中編1
やがて爆発音も悲鳴も聞こえなくなって静かになった。切れ目付近で顔に冷や汗を流しながらも武器の構えを解かない自衛隊員達。何があっても油断できないのだ。切れ目から人が出てきたりでもしない限り。しかし、ここでその場にいる誰もが予想しない事態が起こった。切れ目の向こうから人の声が聞こえてきたのだ!
「ハァ、ハァ、ひ、光が見える……!」
「あれって壁みたいだけど、穴が開いてない?」
「あそこから出られるんじゃないか!?」
「で、出られる!」
(((((!!!???)))))
聞こえてきた最初の声は女の子の声だった。その後で大勢の老若男女問わず人間の声が聞こえ始めて来た。自衛隊達はすぐに察した。生き残った人たちが何をしたかは分からないが、自力で切れ目の近くにまでたどり着いたのだと。ならば、彼らのやることは怪物の迎撃ではなく、突入と同時に行われるはずだった救出だ。
「自衛隊の者です! 皆さん、ご無事ですか!」
「自衛隊……!?」
「来てくれたんだ!」
「遅いよぉ!」
「これで助かるんだ!」
「う、う、う、うう~!」
思い立った一人の自衛隊が切れ目から首都に入って人々に呼び掛けた。その場にいたのは数住人の年寄りから子供がいた。誰もが汚れていて中には怪我をしている者もいた。何より目立つのは、先頭にいた血まみれの少女だった。少女の手にはアウトドア用のナイフが握られていた。少女は切れ目を通ってきた自衛隊に近づいて息を切らしながら話を始める。
「ハァ、ハァ……わ、私の知る範囲で、この人たち以外で、生きてる人は、分かりません……た、助けて……!」
「分かったよ、よく頑張ったね! さあ、みんなと一緒にここから出よう!」
「……はい」
少女は崩れ落ちるように膝をついた。自衛隊は慌てて少女を抱き起すと、彼女が気を失っていてかなり疲弊していたことが分かった。少女をすぐに病院に送るべきだと考えた彼はすぐに他の自衛隊に声を掛けて全員で救助にあたった。
??71年 7月3日 正午。
この後、その場にいた人々は無事に救助されたが、突入作戦も一時中止された。何故なら、救助された人々の話から首都の様子が分かったからだ。彼ら以外に助かった人がいるかは絶望的で、怪物たちは更に増えているというのだ。それでは救出に向かっても犠牲者を増やす可能性のほうが高い。最悪の情報を聞いた政府関係者や自衛隊の頭の中は絶望に染められてしまった。だが、もたらされたのは最悪の情報だけではなかった。それは救助された人々の先頭に立った少女のことだった。
??71年 7月9日 午後1時。
病院で一人の少女が目を覚ました。少女は救助されたうちの一人で、すぐに病院に搬送されて治療を受けていたのだ。少女は起きた後に頭の中を整理して、更に身の回りと日本全体の状況を確認した後、病院の看護師が止めるのを押し切って、すぐに自衛隊に連絡した。日本はおろか世界の命運を左右するという重大な事実があるというのだ。
??71年 7月9日 午後3時。
連絡を受けた自衛隊は二時間後に到着した。その中には政府関係者も加わっていたが、少女にとっては好都合だったという。少女は既に動けるまで回復したため、一旦病院を出て真剣な目で自衛隊達と一緒にいた政府関係者に彼女自身の身に起きた重大な事実を告げた。
「私は変な紫色の果実を食べました。そしたら、怪物を殺せる強い特別な力を身につけたんです」
2071年7月1日に起こった事件は、「人類の知らない未知の世界」からの襲撃であるとされ『未界襲撃事件』と呼称された。ただ、このように呼称されるようになったのは、事件から一年後のことだった。何故一年以上も正式に事件の名称が決まらなかったのは、それだけ長い調査と戦闘があったからだ。
未界襲撃事件と呼ばれるようになった理由は、怪物が現れた『魔の穴』にある。通称ゲートと略されて呼ばれる黒い円は、俗にいうワームホールではないかと多くの学者は考えた。そこで、その内側を怪物たちが気付かないほど小型のドローンで調べた結果、ゲートは行き来可能な通り道であることが判明した。更にドローンに搭載された小型カメラの映像を見ると、地球とは明らかに異なった未知の世界が存在することが確認されたのだ。
その未知の世界、略して『未界』とは、太陽や月のような光源が確認できないにもかかわらず、明るくて視界が通り、奇妙な極彩色の植物が生い茂った森とその周りが荒廃した大地に怪物が蔓延る異世界だった。ゲートの先は森の中心の地面に繋がっていて、怪物たちはこのゲートを通ってきたことが分かるが、それが悪意があってのことか偶然に過ぎないかは定かではない。そもそも、何故このような異世界と繋がってしまったのかは分からないが、これを知った政府は青ざめて、一刻も早く対処を考えた。
政府は壁の内側にいる怪物たちの対策と未界に対する対策として、まず最初に東京を囲む壁を管理下に置き、壁を『魔の壁』と呼んだ。更に、その切れ目を徹底的に封鎖した。怪物たちは壁を乗り越えることはできないため、切れ目を封鎖すれば怪物の脅威は防げると考えてのことだ。「首都に残っている人を見捨てるのか!」という反発もあったが、怪物の脅威と東京の惨状を考えれば妥当な処置だと結論付けたのだ。
ひとまず、これで怪物の脅威が日本中に広がる可能性を低くすることができた政府は、怪物の対策とハザードウォールの研究に力を注ぐことにした。地獄と化した東京を何とか人の手に取り戻すために動き出したのだ。そのために各国から援助をもらい、研究資金と物資を調達しようと考えた。怪物が存在する東京が封鎖された以上、援助を受け入れられると日本政府は考えたのだ。
……世界中にカオスゲートが発生するまでは。
後に、怪物たちは全世界で未界落下生物(Unknown world falling creatures)、『フォールズ』と呼ばれ恐れられるようになった。そして、フォールズに対抗する手段は、最初に被害があった日本の東京で奇跡的に生還した少女の手によって見つかった。それは『魔法』である。




