たちは、陣内のいる部屋の前へとやってきた。廊下に響く足音が、緊張感で張りつめている。鉄格子の隙間から見えたのは、背中を丸め、ひたすらに紙へ向かって鉛筆を走らせている男の背中だった。
ここにいる皆が、陣内は反省の思いから遺族への謝罪文を真摯に書いているものだと思いたかった。そう信じなければ、目の前で起きている現実の崩壊に心が耐えきれなかったからだ。
重厚な鍵の音が廊下に響き、重いドアが開いた。
柴田警部補が室内に入り、陣内の前に立った。柴田の視線は、彼が必死に書き連ねている机の上の紙束へと向けられた。彼は言葉もなくおもむろに手を伸ばすと、反省文だと思っていたその紙束をひったくるように手に取り、目を通し始めた。




