前編
??71年 7月1日 正午。
日本の首都・東京都の上空で突如、巨大な黒い円が現れた。まるでブラックホールや魔法陣を連想させるような黒い円の出現に東京の人々は困惑したが、困惑はすぐに恐怖に変わった。後に『魔の穴』と呼ばれるその黒い円から、異形の怪物達が降ってきたのだ。怪物達は目につく人々を無差別に襲い掛かり殺戮を始めた。東京の町が血の海に変わり始める中で、警察官や要請を受けて駆けつけた自衛隊が怪物たちを銃で攻撃するが、全く歯が立たず返り討ちにされた。誰も被害を食い止めることはできなかった。
この知らせを受けた日本政府は、政府関係者全員が優先して首都から脱出した後で、他県で対策会議を行った。一般人が動画配信サイトに投稿した怪物の動画から強さ・強度を解析して、怪物の退治は困難であると判断し、首都の住人の避難を優先した。そして、住人の非難が完了次第、首都の全面封鎖及び空爆の開始を決めた。
しかし、自衛隊を出動させても、住人の避難は困難を極めた。怪物の特徴は、体長は3~5メートル程で体形は筋肉質でコンクリートを粉砕する怪力を誇り、銃弾が聞かない強度の皮下組織を持つ人型で様々な姿があり、多数で行動するというのだ。そんな怪物が動き回っている状況で住人の避難・救出など無茶としか言いようがなかった。それどころか、助けに入った自衛隊が犠牲になることも少なくなかった。
数時間が経過して、政府は首都の防犯カメラの映像から怪物が首都圏から範囲を広げるのも時間の問題だと判断し、自衛隊を可能な限り撤退させて、非難が十分終わっていないにもかかわらず、空爆の開始を決行した。政府から指令を下された自衛隊員の中には、悔しがりながら指令に従う者、背いてギリギリまで救助を続ける者、怒りのあまり怪物に挑んで殺された者、様々な思いがあった。
やがて、首都に取り残されている住人が存在する中で、空爆用の戦闘機が首都上空に迫ってきた。だが、戦闘機が首都に入ったところで、高い建物の屋上にいた怪物が戦闘機に向かって口から赤黒い炎の玉を吐いたのだ。ものすごい速さで炎の玉は戦闘機に直撃し、戦闘機は次々に墜落していった。墜落した衝撃で積んでいた爆弾が地上で爆発して被害が増えてしまった。首都の外で墜落した戦闘機もあって、混乱は広がってしまうばかりだった。
戦闘機の墜落によって空爆が不可能になったことを受け、政府は頭を悩ませる中、首都で更なる異常事態が発生した。首都上空に留まり続ける黒い円の真下で、巨大な木が伸びていたのだ。その木は巨木となって黒い円にあたるギリギリの高さになった。実はこうなる少し前に、黒い円から人の頭ほどある植物の種のような物が落ちてきて、それが芽を出して最終的に巨木になったのだ。政府もこの事実を動画配信サイトから確認した。巨木から奇妙な紫色の果実が実っていることは、この時の政府は特に気にしなかった。
政府が巨木の存在に驚く中、動画配信サイトから新たな事実が判明した。戦闘機の墜落による爆発に巻き込まれた怪物が、一切の怪我をせずに存命しているのだ。しかも、戦闘機の周囲の炎の中を移動している様子から、想定以上の頑丈さと生命力があり空爆が成功しても退治することはできなかった可能性が浮上してしまった。政府はもはや首都の全面封鎖に全力を尽くすほかないと判断し、バリケードの設置に集中するよう指令を出した。
新たな指令を受けた自衛隊は、首都の外でバリケードの設置に取り組んだ。だがその時、既に数体の怪物が首都から出ようとして自衛隊に襲い掛かってきた。自衛隊は銃撃したり、戦車の大砲で攻撃したりしたが退治することができず防戦一方だった。遂に怪物がバリケードを乗り越えようとした時、誰もが驚かざるを得ない事態が起こった。
地面から巨大な壁が勢いよく出現したのだ。その壁はまるで怪物の住処になった首都を囲むように形成されていった。あまりの出来事に、バリケードのすぐそばにいた自衛隊は唖然としていた。テレビの中継で巨大な壁を見た政府も驚愕のあまり、多くの者が自衛隊と同じ反応を示した。しかし、この壁によって首都は事実上隔離され、怪物による侵攻は止まった。
その後、政府は救助された住人の対応と出現した壁の調査を急いだ。誰もが困惑する事態だったが、人々と国の安全を優先すべきと考えられたのだ。助かった人は何人いるのか? 亡くなった人は何人いるのか? あの壁は何なのか? もう怪物の進行はないのか? そもそも怪物たちは何なのか? 政府は一刻も早く解明に乗り出して解決に挑まなければならなかった。
??71年 7月2日 午前8時。
壁の調査をしていくうちに分かったことは、壁の高さは東京タワーほどあり、その上にもかなりの高度まで半透明の結界のようなものが出ていることが分かった。これでは壁に包囲された首都の上空に飛行機を飛ばすことはできないし、登って壁を乗り越えることもできない。地下鉄にも壁が存在し、もはや首都には入れないと思われたが、壁そのものに人が通れるほどの切れ目が数か所あることが判明した。この事実に調査隊は動揺した。人が通れるということは小型の怪物も通れる可能性が高いことを意味する。調査隊は切れ目の場所を徹底的に把握し、万が一に怪物が通ってこないように、切れ目の場所に24時間体制で監視を始めた。
??71年 7月2日 正午。
壁の切れ目の存在を重く受けた政府は、怪物が通ってこないこともあって、そこから自衛隊を突入して、首都に取り残された人々の救出に向かわせるか議論することになった。その結果、今後の首都への対応を決めるために、少数精鋭で一度突入して首都内部の様子を確認するというのだ。政府の指令を受けた自衛隊はすぐに突入部隊を決めて、明日の朝に作戦を実行することに決めた。
??71年 7月2日 午後9時。
首都内部のほうから爆発音が聞こえ始めた。壁の切れ目付近に待機していた調査隊がそれをいち早く確認し、自衛隊本部にも情報を伝えた。その事実に誰もが緊張した。何が起こったのか? 怪物たちが暴れているのか? それとも新たな変化が起こったのか? 不安と恐怖ばかりが漂う中、爆発音が一つの切れ目に近づいていった。
爆発音が近づいていく切れ目の付近で、多くの自衛隊が武器を構えて迎撃に備えていた。この時に持ち出された武器は、怪物対策用に急遽改造されたもので、かなりの火力を備えていた。後にそれすらも怪物相手には大した効果が無いことが分かったのだが、当時の彼らには気休めになったのだろう。
遂に切れ目のすぐ傍まで爆発音がするようになったが、同時に新たな事実が分かった。それは爆発音ととも人間とは思えない生物の声が聞こえてきたのだ。まるで大型動物の悲鳴を連想させるような声。その声を聞いた誰もが頭に思い浮かんだのは、同じだった。
(((((まさか、怪物の悲鳴!?)))))
その場にいた自衛隊はさっきとは別の意味でも緊張が走った。武器が効かなかった怪物が悲鳴を上げるということは、何者かが戦っているというのか? 爆発音はその戦いで起こっているのか? それともやはり新たな変化か? 各々の頭の中で希望・疑念・恐怖が疼いている。




