俺。突きつけられる時間
完全不定期更新です
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
腹に溜まった気合を吐き出すように叫びつつ正面に立つへラウスへと駆ける。神多夢を発動しながらのため周りの景色は溶けて混ざり濃い色へと変化し、風を受けまともに顔を上げてられない。動くだけでも体に負担がかかるような状態だが構わず距離を詰めた。
俺の考えでは、深層らしいへラウスの横を通り抜け一気にオクジョウを殺すつもりでいた。そのまま負ける前提でへラウスへと戦闘に移行し、オスクラ達は自力で切り抜けてもらうか、運よくへラウスを倒すことができたのなら俺含め全員で街を出る。まさに俺らしい無理無茶無策の猪突猛進だ。
しかしある程度の考えは当たっていたようで、俺が目と鼻の先に来ているにも関わらずへラウスは反応どころか瞳を動かすこともなくジッと立ち尽くしている。やはりへラウスは深層であったようだ。これがもし読み違いで脈動だったりなんかしたら、一瞬で対応されて周りからの妨害も受けオクジョウまで辿りつくことは困難だったはずだ。
そのことに感謝しへラウスの横を通り抜け、傷が癒え忌々しくも余裕の笑みを浮かべているオクジョウへと距離を詰め一気に両方の剣で頭部を数度斬りつけた。
「はい」
澄んだ声と共に突如降り終えていた剣がなにもない地面をとらえる。転がりそうなのをどうにか足だけで抑えた。
何が起きたのかわからず顔を上げてみると、そこはオスクラ達の元で、へラウスとオクジョウは今まで通り離れた場所にいた。しかもオクジョウは無事で、傷一つ見当たらない。逆に俺が転倒しそうになっていたことに驚いているようにも見える。
どうしたのかと思案したくはなるが、状況がそれを許してはくれなかった。へラウスの合図を受けた大勢がこちらに向かって走る、というよりも地面すれすれを飛んでいたり上空から落ちてきている。強すぎる身体能力のせいで、全力で走ることができなくなった者たちの姿だが、それがどこか滑稽に見えた。
だが笑っていられたのも一瞬のことで、俺の元に突っ込んでくるのが5人もいる。オクジョウのことも気になるがそれよりも優先すべきなのは己と仲間たちの無事だ。
へラウス達に向けていた顔を目前に迫っってくる敵に向き直し、それに対応すべく剣を構える。瞬きもしないうちに俺の元へと辿りついた奴らが容赦なしで剣を槍を大鎌を振るってきた。
……こいつらは上司の言うことが聞けない性質なのだろうか。
「殺されても悪く思うなよ!」
とりあえず一番近くにいた新卒っぽい若者の武器めがけて剣を振るう。純白の剣は明らかにおかしい挙動を見せながらも狙いたかった柄目がけ走ると、一瞬にして若者の武器を弾き飛ばした。驚愕に変わる顔を見届ける前にがら空きとなった腹目がけ蹴りをいれ遠くの方に飛ばす。
その間にも近づいてきていたらしい二人も同じように武器を弾き、頭部や胴体に蹴りをいれることで場外へと飛ばしていく。
しかしそれで終わらないのが現実だ。二人を飛ばし終えた瞬間、他の者たちの間から雹や火の玉、岩礫に光り輝く矢。そんな物騒な物が正確に向かって飛んできていた。しかも同じ神多夢からの攻撃だからだろうか、銃を撃たれた時のように余裕があるような動きではない。だからといって避けられないという言うわけでもない。純白の剣を向かってくる深層に向かって払うだけで、それらは元から存在しないかのように掻き消えていた。
自分たちの攻撃が相殺されたせいか奥の方で驚きの声が聞こえる。目の前に迫りつつある脈動持ち達も驚きに顔を歪めるが、それも一瞬のことで、すぐさま斬りかかってきた。
「きぇぇええええあああああああああああああああ!」
「がああああああああああああああああ!」
雄叫びを上げる者たちの一人がなにかを投げつけてきた。それを払おうと黒剣を振るうが突然軌道を変え刀身の上を滑ると純白の剣に絡みついてきた。そこで初めて、それが鎖鎌だとわかる。
「厄介なやつは抑えた! 一気にやれ!」
鎖鎌の持ち主が声をあげる。
たしかに、深層を破ったのはこちらの剣であるしへラウスも意味深なことを言っていた。なら剣に細工があると思って当然だし、この行動は正しい。
だがな――
「ふんっ!」
「なっ、俺の鎖が!?」
力を込めると刀身が輝きだし、瞬間、いとも容易く鎖を断ち切ったのだ。
再び驚愕に染まる連中の顔を一瞥し輝き続ける剣を横一線に振るった。それだけで近場にいた者も十分な距離があった鎖鎌の男すら吹き飛ばしてしまう。それだけでは止まらず、その後ろにいた深層達もいくらかが吹き飛んで壁に衝突、そのまま地面に伏した。
これを皮切りに次々と深層らしき物が飛んでくる。形あるものから視覚できない物までもが襲い掛かるがどれも純白の剣を振るうだけで掻き消えてしまう。さらには振った衝撃で視覚に入る数名が毎度吹き飛んでは壁に衝突し意識を刈り取っていく。それでも近づく者には黒剣で対応する。これも頑丈そうな装甲を無残にも破壊し、人体を吹き飛ばしていく。
そんな一方的な状況にもかかわらず、俺はかなり混乱していた。
(……なんでこいつら弱いんだ?)
深層が来ても払い退け、脈動が襲って来ても薙ぎ払った。危惧していた状況とはまるで違う別物の現状に、どうしてか焦り始めていた。
背後を確認すると集団戦に弱いオスクラと負傷してるシュナイデンはともかく、深層であるルーズがそこまで苦戦しているようには見えない。いやダメージを受けてもすぐさま自分の神多夢で回復しているのだ。
もしかして、弱い奴らだけを集めてここに来ているのか?
いやそんな馬鹿なことがあるか、だけどここまで順調にいっているのは何故だ。もしかして実はへラウスは仲間でわざと逃がすようにしているとか?
……ないな、そもそもあのお姫様からの命令で俺を捕まえに来ているのなら妥協するはずもないし、俺ならともかくオスクラ達を逃がす理由にもならない。なにか裏でもあるのか、実は強い連中が後ろにいて消耗するのを待っているとかそんなんだろうか。
考えながらもう一度剣を振った次の瞬間、俺の杞憂も無駄になった。
「きぇぇええええあああああああああああああああ!」
「がああああああああああああああああ!」
「! なんだと!?」
突然目の前に現れたのは最初に倒したはずの連中だった。迫りくる剣を黒剣で受け止め、再度吹き飛ばす。
倒したはずの連中が最初の時と同じ叫び声を上げながら襲い掛かってきた。なぜそんなことが起きたのか理解できずに脳が一時的に止まってしまう。だが驚くべきなのはそれだけではなかった。火の玉が顔のすぐ横を通り抜けていったのだ。
「ってぇぇえぇぇええええええ!」
「っち!」
気付いた時にはすでに遅かった。倒したはずの深層達が束になり、一気に攻撃を仕掛けてきたのだ。
まともな判断ができず反射的にそれらを避ける。だが数発が体を掠め、弾けたように体が吹き飛び何度か地を跳ねて倒れてしまう。
「フウトっ!?」
「がはっ! なにが……どうなってんだ」
数発ダメージを受けただけなのに全身が痛み、掠った部分が熱いのか冷たいのか潰されているのか、頭がおかしくなるようなあらゆる痛みが襲い掛かってきていた。腕を見ると服がいくらか破れそこから内出血しているのが見える。
掠っただけでこのダメージとなれば、相手は相当なやり手なのだろう。ならばなぜ今まで上手くいっていたんだ?
痛みに耐えながら立ち上がろうとするとオスクラが短剣を振るい牽制しながら俺の元へと駆けてきた。手を借りやっとのことで立ち上がることができる。そんな俺に対しオスクラは心配そうな顔で覗き込んできていた。手を振って無事なのを知らせ、できる限り落ち着いた声で話す。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「アンタが今からこんなんで私たちは助かるのかしら」
「……しかし、どうして倒した奴らが復活してんだよ。この世界じゃ一定時間経ったら復帰できたりするのか? ゲームじゃあるまいに」
当然の疑問を口にすると、オスクラは面食らったような表情をしていた。なんだなんだ、俺ヘンなこと言ったか?
俺の不安をよそにオスクラは一つの方向を指さした。そちらの方に目をやると、今ではどこにでもいる軍人の壁。しかしよく見ると、その奥には柔和な笑みを浮かべたへラウスが1人距離をとって立っているのが見える。オクジョウの姿が見えないことから奴はすでにこの場にいないことがわかる。
だが、それだけでは分からずオスクラの方を見ると溜息交じりに剣を振るった。
「最初の一撃でもう気付いてるものだと思ってたんだけど……アンタのことを高く評価しすぎていたのかしら」
「そんなことは今いいから、教えろください」
「はー、まあいいけど」
そう言って再び溜息を一つ吐くと、オスクラが真剣な目でへラウスを射抜いた。
「アンタがオクジョウに攻撃するたびに元の場所に戻っていたのは覚えてる?」
「ん。あぁ、覚えてるよ。なんか戻されてるイメージがあったんだが」
「それならもう答えが出てるじゃない。そう、あの女の十字架は深層、神多夢は『時を戻す』よ」
「は?」
時を……戻す?
なにそれホワイ。それじゃあ何か、オクジョウを斬りつけても奴がぴんぴんしていたのも、倒したはずの敵が位置も状態も元通りになっていたのも全部へラウスの神多夢のせいだってのか?
勝てるの? そんな馬鹿みたいな能力に。俺たちが何度倒そうが――いや逃げたところでまたこの位置に戻されるんじゃ?
「……これ、最初っから詰みゲーじゃねえか」
だからか、だからへラウスは余裕の表情でいられるんだ。倒された仲間を元通りにするだけで、ただ俺たちが消耗するのを遠くから見続けるだけでいいのだから。
それに気づいた瞬間、どこかで支えになっていた最後の何かがぽっきりと壊れた気がした。
手に込められていた力が抜けて剣が甲高い音を立てながら地面に落ち、次に膝が落ちる。
神多夢を使用していた時とは別の意味で周囲が見えなくなり音が無産する。
「時を戻すって……勝てるわけが……」
「勝てるわよ」
ただ落ちるだけだと思っていた言葉が拾われハッと意識が覚醒した。弱気の言葉を拾ってくれたのはオスクラだった。オスクラは無駄に自信溢れる笑みを浮かべながら俺を見下ろしていた。
そして、もう一度オスクラは言った。
「勝てる」
「ど、どうやって勝つっていうんだよ」
「そりゃ、アンタが本気になればいいのよ」
あっけからんとした返事にクエスチョンマークが浮かんだ。
俺が本気を出せば勝てるって……たしかにまだ本気出してないし攻撃が掠ったのは油断していたからだと断言できる。だけど、それだけで勝てる相手とは思えない。そもそも俺の本気ってなんなんだよ……
スフィーダ・へラウス・ヴァリュエ
中央都市所属の軍人にしてフィオレ姫の護衛。
能力は『時戻し』戻せる時間は45秒間と短いが戦闘がコンマ秒で行われる神多夢には戦況を一変させるには十分な能力である




